第330回 日曜地学ハイキング記録
日曜地学ハイキング記録
武川岳〜二子山 石をみながら山登り
第330回日曜地学ハイキングを平成11年7月24日〜25日に実施しました。
7月25曰(日) 16:00 名栗村名郷 西山荘、16:00 集合
解散は西武鉄道芦ヶ久保駅 午後6時過ぎ
見どころ:@石灰岩、チャートの観察
A岩質と地形の対応関係
25日は学習会、26日は朝8時出発、7〜8時間の登山
主 催:地学団体研究会埼玉支部、日曜地学の会
案 内:保科 裕(和光高校)松岡喜久次(豊岡高校)他
参加費:100円(保険代・資料代)
今回は案内者のご厚意により以下の案内パンフをもってハイキング記録といたします。
ルートと露頭ポイント
第330回 日曜地学ハイキング
武川岳−二子山−石を見ながら登山−
武川岳山頂
入間向陽高校屋上からの武川岳-二子山
観察ポイント
@ 天狗岩
山登りを始めて最初にたどりついた尾根には、白っぽい岩石が、大小さまざまな石碑のように並んでいます。このあたりは、「天狗岩」とよばれています。この岩石は「石灰岩(せっかいがん)」で、このような地形を「カレンフェルト karrenfeld」といいます。カレンとは、石灰岩が炭酸ガスを含んだ雨水によって溶かされて生じた溝状の凹地で、車のわだちを意味するドイツ語から由来しています。また、石碑のように出っぱった部分をピナクルといいます。カレンが多数形成されたため、ピナクルが多数露出している石灰岩特有の地形がカレンフェルトです。この石灰岩はこのあたりに、幅50~100m、長さ約2kmにわたって、南東から北西の方向にレンズ状に分布しています。天狗岩の東側の斜面では、この石灰岩を採掘しています。
カレンフェルト尾根上のピナクル
A 天狗岩・武川岳間のチャート
天狗岩を越えると山道沿いに点々と、白色または淡赤色をしているチャートがみられます。後のページで説明しますが、このチャートは橋立層のものです。
チャートは,深海底で放散虫の死骸がゆっくり積もってできたものです。したがって、チャートをルーペでよくみると、灰色の丸い放散虫化石がみつかるはずなのですが、ここのチャートにみつかることは、非常にまれです。これは変成作用をうけて、石英が再結晶し、放散虫化石が消失してしまったのでしょう。(橋立層)
橋立層の赤色チャート
B 平らな武川岳山頂
やっとの思いで,武川岳の山頂に着きました。今回のコースの最高地点です。この山頂は,砂岩(子ノ山層)でできているためたいへん平らです。砂岩は全体が均等に風化していくので,その風化表面は,一般的になだらかになります。これからのコースでみられるチャートがつくる地形とはまったくちがいます。この山頂からは,北西に武甲山の勇姿をみることができます。
武川岳山頂からの武甲山
C-1,2,3 ピークをつくるチャート(蔦岩山,焼山,二子山)
武川岳から北のコースでは,大きなピークはチャートでできています。これはチャートが風化に強く,そこが残って高まりをつくりやすいからなのです。この間のチャートは、あまり再結晶していなく新鮮です。白色のものの他に灰色〜黄土色があります。このチャートからは放散虫化石はみつかることがあります。これまでにペルム紀やトリアス紀の放散虫化石が見つかっており,ペルム紀やトリアス紀の時代につくられたことがわかります。(子ノ山層)
蔦岩山の層状チャート
D 緑色岩と石灰角れき岩−サンゴ礁の崩壊−
ここでは,緑色の玄武岩質溶岩や凝灰角れき岩の上に石灰角れき岩(子ノ山層)がかさなっています。石灰岩のれきにはフズリナ(紡錘虫)化石がたくさんふくまれています。その境界は,ややすべって小さな断層となっていますが,大きなずれはないようです。
さて,これをどう解釈できるでしょうか。海底からそびえる海山の海面ちかくには,サンゴ礁ができます。そのサンゴ礁がこわれて,玄武岩質の海山のすそ野の上にたまったら,こんな関係ができるかもしれません。
石灰角れき岩/玄武岩質岩
武川岳−二子山周辺の地質
概 略
この付近には、南側に橋立層、北側に武川岳層・子ノ山層が分布し、東西方向の断層で接しています。今回の地ハイのコースは、南から北に向かって歩きますので、最初に橋立層がみられ、その後に武川層と子ノ山層がみられます。
武川岳層と子ノ山層はほぼ同様な岩石なので,一括して子ノ山層とします。
橋立層は主にチャート・淡緑色珪質凝灰岩からなり、泥岩や石灰岩もみられます。これらの岩石は,変成作用を受けて千枚岩状になっています。橋立層の岩相は、群馬県の神流川沿いにみられる秩父帯北帯のものに似ていることから、秩父帯北帯のメンバーと考えられています。秩父側において,赤色チャートからジュラ紀後期の放散虫化石がみつかっています。
子ノ山層(と武川岳層)は主に砂岩・泥岩からなり、その中にチャートや玄武岩質凝灰岩および石灰岩のオリストリス(外来岩塊)をふくみます。武川岳および二子山付近から正丸峠を越えて飯能まで分布しています。この泥岩からジュラ紀前期の放散虫化石がみつかっています。
同じ岩石でもちがいがある
石灰岩
橋立層の石灰岩(天狗岩)は、セメントの材料として採石されるような大きな岩体です。名郷付近の石灰岩から中生代トリアス紀のコノドント化石がみつかっています。また,武甲山の石灰岩からもトリアス紀のコノドント化石や石灰質凝灰岩から二枚貝の化石がみつかっており、同じものといえます。
子ノ山層の石灰岩は小さい岩体であり、石灰岩のかけらが集まったものが多いようです。この石灰岩からは、フズリナ化石がみつかることが多く、おもに古生代ペルム紀のものです。今回の地ハイでは、二子山の北方の石灰岩からフズリナ化石がみつかります。
チャート
橋立層のチャートは、白色〜淡赤色のものが多く、よくみると透明感があります。変成作用をうけて再結晶しているようです。したがって、放散虫化石がみつかることは非常にまれです。 子ノ山層のチャートは、白色のものの他に灰色〜黄土色のものがあります。このチャートは新鮮で,放散虫化石がみつかることがあります。これまでにペルム紀やトリアス紀の放散虫化石が見つかっており,ペルム紀やトリアス紀の時代につくられたことがわかります。
岩質と地形
武川岳−二子山登山ルートには,おもに石灰岩,砂岩,チャートといった「堆積岩」が露出しています。
登山口からは橋立層で、石灰岩やチャートがみられます。武川岳手前の砂岩がみられるあたりからちがった地層にかわります。武川岳付近から二子山にかけての岩石は子ノ山層(と武川層)で,砂岩,含礫頁岩,珪質黒色頁岩で,そのなかのチャート岩塊が,蔦岩山・焼山・二子山のピークをつくっています。
尾根道の地質と地形の関係
チャートは,緻密で固く風化にも強いため,するどい尾根や高まり(ピーク)をつくることが多い。
石灰岩は,こわされにくいが,炭酸ガスをふくんだ水にはよく溶けてカレンフェルトなどの石灰岩地帯特有の溶食地形をつくる。
砂岩,泥岩や緑色岩は風化をうけやすく,尾根では「へこみ」の部分となる。
地質断面図(尾根道を直線として作成)
武川岳-二子山周辺の岩石
石灰岩
炭酸カルシウム(CaCO3)からなる方解石を主成分とする堆積岩の一つです。細粒で、色は白色〜灰色、含まれる不純物によっては赤褐色、暗灰色などとなります。石灰岩のでき方は、次の2通りです。
@ 海の生物の作用によってできる場合
炭酸カルシウムの殻をもつ生物(サンゴ・ウミユリなど)の化石でできています。(二子山北の石灰角礫岩 SP08)
石灰角礫岩のフズリナ SP08古生代ペルム紀
A 海中の化学成分の沈澱作用によってできる場合
比較的水温の高い浅海底に沈澱した石灰泥が固結して形成されます。この場合は化石を含まず、緻密な岩質を示します。
(天狗岩の石灰岩 SP01 の可能性)
石灰岩はセメントの原料ほか,ガラス・ 肥料・製鉄などに使われています。
石灰角礫岩のフズリナ SP08古生代ペルム紀
二子山北石灰角れき岩には,古生代ペルム紀のフズリナがみつかっています。一方天狗岩の石灰岩からは,中生代トリアス紀のコノドントがみつかっています。
つまり,時代のちがう石灰岩です。
天狗岩の石灰岩 SP01 中生代トリアス紀
チャート
写真のチャートは,武川岳の南方のものです。赤色チャートの表面に丸く半透明で黒色したものがみえます。これが放散虫化石なのです。
この橋立層の地層は変成作用によって再結晶しているので,放散虫の化石もはっきりしていません。
武川岳南赤色チャート表面
砂岩
砂岩は,尾根すじのところどころにみられます。
武川岳すぐ南の砂岩 SP03
おもに石英と長石(斜長石)の粒です。石英はやや変形し,長石は中心部やへき開にそって絹雲母や粘土鉱物に変質しています。玄武岩の岩片やチャートの岩片がみつかりますが,たいへん量がすくないです。
砂岩SP03 武川岳すぐ南
焼山すぐ北の砂岩 SP06
おもに石英,長石(斜長石と少量のカリ長石)の粒で,そのほかにチャートの岩片がおおくふくまれます。長石はSP03と同様に,変質した部分は絹雲母や粘土鉱物です。
砂岩の分類では2資料とも長石質ワッケです。
砂岩 SP06 焼山すぐ北
緑色岩
緑色岩は,この付近ではおおくありません。ここでは,武川岳のすぐ北側のものと,二子山のすぐ北側のものを紹介します。
ドレライト(粗粒玄武岩)SP04
大きな普通輝石(透明部)と斜長石(長柱状)の結晶からできています。斜長石は,輝石につっこんでいます。これは斜長石ができたあと,輝石がゆっくり成長したからです。
砂岩SP04 武川岳すぐ北
ドレライト(粗粒玄武岩)SP07
普通輝石と斜長石の結晶が,組み合っています。この輝石は,赤茶色でチタン(Ti)をおおくふくむ独特なものです。
二つとも組織から推定すると,ややゆっくり冷えたものといえます。もともとは貫入岩だったのかもしれません。しかし,現在の露出の状態では,はっきりしません。
緑色岩 SP07 二子山すぐ北
武甲山・武川岳−二子山周辺の岩石分布図
1999年埼玉県地質図の1部を使用
上の図の地層区分図
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