中島康晴という天才   (2002/3/11)

今では、NHKニューイヤーオペラコンサートにも連続出演した
この若いテノールのことをオペラファンならもうご存知かもしれない。
いま、彼が録音したアルバムを聴きながらこれを書いているが、
スカラ座の研修生に満場一致で合格したりと華々しい快進撃を続けている。
というか、これは彼の活躍のまだこれはほんの序章なのだろう。

実は僕は中島君のデビューリサイタルで、"ひょん"なつてから
ドアマンとして舞台袖で彼の歌いっぷりを聴いていた。
初めて聴いたその声は、僕には驚異だった。
まさにそれは良い意味でのイタリアン・テノールそのままだった。
体を包み込むような豊かな声量と、内面から出る心地よさ。
彼は僕よりも幾つか若い。だが当時から既に一級の歌い手としての風格を備えていた。
また打ち上げでの彼の屈託のない話しぶりと笑顔が印象的である。

その後、思いかけずご本人からお電話を頂いたことがあった。
今度、いついつコンサートがあるのでご招待したいのですが・・・・と本当に丁寧なお電話だった。
言われた日は、既に予定が入っている日で、でも聞きに行きたかったのもあって返事を保留させていただいた。
ところが結局調整はつかず、お断りのお電話もしそびれてしまった。
残念ながらそれきりである。

近い将来、彼は「日本の」ではなく「世界の」YASUHARU NAKAJIMAとして
飛ぶ鳥を落とす勢いのテノールとなるだろう。
奥様と稼ぎまくっているどこぞのテノール様よりも僕は彼の声が好きだ。
これはあくまで好みの問題だが。

僕は、お年を召した三大テノールたちの録音によって多くのオペラを知った。
プッチーニ、ヴェルディ、その他諸々。
今でこそ、もう全盛期を過ぎた彼らを聴きに高いチケットを買う気にはならないが、
この3人の神様には本当に感謝をしているし、尊敬もしている。
そして同じように、YASUHARU NAKAJIMAは同世代の音楽家達にとって
羨望の的と同時に大きな誇りになるだろう。



   新国立劇場「ワルキューレ」を聴いてきました  (2002/4/4)

4/1 新国立劇場の「ワルキューレ」を聴いてきました。

「ニーベルングの指環」の中で、ワルキューレは最も人気の高い曲ですね。
僕が行った4/1のAキャストは歌手が本当に充実していたと思います。
しかしその中でも光っていたのは、フリッカの藤村実穂子さんでした。
本当にそれは理想的なフリッカだったように思います。
第2幕のヴォータンとフリッカのやりとりこそが舞台で本当に光っていました。
改めて、賛辞を送りたいと思います。

さて、演出ですが・・・
前衛的なものにある意味慣れてしまっているので
今更ちょっとやそっとでは驚かなくはなっていますが、それにしても意味不明なことがありました。
なぜにブリュンヒルデの乗っているのが、木馬でなければいけないのか・・・・・
会場でも、やはり失笑が漏れていました。
どんな意図によるものなのか、納得するしないはともかくとして
演出家のその意図を知りたい所ですね。



  パッパーノ指揮、アラーニャ、ゲオルギューのトロヴァトーレ  (2002/9/26)

いい加減、この掲示板も止まって一ヶ月あまり、
多忙のため自分で投稿というのもままならなかったが、
このままではイカンと思い、昨日タワーレコードにネタ探しに行った。

いろいろ物色していたら、新譜で標題盤が輸入盤だが3000円台で出ていた。
しかも、「最近カミさんばっかり売れて納得のいかないアラーニャの吠えたマンリーコ」
(ちょっと文句が違うかも・・)というコピーが目を引いた。かなり笑える。ということで早速購入。
アラーニャのマンリーコはもちろんだが、ハンプソンのルーナにも興味津々。
僕はハンプソンのファンなのです。ただどちらかというと彼のリートのファンだけど。
小気味よいパッパーノの指揮は、長くもないが2時間のオペラを一気に聞かせてくれた。
アラーニャは期待通りのクールだが時に燃え盛るマンリーコをよく歌いきっている。
特に、3幕の"Ah! si, ben mio"はとても気に入った。
それに続く"Di quella pira"もハイCがこれでもかという感じで
すっぽりはまって、リスナーの期待に応えてくれる。

ライヴではありえないこと?なのかも知れないが、
家で繰り返し聞くのには、僕はこういう盤の方が得した気分だ。

ライヴ盤はライヴ盤の楽しさがあるけれど。

ところで、最近の全曲盤は概して劇場では取り上げない
トラディショナル・カットを全て演奏している。
これはこのトロヴァトーレに限らずだが、
先人が、いろいろな検討の末カットしたほうが「音楽的」と判断されたものもあるはずだし、
実際ヴェルディが書いたものをそのままやることだけが作曲家に忠実とは僕は思わない。
演奏者の意向なのか、またはレコード会社の方針なのか。
複数の盤がそうであることから推測すれば後者だと思われるが、
この傾向は僕は必ずしも正しいと思えないのだが、いかがだろうか?

ともあれ、4000円出さずに買ったCDとしてはすこぶる楽しめた。
そのうち考察のほうで推薦版にしたいと思う。


   東京音楽大学 大学院生による「ドン・ジョヴァンニ」  (2003/10/16)

昨夜、自分の関わっているプロダクションの本番が終わって、ほっと一息。
以前にお世話になった志村文彦さんも出演する東京音大の
大学院生による「ドン・ジョヴァンニ」を聞いてきた。
皆さんご存知のとおり、5月に僕はオッターヴィオを歌うと同時に、
副指揮としての仕事もしたので、わりとちゃんと読んでいるのです。
場所は文京シビックホール。
志村さんはもちろん学生ではなく助演なのだが、
なんとレポレロを2日間にわたって歌うという。タフな人だ。
というより、レポレロのような役こそ、学生にやらせるべきなのではと思わなくはない。

キャストのうち、騎士長、レポレロ、ドン・オッターヴィオが助演で、あとは学生がやっていた。
中でも特に出来が良かったのは、ドンナ・エルヴィーラだったと思う。
現代であれば、ストーカーと呼ばれそうなほどドン・ジョヴァンニを追い掛け回している。
彼女の歌にはそんな微妙な女心が見えた。
普通はカットされる2幕の長いアリアも、見事に歌いきった。
アリア大会は冗長ですこし退屈もしたが、彼女の歌は立派だったと思う。

全体的に、やはり表現という意味で物足りない部分はあったけれど、
タイトルロールはじめ、個々がとても役作りから難しいものを良くやったと思う。

同業者なので、文句をいいたくなるところもあるのだけれど、
今回のマエストロの作る音楽は、過剰に軽々しいもので、
フレーズ感のあまり感じられないところがとても残念だった。
オペラの経験も長いのだろうし、棒裁きは手馴れたものであったが、
ドン・ジョヴァンニの色っぽさが感じられない仕上がりになっていたのはとても残念だった。