(2002年6月8日、東京オペラシティ コンサートホール)
定刻7時にコンサート開始。いつものパイプオルガン独奏で始まるはずが、今回はさらにオルガン演奏に先立ち、ソプラノ3人のアカペラで、原曲となったコラールの演奏、これはなかなか新鮮。心洗われ、これから2時間のコンサートへの心の準備として最適。各パートがこのハイ・レベルだからこそ、16人揃うと終曲コラールや冒頭合唱の、あの圧倒的名演につながるのかと納得させられた。
以後終演まで、まさに集中・至福の2時間、来てよかったと(BCJカンタータのコンサートではいつもだが)感激。また、演奏の素晴らしさもさることながら、どのカンタータのどの曲も心に染み入る名曲ばかりなのを改めて思い知らされる。
特筆すべきは、10番のバスのアリア。コーイはいつもながらの名演だが、鈴木ブラザース他の通奏低音が面白いし、うまい(からくりテレビのボビー氏じゃないけれど「スンゴイですねー」と思わずうなってしまう快演)。このアリア、実は名曲だったのですね。言葉も理解せず、ふざけた曲だなと思っていたのに。
ちなみに当日のカンタータ曲目は、10、93、107、178番の4曲。いずれも超ポピュラーな有名曲ではありませんが、随分客席が埋まっていました。ワールドカップ以上か(FIFAは首だ、本稿に関係ないけど)。
生演奏だから「すべて完璧」ではなかったし、ソリスト(歌)も私個人の好き嫌いはあるが、そんなのは些細なことと思わせる名演奏。音楽が自然なのが素晴らしい。これが、バッハの偉大な音楽の再現に何よりのことと思うのですが、余程の演奏でないとそうはいかないのがバッハ。
この緊張感と誠実かつ(これみよがしに表に出ない)高度な演奏技術が、マンネリ化することなく続けば、最良のカンタータ全集が完成すること間違いなし。演奏者とが生きているうちに完成すれば…
CD録音では音はずさないで欲しい。何回も聴きたいから。
(世田谷のトム・ワトソン,2002年6月)