DIEGO HOSTETTLER@大阪難波ロケッツ
2003年2月8日(土)。この日僕は大阪へと向かった。理由は一つ。あのKANZLERAMTのDIEGOが、再び大阪へとやって来るのだ!!
 
その情報を得たのは確か、年があけて間もない頃だった。大阪の友人ゼンタ氏からそう聞いた時は本当に驚いた。夏に来たばかりなのに本当にまた来るのか…?? 最初は半信半疑だったのだが、次第にネットでの告知(KANZLERAMTサイトetc)なども目にする様になる。なんでも今回の来日は、ニューアルバムのリリースツアーと言う事になるらしい。
 
 
そして当日。昼過ぎに家を出る。名古屋で所用を済ませ、14:30に名古屋を出る近鉄特急に乗車。普段はノンストップのアーバンライナーを利用する事が多いのだが、今回はあえてノンストップではない特急を選択。普通の(アーバンライナー)以外の特急を選んだ場合、どんな車両に乗車することになるのか、列車がホームに来るまで分からない。新しい車両かもしれないし、古い車両かもしれない…。まるでロシアンルーレットの様だ。結局、来たのはあまり新しくない車両だったが、しかし内装がアーバンライナー並に更新されていたので車内は快適そのものだった。この車中で、缶ビールを飲みつつ少し遅めの昼食を取る。大阪難波には17:00くらいに到着。
 
とりあえずレコ屋巡りへと出かける。しかし大阪アメ村の位置は、何度来てもしっかり覚わらない。この日も結局迷ってあちこちウロウロ。おまけに雨まで降ってきたので、歩いて探すのはあきらめて地下鉄で心斎橋まで出る。どうでもいいことだが、この時に乗った大阪市交通局の長堀鶴見緑地線。車が普通の鉄道より二周りくらいは小さい感じでなんとなく面白い。
 
アメ村では結局、リヴァーサイドでKANZLERAMT絡みのアナログを2枚と、シスコでディープミニマル風なミックスCDを一枚。そしてタワレコで前から気になっていたCDを2枚購入。たまにしか大阪行かないにも関わらず、リヴァーサイドの店員さん(店長さん?)が僕の顔をしっかり覚えてくれているのが嬉しかった。この時点で20:00。まだまだ時間はある。しばらくその辺りをぶらぶらし、そして長堀の地下街にある喫茶店へ入り軽く夕食を取る。のんびりテレビを眺めながらコーヒーをすすって時間を潰し、22:00くらいに出て難波ロケッツへと向かう。
 
難波駅に着いた時にはもう、雨もほとんど止んでいて一安心。22:30くらいにロケッツの前へ到着。今日のパーティは23:30にスタートと言うことで、この時間にはまだ当然並んでる客などもいない。30分くらい待ったところでゼンタ氏が現れた。氏とロケッツ隣のスタジオの様なところへ入って待つ。しかし幾ら待っても人が現れる気配は全く無い。別に僕が心配することでも無いのだが、今日のパーティ、ちゃんとお客は来るのだろうか…。
 
いつの間にか時間は23:30を回っていた。だがまだ一向にパーティは始まる気配が無い。時間が少し押しているのかもしれない…。とりあえず外へ出て、ロケッツの前で様子を見る。ようやくこの頃には、スタート待ちのお客さんも何人か来ていたようだ。
 
 
と、ロケッツの中の方を見るとDIEGOがいる!! ゼンタ氏と二人で「ディエゴー!!」と呼ぶ。しかし気づかない。こっちをちらっと見ても「?」と顔をしている。…ヤバイ。俺達の顔、忘れてるんじゃないんだろうか!? としばらくしてこっちにDIEGOが来た。近くで僕らの顔を見た途端、笑顔になった。…良かった。忘れられていたわけじゃない様だ。隣には通訳のお姉さん(今回DIEGOを日本に呼んだ仕掛け人らしい)がいて、その人曰く、「かなり目が悪い」そうだ。そう言えば、KANZLERAMTのサイトで、DIEGOは普段はメガネをかけているとか何とか書いてあったのを思い出す。
 
ゼンタ氏と僕、それぞれDIEGOと握手を交わす。そして僕はDIEGOに8月ゼロシキの時に撮った写真を渡し、ゼンタ氏は写真のデータの入ったCDを渡す。そんなところで、ロケッツ入り口にいたスタッフがパーティ開始の合図を告げた。しかしそれと同時にDIEGOと通訳氏は街の方へ歩き出す。今から夕食を取りに行くのだそうだ。そして通訳氏が「良ければ一緒にどうですか?」 ゼンタ氏と僕、迷わず一緒に行くことにする。まさか、夏に引き続いて再びDIEGOと一緒に飯食いに行けることになるとは…これは嬉しい誤算だ。しかし今回はスタッフでも何でもないし(いや前回時も僕はスタッフじゃなかったのだが)、果たして本当にいいのだろうか…と少し疑問。
 
そして途中でRUKIA嬢・初対面のりうさんとも合流し、難波駅周辺の飲み屋へ。更にそこへ、うりん君にオチ君、PKG君、そしてこれまた初対面のナカガワさんが合流。かなりの大所帯となってDIEGOを囲む会となる。まさかこんな展開になるとは全く予想外だった…。まあでもいいか。
 
ビールで乾杯し、色々と食べ物も注文する。そしてRUKIA嬢がDIEGOに何やら渡す。どうやら、奈良のテクノパーティ[neu]のオフィシャルグッズらしい。Tシャツとか色々入ったなかなか豪華な詰め合わせだ。そして僕もどさくさにまぎれて、何と大胆にもDIEGOに自分のMIX-CDを渡してしまった。まさかプロのDJに自分のMIXを渡すだなんて…よくよく思い返してみれば何とも恐れ多い(汗) まあでもこれを逃したら、こんな機会は金輪際無いだろうし、まあ良しとしよう。
 
 
一足先、1:00くらいにDIEGO達は店を出る。彼の出番は2:00からなんだそう。僕らはもう少し飲んで話す。結局、1:30過ぎに店を出てロケッツへと向かう。2:00前に到着。DIEGOはフロアの入り口付近にいた。ゼンタ氏が「新しいアルバムの曲をかけてくれ!!」とDIEGOに言う。しかしDIEGO、持って来てないらしい…。そのアルバムのリリースツアーだと言うのに(笑) そしてどうやら、彼は自分の曲をDJでかけるのは好まないらしいのだ。
 
さて、ロッカーへ荷物を置き、缶ビールを買ってフロアへと入る。何やらライブをやっていた。MACを使って音を出しているらしい。なんともノイジーなエレクトロニカだ。と、ブースを見るとDIEGOの姿が。後ろでスタンバイしている。そして2:00を10分くらい回ったところだろうか。ライブが終わり、いよいよ待ちに待ったDIEGOのDJ、スタートだ。
 
 
前回のゼロシキでは、宇宙的な音響トラックでスタートしたDIEGOのDJ。今回はあまり凝ったスタートではなく、最初からいきなりトライバルミニマルのフェードインで始まった。そしてそこに、すぐに次のトラックをミックスしていく。トライバルだが、音は割と明るい。あまりゴツくもなく、重くもない。雰囲気としては、去年の秋にOZONで聴いたオリバーホー。ちょうどあんな感じだった。
 
そして今回のDIEGOのプレイ、タンテ三台をフルに使っている。ゼロシキではたまに三台目に手を伸ばす程度だったのだが、今回は三台常にフル稼働。見ると、三台のうち二台に常にレコードが置かれている状態。つまり、トラックが一曲だけでかかっていることが無いのだ。
 
ミニマルトラックを次々に混ぜまくっていく。正確無比なピッチ合わせ。絶妙のEQ使い…凄い。正直言って、プレイそのものは前回ゼロシキで見た時よりも断然いいんじゃないだろうか。やはり日本も二度目と言うことで、彼なりに緊張とかがほぐれているのかもしれない。
 
序盤はあまりハード過ぎない感じだったDIEGOのプレイ、時間がたつにつれて段々、激ハードになっていった。とにかくミニマルを混ぜまくりで、あまり知っている曲とかもかからない。でもハードなんだけど、リズム一辺倒のゴリ押しな感じではなく、結構シンセの上モノなんかも聴こえてきたりで、綺麗でとても聴きやすい。ハードなんだけど綺麗。そういう意味では、(彼自身の曲をかけないにも関わらず)彼自身の曲とどこか共通した雰囲気が漂っていると言えるかもしれない。
 
BEN SIMSの[MANUPILATED]がかかる。前回もかなり使い倒していたこの曲。今回かけたのはBEN SIMS自身によるセルフリミックスのヤツだ。これを他のミニマルトラックにかぶせ、そのトラックの上モノやキックなんかは生かし、[MANUPILATED]のシャリシャリしたリズムだけをうまくミックスしている。…まさにミニマルのお手本とも言える混ぜ方だ。僕だったらきっと、[MANUPILATED]も一つの曲としてとらえて繋いでしまってるだろうが、それではいけないのだ。…こんな風に、完全にツールとして捕らえて、そのトラックの一部分の音だけを上手く混ぜる…。
 
と、ずっとハードなまま続いたDIEGOのプレイ。ふと少し静かになる。ハードなリズムが消えてフロアに響き渡るサックスの音色。そんなブレイクの後、4つ打ちのキックに乗ってエレピ系の音でジャズ風なメロディ。そう、これはSLSの[JAZZ LESSON]だ。それも、みんながよく使う[GET IT ON]じゃなくて、B面の方の曲をかけていた。
 
そこからはまたひたすらにハードなプレイ。ブースのDIEGO、まわしている最中はひたすら何かをいじっている。ミキサーのEQで音量を、タンテでピッチの微調整…。休む間もなくひたすら仕事をこなしている。カッコいい…。そしてたまにタバコに火をつける。DJがブースでタバコを吸う姿は、個人的にはどうもあまり好きになれない場合の方が多いのだけど、この人のはなんかカッコいい。火を付け口にタバコをくわえる。そんな動作の一つ一つまでが全てサマになっている。
 
と、そこで聴き覚えのあるメロディー。デトロイト風に広がる壮大な上モノ。これはSLSの[PSYCHE]!! 実は自分がこないだのイベントで使ったばかりなだけにもの凄くツボにハマってしまった。…ヤバい。ヤバ過ぎる!! 思わず「ウォー!!」と奇声を発してしまっていた。自分的にここが今日一番のヤマ場だったかもしれない。
 
そして尚も加速するDIEGOのプレイ。最後半に向けて突っ走る。ラスト近くはもう、本当にアゲまくりだった。ハードミニマル中心ながらも、知ってる曲・有名な曲があれこれかかる。DEVILFISHの[MAN ALIVE]、IGNACIOの[VIRTON]…。しかしこんな有名トラックでも、他のミニマル曲同様にツールぽくさらっと合わせる感じだ。[MAN ALIVE]なんてブレイクの一瞬を聴かせる程度。1分程で次の曲にミックスしていたんじゃないだろうか。
 
前回の来日時も二回かけていた、[MANUPILATED]のJOEL MULLリミックスもまたかけていた。やはりこの曲お気に入りなんだろうか。そして、THOMAZ vs FILTERHEADSの[LOS HIJOS DEL SOL]がかかった時はもう、「来たぁ!!」と言う感じだった。と言うか事実、「来た!来た!!」と僕は叫びまくっていた。フロアにはもう人もかなりまばらだったけれど、そんなのお構いなしに歓喜の中で友人達と共に踊り狂う僕。ふと気が付けば、彼のプレイを聴きながら、踊りながら飲んだ缶ビールの本数はいつの間にか4本になっていた。
 
そして2時間に渡るDIEGOのプレイ。ラストはピアノの上モノが印象的な、何とも綺麗でピュアなテクノだった。彼自身のアルバム[INSTANT REALITY]収録の[MIND DETERGENT]によく似た雰囲気の曲だった。
 
結局、今回のプレイでは(彼が最初に言った通り)ニューアルバムの、彼自身の曲がかかることはなかった。それどころか、KANZLERAMTの曲も一曲もかけなかった。でももう、そんなことはどうでも良かった。あれだけの凄いプレイで、あれだけにガッツリと踊らされたのだ。文句のつけようもない。
 
例えるのなら、オリバーホーとアダムベイヤーとベンシムズを足して三で割った様なスーパープレイ。ハードミニマル好きならきっと大満足だったに違いない。それだけに、お客が少なかったのが残念でならなかった…。
 
 
荷物を持ってフロアの外に出ると、友人達が皆でDIEGOを囲んでいた。僕もその中へ入る。そしてもはや恒例となっている(?)サインをゲット!! 家から持参した、ニューアルバム[INSTANT REALLITY](CD)のジャケ裏にサインを貰う。DIEGO、少し考えてから「INSTANT DIEGO!」と書いてくれた。どんな意味で書いてるのかはよく分からないが、しかしサインをねだってもイヤな顔一つせず、それどころか毎回違う文句で書いてくれる。そんな心遣いがとても嬉しい。
 
そしてニューアルバムの話など少しする。「どの曲が好きだ?」と聞かれたので僕は7曲目の[THE RISING RRROR]をあげておいた。ハイハットのリズムと空間的な上音が印象的な、アルバムの中でも最もフロア向きな曲だ。DIEGO自身は1曲目の[HEAVENLY BLUE]やラストの[LANDER]が気に入っているらしい。どちらも、アルバムの導入と締めくくりを飾る為のしっとりとした感じの曲だ。そう言えばDIEGO、前回来た時はアルバム[THE PERSUASION CHANNEL]の中では1曲目、やはり導入曲の[INSTANT REALITY]が気に入っていると話していた。もしかすると彼自身では、フロアを意識せずに創った曲の方が好きなのかもしれない。
 
 
結局皆で一時間近く話していただろうか。そして5時近く、DIEGOがホテルへ帰ると言うので皆で見送る。ハコの外で、ちぎれんばかりに手を振って見送る僕ら。彼を乗せた車はまだ日の昇らない大阪の街の中へと走り去っていった…。
 
 
今回のDIEGO来日。前回と較べれば感動の様なものは少なかった。しかしその分逆に、思う存分に音を楽しみ、踊り狂っていた自分がいた。色々あって最近少し、クラブから足が遠のいていた自分だけれど、やはり好きな音を聴いてガシガシ踊るのはとても楽しい。それは理屈じゃあなく、体で直に感じるものなのだ。そんな感覚を思い出させてくれた、DIEGOに改めて感謝。出来ることなら、もう一度、いや何度でも日本へプレイしに来て欲しい。きっと僕はその度に遊びに行くだろう。