譜面台の陰から



                   


                           >初心に戻る<




 初心に戻る。

初心忘るべからず。

ある程度キャリアを積んでくると出てくる言葉の一つだ。

気持ちを引き締めるということを言いたい言葉だ。

世の中一般どの分野でも使われる言葉ではあるが、

どういう意味かを具体的に考えるということはあまりしない。

なんとなく感覚的にわかっているということだ。

この言葉をギターの練習に当てはめるとどうなるのか・・・。

ギターにおいてもある程度キャリアを積んでくると、

聞かれる言葉の一つではある。

 
 初心者の段階で初心に戻るということもないが、

ある程度の曲を弾きこなせるようになると、

この言葉の意味が大きくなってくると思う。

教室の門を叩いて・・・って門はないわけだが、

連絡して決意も新たにレッスンに通い始める。

この最初の気持ちが初心ということになる。

ただこの瞬間だけということではなく、

教則本に向かって基本を練習して曲にたどり着いて、

弾けるという実感に到達するまでが初心と言えるわけだ。

実はここまでがなかなか意味が深いところでもある。

 
 ある程度弾けるようになって、

こなせる曲が増えてくると、

そこで気持ちのゆるみが出てくるというのは当然の成り行きだろう。

やはり人間というのは同じ刺激が長く続く動物ではないということだ。

ギターを弾くことが刺激だった状況も、

その状況が長く続くうちに単なる日常になってきてしまう。

いわゆる刺激的な出来事ではなくなってくるということだ。

それほど平板なことではもちろんないと思うが、

刺激的ということでは徐々になくなってくると思う。

そこで発表会をはじめいろいろ刺激になる行事があるわけだが、

そこでの一喜一憂が非常に大事になってくる。

人前で演奏というのは常に成功が約束されてるわけではない、

当然ながら努力の結果失敗もあるわけで、

失敗と成功がランダム来ることによって、

それが大きな刺激になることは確かだ。

しかし、成功したときの刺激より、

失敗したときの刺激の方がインパクトがある。

人間というのはある程度の年齢が来れば、

常に失敗を恐れるように教育されてるわけで、

この深層心理にまで達している感覚が刺激されるということは、

髪の毛の先、足の指にまで届く刺激となる。

やはりここの部分が一番大事なところだろう・・・。

ここでより上達できるかどうかの問題提起がなされてるわけだ。


 ここにきてがぜん重要な言葉になってくるのが、

「初心に戻る」ということだと思う。

まあ、もちろんこの状況だけに限定してるわけではもちろんない。

ギターという楽器を弾いている過程での出現ということに、

とりあえずここでは限っている。

しかし、一般社会生活においても第三者的にも、

一人称的にもよく出現する言葉ではある。

話をギターところまで戻してみたい・・・。


 「初心に戻る」

これは具体的にどういう意味を持っているのだろうか・・・。

ギターの演奏法習うべく教室に連絡して、

ギターを持って最初のレッスン・・・。

この時の緊張感。

レッスンを続けていくうちに出てくる、

弾けるようになるのかどうかの疑心暗鬼。

初心者にとっては意味不明な基本練習。

この段階でのなんとも言えない不安感。

もちろんあげればきりなく出てくることだと思うが、

大きくクローズアップされるのがこのあたりだと思う。

この初心というのが実は一番忘れ去られる部分でもあるわけだ。

ある程度弾けるようになったときに一つ質問してみることがある。

「最初のころどんな感じで練習してたか覚えてる・・・?」

ほぼ間違いなくだれも覚えてない・・・。

そのころ話したこともほぼ覚えたない。

のど元過ぎればなんとやらの典型だ。

初めてギターを持って練習に臨んだ心持。

不安と恐れと焦燥と期待・・・。

実はこれが弾けるようにするという、

今の現実に答えを出す原動力になってると思う。

なんとなく弾けるようになった人はまずいない・・・。

この初心者の時の恐れ、不安、焦燥、期待・・・。

この気持ちを思い出さなければいけないということだ。


 なぜこの気持ちを思い出さなければいけないのか・・・。

人間というのはある程度刺激が限定されてくると、

いわゆる慣れという状況が生まれてくると思う。

慣れという状況はそれ自体悪いことでもないわけだが、

それが長く続くようになると、

慣れ、妥協、限定につながってくるのが普通だ。

慣れの状態に入ると発表会の成功、失敗も、

慣れの範疇に入ってしまうから厄介だ。

多少のことでは妥協の範疇に収めてしまって、

自分を限定してしまうことにつながってしまう・・・。

その状態からはなかなか上達のカーブには乗れないということだ。

その時に一番思い出さなければならい言葉が「初心にかえれ」だと思う。

慣れ、妥協、限定の状況に入ってしまうところで、

「初心にかえれ」の言葉が重要な意味を持ってくると思う。

基本に戻るとだいたいは新たな展開が待っていることが多い。

初心のころの不安、焦燥、etcというのは、

次の展開へと自分を持っていくエネルギーにもなるわけだ。


 上達というのは技術的なことだけを指すわけではない。

音楽というのは感性の上達が一番重要な訳で、

ここの上達いかんで、

より音楽また楽器が楽しめるかどうかが決まってくる。

技術的な上達と歓声の上達が両輪となって、

音楽というのは楽しむということだろう。

「初心に戻る」という言葉はやはり古くて常に新し言葉だと思う。





 
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