Gregory G. Butler (Ed.)
"J.S. Bach's Concerted Ensemble Music, The Concerto"

Univ of Illinois Pr (2007/12/7)

 

前に取り上げた Bach Perspectives シリーズ第6巻「バッハの協奏的合奏音楽、序曲」の続編に当たる協奏曲編が、第7巻として出版されたので読んでみた(本サイトへの掲載はだいぶ時間が空いたことをおことわりしたい)。

バッハの協奏曲に関する4つの論文が掲載されていて、それぞれに大変興味深い内容である。最初の、「修繕屋バッハ:バッハのチェンバロ協奏曲ホ長調の起源について」(G. Butler)は、チェンバロ協奏曲ホ長調(BWV1053)が、ヴィヴァルディをモデルにしたものでなく、アルビノーニの作品4の協奏曲(1722)をモデルとしていること、したがってまた、初期の作品の改作ではなく、原曲となった旋律楽器のための協奏曲はライプチッヒに移ってからの作品であることを、ていねいな楽曲解析にもとづいて述べている。私たちも演奏したことがあるこのチェンバロ協奏曲には、他のチェンバロ協奏曲と少し違う色合いを演奏していて感じていたが、この説明を読んでなるほどと感じた。

「バッハのヴァイオリン協奏曲ト短調」(P. Dirksen)は、チェンバロ協奏曲へ短調(BWV1056)の原曲がヴァイオリン協奏曲であり、ケーテン時代に作曲された、非常に凝縮された曲であること、そして当初の第2楽章は現在のものでなく、断片として残されているBWV-Anh. 2(教会カンタータの第1曲の7小節のみ)であることを、説得力を持って説明している。

「協奏的ソナタ:ポストモダンの発明?」(D. Schulenberg)は、当時ごく限られた音楽家たちのサークル内でのみ作曲された「協奏的ソナタ」について、同時代の記述やテレマン、グラウンなどの作品と比較しながら、特にフルートとオブリガート・チェンバロのためのソナタ ホ長調を題材に解析している。ここでもバッハは、同時代の楽曲形式の枠組みによりながら、その枠組みで他の作曲家と違う領域まで踏み込んだ刻印を残していることを説明している。

最後の「シシリアーノとオルガン・リサイタル:バッハの協奏曲の観察」(C. Wolff)は、1725年のドレスデンにおけるオルガン演奏が器楽伴奏を伴った協奏曲の演奏であったこと、1720年代の後半になってはじめてカンタータ、受難曲や協奏曲の楽章にシシリアーノ(8分の6拍子のゆったりとした、歌うようなメロディーの舞曲)が登場することを、後のコレギウム・ムジクムでのチェンバロ協奏曲(第1番、第2番)との関係で整理している。

取り上げられているのはいずれも有名で、私たちも演奏したことのある曲ばかりであるが、バッハの多面性・多様性を感じることのできる研究が興味深い。

(SH、2011年9月)