第328回 日曜地学ハイキング記録
日曜地学ハイキング記録

新緑の荒川中流を歩く −化石採集−




第328回日曜地学ハイキングを平成11年5月30日に実施しました。
 荒川中流の河岸には、1000〜1500万年前(新生代新第三紀中新世の中期~後期)の海底に積もった地層が露出しています。これらの地層は、凝灰岩、砂岩、泥岩、礫岩からなり、いろいろな断層(横ずれ断層や共役断層など)や堆積構造(ソールマーク、ラミナ、スランプ構造など)が観察できます。
 また植松橋下流の泥岩の中には、海に棲んでいたと考えられる貝、魚のうろこや骨、サメの歯などが埋もれていたことから、かつてこの付近が海の底だったことがわかります。
 太古の時代に思いをはせ、当時の海のようすをあれこれ想像するのも、地質学のだいご味といえます。


  秩父鉄道、武川駅10:00集合〜1.0km〜植松橋〜0.3km〜
       川本中学グラウンド下の河原(福田層の観察、昼食)〜2.0km〜
       菅沼付近の荒川河床(土塩層の化石採集)〜2.0km〜
       武川駅15:00頃解散



見どころ:@川本中学校グラウンド下 −福田層の観察−
 ここでの観察ポイントは、ソールマーク、ラミナ、スランプ構造などの堆積構造の観察をしました。
     A管沼付近の荒川河床 −土塩層の化石−
 午後は、川本町菅沼の荒川河床に下りて地層の観察や化石採集を行いました。



1 川本中学校グラウンド下

 ここでは、ソールマーク、ラミナ、スランプ構造などの堆積構造の観察をしました。

 ◎ラミナ
 地層を構成する最小単位で,葉片状の薄層であることから、「葉理」とか「葉層」とも呼ばれます。一般に、ラミナの面は層理面と斜交します。粒子の大きさや色の濃淡などによって識別され、断面では細いしまのように見えます。
 ここでは、凝灰岩層の基底部付近で、多数の平行したラミナが観察できました。

 ◎ポットホール
 川底の水流の強いところでは、川底の岩ばんのくぼみや割れめに小石がはまり、うずまき様の流れによって次第に岩ばんがけずられ、円筒状の穴のあくことがあります。このような穴を「ポットホール」(おう穴、かめ穴ともいう)といいます。
 ここでは、凝灰岩の表面にいくつかみられましたが、おそらく洪水時などの強い水流の作用によって形成されたと思われました。

 ◎ソールマーク
 砂岩層の下底面の上にみられる、たい積時にできたレリーフ状のマ一クを「ソールマーク」といいます。砂を運んだ水流が水底の泥の表面をけずり取ってできた跡(流こん)や、差別荷重によって上位の砂岩層と下位の泥岩層との境界面が未固結時に変形してできた跡(荷重こん)などがあり、地層の上下を判定する重要な手がかりを与えてくれます。
 ここでは、荷重こんが観察できました。
砂岩層の基底にみられるロードキャスト(荷重こん)
 湯舟にいつぱいにためたお湯(泥岩)に浮かべた洗面器(砂岩)の上を、ふた(凝灰岩)でおおったような形態をしているものがみられました。
 ◎スランピング
 一時的に水底にたまった、まだ完全に固まりきらない(未疑固〜半凝固)たい積物が、地震などが引き金となって、水底の斜面を一団どなってすべり下る作用を、「スランピング」といいます。この結果できた地層が、「スランプ層」とか「スランプシート」と呼ばれるものです。
 スランプ層の内部構造を「スランプ構造」とか「海底地すべりによる異常たい積構造」などといいますが、地層がまがってしゅう曲のようになったり(スランプしゅう曲)、不規則な流れを示す流状構造ができたり、地層がちぎれて断続的になったりすることが多く(これらが偽れき化するとスランプポールという)、ときにはれき・砂・泥などが完全にまじり合った「含れき泥岩」もできるといわれています。
 ここでは、砂岩泥岩互層がちぎれて大きなブロックとなり、不規則に点在しているようすがみられました。
 ◎ミオジプシナ
 石灰質のからをもった大型有孔虫の一種で、暖かい海に積もった地層の中から見つかります。地層の年代を決定するのに役立つ化石で、ミオジプシナは、第三紀中新世の初期ないし中期を示すものと考えられています。このような化石を、「示準化石」といいます。
 外形は、ほぼ両トツレンズ状ですが、前端が少しふくらみ、平面形では、そこをかなめとした扇状を示します。断面を切ってみると、三層の構造をもっていることがわかります。
 ここでは、スランプ層の中から見つかりました。小さな化石で、ルーペなどで拡大して観察しました。


2 管沼付近の荒川河床

 午後は、川本町菅沼の荒川河床に下りて地層の観察や化石採集を行いました。このあたりでは河原の砂やレキが流され、その下にかくされていた地層が現れています。この地層は土塩層と呼ばれています。おもに泥岩でできています。泥岩は海底や湖底に積もった泥が固まってできた岩石です。泥はふつう流れの静かなところに堆積します。また土塩層は多くの化石を含んでいます。化石の種類は二枚貝がもっとも多く、他に巻貝、ツノ貝、魚のウロコ、木の葉、海底の動物の巣穴の化石が見つかります。まれにサメの歯、魚の骨の化石が発見されたことのありました。木の葉以外はすべて海の生物の化石です。木の葉は近くの陸から川によって運ばれてきたのでしょう。したがって土塩層は泥の海底に堆積した地層だと言うことがわかります。さらに貝の化石の中には、新生代新第三紀、中期中新世の後半(1000万年ほど昔)にだけ生存していたことがはっきりしている種類が見つかります。以上のことから、土塩層は1000年ほど前の海底に堆積した地層だということがわかります。
 寄居町から川本町にかけての荒川の河岸や比企丘陵で見られる中新世の地層は、土塩層の他にもいくつかあります。
 右の図は地質柱状図といって、かく地層がどのような岩石でできているのか。地層の厚さはどうか。どのような順序で重なっているか、などの情報を示しています。図の下位の地層ほど古い時代に堆積した地層です。また貝化石の種類から推定された海の深さや水温の変化も示してあります。上塩層より下位の小園層にも貝の化石が含まれていますが、種類がまったくちがいます。時代が移り変わる間に海の深さや水温などの自然環境が変化したことと、貝自身が進化していったことが考えられます。
 化石は、私たちに太古の世界のことをいろいろ教えてくれます。
 みなさんも多くの種類の化石を採集して、化石が物語る1000万年前の世界について考えてみましよう。

◎地層の観察
 まず河床に下りたところで、足下に見られるのはどんな地層か観察しました。この地層は、泥が固まってできた塊状の泥岩でできています。この中には、海に棲んでいた貝類などの化石がたくさん含まれていました。よくさがしてみると、この地層の中に灰白色や赤褐色をした厚さ数cmほどの薄い地層が何枚もはさまれているのがわかりました。これは火山灰や軽石の層です。近くの陸地にあった当時の活火山(その位置は不明)から飛ばされてきて泥の海底に降り積もったものと説明を受けました。
 さらに岩の表面をよく見ると、岩石に裂け目があるのがわかりました。これを境に両側の地層ずれていることがよくあります。これを断層といいます。地層が堆積した後で大きな力がここに働いたことを示しています。
 ◎貝化石の採集
 ここでは今までに次の種類の化石が発見されています。@二枚貝、A巻貝、Bツノ貝、Cウミシダ、Dウニ、Eカニ、Fサメの歯、G魚骨、G魚のウロコ、I海草、J木の葉、P生痕(巣穴).Q有孔虫。
 この中でもっとも多く見つかるのはやはり貝化石です。よく見ると、実に多くの種類があるのに気がつくと思います。今のところ37種類の貝化石がここで発見されているそうです。
 また化石が埋もれている状態にも注意して観察しました。ここの化石は二枚貝の埋もれている状態などから、ほとんどの貝類は生活していた場所で化石になったと思われます。したがって生活の様子を残している化石と考えられました。
 ここで見られる貝化石の集団は群馬県、栃木県、福島県、その他(おもに東北日本)の各地の、中期中新世・後半の地層に含まれる貝化石の集団と化石種が非常によく似ています。これらの貝化石の集団は塩原型動物群と名付けられています。塩原型動物群は寒流に棲んでいたものと考えられています。
 ここの貝化石は石灰質の殻がよく残されていますが、乾くと非常にもろくなります。なるべく岩石に埋もれた状態で掘り出し、上に包んで持ち帰った方がよいと説明を受けました。後で柄付き針や小タガネで余分な岩石を落とすそうです。そのとき殻が割れても木工用ポンドを使えばきれいにつくそうです。さらに木工用ポンドを水に薄めて全面に塗れば、化石が乾いてボロボロになるのを防ぐことができるそうです。

 ルートと露頭ポイント


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