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■ 詩的ぶるぅす ■
2010年8月
〜末日 〜20日 〜10日



青春の赤ワイン テーブルの上から 赤ワインの入ったグラスが 転げ落ちようとした 敏捷性を失ってはならない 青春を失いたくなければ 2010.8.31
音楽 なぜぼくはここにいるのだろう? どうしようもない疑問を どうにもならない疑問を 慰めてくれるのはいつも 音楽であった 音楽は愛を注いでくれる 無償の愛を 2010.8.30
一輪挿し ねえ ぼくは だれのもの? たったひとりで 下駄をつっかけ 外へ飛び出し うわあ暑いと すぐに音を上げ 涼しいお店で ぼんやり座り 窓枠の外には 見知らぬひとが 交通整理の服で 赤い棒を振って ぼくのことなど おかまいなしに 突っ立っていたり 走り出したり ねえ ぼくは だれのもの? いまのぼくは だれのものでもない たとえば急に 息を止めても どうしたのと 聞くひとはない そこらにある 一輪挿しと なんら変わらぬ つまりきっと いまのぼくは すべてのものだ だれのものでもない すべての中の 一輪挿しだ 2010.8.29
くたくた くたくたで くたくたで 腕も脚も 上がらないくらい いまはくたくたでも 前向きなくたくたなら うれしいくたくたなら やがて思い出になって 乾杯の席や 枕に夢をあずけたとき あのくたくたが みるみる赤味を帯び とんだり はねたり 子どものようにして 走り回ってくれるのだ 2010.8.28
木のあな 鳥さん鳥さん どうしてこんな 木のあななんかに すんでいるの? 水どうはあるの? おふとんはあるの? れいぼうがないと しんじゃうでしょう? そうだ これ びょういんでね もらったんだけど ちょっとわけてあげる ねっちゅうしょうって びょうきにきくの おいしゃさんは えらいんだって このおくすりのめば しなないんだよ 2010.8.27
着ぶくれ 寒いからってねえ 百枚も着ぶくれしちゃって 重くはないのかい? まだ足りないってねえ 千枚も着ぶくれしちゃって 顔も見えないほどに いったいどこまで 着込むつもりなんだい? きっと暖まる前に 窒息してしまうね もうそろそろさあ 気づくべきだろうね 精神(こころ)の軽くて重きを 荒行者は冬でも 裸で修行するそうだよ 2010.8.26
破壊者 茶をすすろうとしたその時 反射した世界を壊すものがあった 小さな羽と小さな六本の足で 映っている天井や窓という窓を バタバタと壊しているのだった 彼は図らずももがくことによって 破壊者になることができた わたしは唖然とした そして凝視(みつめ)ようとした わたしはこのありきたりな世界で なにを破壊できていようか 図らずも陥ってしまった中で なにを変えることができていようか この破壊者に焦点を合わすと 反射した世界は消えてしまった 湯呑みの丸い水の上には 虫が一疋いるだけであった 2010.8.25
晩夏 太陽がある限り 陰は悉(ことごと)く追ってくる 子どもは蝗(ばった)に逃げられ 追いかけることに夢中だ 光と陰の境目では 少年が手を横に広げ なぞり歩きをしている 子どもと大人の谷間に架かる 白黒の綱渡りをしている 2010.8.24
氷山の陰 氷山の一角を 毎日少しずつ 削り落としては 解けるか解けぬうち すすって喉を潤し やっと生きた心地し 近頃の暑さで 氷山が一気に 解けて消えないかと 気を揉むことに疲れ ついうとうととして はたと目を覚ませば 氷山はややと流れ 慌ててまた追いつき ああいつかこの氷山が 陸地へと辿り着いたら どんなにか気持ちも 奮うことだろうと うとうと夢見し いまはともかく 必死にしがみつき 暑さが和らぐのを 削り削りしながら 耐え忍ぶばかりよ 2010.8.23
器の底 うすいコーヒーを飲みつつ 不甲斐ない我が身を嘆く なにゆえ無駄に起居し なにゆえ無駄に飲食し なにゆえ無駄に息をし なにゆえ無駄に過ぎるか 説く説く言葉によれば 無駄は何ひとつ無いという どうしてその言葉がいま 信じられることがあろうか 絞り出し絞り出しして かろうじてこれを書く うすいコーヒーはもはや 器の底を透かせている 2010.8.22
火薬時代 心の焦げついたところが ぼろぼろと欠け落ちる 焼きすぎたパンの屑が 隅に溜まってゆくように それが火薬になろうとは ああそれが身を滅ぼそうとは 火薬は日に日に溜まり 気がつくと満杯になり 火気厳禁のステッカー虚しく ついに引火してしまうだろう 若者が生き延びてこれたのは 清らかな夜空を仰いだとき 積もり積もった火薬を 涙で洗い流したからだ 2010.8.21

残量 残量を気にしている バッテリーがないのだという しっかりしろ バッテリーなんて無い 残量なんて誰が決めた きみらはまだ育ち盛りだ 表ではトラックの荷台に 子馬が乗せられてゆく 女の子の赤い靴の中に 石膏が注ぎ込まれてゆく バッテリーが危ない もう残量がやばい 彼らの小さな窓には 赤い水飛沫(しぶき)が飛ぶ 斃せ斃せ斃せ 本能が愉しそうに叫ぶ しっかりしろ きみらのバッテリーは 無くなりはしない 2010.8.20
輪郭 雲の輪郭をたどるように あなたの輪郭をたどる はっきりと目に見えているのに どうしてぼんやりしているのか はっきりと大切に思うのに どうしてぼんやりしているのか あなたは雲ではない わたしも雲ではない なのにどうして輪郭だけは 雲のようなのだろう ぼんやりした輪郭だから 近くにいれるのだろうか これから先わたしたちが 雲になったときわかるだろう 2010.8.19
池の畔(ほとり)の麦藁帽子 おうい ここだ ここだ ここだってばよう ほうら ほら わからないかい ここだよ ここだよ 白い網が 風を切る 白い歯が 立ち並ぶ 仕方がないから 相手をしてやるのだ みんな淋しい 淋しい生き物なのだ 今日もかなしく 蝉はなく 2010.8.18
手話 伝わりさえすればいい わたしから 伝わりさえすればいい あなたから ひとりじゃないって ひとりじゃないって 伝わりさえすればいい わたしに 伝わりさえすればいい あなたに 愛していること 愛されていること 2010.8.17
フリーパス 子どものときには たくさんのフリーパスがあった 歳を重ねるごとに たくさんあったフリーパスは ひとつまたひとつと インクが掠れて消えていった 通れる所が少なくなり 許されることが少なくなり しがらみだけが多くなった 隣の部屋では学生たちが 朝まで謳い叫んでいた あとどれほどのフリーパスが 彼らに残されているだろう そのうちのひとつのインクが 確実に消えかかっているはずで 明け白んでいる若き朝に 微睡(まどろ)みながら寂しくも想う 2010.8.16
吉報 吉報を待っている 吉報はなかなかこない 吉報を待っている 吉報はどうしてこない 吉報を待っている 吉報はこないかもしれない 吉報なんてものは 待たないほうがいいのだ 吉報なんてものは ふいにきたほうがいいのだ そうだそうだ そうしようそうしよう 2010.8.15
青い夢 骸骨は眠る 遠い南の島 椰子の木は揺れる 水平線の便り 匙(さじ)は錆びた 靴箱はもとから無い 銃声は雲に消えた 青い夢は海に流れた 廃小屋は日時計 夕立は桶狭間 遠い夏の日 吹き抜ける風 骸骨は眠る 今もこれからも 2010.8.14
夏の音 しみったれた朝だ これは涎(よだれ)か汗か? 老舗は取り潰された 口髭は温室でせせら笑い 毒煙りが鼻先でのたうつ 透明な壁が閉まってゆく しみったれている まったくしみったれている 誰のせいにしようか いいや誰でも構わない どうせ答えはわかっている 幸せなら手を叩くんだろう? なぜなんにも聞こえないんだ なぜなんにも聞こえないんだ からん ころん しみったれた夏 風鈴が鳴る 2010.8.13
日が暮れる また日が暮れる 今日は何をした ものを食い あくびをし 婆さん達の健康ばなしを聞き とある男女の青き議論を聞き 冷めたコーヒーを飲み 足裏のマメをさすり 交差点の人を眺め 交差点の人を眺め 交差点の人を眺め 交差点の人を 眺め また日が暮れる 2010.8.12
錐 心許ない錐(きり)がひとつ ひょろひょろとして 錆びついており 先は尖らず 丸まっている こんな錐でも しぶとくしぶとく 根気強く 念をこめて できるだけ休まず 穿ち続ければ 穴を開けれるだろうか 厚くて硬い鉄板に 穴を開けれるだろうか だるさが増す腕に いま一度力をこめる 2010.8.11

五百億年の手紙 五百億年後 ぼくはこの世にいない 五百億年後 人類はもうどこにもいない 五百億年後 地球はどうなっているかしらない 五百億年後 太陽も銀河系も星雲もしかり そんな先のことなど知らぬと みんな今だけを考える 今だけよければいいのだと 鼻歌交じりで好き勝手やる 五百億年後のみなさん いるかどうかもわからぬみなさん 本当にごめんなさい もしぼくが好き勝手やることで 甚だ苦しんでいるとしたら 本当にごめんなさい 今から何をすればいいですか こんなちっぽけなひとりの男に いったい何ができますか 2010.8.10
白い光線のあった日 わたしにはわからない 生き長らえていても 後遺症で苦しみ 罪の意識で苦しみ 保障のない生活で苦しみ わたしにはわからない 白い光線のあった日 ひとの形が一瞬にして 黒い染みになったとき 苦しむ間もない刹那に あるいはそれはそれで 幸せだったのではないか わたしにはわからない 生き長らえる者も いつか必ず光になる 地球上の生物たちは 今日も光を追っている 2010.8.9
おもちゃのプロペラ ぼくは最初から壊れていた たとえ誰かの手によるものだとしても 元々が欠陥不良品だったとしても 最初から壊れていたのだった そうとは知らずにいたものだから 運よくプロペラが回り始めたとき 思った以上に出来が良かったもので みんながみんな期待をしてしまった そうして当たり前に周りが弱まり 当たり前に止まってしまったから なぜだなぜだどうしてだと みんなうろたえがっかりしたのだった そうじゃないんだそうじゃないんだ ぼくは最初から壊れていたんだ 止まったままのおもちゃのプロペラ 指でぐるぐる回してみる 2010.8.8
けやきと花火 けやきよ きみは教えてくれる どんなに素敵な花火も 見えないことがあると どれほど確信をもって どれほど汗だくになって ここだと決めてみても 大きな花火は見えなかった けやきよ きみが花火を隠してしまった 浮かび上がるきみの姿は 花火よりも美しかった どれだけ苦労しようとも 思い通りにならぬ事もある ほんの欠片の花火だから 心に残ることがある 2010.8.7
東北の旅 田んぼに着水するや 北へ北へと滑ってゆく どこぞの国の魚雷が 戦艦に突進するように 魚雷と違うことといえば いたってたくさんあるが 田んぼと洋上の違い 東北の旅と戦争の違い 乗せる命と壊す命の違い 心に残ると骨も残らぬの違い そうして何より違うのは 各駅停車と一直線の違い 田んぼの上を滑っては つと停まってみせたりする 慌てるな慌てるな 魚雷には窓もついてない 2010.8.6
理由 きみを好きな理由はね きみを好きな理由はね 好きな理由は 好きな理由は 理由 理由 ねえ 理由は必要かい? 2010.8.5
永遠との境界 まぶしい光の中に 蝉の死骸はいた 暗い冷房の中から 彼はただ出たかった あとほんの少しだけ 飛ぶことが出来たなら 彼は自由という光を 浴びたはずであった 靴底は二度三度と なおも死骸を踏んだ あるいは二度三度と 引きずりまた蹴られた まぶしい光の中で 彼は動かなかった ほんの十分前の光は 永遠に失われた 2010.8.4
希望ヲ述ベヨ ニイニイゼミよ お前はどうなりたいのだ? ハシブトガラスよ お前はどうなりたいのだ? デメクロキンギョよ お前はどうなりたいのだ? 檻の中のチワワよ お前はどうなりたいのだ? そうだよなあ わかるわけないよなあ わたしもわからないのだよ どうなりたいかなんて 2010.8.3
上り階段 あるだろう? あるだろう? なんだか無性に ってやつがさ 階段が見える 上に続く階段 かけ上がろうか かけ上がりたい かけ上がろうか かけ上がりたい 先は見えなくて 何段かわからなくて ちょっとこわいけど かけ上がりたい 誰も見ていない いまだ行け行け 2010.8.2
非常用ボタン ケータイは捨てられない パソコンは捨てられない ゲーム機は捨てられない マンガ本は捨てられない 社員賞は捨てられない スーツは捨てられない キャリアは捨てられない 自分は捨てられない 捨てられないものが多くなる そのうち部屋からあふれ出す 捨てられないものが多くなる そのうち重さで潰される 捨てられない捨てられない 潰される潰される 捨てられない捨てられない 死にたくない死にたくない 2010.8.1

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