一言で言えば"ダーク・サイド・オブ・モダン・ジプシーズ"かな

SYOKO

−今回のレコードなんだけど、前作とはどう違うのかな。
SYOKO
 「Modern Gypsies」を出した段階で、切り捨てたものがたくさんあったんですよ。あれはコンセプト・アルバムだったから、どうしてもコンセプトにはまらないものは、はみ出してしまったんです。でも、そのはみ出したものっていうのが、けっこう重要だったりしたから、「Modern Gypsies」を補足するものというか、その裏側みたいなものを出してみたかった、今回のレコードでは…。前作がフェミニンなものだったから、そうじゃないものもあるんだっていう…ね。一言で言えば、"Dark side of Modern Gypsies"かなぁ。
−そういえば、今回のは割とヒステリックというか、情念っぽい世界ですよね。
SYOKO
 「Modern Gypsies」は自分の気持ちを整理した上で、詞を書いたり、曲を作ったりしたんですよ。でも今度のは整理しないで出したから。ちゃんとした形にするんじゃなくて、形にしない、加工してないイメージがあると思いますね。
 今度のはいつもみたいに曲を作ってからスタジオ入りしなかったから、抑制がきいてないんですよ。でも自分の中にないものは出てこないと思うし…。曲に対する固定観念を取っ払ってしまいたかったんですね。詩にしてもストーリー性から離れてみたくて、膚で、感じる言葉を使ってますね。
 一時、夢がすごくおもしろい時期があったんですよ。夢がおもしろくて、1日に14時間くらい寝てた。それで夢のサウンド・トラックみたいなものを作れたらいいなって思ったんです。普通の人の夢と違ってるんじゃないかな。だからおもしろくなるんじゃないかと思って…。
−G-シュミットって、ドロドロしたイメージじゃなくて、浄化されたイメージがあるでしょう?
SYOKO
 それは単に、私、プライドが高いから、他のストリート・バンドがやってるようなドロドロしたものはやりたくないだけなんですよね。
 「Modern Gypsies」を出したとき、G-シュミットって、ヴェクセルバルクでも微妙な位置にあったんですよ。あの時点で今のレコードを出してたら、完全にポジパンにとられてたと思うんですよね。だから、前作を出した後に、今回のものを出すのは正解だったと思います。きれいな面だけじゃないっていうか…。けっこうヘンにポップ・バンドみたいなとられ方をしたから、そうでもないんだよっていうところを出したかったのもあるんですよね。

やりたいことやって「これだ」って思えるものを作ったら、スパッとやめたい

−メンバー・チェンジがけっこうあるけど、これからどうなっていくのかな。
SYOKO
 前作を作ったとき、メンバーの力関係が随分今と違ってたんですよ。それで今はG-シュミットの中で、一番ポップな部分を担ってた人がやめてしまったから、曲のストーリー性を気にする人がいなくなってしまったんですね。私とかベースとか、曲のストーリー性を問題にしないから、それだけ過激でインパクトの強い方に走ってしまったようなところがあります。バランスが変わってしまったというか…。
 それに「Modern Gypsies」の後、やることやっちゃったっていうのもあったんです。同じこと続けていくのもつまんないしね。
 G-シュミットって、メンバーに恵まれないバンドなんですよ。抜けてしまうとなかなか見つからないという…。だから逆にメンバーに対する期待がなくなってしまってますね。
−でも例えばこれからメジャーとの関わり合いが出てくることで、バンドを大きくしていくこととか考えない?
SYOKO
 別にそういうことを考えてないから。バンドを続けていく必然性も考えてないしね。ただ、後腐れなくやめられるというレコードが作れてないから、続けてるだけなんですよ。だからここまでやったからもったいないとか全然思わない。やりたいことをやって「これだ!」って思えるものを作ったら、スパッとやめたいと思ってるんだけど、それが作れないジレンマがあるというか…。ピンク・フロイドの「炎」みたいなアルバムが作れたら、いつでもやめるんだけどね。けっこう理想は高いでしょう?それが次のレコードを作るパワーになればいいのかもしれないけど、やっている方はたまんないですよね。
−「Modern Gypsies」は売れたんでしょう?
SYOKO
 そうらしいですね。でも売れることとか全然考えていないから。作ったレコードが売れるのは、それなりに嬉しいけど、売れるために作るんじゃないという基本的な姿勢はくずしたくないし…。そのために音楽性を変えるということはしませんね。

たまに地元でやるっていうノリで、東京でのライブはやりたい

−メジャーに行きたいとは考えてない?
SYOKO
 具体的に話があったら考えるかもしれないけど、今こちらからやりたいとかは全く考えてないですね。今までやってきたのは、なるようになる、ならなかったらしょうがないみたいな感じだから。それで7枚もレコードが出せてるのは、セールス気にしてないからじゃないかな。変にメジャーに入って、売れないとか言われるよりも、ヴェクセルバルクで好きにやってた方がいいですから…。これをお仕事にするつもりはないんですよ。だから仕事にして生活かけてる人に悪いと思うしね。
 例えば、さっきいったようにピンク・フロイドの「炎」みたいなものをやるとしたら、現代で、それも日本のマーケットでは無理だと思うんです。だから自分たちのペースでやっていけるところっていったら、インディだけですからね。メジャーって何なのかなって考えたときに、メジャーというのは株式会社で、インディというのは、有限会社、個人会社っていうイメージなんですよ。ただそれだけの違いでメジャーでやっていることでインディでできないことってないんじゃないかな。確かに、メジャーにはお金があるかもしれないけど、そんなこと頭を使えばお金がなくてもできることだと思うしね。G-シュミットは、たくさん情報を流した分だけ売れるっていうバンドじゃないと思うから…。
−インディーズにいるアーティストがどんどんメジャーへ行ってるけど…。
SYOKO
 わかんないよね。確かに自分もインディにいるんだけど、まわりの人がどうなるかなんて、自分には表現できないから。今の"インディーズ"っていう言葉の使われ方見てると、変にそれに対して怒るよりも、その言葉自体が無意味になったとしか思うしかないもの。私たちは、たまたまやりやすいようにやってたら、こうなったというだけだし…。ずっと自然体でやってますから。
 だから、今度のレコードも私は売れないと思ってるんだけど…。やさしくないレコードだと思うから。自分のエゴみたいな部分で作ったから、聞き手が気もちよくないと思うんですよね。分かりやすい言葉に翻訳してあげてなかったりとか…。
−確かに前作と音の違いとかあうよね。
SYOKO
 「Modern Gypsies」を作ったときはギターも違ってたし、キーボードも入ったばかりだったりしたから。今回は、メンバーのバランスがくずれてるからね。グループからユニットに近づいたんじゃないかな。ソロっていうのはつまらないから、私がフィルターになってG-シュミットを出す必要があったんですよ。結局、G-シュミットでキャラクターを持ってるのは私だけだから…。外に対しては私がまとめていかなきゃいけないっていうのがありますね。
−この間、ライブは当分やらないっていってたけど?
SYOKO
 ライブをやらないんじゃなくて、東京では7月までやらないってことなんです。その前に、九州と北海道とかをまわる、ツアーはするんですよ。東京であんまり毎月とかやってしまうと、ルーティン・ワークになってしまって、こっちも飽きちゃうから…。たまに地元でやるっていうノリで、東京でのライブはやりたいんですよね。
−それじゃ、地方にツアーに行くのにその人たちにメッセージとかある?
SYOKO
 あんまり人に期待しないからなぁ。押しつけるのきらいだから…。いっしょうけんめいやります。アマチュアだな。発言が…(笑)。

出典:IND'S NO.6 1988 MAY JUNE