第18章 燃えろ!フォーク‥‥エピローグ

「ぶっ飛ぶなぁ ぶっ飛んでまうで」ーーー口癖のように乱発された言葉。まともなライブやコンサートを打ってきた人間にとって、"燃えろ!フォーク"は「ぶっ飛ぶ」企画だった。タウン誌を媒体とする広告もなく、ひっそりと秘密結社のように片隅に群がる男達‥‥「今日のお客さん ほんまにラッキーやで」ーー僕もそう思った。
 今春から始めて、この秋ようやく最終回を迎える事が出来た。最後の方は息切れして広報も疎かになってしまったが、当初は新たなフォーク人口の獲得と自分達のソロの場の確保という目的をもっていた。一つ目の目的は、この企画と並行して始まった"鉄人まな板ショウ"が肩代わりしてくれている。こちらの方では若手が唄い、僕達はお茶を入れるのに徹している。二つ目の目的も新曲を何曲か作った事といろんなフォークシンガーと共演できたという結果から良しとしよう。自分の唄う場は自分で確保しなければ、呼び出しだけを期待していると辛い目にあう。
 最終回の日、モッちゃんをゲストに迎えた。神戸の路地裏と波止場が似合う彼は、毒のある言葉と渋い声を持ち味にしてこの街から唄い始めた。ぼくはずうっと彼のライブ・コンサートでは客の側にいたから、気安く出演を引き受けてくれた時は本当に嬉しかった。一緒に三曲ばかり演って、身構えていたのは僕の方やってんなぁと、なんや熱うなった。

窓の外には薄日が差し
昨日と変わらない今日が始まる
四角く区切られた都会の空
まぶたにちらつく光の粒子
睨つけ歩いたのは通り相場
いきりたった頃がなつかしい
取り戻したい訳でもない
いつか時計の針に置いてきぼり

連れ立って盛り場をうろつく事もない 
手酌の酒がやけに美味い
夜更けの静寂に家族の寝息が混じる 
俺一人盃を重ねる
ありきたりな人生が見渡せる暮らし 
世間並みに落ち着いていく 
ときめき忘れ愚痴もこぼす 当て外れの夢は役立たず
       
   日々の暮らしが不満な訳じゃないけど 
   扉をあけないで欲しい
   今しばらくは一休み 
   けだるい朝に溶けていく気分
                     (光玄 "けだるい朝")
 コンサートを終えて缶ビール片手に駅前の公園で密やかな打ち上げをする。
 「家族の方に目が行くわ」‥‥この日初めて聞いた"けだるい朝"に同じ思いを感じていた。「だらだらとでもええから近況をまた録音したい」ーー彼のスランプはとっくに通り越されていたのだ。彼といると元気が出る。

 同じ9月の末にもう一つのコンサートがあった。西神戸のフォークのたまり場月見山での事。昨年看板を下ろした店は新たなマスターを迎え、その第一回目のコンサートだった。今ではみんなが「さん」付けで呼ぶ。尊敬されてる訳ではなく、ただ歳をくったせいで‥‥ここでももう若手として通らなくなった。若手は着実に上手くなっていく。そんな彼等に焦りを覚える自分はまだまだ若いと思うのだが‥‥。 
 一つの企画が終わり、一つの企画が始まった。まだまだソロでもやれるゾと力付けられた月だった。言葉にすると年寄りじみているけれどーーー。