Blue Valentine |
Somewhere (from West Side Story) Red Shoes by the Drugstore Christmas Card from a Hooker in Minneapolis Romeo is Bleeding $29.00 Wrong Side of the Road Whistlin' Past the Graveyard Kentucky Avenue A Sweet Little Bullet from a Pretty Blue Gun Blue Valentines |
1977年末、チャック・E・ワイスは、1人の女性と会う。 彼がアルバイトをしていたトルバドゥールに出演していたアイヴァン・ウルツという男が、デュエットを頼もうと、リッキー・リー・ジョーンズという女性を同行してきたのだった。 彼女は、自分探しの旅に出ようと、14歳で家出をし、旅の末、辿り着いたロータスランドの安食堂で地道にアルバイトをしながら成功を夢見ていたのだ。 リッキーと意気投合したチャックは、彼女を、トムに引き合せた。 トムは、リッキーを一目見て、本能的なものを感じ、恋人・・・単なる恋人ではなく、時に気の合う仲間とも言える同志になった。 トムは、冒険心に富み、最下層の生活を体験し、酸いも甘いも噛締めた、チャックによれば"強靭でいてしなやか、愛情ゆたかで陽気"なリッキーの気質を愛したのである。 そして、2人は、ロサンジェルスのトロピカーナに住むことになった。 そんな心躍る生活をする一方、"Foreign Affairs"をリリースした後、トムは、コンスタントにショーに出演する。 そして、初めて映画出演を果たした。 タイトルは"Paradise Alley"。監督は、当時、"ロッキー"が大成功を収め、一躍、大スターとなっていたシルベスター・スタローンだ。 ボーンズ・ハウによると、"スライ(スタローンのこと)とトムは、恐らく、スライがトルバドゥールで、スライがトムのステージを観たか、誰か友人を介して知り合ったか、そんなところだろう。気が付いたらつるんでいた、ってなもんさ。 (中略) トムには人を吸い寄せる磁器のようなものがあるのさ"。 この作品で、トムは、ピアニストのマンブルズという端役で、スクリーン・デビューを果たすと同時に、サウンド・トラックに"Meet Me In Paradise Alley"、"Annie's Back In Town"の2曲を提供した。 そして、1978年の夏、トムは、スタジオに戻り、新作の制作にとりかかった。 本作のプロデューサーもボーンズ・ハウ。 レコーディングは、ロサンジェルスのフィルムウェイズとワリー・ヘイダー・レコーディング・スタジオで、1978年7月24、25日、8月10、17、23、26日に行われた。 トムは、ローリング・ストーン誌のマイカル・ギルモアに、こう語っている。(一部抜粋) "コンテンポラリー・アーバン・ブルース・・・つまり、レイ・チャールズやジミー・ウィザースプーンに近い音楽が詰まってんだ。何故かって?ブルースを歌ってりゃ、人を殺さないですむだろ?" アルバムは、1961年の米映画"West Side Story"からのバラード"Somewhere"で始まる。 ストリングスの美しさと、トムのしゃがれ声が対照的であり、しかし、この上なくドラマチックだ。トランペット・ソロはジャック・シェルダン。 "Red Shoes By The Drugstore"では、ダ・ウィリー・ゴンガが担当するエレクトリック・グランド・ピアノの響きが、曲に不思議なムード、緊張感を与えている。 ジャジーなピアノに乗せて、架空の恋人や子供の話をしながら過去の男に金を無心する女性を歌った"Christmas Card From A Hooker In Minneapolis"は、どことなく"San Diego Serenade"を思い出させるメロディがある。 "Romeo Is Bleeding"は、ヤクザの抗争の中、血を流しながら、映画館に入り、静かに死ぬロミオの話。 トム自らがエレクトリック・ギターを弾く"$29.00"、チャーリー・カイナードのオルガンやフランク・ヴィカーリのトランペットが活躍する"Wrong Side Of The Road"も素晴らしいが、トムの叫び声に強調されたリズム、"俺はタクシーで生まれた"という歌詞もある"Whistin' Past the Graveyard"はとても格好良い仕上がりだ。 前曲から打って変わってトムのピアノの弾き語りに、ボブ・アルシヴァーの指揮によるオーケストラが絡む"Kentucky Avenue"は、若い頃から街の裏側を見てきたトムの少年時代が反映されているとおぼしき曲。 "夢を持った可愛い少女達が雨をしのぎに、ホテルにやってくる。彼女達の髪をリボンで飾るには、可愛い小さな弾丸が必要らしい" "A Sweet Little Bullet from a Pretty Blue Gun"は、そうした少女の物語だ。 ラストを飾るのは、タイトル曲"Blue Valentines"。 昔の恋人を忘れようとする男。しかし女は、毎年のようにブルー・ヴァレンタインを送ってくる。 忘れられずに想いを焦がし、傷つく男の心を切々と歌う名曲だ。 だが、前作"Foreign Affairs"、そして本作と、どちらも芳しいセールスを上げることは出来なかった。 もっとも、アサイラム・レコードは、トムが、華やかに売れるような類のアーティストでないことは知っていたから、とりたてて大きな失望を覚えたわけではなかった。 失望したのはトム自身で、1980年、心機一転してニューヨークに移ったことに関し、彼は、後のインタビューで、こう語っている。 "音楽ビジネスの世界に幻滅して、俺はニューヨークに引っ越して転職も考えたのさ。全く違う生き方、別なオペレーションが必要だったってわけさ" そうは言いながらも、やはり、トムは音楽を続けた。・・・そして俳優業も。 |