会社概要利用規約サポートプライバシー会員登録

週間番組表本日のお薦めダウンロードニュースレター

HOME番組紹介バラエティ平日深夜Chit Chat
Chit Chat #2
洗濯ばさみの意外な使い方
S「アイム・ア・ヤンキードウードゥルドゥ・ダンディ〜♪」
S&D「ヤンキードウードゥルドゥ・オア・ダ〜イ♪」
D「はーぁ。(溜息)」
S「ふーう。(溜息)」
(しばしの沈黙。)
S「(唐突に)ねえ、あんたどうしてウエストんとこに洗濯ばさみ着けてんの。」
D「サスペンダーが壊れた。」
S「さては肥えたな?」
D「まさか! 俺がこの10年で10ポンドの減量に成功したダイエッターだってこと忘れたか?」
S「忘れちゃいないよ。知らなかっただけで。で、何でサスペンダー壊したの。」
D「それを聞くか。」
S「聞くね。」
D「聞くって言ったな。撤回はなしだぞ。この話聞いたら、お前、絶対に泣くね。」
S「ああ泣きたいね。是非サスペンダーの話で泣きたいね。」
D「後悔するなよ。」
S「とっとと話せば。」
D「よしいくぞ、あれは今朝の7時45分のことじゃった。」
S「何で老人喋りなわけ。」
D「過去の話をする時には老人喋りになるもんだろう?」
S「ならないね。」
D「俺はなるんだ。時々な。」
S「それで午前7時25分にどうしたって?」
D「7時45分だ。7時45分に惨事が起こった。」
S「俺は寝てたな、その時間。」
D「7時45分には起きてろ。良き市民なら。」
S「良き市民のつもりだけど、寝たのが3時だったんだ。」
D「良き市民は0時半には寝るもんだ。」
S「0時半って、家に帰り着く時間だぜ?」
D「それじゃベッドに直行だ。」
S「そんな時間にベッドに入ったって寝られやしないって。もう俺、良き市民じゃなくていいよ。」
D「悪しき市民?」
S「お好きなように。」
D「俺は、俺が良き市民であるのが好きだ。」
S「俺はどうでもいい。俺は俺のやりたいように生きる。」
D「さて、午前7時45分のことだ。」
S「さ、どんどん話して。」
D「もとい、午前7時45分のことじゃった。俺はいつものように、トーストを焼いて、テレビを点けて、ネスカフェを片手に窓辺に立ったんじゃ。」
S「いつも午前7時45分に窓辺に立つのか?」
D「いや、“いつものように”は“ネスカフェを片手に”までだ。」
S「了解。続けて。」
D「その時、窓の外を、上から下に、何か大きなものが落ちていったんじゃ。」
S「飛び降り?」
D「わしも飛び降りだと思ったんじゃよ、その時はな。だが、違うた。」
S「何だった?」
D「それを確かめようと、わしは窓を開けて下を見ようと思ったんじゃが、生憎両手が塞がってて窓が開けられんかった。」
S「トーストとコーヒーとで? 置けよ。」
D「置いたわい。テーブルの上にな。そして窓辺に駆け戻って、窓を開けて、下を見たんじゃ。」
S「それでそれで?」
D「どでかいカラスじゃった。」
S「あ、わかった。それでドタバタしてる時に、サスペンダーが何かに引っかかって壊れたんだろ?」
D「そん時ゃまだ壊れとらんかった。按配よくわしのズボンを吊っとったげな。」
S「それ、どこの方言?」
D「自分語。」
S「ごめん、さらっと流すわ。それで、そのカラスとサスペンダーとの間に、何か関係が?」
D「関係、大あり。下を見下ろした俺と、下から見上げるカラスと、目が合った。と、その瞬間!」
S「うん。」
D「こっちに向かって飛んできたカラスがサスペンダーの金具をごっついクチバシでくわえて、ぶわさっと飛んでいった。サスペンダーの一端を引っ張られて、どうなったと思う?」
S「ええとね……ズボンがケツに食い込んだ?」
D「それもある。だが、それだけじゃない。そのサスペンダーは俺のお気に入りだった。だから俺は、サスペンダーをカラスに取られまいと必死に抵抗した。しかし、カラスは金具を放そうとしない。それで結局、金具だけ持っていかれた。」
S「吊り紐部分は無事?」
D「当然、切れた。どうだ、大惨事だろう?」
S「それほどでもないかな。結構なハプニングではあったと思うけど。」
D「俺にとっては大惨事だった。そのせいで目玉焼きが黒焦げになったしな。ベーコンはプレート状の炭になったし。」
S「飛び降りだったら、もっと惨事だっただろ?」
D「飛び降り死体が俺のサスペンダーの金具を奪っていくとは思えんが。」
S「飛び降り死体っつっても、奴が死体になるのは地面に着いてからだぜ? 飛び降りる途中はまだ生きてる。よって、あんたのサスペンダーの金具を奪う可能性もなくはない。」
D「何で人生の最後の瞬間に、俺のサスペンダーを奪うんだよ。」
S「別にあんたのサスペンダーが欲しかったわけじゃないだろ。いや、サスペンダーが欲しかったわけですらないかも。ただ、落ちてる途中で、ふと人生で遣り残したことを思い出して、『死にたくない!』って手近にあったものを掴んだとか。」
D「サスペンダー掴んで助かった試しはないけどな。」
S「誰か試したの?」
D「誰も試してないだろうな。」
S「そうだよね。で、サスペンダーは、洗濯ばさみで留められたと。」
D「そうそう。」
S「新しいの買った?」
D「ああ、わかったか、これ新しいんだ、洗濯ばさみ……。」
S「違うって! 何で俺があんたんちの洗濯ばさみの新旧まで判別すんだよ。俺はあんたのストーカーか?」
D「要るなら、分けるぞ、洗濯ばさみ。たくさん手に入れたから。色も白、グレー、薄茶、えび茶、マロンの5色ある。」
S「渋いね、色! で、特売か何かで買ったの? 洗濯ばさみなんか、たくさん買うもんじゃないだろう。」
D「誰が買ったと言った。手に入れた、って言ったんだ。前に言っただろう、テリーのボーナス、現物支給だったって。」
S「テリーの勤め先、洗濯ばさみメーカーだったのか!」
D「部屋中洗濯ばさみで、洗濯物を干す場所もないそうだ。」
S「干さないで、乾燥機を使えば。」
D「乾燥機を見ると蹴り倒したくなるってさ。」
S「そのうちエネルギー危機んなって、電気が止まったら売れるかもね、洗濯ばさみ。」
D「電気が止まったら、ガス乾燥機が売れるんじゃないか?」
S「……俺は彼に強く転職を勧めるね。」
D「いい案だ。次に会ったら言っておいてくれ。」
S「だから知らないんだってば、テリー。で、新しいの買わないの。」
D「何を?」
S「だから、サスペンダー。」
D「まだ使えるし。」
S「洗濯ばさみじゃん! 一部、洗濯ばさみじゃん!」
D「うん。結構いいぜ。取れたら、替えはいっぱいあるし。今日も3回飛んだけど、常に10個は持ち歩いてるからね。」
S「あんた、テリーの洗濯ばさみを、サスペンダーの留め具として使い切るつもり?」
D「そう。あと、写真を吊るすのと、食いかけのシリアルの袋の口を閉じるのにも。」
S「奴らは、靴下とか、シャツとか吊るしたいんじゃないのか。」
D「うちには乾燥機がある。それに、結構マッチしてるだろ? ズボンが茶色で、サスペンダーが黒、洗濯ばさみが白とマロン。」
S「白しか見えないよ?」
D「こっちもだ。」
(と、体を捻って、背中を見せる。)
S「買い換えろ、サスペンダー。」
D「気に入ってるんだよ、これ。」
S「どこが。」
D「金具が。」
S「ないじゃん!」
D「ああ、なるほどね、こりゃ金具じゃなくてプラスチック具か。……ん? そうでもないぞ、ここ見てみろ、金属だ。」
S「そういう問題じゃないって。別に俺は、金属だからどうこうって言ってんじゃないよ。」
D「金属には雷が落ちるな。その点、プラスチックなら安全だ。」
S「でも、そこんとこ、ちょっと金属なんだろ?」
D「ふむふむ。こういう構造になってるのか。」
S「何してんだよ、俯いて。」
D「洗濯ばさみの研究。よくできてるよ。お前も見るか? ほら、これ。」
(D、脇に置いた紙袋から洗濯ばさみを1つ取り出してSに渡す。)
S「いいよ、俺、洗濯ばさみに興味ないし。」
D「興味持った方がいいぞ。こんなに便利なものは、そうそうない。」
S「……貸してみな。袋ごと。」
D「ほいよ。」
(S、洗濯ばさみで指先を挟んでみる。)
S「うわ、結構痛い。」
D「そりゃまあ、洗濯物を挟んで飛ばないようにしておくものだしな。」
(S、耳たぶに洗濯ばさみをつけてみる。)
S「痛え痛え!」
D「外せよ、痛いなら。」
S「言われなくても、もう外したってば。」
(S、髪に洗濯ばさみをつける。いくつもいくつも。)
D「それ、なかなかいいな。ラスタっぽいぞ。」
S「だろ?」
D「たかがそれしきのことで、得意気な顔するんじゃない。」
S「まだまだあるな。」
(と、袋の中を覗き込む。)
D「いいこと考えた。オネエさーん! コーヒーお代わり!」
S「何する気だよ?」
D「いいから見てなって。オネエさーん!」
S「お、もう来た。今日は反応速いな。」
(ウェイトレス、Dのカップにコーヒーを注いで戻る。そのエプロンのリボンに、洗濯ばさみをつける。)
D「気づいてないぞ。」
S「案外愉快だな。プラプラしてる。」
D「お前、プラプラしているものに対して愉快と感じるのか? 変だぞ。」
S「プラプラ以前に愉快なんであって、世の中のプラプラしているすべてのものが愉快なんじゃないって。」
D「しかし、プラプラでよかったよな。」
S「何が? 何で?」
D「何が、って、お前が。何で、って、他の、例えばブラブラしているものやピルピルしているものやフルフルしているものが愉快だったら、それはそれで、俺は何て言ったらいいのかわからん。」
S「何て言ったらいいのかわからない時には黙ってる方がいいんじゃないか?」
D「何て言ったらいいのかわからない時には、俺は基本的に、何か別のことを言う。」
S「うん、俺もどっちかって言ったら、あんたと同じだな。」
D「サスペンダーに洗濯ばさみを適用するのか?」
S「そこまで同じなわけないだろ。」
D「よろしい。これは俺のオリジナルだからな。他の奴には譲れん。……何してんだ?」
(S、真剣な顔で、スープ・スプーンを洗濯ばさみで挟んでいる。)
S「ほら、立った!」
D「……言っていいか? お前、今、すっっごく嬉しそうな顔してるぞ。」
S「そうかな? でも、これ、いいじゃん。画期的アイディアだぜ。」
D「使う時、いちいち洗濯ばさみ外すのか?」
S「このまんまで使うんだよ。」
D「洗うの大変だろ?」
S「洗う時には外すのさ。うん、これ、いいよ。洗濯ばさみ、いくつか貰ってくぜ。」
D「もうお前の頭にいくつも下がってるだろ?」
S「こっちのも貰ってく。」
D「ふむ、お前も遂に洗濯ばさみに興味を持ったようだな。おい、白とグレーばかり取るんじゃない。黒のズボンはく時に困るだろ。」
S「(話を聞かず)やっぱ洗濯ばさみは白だよな。」
D「取るなって!」
S「いいじゃん、アンタはマロンと海老茶で。どうせサスペンダーにしか使わないんでしょ? 俺は、洗濯ばさみは、ちゃんと洗濯物を干すのに使うんだからさ。」
D「お前んち、乾燥機ないんだっけ?」
S「あるさ。けど乾燥機を使うためには、エアコンを切らなきゃなんないから不便なんだよ。」
D「何でエアコン切るんだよ。」
S「ブレーカー落ちる。」
D「ブレーカー落ちるほどでかいのか、乾燥機。」
S「うーん、乾燥だけしてりゃ落ちないかもしれないけどね。」
D「乾燥以外の何に使うんだよ、乾燥機。」
S「乾燥機は乾燥だけしてんの! エアコンが電気食うんだよ。」
D「乾燥機とエアコンだろ? うちのアパートの電気で充分賄えると思うぞ。」
S「うーん……じゃ、あれかも。水槽。」
D「水槽?」
S「うん、水槽って、酸素出すじゃん? あの仕組みが電気食ってるんじゃないかな。」
D「お前、水のモン何か飼ってたっけ。」
S「生き物? 飼ってない。」
D「何で飼ってないんだよ。」
S「だって俺、別に淋しくないもん。」
D「はあ? 今、水槽の話をしてるんだぞ。独身男の孤独について語ってるんじゃない。しかも、そんな頭に洗濯ばさみつけた独身男の。」
S「だって生き物飼ってない?って聞くからさ。」
D「そりゃ聞くだろ。」
S「何で?」
D「水槽! 水槽ってのは普通、魚とか亀とか飼うためにあるんだろ。」
S「ああ、そうだねえ。」
D「だろ? なら『生き物飼ってたっけ?』は正当な質問だ。」
S「飼ってない。」
D「だから何で飼ってないんだ。もしくは、何で飼ってないのに水槽があるんだ。もしくは、何で飼ってないのに水槽があって、更に水入れて酸素供給してるんだ。」
S「懸賞で当たったんだよ。えーと、2番目の質問への回答ね。」
D「わかってる。何で飼ってないんだの答えが懸賞で当たった、じゃわけがわからないし、懸賞で当たったから酸素供給してる、に到っては、どんな不条理文学のフレーズかと思う。……懸賞で当たった? 水槽がか?」
S「うん。」
D「何の懸賞で?」
S「キャットフード。」
D「猫飼ってたっけ?」
S「飼ってない。」
D「お前、何にも飼ってないんだなー。」
S「何で呆れるの、そこで。あんただって飼ってないじゃん。」
D「俺は飼ってるぜ。」
S「嘘だー。」
D「嘘じゃないって。」
S「あんたんち、生き物の気配全然ないじゃん。ホモサピエンスの気配さえも。」
D「飼ってるよ。だって、戸棚に入れといたダイジェスティブ・ビスケット、食ってないのに減ってるんだぜ。あれは絶対、何かの生き物が食ってるね。」
S「あ、それ俺。」
D「何!?」
S「だから、あんたんちのダイジェスティブ・ビスケット食ったの俺。あと、何て言うんだっけ、オレンジの味でチョコレートでコーティングしてあるやつ。」
D「ジャッファか?」
S「そう、それも食った。あれ、美味いね。」
D「もしかして、その他にもいろいろと俺んちの保存食、食ってたりするんじゃないか?」
S「うん。」
D「何で!? お前、俺んちにいつ来た?」
S「最後に行ったのは、えーと、昨日の昼前。」
D「どうやって入った? そもそも、何で来たんだ?」
S「別にあんたに用があって行ったわけでもないし、あんたんちに行ったってわけでもない。」
D「じゃあ、何で来たんだよ、俺が留守の時に。って言うか、俺が留守の時に何でお前が勝手に俺んちに入り込んで、勝手に俺の夜食を食うんだ?」
S「あれ、夜食だったの?」
D「寝る前にTV見ながら食うんだから夜食だろ。」
S「それ、太るよ。」
D「わかってる。で、何でなんだ?」
S「仕方ない、洗いざらい話すよ。」
D「事と次第によっちゃ、俺はお前をサツに突き出さなきゃならんからな。正直に話せよ。」
S「了解。あんたんちの隣に、ワイズマンさんって住んでるだろ?」
D「あの爺さんな。人畜無害で天涯孤独そうな。」
S「俺、あの人と知り合いなんだ。仕事がらみで。」
D「ほう、それはそれは。お前、福祉の仕事か何かしてたっけ?」
S「まあ似たようなもんかも。それで俺、ここんとこよく、仕事の前にワイズマンさんとこへ遊びに行ってんだ。話し相手をしにね。」
D「それで、茶菓子として俺んちの夜食を盗んでいったってわけか。」
S「俺は盗んでないさ。盗んでくるのはワイズマンさん。それどころか俺、隣があんたんちだって気づいたの、つい最近だし。」
D「あの爺さんが率先して盗んだのか? どうやって? 合鍵でも持ってるのか?」
S「ワイズマンさんとこのクロゼットの壁の裏、あんたんちのクロゼットなんだ。」
D「構造上、あり得ることだな。」
S「壁板を押すと、あんたんちに入れる。」
D「何!?」
S「だから、壁板。」
D「それはわかった。……大家に訴えて、クロゼットを封鎖しないとな。」
S「うん、防犯上、その方がいいと思う。ワイズマンさんが餓死するかもしれないけど。」
D「俺の知ったことじゃない。」
S「で、俺、ワイズマンさんがあんたんちからビスケットやら何やら持ってきてるのを知って、あんたに言おうと思ってたんだけど、あんたが気づいてないようだから、気づくまで黙ってたんだ。」
D「そういうことは早く言え。すぐさま言え。直ちに言え。」
S「今度からはそうするよ。それにしても、あんたんち散らかってんねー。クロゼットから出て、ゴミ集積場かと思った。」
D「そうか? そんなにひどいか? 俺なりに片付いてると思うんだが。」
S「50ドルくれたら掃除してやってもいい。」
D「50ドル分ぐらい夜食食っただろ。」
S「そんなには食ってないと思う。せいぜい24ドルってとこじゃないかな。だって、あんたん家の菓子、安売りスーパーで買ったやつでしょ。」
D「何でそんなことまで知ってる。」
S「そこの角のエンジェル・マートの買い物袋に入ってた。」
D「お前、戸棚のストック分だけじゃなくて、買ってきたばかりのも食ったのか!」
S「そうなの? ワイズマンさんが、エンジェル・マートの袋ごと持ってきたんだけど。ああ、卵とダイエット・ペプシも一緒だった。」
D「あの時か! おのれワイズマン!」
(と、D、テーブルを両手で叩く。)
(その音に気づいたW、スタスタとやってきて、Dのカップにコーヒーのお代わりを注いで去る。)
S「そうか、お代わり欲しい時はテーブルを叩けばいいんだな。……あの時って?」
D「先週、家帰って、テーブルにスーパーの袋置いたままバスを使ったんだ。で、居間に戻ったら袋がなかった!」
S「やるね、ワイズマンさん。早業だね。でも、風呂入る前に飲み物は冷蔵庫入れた方がいいよ。」
D「いつもはそうするさ! 卵だって冷蔵庫に入れる。」
S「卵は室温保存でいいんじゃん?」
(と、言いつつコーヒーを飲み干す。)
S「お姉さん、お代わりー!」
D「卵は冷蔵庫だろ! 室温に置いといてヒナが孵ったらどうするんだ。」
(S、ダンダン! とテーブルを両手で叩く。W、来ない。)
S「お代わりー!」
(ダンダン!)
D「うるさい。」
S「来ないよ? 何で来ないの? ねえ。」
D「気が乗らないんだろ。」
S「それでいいの? ウェイトレスって、それでいいの?」
D「普通はよくない。だが、この店じゃ、それでいいらしい。」
S「達観すんなよー。正しい消費者として、当然の権利は主張しようよー。」
D「はいはい、わかりましたよ……おーい、コーヒー!」
(ダンダン! とテーブルを叩く。W、来る。コーヒーの入ったDのカップの上から盛大にコーヒーを注いで去ろうとする。コーヒー、受け皿から溢れてテーブルに垂れる。)
S「待って! 俺にも俺にも!」
(S、Wのエプロンの裾を掴む。)
W「オウ!」
(大げさに声を上げてSの手を振り払い、忌々しそうにコーヒーをちょっとだけ注いで去る。)
(S、少ないコーヒーを大事そうに啜る。)
S「ああ、熱いコーヒーはいいなぁ。」
D「とにかく! 俺は、今日帰ったらすぐに大家に文句を言う。そして、クロゼットの壁板に釘を打つ!」
S「ついでに部屋の掃除もね。」
D「いいんだよ、部屋はあのままで。俺なりに使いやすい部屋なんだから。インテリアもお洒落だったろ?」
S「えっ?(一瞬絶句の後)じゃあ、あの紫地に黄色の花柄のソファとか、壁にかかってた曼荼羅の額とかって、あんたのセンス?」
D「そうだとも。買ったんだよ、去年のボーナスで。」
S「うーわー(また絶句)。俺、きっとアンタの弱みを握ってる親戚の叔母さんか誰かが、要らなくなった家具を無理やりあんたに押しつけたんだな、って思って、ちょっと同情してたのに。」
D「ちょっと待て。ジェシカ叔母さんのこと、何でお前が知ってるんだ。」
S「はあ? ジェシカ叔母さん? あの探偵の?」
D「それはテレビドラマの主人公だ。俺が言ってるのは、親父の兄貴のルカ叔父さんの後妻のジェシカ叔母さんだ。」
S「知るわけないじゃん、そんな人。」
D「だって今、弱みを握られてる叔母さんって……。」
S「へー(嬉しそうな横目で)、弱みを握られてるんだぁ。ジェシカおばさんに……(ニヤニヤ)。で、あんたの弱みって何?」
D「すまん、その話は忘れてくれ。」
S「ホントにヤバイ話なんだぁ(ニヤニヤ)。」
D「だから忘れてくれって! 誰にでもあるだろう、思春期の、性にまつわる思い出したくない事件の1つや2つ……。」
S「あー。何か見えてきたぞ? 美しい人妻とのひと夏の……。」
D「(しまった! という顔で)……もう忘れてくれ……。」
S「背中の開いたサマードレスに黒のストッキング……家族で出かけた避暑地の物置……。」
D「がー! やめろー!」
(ダンダン! とテーブルを叩く。W、スタスタと現れて、既に溢れているDのカップの上からコーヒーを注いで素早く去る。)
S「俺にもー!」
(ダンダン! とテーブルを叩く。2人、テーブルを叩き続ける。)


ヘルプ・お問い合わせ

(c) 2002 JCYTV - NO RIGHTS RESERVED