− SOMETHING BLUE, Extra @ ICC −
 
 
10月4日(水)。ついこないだのライブの興奮冷めやらぬまま、今日もまた高橋幸宏のライブへ。
 
急遽決まった今回の公演、「SOMETHING BLUE, Extra」と題し、単なる追加公演じゃなしに、こないだとはちょっと違った内容でやるらしい。これは是非とも観ておきたい。
 
そして今回のこのライブ。なんと予約抽選限定制(!!) と言うことで、「まあ当たればラッキー」くらいの気持ちで申し込んでみたら…見事に当たってしまった(笑) まあ運がイイと言うか何と言うか…。
 
 
当日、夕方18時過ぎに家を出て、地下鉄を乗り継いで新宿の向こう、初台の駅へ。今回のライブが行われるのは初台にある、「東京オペラシティタワー」と言うビルの4階、NTTインターコミュニケーション・センター通称「ICC」(長えよ)。
 
19時前に現地に到着。今日のライブは開演が19時半、開場は19時。抽選引換券のハガキを受付で渡し、今日のチケットをめでたくゲット。ちなみに料金が1500円でしかもワンドリンク付きと言うありえない安さ。
 
ドリンクチケットでジンジャーエールを頼む。こないだの時も酒は飲まなかったワケだけど、今日もやっぱり飲まない。たとえビール一杯とは言え、飲んだ状態で幸宏さんのライブを観てしまうのは、なんとも勿体無い様な、失礼な様な、そんな気がするのだ。
 
ちなみにジンジャーエールが、よくある甘ったるいヤツじゃなくって、「ウィルキンソン」製のかなり辛味の強いヤツだった。実はここ数日で風邪を引いて喉を痛めていたのだけど、ジンジャーエールの爽やかな辛味が炎症を起こしている喉にスーッと染み渡ってなんとも気持ちいい。
 
 
19時になり、会場へと入る。中規模のホールと言った感じの場所で、本来ならライブイベントなどやる様な場所では無いのは確か。通常なら大きな会議だとか、講演会だとかで使われてそうな場所だ。こんな場所でやるライブと言うのも、なんだか妙な緊張感があって面白い。
 
そして、会場の観客達を見ると、半分くらいが立っていて、半分くらいは床に座っている。これは一体どうするべきなのか…悩んだ挙句、とりあえず座って待つ。
 
開演時間の19時半が近付いたところでアナウンスが入り、そして立っていた観客達も皆床に座らされる。なるほど、床に座って観るのがここのスタイルなのか。
 
確かに、ここの会場の場合、ステージがかなり低い位置にあるので、立っていると観づらいのが事実。だから座って観ると言うのも納得がいく。…だけど、クラブイベントとかの、オールスタンディングのにしか基本的に行ったことが無いだけに、なんとも変な感じ。
 
 
いよいよ19時半。ステージにまず登場したのは、[HER SPACE HOLIDAY]のメガネの兄ちゃん。彼がギターをかかえて独りで弾きながらしっとりと歌う。なるほど、今日は[HER SPACE HOLIDAY]のライブは彼がピンでやるのかな…。
 
と思いきや、一曲歌い終わったところでスヴェンバスみたいな髪型のドラマー(この人、男なのか女なのかよく分からない)と黒人のベースが登場。こないだと同じ三人のセッションに。
 
でも、登場するなりいきなり激しいロックをがなりたてたこないだのライブとは違って、今日はかなりゆったりした感じ。ベースとドラムの掛け合いを即興的にやってみたりとか、ちょっと実験的なこともやってみたりする。ちなみにこの時、僕、ちょっと睡魔が襲ってきていたのは秘密(笑) …いやね、やっぱり体調悪い時に、こういう普段聴かない系統の音の、それもユル目のを聴いちゃうと言う行為はある意味自殺的な行為かと…(笑)
 
途中からは割と明るい感じに、アゲ気味になってきていた。メガネの兄ちゃんがギターを一旦置いて、PCから音を出して歌ってた曲。あれは良かったなぁ。
 
最後の方は、こないだのライブでもやってた曲を数曲やっていた。結局、彼らのライブは50分くらいやっていただろうか。
 
 
続いて、STEVE JANSENが出てくるのか…と思えば、なんといきなり高橋幸宏御大登場!!
 
これにはビックリ。そして大盛り上がり。僕も会場も。
 
幸宏さんの隣にはSTEVEの姿が。なるほど、今日はこの二人のセッションでやるワケか。そしてこないだのライブでもサポートを務めていた面々が三人ほど。
 
 
始まった幸宏さん(とSTEVE)のライブ。なんとも実験的なエレクトロニカが流れる。初めて聴く曲だ。もしかすると幸宏さんじゃなくて、STEVEの曲なのかもしれない。
 
実験的なエレクトロニカを二、三曲かける。ステージ上の幸宏さんはなんとも真剣な表情。黙々と機材をいじって音に変化をつけていく。まるで「音楽実験」とでも言うべき光景。それは、数年前のWIREで観たスケッチショウのライブを髣髴とさせる。
 
 
そして、その実験的エレクトロニカの音の流れをそのまま受け継ぎながら、流れてきたのがこの曲。
 
アルバム[BLUE MOON BLUE]四曲目に収録の[IN COLD QUEUE]
 
暖かなトラックが多い[BLUE MOON BLUE]の中では異彩を放つ、なんともダークなエレクトロニカ。こないだのライブでもやった[EXIT TO REALITY]なんかも暗いんだけど、でもそれとは違って、何と言うか、心の奥底の「闇」を写した様な、そんなダークなトラックなのだ。
 
だからこの曲がこないだのライブで演奏されなかったのは、ライブ全体の流れを考えるとごくごく自然なことだった。でもまさか、今日ここで演奏されるとは…。
 
この曲は、アルバムの原曲の雰囲気をかなり残しながらも、そこにかなりの音の厚みが加えられていて、暗さの上に重厚感の加わった、なんとも重苦しい雰囲気に仕上がっていた。再生YMOの超実験エレクトロニカトラック[NOSTALGIA]を思い出させる様な仕上がり。そして、暗いのにかっこ良いのだこれが。こんなにダークなエレクトロニカがこんなにかっこ良く聴こえるとは…。
 
 
ここで幸宏さんのMCが入る。曰く「今日は新曲を色々とやります」とのこと。なるほど、すると先の実験エレクトロニカ数曲も、STEVEの曲ではなく幸宏さんの新曲だったのかもしれない。
 
 
ここからもエレクトロニカ路線で音が広がっていく。[IN COLD QUEUE]の流れから暗めの曲がかかり、そこから少し明るくなって…。
 
その次に演奏された曲が、とても素敵な曲だった。新曲と言うことだし、勿論何と言う曲なのかも分からないのだけど…でもただただ素敵だった。まるで踏切の音を思わせる様な、きちんとした一定のパターンで刻まれるパーカッションと、生ギターの音で奏でられるメロディ。暖かな、優しい雰囲気の曲。ここ最近の幸宏さんの流れを汲みつつも、でもスケッチショウとも[BLUE MOON BLUE]とも少し違う、次の幸宏さんの音が見え隠れする様な、そんな曲だった。
 
この曲はインストだったけれど、でも歌が乗ってもはまりそうな、そんな雰囲気にも思えた。
 
 
しかしそう言えば、今日の幸宏さんは歌わない。そして演奏されるのは新曲と言うことなのか、聴いたことがない曲ばかり。そして全てがエレクトロニカ路線。 
 
何曲かやった後、幸宏さんのMCとメンバー紹介。幸宏さん曰く「七曲やった」とのこと。なるほど、エレクトロニカを、それも続けて演奏していると、一つの流れの様に聴こえてしまうから、一体どれだけの曲をやったのか分かりにくいのだけど…でも確かに、七曲くらいはやっただろう。
 
 
その後、スケッチショウのアルバム[TRONIKA]に入っている様な、そんな牧歌的な雰囲気の曲を演奏し、そして幸宏さんが挨拶し、メンバー全員が舞台から消えていく。
 
 
…え、もう終わりなのか? 
 
 
観客の誰しもが思っただろう。まさかこれで終わりなのか。今日のライブ。
 
しかし勿論、まだ終わるワケが無い。
 
 
観客達の鳴り止まない拍手の中、再びステージに姿を現す幸宏さんとメンバー。
 
幸宏さんが、「このメンバーで最近気持ちよくやれる、この曲を」と言って、演奏されたのは[CUE]。こないだのライブでもやったし、スケッチショウのライブでもやっていたこの曲。やっぱり幸宏さんのお気に入りなのか。
 
この日の[CUE]は、またこないだのとはちょっと違ったアレンジだった。ちょっとボサノバだとかを思わせる裏刻みのコードが入って、そこに乗った幸宏さんのヴォーカルがなんとも気持ち良さそうに、会場内に広がっていく…。その歌声を聴きながら、会場の誰しもがきっと皆、幸せな気分になっていただろう。
 
 
そして、今日のライブは本当にこれで終わった。
 
 
正直なところ、こないだのライブがあまりにお腹一杯な内容だったから、それに比べれば少々物足りなさを感じたのは事実。何しろ、幸宏さんのヴォーカルが聴けたのはアンコールの[CUE]一曲だけなのだ。アルバム[BLUE MOON BLUE]の曲だって[IN COLD QUEUE]の一曲を演奏したのみ。
 
 
でもその反面、新しい幸宏さんの音を聴けたのはとても良かった。あんな実験的な音になるとは思わなかったけど…。だけどむしろ、こないだのライブを観た自分としては新鮮で良かった。これは今回のこのライブツアー、両方を観てこそ初めて全体像がつかめるものなのだ。そう言って過言では無いだろう。
 
そして、次の新作がとても楽しみになった。スケッチショウ・[BLUE MOON BLUE]を経た幸宏さんの音が一体どんな変化を遂げていくのか。スケッチショウの動きが全く無くなった(と思える)今、幸宏さんが独りでも細野さんの様な実験音の世界にまで手を出していくのか。
 
 
更に、今月下旬に「東京都現代美術館」で行われるライブ。これも非常に興味深いところになってきた。一体今度のライブではどんな音を繰り広げるのか。そして、その音と現代芸術作品とのコラボが、一体どの様なものとなるのか。今から本当に楽しみだ。
 
 
そしてやっぱり、高橋幸宏はカッコイイ。例え歌を歌わずとも、ステージ上で黙々と機材をいじる、そんな姿もまた素敵なのだ。何よりいつもお洒落でスマートだ。僕も歳を取ったらあんなおじさんになりたい。つくづくそう思うのだった。