譜面台の陰から






                       >テンポについて(一)<
  






 音楽の三要素というのは、
メロディー、ハーモニー、リズムというのが一般的です。
この中にテンポというのは入ってないわけですが、
実は楽器を演奏するという行為の中で、
一番目に見えないところが、
このテンポというものですね。

 楽器を演奏する時には、
まず楽譜を目の前において、
音符を読んでそれを左手と右手に置き換えて、
一つの曲にしていくわけですが、
テンポを気にするのはどのあたりからだろうというのがあります。

 音符というのは情報をたくさん含んでいるわけですが、
高さと長さを最も目に見える形で書いてあります。
五線譜のどの線に置かれたかで音の高さを認識します。
横の長さは四分音符、八分音符、付点音符などの種類で、
長さの認識ができるようになっています。

 ただテンポにかんしてはどの段階で、
どのテンポでということは書いてありません。
テンポについては実は目に見える形では何も書いてはいないのです。

 楽譜の頭によくMM=90などの数字が書いてありますが、
これは最終的にこのテンポでということが指示されてるわけです。
しかし、この指定はやはり絶対的なものではありません。
プロもアマチュアもなく、
指示されたテンポで弾かねばならないとなれば、
普通のアマチュアであれば弾ける曲というのは、
極端に制限されることになります。

 プロであってもすべて指示通りのテンポでとなれば、
演奏の面白みはなくなるでしょう。
また弾けない曲も数多く出現することとなります。
実際に作曲者がテンポを指定していることは少ないといえます。

 音楽の三要素にもどると、
これはしっかり目に見えることだということが分かります。
目で見て判断することのできる曲の要素だということになります。
要するにこの三つの要素をつなぎ合わせれば、
曲の輪郭は見えてくるということです。
 
 曲の輪郭が見えてきてメロディーがつながって曲になる。
そこまではみな共通してできる作業となります・・・。

 ではどのテンポで弾くのか、
ここからが非常に重要な問題となってくるわけです。
CDにはいってるテンポなのか、
少なくとも自分でメロディーがつなげられるテンポなのか・・・。

 一番具体的なのがCDなど録音媒体からの情報です。
先生に習っていれば先生の模範演奏ということになるでしょう。
しかし、どれも今の自分の力量に合ってるかどうかは、
判断できないテンポです。

 テンポというのは目に見えないだけに、
メトロノーム一目盛りで天国と地獄が分かれこともあります。

 一番的確な言葉でいえば演奏力にあったテンポで、
という言葉になります。
では、そのテンポはどのテンポなのか、
どのくらいの力量だったらどのくらいなのか、
なかなか適格には言えない難しいところです。

 なぜこうはっきりしない状態になるのかといえば、
一番の原因は、
テンポは目に見えるものではないということ・・・。
時間の流れで判断していくことになるわけで、
この時間の流れの感じ方は千差万別で特定するのは極めて難しい。

 スピード感というのは非常に個人差が大きく、
演奏力とは関係なく個々に生まれながらに持っているものです。

 この演奏力とは関係なくということが一番大きな問題で、
制約を設けずただ演奏すれば、
だいたい自分の持っているテンポ感で弾こうとします。
それが速いか遅いかどうかは本人では判断できないことが、
状況をより難しくするわけです。

 一番簡単にテンポを変える方法は習っていれば、
先生に指摘してもらうのが一番簡単です。
しかし、実際はそれでも本人が感覚的に分かって、
テンポ感を修正するわけではないので、
実際にはなかなか難しいものがあります。
これは何度指摘されても、
本人の感覚がその速さを確実に認識しないかぎり、
持って生まれた固有のテンポに戻ろうとするからです。

 実際に極限状態で演奏する時、
ステージで一回勝負的に演奏する時に、
一番何が重要になるのか…。
これは間違いなくテンポと断言できるでしょう。

 曲の複雑さによってはメトロノーム一目盛りで、
天国か地獄かという結果が待っています。

 これだけ重要なテンポを、
どうしたら自分の感覚として、
取り入れていくことができるのか、
なにか方法があるのではないか・・・。

 最も効果があるのがアンサンブルです。
自分の持っているテンポ感の中だけで演奏していれば、
テンポというのは見えてこないものです。

 第三者と合わせることによって、
自分のテンポ感から外れたテンポに接した時に、
テンポに種類があることを認識できるのです。

 一種類しかなかったテンポ感に、
ほかのテンポが認識されれば、
テンポの選択肢は飛躍的に増えるのです。

 アンサンブルの経験を増やしていけば、
それだけテンポ感の種類は増えていきます。

 一つの感覚の中に別の感覚が入ることによって、
感覚というのは幅を持つことができるのです。
それでもなかなか的確なテンポというのは難しいものです。

 ソロ演奏というのは確実に自分だけの世界であり、
田が入り込む余地というのはほとんどありません。
何もしなければ常に同じ状況の回りをまわり続けるだけです。
自分のテンポ感にマッチした曲は、
そこそこの結果は得ることができます。
しかし、それはほんとに狭い範囲であって、
自分の曲の演奏に広がりを持たせることはできません。

 自分の演奏力にあったテンポを選択して演奏した時だけ、
良好な結果の量的質を上げていくことができるのです。
そこを怠ると意外なところで行き詰まりを見せることが多く、
実際行き詰まりを訴える例のほとんどが、
このテンポを原因にしていることが多いのです。

 舞台演奏の結果の行き詰まりというのも、
テンポが原因ということがほとんどの場合が多い・・・。

 テンポというのは実際には目で見ることは不可能です。
感覚の世界であり、
一人で広げることの極めて難しい世界でもあります。
そこで効果を上げるのがアンサンブルなのです。

 目で見えることができないものに関しては、
人間は感覚を駆使しようとします。
その感覚の違いを認識させてくれるのが、
アンサンブルといえるのです。

 実際、良好な演奏を成り立たせる最大の理由は、
一人日一人に可能な的確なテンポの設定と、
確実な実行だと断言できるのです。


 



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