炬燵越しのビジョン

我が家の本棚に水木しげるの『妖怪文庫』がある。買ってきた当初は「なんでこんな本買うたん!」と随分責められた。(それでも長い間神田家では"妖怪すねこすりごっこ"が流行った。最後は嫁さんの膝蹴りで終わるのだ。)
 水木しげるは『墓場の鬼太郎』『悪魔くん』の頃から愛読している。最近、新たにテレビ化された鬼太郎を観て失望した。鬼太郎の足は長くなり、それにガールフレンドなんか出来たりして格好良すぎるしーーーなにより、ねずみ男!蝶ネクタイを締めたり、ロールスロイスに乗るのはやめてもらいたい。ストーリーの展開もドタバタしている。 
 ところが、風太も陽花もこのアニメが大好きである。それではと今年の夏ファミリーランド恒例のお化け屋敷に連れていったら、以来風太は極端な怖がりになってしまった。それでも関心はあるらしく、鬼太郎のスナック菓子を買ってもらっては「こわい こわい」と言いつつ食べている。(落語の"饅頭恐い"みたいな奴っちゃ)
 妖怪の名前を尋ねられても分からないと困った実家では『妖怪大図鑑』なるものを購入した。これがまた丁寧と言おうか何と言おうか、一つ一つの妖怪の解剖図迄ついている。
 民話や体験をもとに愛着をもってふくらまされたお化けが、妖怪ブームの波に乗ってなんらかの武器を持って並べられた。何をしても上手くいかなかったねずみ男や、年中栄養不良で行き倒れていた鬼太郎、それに何にもしないお化けは素敵やった。
 存在するんやったら何かせなあかん。何かするんやったら善か悪かの価値観を迫られる世相の中で、風太が「こわい」と言う暗闇には悪意が渦巻いているようである。