エッセイ
♪♪♪♪♪私の楽器物語り(3)♪♪♪♪♪
オリベを使い始めて何年か経ったある日、
先生が大塚のスタジオに新しい楽器を持って来ました。
楽器はヘルマン・ハウザーU世。
野村先生はすでにハウザーU世とフレタを持っていて、
演奏会でも何度かハウザーの音は聞いた事がありましたが、
スペイン製にギターに比べてドイツのハウザーは良く言えば厳格な音、
悪く言えば冷めた感じの音、「ギターらしくない音」と言う感じがして、
私はあまり好きではありませんでした。
しかもヘッドのデザインも何て言う事はなく、
サウンド・ホールのモザイクも凝っていると言う事もなく、
見た目的にもとても地味な楽器です。
ハウザーと言えば世界的名器と言われる楽器ですが、
私にとっては「この楽器が何故?」と言う感じでした。
しかしこの時先生が購入したハウザーは、ちょっと違いました。
まず製作された年が1972年、しかも倉から出したばかりの新品です。
この時(80年半ば)ハウザーU世はすでに創作活動から退いていたので、
市場に出回っている楽器はだいたい誰かが一度購入して下取りに出した物がほとんどでした。
ところが楽器を作ったものの、市場に出さずに倉庫にしまったままになっていた物いくつかあって、
それが極稀に小出しにされる事があるそうなんです。
この時、野村先生が購入した楽器がまさにそれだったのです。
「ハウザーの新品だよ。すごいだろう!!」と言って、音を聴かせてくださったのですが、
この楽器は今までのハウザーの音とはちょっと違うのです。
「厳格で冷めた音」と言うよりは、まろやかで明るい音がするのです。
「いい音だろう。あんまりハウザーっぽくない音だよね」確かに…。
こんな音が出るんだ…。
「いいですねぇ!!こんな音が出るハウザーがあるんだ!!わ〜ぁ…、いいなぁ…」。
きっとその時の私の顔がよほど「いい顔」をしていたんでしょう。
「弾いてみる?」「えっ!!い、いいんですか?…じゃあ」と言って手に取ってみると、
楽器本体はかなり小振りで、ネックもそれほど太くなく左手は押さえ易そうでした。
オリベが大きい楽器なので余計そう感じるのかも知れません。
ただ、張りが強い楽器なので演奏するのは大変そうです。
試しに音を出してみたら綺麗な音は出るのですが、先生が弾くような音は当然ながら出せません。
「こうやって弾くんだよ」と先生がまたお手本を示してくれると、
本当に奥行のあるいい音が出ます。
「低音に奥行があるだろう。横、裏板にハカランダを使っているからだよ」
なるほど・・・・・。
材質次第で音も変わってくるのか(それ以来、私はハカランダの音にこだわる様になりました)。
「こういう音が出るんならハウザーもいいな」とポロっと言ってしまったのが運のつき。
「どう?次はこれにしたら?」
「う〜〜〜ん、確かに今の楽器はちょっと弾き難いけど、
さすがにハウザーは私にはまだ早すぎるでしょう」
「まあ確かにな。…別にU世じゃなくても息子のV世の楽器も最近出ているよ。
それはU世ほど値も張らないから、もし買うんならそっちかな」
「…でも、今の楽器はどうすればいいんですか?」
「下取りに出せばいいんだよ。いい楽器を買おうと思ったらそうしないと買えないよ。
今のもだいぶ使ってきたし、ここでグレード・アップをはかってもいいんじゃない?」
「う〜〜〜ん…、でもなぁ…」
(…なんか、大変な事になってきちゃったよ。)
さすがにこの時は悩みました!。オリベを買ったとき以上に・・・・・。
でも・・・・・、
「こういう音がでる楽器なら弾いてもいいな」という気持ちも、
正直言って半分くらいはあったのは事実です。
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