(アルク出版企画,2002年4月刊) bk1
「鍵盤の思索者」武久源造氏がこれまでに発表したエッセイ、講演記録、インタビュー、CDのライナーノートなどを集めたもの。ただし、未発表の文章が2編あり、また河合隼雄との対談は本書のために実現した。
どの文章も読み応えがあり、武久氏が単なる「音楽家」ではなく、音楽を通じて歴史、文化、文明について深い思索を巡らせていることがわかる。全盲というハンディなど全く感じさせない、いや、並の晴眼者にもとうてい及ばない、最近の彼の超人的な仕事ぶりが伺える本でもある。
とくに興味深かったのは「グレン・グールド変奏曲」や、書名にもなった「新しい人は新しい音楽をする」(両者とも雑誌のインタビュー)で、彼が目指す「新しさ」がどのようなものであるか、時代の閉塞感をどのように打ち破ろうとしているのか、まだ明確な形を成しているとはいえないが、今後の彼の活動に大きな期待を抱かせてくれる内容だ。
といっても、彼の場合、実際の演奏にむやみに思想的な課題を持ち込もうとしているのではなく、あくまで演奏家としての生命を懸けて聴衆と感動を分かち合うことが最終的な目標である。そのことがよくわかるのが、河合隼雄との対談だ。
(ガンバW,2002年6月)