−FABRICE LIG JAPAN TOUR−
 
 
2003年10月23日(木)。いつもの様に定時に仕事を終えた僕は、事務所内でおもむろにスーツから私服へと着替える。同僚達の視線が冷たく突き刺さるのにももう慣れた(笑)
 
今日はこれから、FABRICE LIGを聴きに向かうのだ。
 
[SOUL DESIGNER]名義でも知られるFABRICE LIG。僕はこの人についてはほとんど知らない。ただ予備知識として持っていたのは、この人がKANZLERAMTからも二枚のアナログをリリースしていると言うこと。その二枚はデトロイトの影響を感じさせる、分厚く流麗なシンセの上モノが素晴らしいトラックだ。僕のかなりの好みラインの音を出している。−そして何より、この人がKANZLERAMTからリリースしている以上、このレーベルのマニアを自称する僕としては観に行かないワケにはいかないのだ。
 
会社を出てまずは名古屋駅へ向かう。今日はここで、tackさん石井さんと待ち合わせているのだ。tackさんとは最近、KANZLERAMT系(KOWALSKIやDIEGO)で音の趣味が合う。そして石井さんはFABRICEの大ファンらしく、今日はわざわざ東京方面からの参戦。
 
20時30分過ぎ。三人で合流し、まずは腹ごしらえと言うことで、名古屋駅のラーメン横丁みたいな場所へ。北海道ラーメンの店に入る。僕は塩ラーメン。他の二人は味噌ラーメンを注文。味はまあまあ。でもちょっと冷めているのが気になった。ラーメンはやっぱり、舌が火傷する位に熱い方がいい。
 
腹ごしらえも済んで、今度は地下鉄で栄と向かう。車中、石井さんとKANZLERAMT話とかする。昔の、20番位の方が渋い音で良かったなぁとか話す。ここ最近のはちょっとキャッチーになってきてる様な気も確かにする。まあこれはこれで聴きやすいし好きだけど。
 
栄に到着。今日FABRICEがやって来るのは[CIPHER THE UNDERGROUND]と言うハコ。このハコ、来るのは初めてだ。と言うかここ、普段はどうやらヒップホップなんかをやってるハコらしいのだ。そんなのもあって今回のFABRICE来日、実は結構不安なのだ。
 
ネットでの告知やフライヤーも全く見かけなかったし、本当にFABRICE来るんだろうか…。
それにもし、客がヒップホップの人ばっかで「YO!YO!」言ってたらどうしよう!!
考えれば考えるほどに不安ばかりがつのる…(笑)
 
とりあえずハコの前まで来ると、中からはきちんと四つ打ちの音が聴こえてきた。よし。とりあえずヒップホップじゃあないぞ、と良く分からないが何となく安心。
 
中へ入ったのは21時30分過ぎくらい。全然知らないDJの人が回していた。ハウスぽい、ユル目の音が中心。とりあえず三人で生ビールを頼んで乾杯する。
 
このハコ。なかなか変わった造りをしている。手前の方がバーカウンターとラウンジみたいになっていて、奥がフロア。更に奥まったところにもう一つラウンジスペースがある。大きなソファーが置いてあって、疲れたら横になって熟睡出来そうだ。
 
しかし…辺りを見渡すと全然お客がいない。まあ時間が早いと言うのもあったけど、どうやら純粋に客として来ているのはまだ、僕ら三人しかいない…。このまま客が入らずに全然盛り上がらなかったらどうしよう…また余計な心配をしてしまう(笑)
 
知らない間にDJが二人目の人に代わっていた。…けど相変わらず客が入らない。とりあえず自分らだけでもテンション上げとこうと、飲む。tackさんに教えてもらって[スミノフアイス]とか言うのを飲んだらメチャ美味かった。ウォッカベースに、すっきりレモン味で爽やか。ジーマなんかよりよっぽどイイなぁ。これ、今度からクラブでの定番になりそうだ。
 
時間だけが過ぎていく…。23時少し前、DJの人がガルニエの[MAN WITH THE RED FACE]をかけて、この時少しだけテンションがアガる。でも相変わらずガラ空きのフロア。大丈夫か…? 本当に僕ら三人しか客居ないままだったらどうしよう(笑)
 
と、フロアに[ULTIMATE LOOPS]のOKUBOさんの姿を見かけたので挨拶。OKUBOさんも今日回す人の一人。この人のも聴くの凄い久しぶりなんで楽しみだ。
 
23時30分位だっただろうか。トイレにいって、出たところでちょうどハコに入ってくるFABRICEに遭遇。慌ててフロアに戻り、tackさんと石井さんに報告。どうしよう、話し掛けようか…迷っているうちにいつの間にかまた、FABRICEはハコから出て行ってしまったみたい…残念。
 
この頃には、多少なりとも客も入ってきてた。これなら何とかそれなりに盛り上がりそうで一安心。そして日付が変わる頃に、OKUBOさんがブースに。
 
ここのハコ、ブースを覗くとミキサーがちょっとヘンなヤツを使っていた。普通ならツマミ形式になっているイコライザーが、小さなフェーダ型になっているのだ。これは使い難そう…。実際、OKUBOさんも最初、かなりやり難そうにしてた。
 
でもやっぱりこの人上手いなぁ。久々に聴いたけど上手い。ベーチャンとかあっち系ぽい、浮遊感ある上音のミニマルを中心にプレイしてた。あまりにハードになり過ぎない位のハードミニマル。何より、それまでのハウスな音から、OKUBOさんになった瞬間にパッと音がテクノに切り替わったのが良かった。ゆるいハウスを聴いてまったり飲んでるのもいいけど、でも体が欲しかったのはやっぱりテクノ。体が勝手に反応してどんどん踊りだす。
 
30分位経っただっただろうか。ふと奥のラウンジスペースにFABRICEの姿発見!! いつの間にか戻って来てたんだろう。通訳の人と何か二人で話している。tackさん、石井さんと相談。どうしよう…いやここは…。意を決して話し掛けてみることに決定。
 
とりあえず僕が行って、通訳の人に話し掛ける。
 
僕「あの…実は今日一緒に来た友達で、FABRICEの大ファンがいるんですよ!!」
通訳「じゃあぜひ、ここに連れて来てください」
 
と言うワケで、tackさんと石井さんを呼ぶ。
…と、tackさんが英語でFABRICEに直接色々と話し掛けてる!!
石井さんのことを「彼はアナタの大ファンだ」と紹介したり、何か色々喋ってた模様。
 
凄い…tackさん、英語喋れるんじゃん。ちょっと…いや、かなり尊敬。較べて自分ダメだなぁ。仮にも英語系の学校出てるのに(笑)
 
そしてここで、お決まりの(?)サインおねだり。僕は持ってきたCDを取り出す。本当はFABRICEのアルバムが欲しかったのだけど、手に入らなくて結局持って来たのはKANZLERAMTの最新コンピレーション。これ、ラストにFABRICEの[UNIVERSAL TECH]が入っているのだ。
 
それを出し、FABRICEに「THIS TRACK…UNIVERSAL TECH IS SO EXCELLENT!!」とか何とか話し掛けてみる。すると向こうも「OH…THANK YOU!!」とか言ってくれてちょっと嬉しそう。
 
そしてサインを頼むと、心良く書いてくれた。FABRICE、ちょっと考えて…そしてこんなメッセージ。
 
 
〜TO MY FIRST JAPANESE REAL FANS FABRICE LIG〜
 
 
…なんか嬉しい。確かに、きっと初来日で初めて話し掛けた客が僕らなんだろうな。そしてtackさんと石井さんにもそれぞれ違うことを書いてくれてたみたいだ。確か、石井さんのには「TO MY BEST FAN」とか何とか書いてたと思う。サインでも単に名前書くだけじゃなくて、ちょっとしたメッセージ。それも人によって変えたりしてくれる。こんな気遣いは凄く嬉しい。
 
FABRICE。もっと気難しい人かと思っていたのだけど、凄くいい人そうだ(それにまだかなり若そう)
 
気付くと、OKUBOさんのプレイはいつの間にか終盤に近づいていた。ラストの方はちょっとハードな感じで、でも上音が綺麗で印象的なミニマルだった。
 
そしてブースにはFABRICEの姿が。1時。OKUBOさんのミニマルからそのまま繋ぐ。やはりあのミキサーに少し苦戦している模様(笑) 本当に使い難そうだもんなぁあのミキサー。もっとマシな機材置いとけよ。
 
FABRICE、最初のうちはあまりハードじゃない感じで、歌モノだとか非四つ打ちのものだとかも色々とかける。そして、思っていたよりもプレイが凄いアグレッシブなのだ。イメージから、もっと淡々と綺麗に繋いでいく感じかと思っていたけど、ブース前に張り付いて見ていると結構色々とやっている。縦フェーダーをビシバシ入れたり切ってみたり…。そして音を出す時も、徐々に次のトラックを入れていくだけでなく、いきなりドン!!と出して、音を出してから繋ぐと言った具合にやってみたり。
 
周りを見るといつの間にかかなりの人がフロアに入ってきてた。いい感じに盛り上がっている。
 
…でもこの時、近くで踊っていた女の子の集団が、明らかに僕の踊りを真似してたっぽいのが凄く萎えた。別にクラブで人がどう踊っていようが勝手だと思うんだがなぁ。思うに、テクノ系のハコってあんまりこういう人っていない。テクノだと、皆が好き勝手に踊るって言うのが最初に大前提としてあるから。でも、普段テクノ以外の音楽−ヒップホップだったりトランスだったり−中心でやってるハコだと、たまにこういう人達がいるのが何だかなぁ。まあ別にいいんだけど。
 
FABRICEのプレイ。30分位たった時点で突然ぐぐっとハードな感じに。そしてここからは、デトロイト風味なトラック満載のプレイだった。名前を知ってる曲はあまり無いのだけど、でも「あ、これ…どっかで聴いたことある」そんな有名なトラックも多かった。創っているトラックの雰囲気から言っても、FABRICEはかなりのデトロイトテクノ好きだろうとは思っていたけど、やはりその通りだったみたいだ。
 
そしてその中に色々な風味の音も混ぜる。ハードな声モノや、エレクトロ風。色々と混ぜて聴かせるから、いつまでフロアで踊っていても聴き飽きない。次に何が来るのか分からない。そんなDJだ。
 
僕はこういうタイプのプレイをしてくれる人が大好きなのだ。思うに、「踊って楽しい」体を楽しませてくれるDJと言うのは結構たくさんいると思う。でもそこにプラスして、「聴いて楽しい」−つまり体だけじゃなく耳まで楽しませてくれるDJて言うのは結構稀有な存在だと思う。例えば、ズンドコハードミニマルのDJは踊る分には楽しいけど、でもそれは純粋に耳まで楽しませてくれるものだろうか?
 
聴いててワクワクする様な、そんな聴くことを楽しませてくれるDJはかなり久々な気がする。このタイプの人って、僕の中では00年のカウントダウンに聴いたDJ ROLAND。そして一昨年の冬に大阪で聴いたDJ SLIP。そこについで三人目だろうか。
 
プレイ中盤、途中でTECHNASIAの[FORCE](歌なし)がかかる。これは結構意外だった。そして周りを見ると結構知り合いもいた。[ULTIMATE LOOPS]のカオル君とかツチカワ君とかもいたし、アカホリ君にも会った。この辺りになるとフロアもかなりいいムードに盛り上がっていた。ブースのFABRICEも機嫌良さそうにプレイしていて、たまに手を高く振り上げて煽ったりとかしてる。
 
僕も酒をガンガン飲んで踊りまくる。tackさんとかも結構踊りまくっていた。やっぱりせっかくクラブに来たのなら、バカみたいに踊らなくては。いや踊るべきだと思う。
 
FABRICEのプレイ。時には丁寧にミックスをし、そして時には荒っぽく繋いでそしてフェーダーでガシガシと音に変化をつける。デトロイトよりの選曲と言い、何となくKEVIN SAUNDERSONのMIX-CDを思い起こさせる様なプレイ。
 
 
でもやっぱり、デトロイトでも黒人と白人のとでは全然違う。例え使っている音が同じであっても。
 
黒人のデトロイトはやっぱり、音の裏に色々な思いや[情念]の様なもの。そんな「黒い」ドロドロしたものを感じさせるのだ。それはやっぱり、長い歴史の中で迫害され続けてきた、彼らの魂の叫びがこもっている様に聴こえる。デトロイトテクノは黒人達の[ソウル・ミュージック]なのだ。
 
でも白人の、それもデトロイトとは遠く離れたヨーロッパの人が奏でるデトロイトテクノにはそれが無い。何て言うのか、デトロイトの持つ「音の楽しさ・美しさ」だけを純粋に聴かせてくれる気がする。だからそれは本当の意味でのデトロイトとは言えないのかもしれない。
 
でも黒人のデトロイトがややもすると聴いてて疲れてしまうのに対し、ヨーロッパのデトロイトは聴いてても全く疲れないし、それどころかとても心地いい。だから僕は正直、こっちの方が好きだ。
 
 
FABRICEのプレイもいつしか終盤。時間はもう3時近くになっている。と突然、聴き覚えのあるあの曲。そう、これは…[STAR DANCER]だ!! 今年のWIREでPAUL MACがかけて半狂乱になったこの曲。今日また、ここで聴けるとは…。そしてそこにもう一曲繋いで、FABRICEのプレイは終わった。
 
プレイを終えたFABRICEはとても満足げだった。そして最前列でずっと踊り続けてた僕とtackさんに、ブースの上から握手までしてくれた。言うまでも無く、僕らも大満足だった…。
 
FABRICE LIG、素晴らしい時間を本当にありがとう!!
 
 
FABRICEの後は、別の人が少しプレイしてた。ゆるいハウス。この時はずっと、アカホリ君とOKUBOさんと喋ってた。OKUBOさんとなんて、これだけよく喋ったの初めてかもしれないなぁ…。僕らがFABRICEにサイン貰ったことを伝えると、「そういうことが出来るのも、地方の小ハコならではだよなぁ」とOKUBOさんが言ってたのが何か印象的だった。確かに、大きなイベントとかだったらそんな「触れ合い」とかってきっとムリだろうしなぁ…。
 
そしてパーティは4時ちょっと前に終了。色々と不安だった今日のパーティだけど(笑)、凄く良かった。とにかく、FABRICE LIGは最高だった。
 
外に出ると風が凄く冷たかった。もう…すっかり秋なのだなぁ。
 
 
 

プレイ中のFABRICE LIG。
ちょっとピンボケですが(笑)

FABRICE LIGにもらったサイン。
「TO MY FIRST JAPANESE REAL FANS」