Sonus argenteus

アントレ古楽コレクションズ 岡田龍之介

(Entree EBM-203011)

 

「銀色の響き Sonus argenteus」と題された、岡田龍之介さんの初ソロ・アルバム。曲目は次のとおり。

ルネサンス末期から後期バロックまで、イギリス、イタリア、ドイツ、フランスの各国を代表する作曲家の名曲を集めた豪華なプログラムで、いわばチェンバロ音楽のエッセンスをこれ1枚で堪能していただこうという趣向。これまで2回のソロ・リサイタルで演奏した曲もありますが、自らの編曲によるラモーも含めて、いかにも理論派の岡田さんらしい考え抜かれた選曲で、並の「名曲集」とは一味違います。しかも、パーセルまでは中全音律、バッハからは不等分律という凝りよう(これぐらいは、当たり前かな?)。

演奏もいつも(実演)のとおり、奇をてらうことなく、作品自体に語らせる誠実な弾きぶり。ただ、ちょっと意外なのは、彼が所有するフレミッシュ・ラヴァルマン・モデル1台で全曲を弾き通していること(ラモーでの2台目は18世紀初期のフレンチ・モデル)。いちおう「万能タイプ」のチェンバロとはいえ、せっかくならそれぞれの曲に相応しい(オリジナルな)楽器で聴いてみたいという気もしますが、現実的に難しかったのでしょう。しかし、楽器が同じであることから来る単調さ(?)を曲のスタイルの多彩さが補っているし、そのスタイルの違いをきちんと弾き分ければ問題はない、と岡田さんは考えているのかもしれません。

実際、スカルラッティの2曲目のソナタは、それまでの比較的地味で落ちついた雰囲気とはうって変わって、茶目っ気たっぷりの曲想に合わせて鍵盤の上を指が駆け巡り、ラモーになると2台のチェンバロによる絢爛豪華な響きがオペラ・バレーの舞台を彷彿とさせます。岡田さんの人柄からはちょっと想像しにくい、という向きもあるかもしれませんが、彼は昔からスカルラッティをよく弾いていて、こういうノリも決して嫌いではないようです。それもそのはずで、実は岡田さん、高校時代にはエレキギターを弾いていたのですから。

ともかく、アルバム・タイトルにもあるように、どんな曲でもチェンバロという楽器の音と響きの美しさを最大限に引き出そうとしている様子が感じられる演奏。そして、それに相応しい選曲。でも、個人的には、2枚目のアルバムではバッハのフーガなどの対位法的な曲をたくさん聴いてみたいですね。

(ガンバW、2004年1月)