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■ 詩的ぶるぅす ■
2010年9月
〜末日 〜20日 〜10日



竿をかついで 釣れようが 釣れまいが 楽しかった ただ楽しかった 仕掛けを出すのが 餌箱を開けるのが 糸を繰り出すのが 浮きを見ているのが たわいもない たわいもないことだ 水は流れ 陽は昇り やがて傾き 釣れようが 釣れまいが むこうのほうで 魚ははねた 2010.9.30
ダムと虹 ダムには虹がかかる くっきりと虹がかかる 苦労の報いだろうか なんの苦労であろうか 村は何も言わずに 虹の底で眠っている 土間も台所も納戸も 地蔵も墓標も花畑も 誰も何も言わずに 虹の底で眠っている ふんぞり返っている髭は バランスを失い倒れるだろう それなのに虹は くっきりとかかってしまう 2010.9.29
遊泳禁止区域 浮き輪がひとつ 浮かんでいた 持ち主はいた いまはいない 遊泳禁止区域 きっと流されて 境界線を越えた 気がつけばもう 境界線を越えた 遊泳禁止区域 何をしているの? 待っているの 何を待ってるの? あの浮き輪だよ 2010.9.28
遺影 もういないはずなのに まだいるような気がする もう話すことはできないのに まだ話しかけてくれる気がする もう不平は言ってこないのに まだ不平を言ってくれる気がする もう機嫌よく歌うこともないのに まだ機嫌よく歌いだす気がする もうなにもかも閉じてしまったのに まだなにひとつ閉じられていない気がする だってあなたは いつまでもこっちを向いて 微笑んでいるのだから 2010.9.27
水ぶくれ ドブに捨てたカネ 般若の上に福笑い 突き落とせば地獄 突き落とされれば牢獄 名前を売りに出し 為替を闇に出し 真夜中の森の樹液 落ち葉の下の生態系 寄り集まって 混ざり合って 膨らんでくる 張り上がってくる 水泡は破れて いつかは消える 絞り出したのが 水泡であるならば 2010.9.26
槍投げ 先は尖っている 深く突き刺さろうとする 投げるのは空だ あるいは太陽だ 投げることはできる 何度でも投げれる 投げてしまったら そこでおしまい 槍を地面に刺すのは 神様の仕事だ 2010.9.25
背骨 背骨をなぜてあげる 出っ張りから窪み 繋ぎ目からまた繋ぎ目 艶かしいライン 愛惜のコースター なぜるだけではもう 折れてしまいそうだから 最後の慰めのつもりで しゃぶりつくしてあげる 出っ張りから窪み 繋ぎ目からまた繋ぎ目 艶かしいライン 棘ささるキッス 2010.9.24
泥濘(ぬかるみ) わははは わははは 洗えばいいんだ 気にすることはない こんなことで気を揉むなんて もったいないじゃあないか えへへへ えへへへ 2010.9.23
リンゴ畑 ひとつ実を包み 娘を嫁にやる ひとつ実を包み 孫の顔を見る いくつ実を包み 人をつなげてきたか いくつ実を包み 時を刻んできたか ひとつ実を包み 秋は恋を告げる ひとつ身を包み 茜が頬を染める いくつ実を包み 人をつなげてきたか いくつ実を包み 時を刻んできたか 2010.9.22
木登り おいでよ 平気だよ ともだちはいない いじわるなともだち ここにいるのはね いいともだちだよ ぼくを上へ上へ つれていってくれる 大きくなったらさ またここへ来よう ぼくときみと このともだちに 会いに来よう 重くなったなって 言わせてやろう おいでよ 手をのばして 2010.9.21

合唱 ひとり勝手にいきがって 声を外してみたりする 一番が終り二番へと 三番そしてフィナーレへ 不協和音は耳をざらつかせ 眉間に皺をつくらせる なぜ誰も咎めないのだ なぜ誰も言ってくれぬのだ わたしのはみ出した声を わたしの意地汚い計略を 歪んだ合唱の響きが 唯一わたしを咎め立てる 抗えば鋳型のように 浮き出てくるはずだった 歪んだ合唱の響きは わたしの鋳型を溶かした 2010.9.19
こわれた蛇口 わあ噴き出した 蛇口はこわれた 水が噴き出した 力強く とめどなく ふり注ぐ ふり注ぐ 下向く人に 疲れ果てた人に 傷ついた人に 愛をなくした人に 力強く とめどなく ふり注ぐ ふり注ぐ わあ噴き出した 蛇口はこわれた 漲れ! 漲れ! 2010.9.18
金魚鉢 金魚鉢のかけらと こぼれた水の間で 緋色と黒色の命が びちびちと跳ねっている 学校の帰り道に 川の土手の草むらで 日が暮れてしまうまで 跳ねって遊んだ記憶 緋色と黒色の命が びちびちと跳ねっている そうだった ぼくが跳ねるのだった 2010.9.17
χу χを求めて уに答えて 数式は輝き 道は照らされ なのにあなたは 近くならない χもуも わたしの中を / 割り切れずに すりぬける 2010.9.16
電気について 電気はどこから生まれるの? 電気は発電所から生まれるさ 発電所はどこから生まれるの? 発電所は人の知恵から生まれるさ 人の知恵はどこから生まれるの? 人の知恵は      電気かな 脳の中でカッカッと 電気が生まれて走り出す 電気から人の知恵が生まれ 人の知恵から発電所が生まれ 発電所から電気が生まれ 電気め ついにやりやがった 自ら電気を生みやがった 2010.9.15
見えない一滴 指先から絞り出した血が ぽとりと一滴落ちた所は 晩御飯の買い出しに通うような ご近所の人たちが立ち話するような 散歩の犬と犬が咆え合うような 子どもがわあわあ走り回るような ごくごくありふれた町の通りの ごくごくはじっこの目立たぬ所で およそ誰も気づくわけがなく あるいは散歩の犬が嗅ぐくらいで ここだここだここなんだようと 白いチョークで目印をつけてあげて ようやく何だ何だと顔を近づけ 乾いた一滴の血を見つけてもらい ああ血を流すだけではだめなのだと 白いチョークは折れそうなほどだった 2010.9.14
春夏秋冬の慰め 夏から暑さを取ったら 何が残るというのだ 冬から寒さを取ったら 何が残るというのだ 春から色を取ったら 何が残るというのだ 秋から風を取ったら 何が残るというのだ あなたから愛を取ったら 何が残るというのだ 2010.9.13
小動物の震え 小動物のように 小刻みに震えるのは 何の予兆であろうか 落ち葉をかき分けて ひとつ木の実を見つけ 梟や狼らしき影に 恐恐(きょうきょう)として怯え うっかり木の実も落とし 巣に戻ってみると 家族揃って出迎え 何も手にしていない私を 冷たくも責めることなく じっと見ているのだった 小刻みに震えることを 克服しなければならない 大動物のように 私は揺らいではならない 2010.9.12
オオナタの悲哀 オオナタは哀しい 姿かたちは大なり 剛腕な力も大なり 威厳を保つ宿命 刈るのは大物のみ 小技小竹は損害 大物が小物を刈る これは必定みすぼらしい オオナタもナタはナタ 小茎小花がいとおしい ときに刈ってみたくなる 刈れば評判失墜 ああ疼くナタの血よ 刈るに刈れぬ煩悶よ オオナタは哀しい 2010.9.11

ピース わたしが一番 平和を感じるのは    が合ったときだ わたしが一番 平和を感じるのは    が見つかったときだ わたしが一番 平和を感じるのは    が全てうまったときだ 2010.9.10
美しい形 変わらぬことは難しい あの富士山でさえも 日々どこかが削れている 刻々変わり続けている 変わらぬように 変わらぬようにと 息を荒げたところで 哀れ消耗するばかり ならばむしろ変わること 変化してゆくことの方へ 力を傾けてしまうのが 気持ちを向けてゆくのが 割合に自然なことで 美しい形になり得る 2010.9.9
午(ひる) みんなわからぬ なにをしてよいか わからなくなった みんなこまった 擬似遊戯に走り 単純快楽に走り 時間壊滅に走り 空白埋没に走り みんなわらった いっときわらった そしてまたすぐに わからなくなった 2010.9.8
甘い苦味 苦い粉末の薬が 口の中に着陸して 新発見を競うように あちこち走り回って 粘膜をめくってみたり 神経をぎしぎし踏んだり あまり行き過ぎると 火事を告げるごとくに 鐘が打ち鳴らされて どやどやと水がかけられ 濁流が発生し あれよあれよと流され もとの平穏を取り戻す さてこの一大事が過ぎ なにか甘い罠にでも 引っ掛かったかのような 忘れ得ぬ感覚は いったい何であろうか 2010.9.7
呪縛の札 剥がすのだ 剥がすのだ 体中に貼った 呪縛の札を 探すのだ 探すのだ 一番最初に貼った 呪縛の札を そいつを剥がせば 後の札々も 連なり剥がれる 身動きひとつ できないほどの 呪縛の札々 剥がせるのは いましかない 2010.9.6
紅碧(べにみどり) なんの嘘偽りもなく 広がっていたはずの 真っ青な早秋には 小指の先ほどの 紅が混じっていた 文明の機器でもって 切り取って初めて 気づくなどというのは まだまだ青き者の 明らかなる証拠で 草蔭の雀らとともに 空の中へ飛び立って 紅をひとつまたひとつ 口の中へ放り込み この身を赤く赤く 通(かよ)わせてやりたい 2010.9.5
ぜんまい ぜんまいを巻いて カタカタ歩き出す 食べかけのサラダや 読みかけの本を カタカタ通りすぎて 突如道はなくなり カタリと下に落ちた ひっくり返ったまま う・う・う・う・・・という 低い唸り声を やめる気配はない ぜんまいは尽きる また巻けばいいなんて 気休めはよしてくれ ゆるゆるゆると 終わりが近づく 頬杖をついて 看取ろうというのか まあそれもいい 元気が出るのなら ぜんまい仕掛けは それだけが仕事だ 2010.9.4
私の故郷 私の故郷(ふるさと)は列車の中 寺山修司は言う 私の故郷はジェット機の中 私の故郷は電話ボックスの中 私の故郷はゲームセンターの隅 私の故郷は製薬工場の事務室 私の故郷は街頭演説の車 私の故郷は山奥の研究所の応接間 私の故郷は実験装置のガラス瓶の中 私の故郷はICチップのミクロンの中 私の故郷は塞がった鼻の穴の中 私の故郷はこれからは まったく油断ならない 2010.9.3
眠る犬 鎖に繋がれた 犬たちを想う 駆け出したところで 体温を失った糸が その長さ以上には 前途を許さなかった 紫陽花が咲いても 祭りの笛が鳴っても 焼芋売りが通っても 雪融け水が光っても 思い立ったときに 走ってゆけぬ哀しさ 前足を少しでも前へ 空(くう)を掻く虚しさ どうにもならぬと知り 地にふせって眠る 2010.9.2
発信機 潮の満ち干きや 月の満ち欠けを もはや誰ひとりとして 感じられなくなると 人は電気街へ殺到し 発信機を買い漁(あさ)り その足で美容外科へ 発信機を身体に埋(う)め 出口で待ち合わせては 声も出さず散ってゆく 発信機を埋めた者は ひたすら発信し続ける ここだここだよなう ここだここだわなう 誰か反応してくれよう どうして誰もいないんだよう 疼く身体を抑えつつ ひたすら発信し続ける 2010.9.1

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