〜エッセイ〜
〜コンクールに挑戦!!〜(最終回)
前の人の演奏が終わり、とうとう私の番です。
くじ引きで決まったエントリー・ナンバーとプログラム・ナンバー、
そして私の名前がアナウンスされました。もうこうなったら覚悟を決めるしかありません。
「え〜い!もう、どうにでもなっちゃえ!!」と、
半ばヤケになってステージの中央に歩み出ました。
演奏椅子の横に立ち「礼」をして着席し、調弦を改めます。
二次予選なので会場には聴衆は少なかったのですが、
それだけにライトを落とした客席の審査員の先生方が、
妙に目立っているような気がします。
手にかいた汗がなかなか引きません。
指も震え、足台に乗せた左足も落ち着かず浮ついた感じがします。
しかし、いつまでも座ったままでいるわけにはいかないので、
目をつぶって深呼吸をして意を決して弾き始めました。
どんな演奏をしたのかはよく憶えていませんが(何しろ10ン年前の話なので…)、
とにかく途中で止まらないように、忘れないように、自分の演奏を…、
と言うような事を考えながら演奏したように思います。
幸いこの時は、忘れたり弾き直したりと言う事もなく完奏できました。
たぶん日頃よほど気を張って練習した成果でしょう。
今思えば、コンクール初参加にしてはまあまあの出来だったのではないでしょうか。
演奏を終えてステージの袖に引いた後、
スタッフの方から参加賞の賞品を頂いてホールを出た途端、
「ヤレヤレ…」と言う感じで大きなため息がでました。
やっとの事で極度の緊張感から開放された瞬間です。
「やっと終った…」と言う感じで控え室に戻り、
楽器を片付け着替えをして会場に降りて行くと、
野村先生や聴きに来ていたギター仲間がロビーで待っていました。
さっそく「どうだった?」と聞いてみると、
友人は「よかった」「よくがんばったね」と言ってくれましたが、
先生は何とも言えないような複雑な表情をしていたような気がします。
確かに今回の曲演奏した曲は今まで弾いてきた曲とは違って、
曲想のつけ方が最後までよくわからずに弾いていたと言うことがあって、
自分の中でも「本当にあの演奏でよかったのかな?」と言う疑問がありました。
案の定、あとで先生から
「この曲はもっと掘り下げる必要があるね。まだまだ研究の余地があるよ。」と言われました。
自分の出番が終ったので、あとは予選の結果が出るまで他の参加者の演奏を聴いて待つだけです。
本選には音楽評論家の濱田滋郎さんや作曲家の真鍋理一郎さんなど、
音楽界やギター界で名の知れた方たちが審査員として名を連ねています。
それに本選の審査結果発表の前には、
スペイン大使館の要職に付いている人のスピーチまで予定されています。
これを見るだけでもこのコンクールで入賞する事がどういう事なのか、想像する事ができます。
私は残念ながら(当然ですが)本選に残る事は出来ませんでしたが、
このコンクールに参加して大きなステージで演奏する事ができ、
また沢山の人の演奏も聴く事ができて本当にいい勉強が出来たと思います。
私はこのあと5年ほど連続で参加してそのうち一回は予選落ちしましたが、
あとの四回は二次予選のステージで演奏する事が出来ました
(本選に残るのは、よほどの事が無い限り難しいということですね)
今考えると、あんな大変な事をよく5年もやったものだと思いますが、
コンクールに参加したおかげでレパートリーは増え、
リハーサルなしのぶっつけ本番のステージで弾いたおかげでだいぶ度胸も付いたような気がします。
それまでは発表会で演奏しても必ずどこかで忘れたり、
弾き直したりする事が多かったのですが、
それがほとんど無くなり安定した演奏ができるようになったのは、
こういう場で経験を積んだからではないかと思っています。