「エリザベス」、と名付けた。

彼女の凛としたまなざしが英国の誇り高き女王を連想させた。
映画の影響があったのかもしれない。
ロシアンブルーという美しい名にふさわしい容姿。
その日から僕は彼女のトリコとなった。


仕事の関係上、何ヶ月も家を空けることなんてしょっちゅうの
不規則な就労体制。気まぐれな君を見て人は僕と同じだという。
確かにそうかもしれない。深夜に帰宅した僕を見て冷たく一瞥
したかと思えば、体をすり寄せて甘えてくるときもある。
その自由さがいとしい。居心地が良くてさしずめ相性抜群ってとこですか。


くゆらせた紫煙、やわらかいソファ、雨の音色。


君を抱きしめるときはこんなシチューエーションが多かった気がする
リビングに置いていたソファは君のお気に入り。
くるまって隅のほうでよく寝ていた姿が目に焼き付いてる。

ソファの隅は君のポジション。アコギをつま弾くとか細く歌ったりして
僕のかわいい、小さな恋人。


だから君を失ったとき、僕は信じられなかった。信じたくなかった。
掌に残されたのは悲しみという名のソウシツ。

君が歩くたびにチリチリ鳴っていた鈴が手の中で小さく泣いている。
朱色のそれはただあでやかで。


女王の名にふさわしく散りゆくときも美しかった。
ソファの隅には君だけの色と強く残る存在感。


それだけが僕を泣かせた。