椈遼介 〜『詩』的ぶるぅす〜<自選集>



かすかな鼓動が聞こえる



	秒針



秒針を曲げれば
		
		
時が止まると思った
		
		
		
		
あなたの声も聞けず


とうとう夜が明けた




秒針の細い陰は


曲がったまま回っている







	

	真実の鏡



掻き毟(むし)るように          


嘘の仮面を剥がす          


光に晒(さら)されずにいた          


青白い鏡の顔          



アナタハ          


ドコマデ          


ホントウノ          


ワタシヲ          


ミテクレマスカ?










	野辺



べっとりと纏わりつくように


目に見えないしがらみが


幾重にも幾重にものしかかり


まるで思うような行いもできず


ただただ暗鬱(あんうつ)なる境遇に怯え


ただただ混沌(こんとん)たる回廊を巡り


この中へ人を巻き込まぬよう


配慮することにばかり尽力し


気づけば自分ひとりが野辺(のべ)に立ち


手には一片の希望も持たないのです










	渦潮



何度同じ過ちを犯したろう
		
		
少しも成長できぬ忌々しさ

		
避けても避けても同じ壁

		
それもまた不可解

		
ずっと渦潮の中にいるみたいだ

		
ちょっと手を伸ばせば岸なのに

		
そんな強気にもなれず

		
またぐるぐる回っている

		
いっそ

		
飲み込まれてしまえばいいのに

		
いっそ

		
飲み込んでくれればいいのに












	袖口の羽虫



僕はこんなにフラフラしてるのに          


まだまだくたばりそうもない          


それなのに事故に遭った人は          


あっけないほど冷たくなる          


この差はどこにあるのだろう          


袖口についてた羽虫を潰す          


あっけないほど形を失う          


この差はどこにあるのだろう          


思えば生と死の境なんて          


あってない様なものだ














	ある幼子(おさなご)の訴え






振動が伝わる





振動が伝わる





振動が伝わる





振動が伝わる





振動が伝わる





痛いよ





ママ












	紙屑



何ひとつ
		

貢献なんて
		

できやしなかった

		

この眼
		

この手
		

この足を
		

どうやって使えば
		

誰かのために
		

役立つのだろうか
		


		
教えて下さい

		
さもなければ

		
わたしはただの

		
紙屑と同じだ







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