音楽のなせる技
あるにおいを嗅ぐと、突然昔のある時代を思い出すこと、ってありませんか?例えば新しく購入したシャンプーを使った時、突然学生時代のある夏の日を思い出したり、通りすがりの人の香水の香りをかいだ瞬間、突然あの日のことが蘇ったり。嗅覚というのはなんか、とても記憶と密接につながっているらしくあるにおいによってそのにおいが関係しているある記憶を思い出したりするようです。
今日の日記はにおいではないんですけど、音楽にもそれに似たような現象がよくあります。ある曲がゆうせんから流れてきた時、突然ある時代のことを思い出す。いもづる式に出てくる。
先日私はいつものスタジオに行ったのですが、その時間にはロビーには受付のスタッフ以外誰もいませんでした。夏になってきたのでまだ少し明るい夕方の時間。入った時、お客が誰もいなかったせいかBGMが流れていなかったんです。ずいぶんと静かだなーと思いながら椅子に座って、外を眺めていました。数分したら、スタッフの人が音楽をかけたんですね。。。あ、ビリー・ジョエルのHonestyだ。。この曲が流れるといつも思い出すことがあるんです。その時も例にもれず、やっぱり出て来ました。
私が初めて上京して一人暮らしを始めた頃、何がなくても音を出せる物が早く欲しい、と思い、一番仲良くなった女友達(下の怪談其の二に登場してます(笑))と、池袋の量販店にミニコンポを買いに行ったんです。一人では持って帰ってこれそうになかったので、一緒に行ってもうらうように頼んだわけです。で、帰りに、CDやレコード類を全部実家に置いて来ていることに気付き、かける音楽がないね、ということでお金もないし1枚だけCDを買って帰ることにしたんです。その時に選んだのがビリー・ジョエルのシングルカット集でした。正規ルートで出しているベストアルバムではなくて、よく駅構内に980円とかで売っている、海賊盤みたいなあれです。家に帰って来てコンポをセットして、最初に聴いたのが、これ、Honestyでした。しんみりしました。あー。東京に来たんだなあ、とか、歌詞とは全然関係ないことを感慨深く思ったのを記憶しています。
その後数カ月、結局次のCDを買う余裕がなかったのでかなり長期間に渡ってこのCDだけを聴いていたんです。まだ上京して間も無いので遊びに行く場所もよくわからず、大学と自分のアパートの往復だけだったあの頃は、帰宅してずーっとこればっかり聴いていました。でも何度聴いても飽きなかったんですねえ。ビリー・ジョエルの曲って、どれもシングルカットでいけるんじゃない?というくらい印象的な曲が多いんでした。でもやっぱりHonestyが一番好きで、寝る時に1曲リピートにしてヘッドフォンをかけて布団に入っていました。どんだけ好きなんじゃ。
で、これを聴くと、今度は逆にその時の部屋のにおいとか、思い出すんです。嗅覚って不思議(また戻った)。それに極め付けは、当時付き合っていた男と別れ話をするとき、バックミュージックで流れていたのもHonestyだった(苦笑)。要するに、その時の彼氏とはまだ次のCDを手に入れる前の数カ月の間に別れたってことです(爆)。その時の事も思い出したりするが、Honestyばっかり聴いていた頃、上京して初めて経験した色んなことや、家に遊びに来た友人たちのことなど、とにかくHonestyが流れると私は止まります(笑)。
他に、モーツアルトを聴くと中学生の頃と、高校3年生の冬を思い出します。この二つの時代は、なぜかモーツアルトばかり聴いていました。高校3年正の冬の終わり頃、モーツアルトの曲はほぼ全曲聴いた、と、一種の達成感を感じ、それを伝えようと思ってモーツアルトの交響曲集をくれた当時の彼氏の家に遊びに行こうと思い電話したのだけど出なくて、暇だったのでアポなしで行ってみたら、家財道具一式と共に姿を消していました(笑)。何の連絡もなく。ひでえー!昨日電話で話したのにですよ!信じられない!ダンダン!(机を叩いている音)
ま、この話はおいといて。
ハウンドドックを聴くと中1の頃、仲良くしていた友達と食べたスイカを思い出し、エレファントカシマシの[愛と夢]のアルバムを聴くと27才の夏を思い出し、パコ・デ・ルシアのフラメンコに徹したベスト盤を聴くと、その1年前の26才の夏を思い出します。かなり強烈で、たぶん一生そうだろう、というものをあげるとこんな感じです。皆さんもそういった曲って絶対あると思うんです。そういう思い出が重なってしまうと、その曲のイメージも変わってきちゃうんですよね。それまでは何の気なしに聴いていたものが、ある強烈な時代や出来事の最中に流れた音楽だったりすると、その後のその曲が、自分の中で変わるんですね。上にあげた曲の中には、悲しいことを思い出す曲が結構あるもんで、そのアーティストには申し訳ないことに、その曲が流れると聴きたくなくなったりしちゃうんですねえ。自分の曲も将来、そういったことになるかなあとなんとなく考えました。自分の曲が色んな人の思い出の中に入り込み、例えば[恋歌]がどこかで流れて来たら、ある時代の記憶が突然出てくるんです、というようなことが起きることを想像すると、それがたとえ辛い思い出であったとしても、私の作った曲が確かにこの世に存在して、ある人の人生に関わっている、それこそが音楽というものだな。。と思いました。心を込めて演奏しよう、と思える瞬間でした。いつかって?スタジオでスタッフがHonestyを流した時ですね〜。