TOP『詩』的ぶるぅす『詩』的ぶるぅす[詩ブログ]ブログプロフィール曲紹介リンクギャラリー




■ 詩的ぶるぅす ■
2010年10月
〜末日 〜20日 〜10日



英智は眠る 街路樹は  灰色の雨と戦っている アメンボは  科学記号と戦っている ニホンザルは  ショベルカーと戦っている 綿雲は  曲げられた季節風と戦っている 憎しみを露とも抱(いだ)かずに わたしは情けなさに打ち震える 人間だけが憎しみの戦いをする 英智を与えられたはずの人間だけが 2010.10.25
潮流 溺れました 街の片隅で 誰もいません いいえいます カプセルに入って 浮いています 次から次と 漂い流れ こちらを見ては 目をそらします わたしは段々 沈んでいます カプセルなんて 持っていません カプセルに入ると 窮屈なのです 息苦しくなるし 人と話せないし 自由に動けず つまらないのです だけどもこうして 溺れているから わたしがきっと よくないのでしょう 誰もいません いないと同じです カプセルはまた 流れてゆきます わたしは静かに 溺れています 2010.10.24
からっぽの部屋で 勇気を出して笑いなさい 笑えないときはね 勇気が必要だよ 無理をするのじゃない 勇気を出すのだよ 無理にはマイナスがつくよ 勇気にはプラスがつくよ 勇気を出していいのですよ 2010.10.23
思い思い 森を追われたカモシカが つぶらな瞳もさびしげに こちらを向いて言いました 生きたくて生きてるわけじゃない 街をさまようオオカミが 銃で撃たれて舌を出し 動かぬままに言いました 死にたくて死んでるわけじゃない わたしたちは生きている つぶらな瞳で舌を出し 思い思いに夢を見る 生きたくても死にたくても 2010.10.22
クジ引き 世の中なんてクジ引きさ きっとクジ引きで出来ている 当たれ当たれと念じても 当たりが出たためしはない そうかと思うと知らぬ間に 当たりが握られていたりする こっちの扉を開けるのか あっちの扉を開けるのか こちらの人がいい人か あちらの人がいい人か 世の中なんてクジ引きさ 気まぐれなクジで鼻歌さ 2010.10.21

左側の傘 ああ厄介だねえ また忘れてしまったな 左側に傘を置き ほんやりとくつろいで さあそろそろ行きますか 頭をきりと引き締める 出入り口は右側に 足はすっかり向かってる 人ってのはなんですな いやが上にも先を見る どんなに過去を引きずれど 虚しいほどに次を見る 右側がもしも未来なら 右側に傘を置くのだね ああきっと傘はまだ ほんやり左側にある 2010.10.20
小舎 わたしは豚です 資本主義の豚です 小舎(こや)に入れられて 走り回っています 一日に三回ほど 食事が与えられます 小腹がへったときは 鼻をすりつけて探します 運がいいときなどは りんごを丸々見つけます きっと誰かがこっそりと おやつに隠したものでしょう かじる音が我ながら 情けなく聞こえてきます わたしは豚です 資本主義の豚です 小舎の上の窓には 悠々と雲が流れています 2010.10.19
外科マスク 患者の笑顔が見たいから 今日二度目のマスクをかける 手術室はまるで我が家 お茶でひと息なんて夢の夢 疑いはしてないよ 疑いはしていない 近頃ずっと続いてる 自分より遥か上の人 お年寄りは尊敬します だからこの身を削ります 疑いはしないようにしてる 疑いはしないように あぁいつまで続くかなあ 今日三度目のマスクをかける 手術室はどうも我が家 ベッドに明かりが当たってる 2010.10.18
番台 番台さんはいいもんだ やましいことに慣れちゃえば かたや男の空間や かたや女の空間や 体半分血は半分 異空間を股にかける ただの凡人にしてみれば ちらと見えたる空間や 上から漏れくる声とかも もやもやとして仕切られる やっぱりさすがね番台さん 貴重な存在認めてよ 政府は何をしているか 絶滅危惧人えんやこら 2010.10.17
サラダ・バー そんなに一度に 欲張らないでよ あんまり盛りつけたら こぼれ落ちるでしょう 理屈をつまんで 上に重ねてゆくと やっぱり理性は こぼれ落ちちゃった サラダ・バーなんて 無くなってしまえばいい サラダ・バーなんて でもやっぱり好きだなあ 2010.10.16
こぼれる こぼれちまった 安い器のせいさ いやになっちゃうね あんたに罪はない 悪いのは俺のほう いやになちゃうね だらしがないのは 誰に似たのか いやになっちゃうね いつも何かのせいにして いつも誰かのせいにして いやになっちゃうね 2010.10.15
音楽はどこから 食べ物は口から 温もりは皮膚から 文章は目から 音楽は耳から?  ピアノが聞こえてきたのです  からだに浸みこむようでした  なんだか耳からだけではなく  口からも皮膚からも目からも  あらゆるところから入りこんで  逃れられない心地良さを  どうしようにもできなかったのです  音楽はどこからなのでしょう?  知りたいとは思いながらも  音符に寄りかかっておりました 2010.10.14
無関心 無関心を装えば 装われたほうにとっては それは無関心と同じこと 猫がのそのそやって来て こちらをちらと見やっては やはりのそのそ行ってしまった 無関心を装えば 装われたほうにとっては それは無関心と同じこと この猫はぼくだ ぼくは何度も何度も 無関心を装ってしまったんだ 2010.10.13
水鳥 一羽の水鳥がいる 傷ついた水鳥である 川原をふらふら歩いている 羽根は閉じたままである ちらほらとやって来る 同じ種類のものである たちまち川原は一杯になる 彼もぐわぁと紅顔する 吠えたてる犬がある 二羽三羽が羽音をたたく たちまち川原は浮き上がる 群れは点々と空になる 一羽の水鳥がいる 傷ついた水鳥である 川原を風が吹き抜ける 羽根は閉じたままである 2010.10.12

特別なひと 火を噴きながら歌ったり 水の上で詩を詠じたり 背中で卵を焼いたり 指先で花を咲かせたり 車輪と一緒に回ったり 断崖に落書きしてみたり 微生物と握手したり 愛を毎日叫んでいたり ぼくには何ができるだろう 頭を抱えることくらいなら いくらだってできるのだけど 今日も太陽が沈んでゆく 街灯には火が点(とも)っている 買物袋の群れが散ってゆく 2010.10.11
きみよ喜べ 喜べ きみのその憂いは いつか優しさへと変わり だれかを慰めることだろう 喜べ きみのその弱さは いつか気付きへと変わり だれかを救うことだろう 喜べ きみのその痛みは いつか灯(ともしび)へと変わり だれかを導くことだろう 2010.10.10
晴れのち如雨露 晴れたらきっと 使うんだ ステンレスの 銀色如雨露 水を入れて それも目一杯 片手なんかじゃ おもいおもい こぼさないように こぼさないように 命の先へ 照準を当てて 注ぎこむ 注ぎこむ 先端の小さな つぶつぶの空から 雨がまあるく 落ちてくる 落ちてくる 土はしっとり 目を細める 晴れたらきっと 晴れたらきっと 2010.10.9
葉脈 また誰かが身を投げる 文書の名前が複製される 酋長(しゅうちょう)は机の前で涙する 人々は黒い蜜に群がる 葉脈をたどっていけば どこかで何かが起こっている 葉脈をたどっていけば あなたを想うことだってできる 小さな鉢の真ん中に 小さな二葉が生まれた 小さなその若い手には 小さな葉脈が浮かんでいた 2010.10.8
雑巾 ぞうきんはきれいです 汚れた所を拭くからです ぞうきんは汚れます 汚れるけどきれいです 床に鼻血が垂れました ぞうきんは吸いとります 床はきれいになりました ぞうきんは汚れました ぞうきんはすごいと思います 自分が汚れるかわりに 床をきれいにしてくれます だからぞうきんにとっては 汚れることがえらいことです だからぞうきんはきれいです ぼくにはそう思います 2010.10.7
はらい 薄くはらうか 豪胆にはらうか 鋭角にはらうか 丸くはらうか 真面目にはらうか 無邪気にはらうか 雲はただよい 瀑布はとどろき 鷹は爪を出し 月は東山にかかり 朝は掃除に励み 夕は寄り道小道 はらえるかな はらえるかな 2010.10.6
堕落の天使 脚をおっぴろげて ワイ談カイ談 尻をふりまわして ワレ先カレ先 堕落の天使 恥をうしない 堕落の天使 また引き継がれ 緩んだゴムは もはや緩むばかり もう元のようには 戻ってくれない 堕落の天使 わかっているのに 堕落の天使 いっそ切れるが仏か 2010.10.4
遡上 川へ戻る魚たち 傷つきなお上る お前たちが昔 故郷を去ってゆく時 何を想っていたのか まだ見ぬ海を 恐れはしなかったか そして生き長らえて 河口に辿り着いた時 想うことはあったか かすかに残る匂いを 照れ臭く感じたか いつかじっくりと 聞かせてくれないか 遡上を果たした後の 広い海のどこかで 2010.10.3
黒い男 黒いスーツ 黒い眼鏡 黒い手袋 黒い鞄 分厚い鞄 重そうな鞄 探偵か 殺し屋か おもむろに 鞄をあけた 昼日中 ここは繁華街 抗争か 勃発か 鞄からは 真っ白な ウェディングドレス 2010.10.1
雨のハザードランプ 雨の日のタクシーは とてもきれいな色をする 大人の街を通るたび 濡れた明かりを身に纏う だけどなぜだかあの時だけ ハザードランプをつける時だけ まるで泣いているかのように とてもかなしい色をする 雨のアスファルトにも ハザードランプがついている いくつかの靴が濡れながら 壊すように踏んでゆく 天気予報も聞かずに タクシーは走り去る 雨のハザードランプを 暗がりに残したままで 2010.10.2

戻る
TOP