<芭蕉とわらべうた>
あかあかと 日はつれなくも 秋の風
秋風の 吹けども青し 栗の毬
秋深き 隣りは何を する人ぞ
秋を経て 蝶もなめるや 菊の露
曙は まだ紫に ほととぎす
暑き日を 海に入れたり 最上川
あなむざんや 甲の下の きりぎりす
あの雲は 稲妻を待つ たより哉
荒海や 佐渡に横たふ 天の河
いざ子供 走りありかん 玉霰
十六夜は わづかに闇の 初め哉
石山の 石より白し 秋の風
五つ六つ 茶の子にならぶ 囲炉裏哉
入逢の 鐘もきこえず 春の暮
植うる事 子のごとくせよ 児桜
憂き節や 竹の子となる 人の果て
鶯や 柳のうしろ 藪の前
馬ぽくぽく 我を絵に見る 夏野かな
梅が香に のっと日の出る 山路哉
大井川 波に塵なし 夏の月
起きあがる 菊ほのかなり 水のあと
起きよ起きよ 我が友にせん 寝る胡蝶
己が火を 木々に蛍や 花の宿
俤や 姥ひとり泣く 月の友
おもしろうて やがて悲しき 鵜舟かな
面白し 雪にやならん 冬の雨
陽炎や 柴胡の糸の 薄曇り
かたつぶり 角振り分けよ 須磨明石
門松や おもへば一夜 三十年
鐘撞かぬ 里は何をか 春の暮
刈りかけし 田面の鶴や 里の秋
借りて寝ん 案山子の袖や 夜半の霜
枯芝や やや陽炎の 一二寸
川上と この川下や 月の友
菊の香に くらがり登る 節句かな
昨日から ちょっちょと秋も 時雨かな
君や蝶 我や荘子が 夢心
清滝の 水汲ませてや ところてん
草いろいろ おのおの花の 手柄かな
草の戸も 住み替る代ぞ 雛の家
草の葉を 落つるより飛ぶ 蛍哉
愚に暗く 茨を掴む 蛍かな
雲をりをり 人をやすめる 月見かな
声澄みて 北斗にひびく 砧哉
蝙蝠も 出でよ浮世の 華に鳥
木枯しや 竹に隠れて しづまりぬ
こちら向け 我もさびしき 秋の暮
子に飽くと 申す人には 花もなし
この道を 行く人なしに 秋の暮
篠の露 袴に掛けし 茂り哉
里の子よ 梅折り残せ 牛の鞭
さまざまの こと思ひ出す 桜かな
寒からぬ 露や牡丹の 花の蜜
寒けれど 二人寝る夜ぞ 頼もしき
閑さや 岩にしみ入る 蝉の声
しばらくは 花の上なる 月夜かな
白炭や かの浦島が 老の箱
涼しさを 絵にうつしけり 嵯峨の竹
その匂ひ 桃より白し 水仙花
たかうなや 雫もよよの 篠の露
竹の子や 稚き時の 手のすさみ
七夕の 逢はぬ心や 雨中天
父母の しきりに恋し 雉の声
蝶の羽の いくたび越ゆる 塀の屋根
散る花や 鳥も驚く 琴の塵
月いづく 鐘は沈める 海の底
月澄むや 狐こはがる 児の供
磨ぎなほす 鏡も清し 雪の花
年は人に とらせていつも 若夷
なかなかに 心をかしき 臘月かな
永き日も 囀り足らぬ ひばり哉
夏来ても ただひとつ葉の 一葉かな
何とはなしに 何やらゆかし 菫草
何の木の 花とはしらず 匂いかな
菜畠に 花見顔なる 雀哉
なりにけり なりのけりまで 年の暮
西か東か まづ早苗にも 風の音
庭掃きて 雪を忘るる 箒かな
猫の恋 やむとき閨の 朧月
子の日しに 都へ行かん 友もがな
能なしの 眠たし我を 行行子
初秋や 海も青田も 一みどり
初時雨 猿も小蓑を 欲しげなリ
初雪や 聖小僧が 笈の色
花の顔に 晴れうてしてや 朧月
花の雲 鐘は上野か 浅草か
葉にそむく 椿の花や よそ心
春風に 吹き出し笑う 花もがな
春の夜は 桜に明けて しまひけり
春もやや 気色ととのふ 月と梅
ぴいと啼く 尻声悲し 夜の鹿
一里は みな花守の 子孫かや
一露も こぼさぬ菊の 氷かな
人も見ぬ 春や鏡の 裏の梅
日にかかる 雲やしばしの 渡り鳥
雲雀鳴く 中の拍子や 雉子の声
ひやひやと 壁をふまえて 昼寝哉
昼顔に 昼寝せうもの 床の山
風流の 初めや奥の 田植歌
古池や 蛙飛びこむ 水の音
ほととぎす 大竹薮を 漏る月夜
ほととぎす 声や横たふ 水の上
前髪も まだ若艸の 匂ひかな
松風の 落ち葉か水の 音凉し
見送りの うしろや寂し 秋の風
湖や 暑さを惜しむ 雲の峰
道ほそし 相撲取り草の 花の露
蓑虫の 音を聞きに来よ 草の庵
麦の穂や 涙に染めて 啼く雲雀
むざんやな 甲の下の きりぎりす
名月に 麓の霧や 田の曇り
名月や 池をめぐりて 夜もすがら
目に残る 吉野を瀬田の 蛍哉
物好きや 匂はぬ草に とまる蝶
やがて死ぬ けしきは見えず 蝉の声
やまぶきの 露菜の花の かこち顔なるや
夕顔に 干瓢むいて 遊びけり
夕にも 朝にもつかず 瓜の花
雪と雪 今宵師走の 名月か
行く秋や 手をひろげたる 栗の毬
行く雲や 犬の駆け尿 村時雨
行く春や 鳥啼き魚の 目は涙
夢よりも 現の鷹ぞ 頼もしき
よき家や 雀よろこぶ 背戸の栗
世の中は 稲刈るころか 草の庵
蘭の香や 蝶の翅に 薫物す
籠宮も 今日の潮路や 土用干
両の手に 桃と桜や 草の持ち
我が宿は四角な影を窓の月
忘れずば 小夜の中山 にて涼め
綿弓や 琵琶に慰む 竹の奥
笑うべし泣くべし わが朝顔の 凋む時
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