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■ 詩的ぶるぅす ■
2010年6月
〜末日 〜20日 〜10日



心臓マッサージ 心臓マッサージを 施してくれないか 心臓マッサージを 施してくれないか 鼓動が止まってから どれだけ経っただろう まさか自分がこんなに やわだとは思わなかった どうかあきれないで そしてうろたえないで マッサージといっても 手を添えてくれればいい あなたの手でそっと 撫でてくれればいい 孵化した生き物のように また動き始めるから 2010.6.30
黒い沼 呪いの文字を刻む廃墟 黒煙たちこめる会議室 汚水まみれの遊園地 腐ったひき肉の収集車 反吐(へど)が流れる暗黒街 この世は大きな黒い沼 ぶくりと泡がまたひとつ 腐敗の靄(もや)がたちこめる ここにスイレンが咲いたとさ 黒い沼を吸い上げて 淡いスイレンが咲いたとさ 清らかな唄だったとさ 2010.6.29
粘土の部屋 きみは粘土を愛した 思い通りになる粘土を 飼っている犬は 青い色をした柴犬 水槽の中にいるのは 緑色の動かない亀 黄色いインコはどうしたの? 鳥カゴには黄色い子猫 きみが望むのならば ぼくも粘土になろう もしも愛され続けて 壊されずにいるうちに 人を愛することに目覚め 思い通りにならぬ苦悩が 喜びの手の形になって 犬や亀や子猫を 受けとめたとき ぼくも息を吹き返そう 2010.6.28
壁一面が窓の書斎 頭の中の書斎では 小難しい本を取り出して パラパラと頁(ぺーじ)をめくっては 開いたまま放っぽり出して 別の小難しい本を取り出し パラパラと頁をめくっては またすぐ別の本を取り出し 次々に放っぽり出された本は そこかしこにうず高く積もり 「世代と倦怠」の本はどこだっけと がさがさ探し出さねばならず もうどうにも煩雑になったなら 熱いコーヒーをひとくちすすって 壁一面の窓を開け広げ ガラガラと全て空へ押し出し 何事もなかったかのように またコーヒーをすすっている これがわたしです 2010.6.27
土の匂い 土の匂いを知っているひとは 心が優しいひとだと僕は思う 土の匂いを知っているひとは 心が逞しいひとだと僕は思う 土の匂いを知っているひとは 心が折れないひとだと僕は思う 土の匂いを知っているひとは 心が腐らないひとだと僕は思う 土の匂いを知っているひとは 心が折れても心が腐っても 再生できるひとだと僕は思う 2010.6.26
弁当箱 これはモネの睡蓮(すいれん)ですな これはゴッホのひまわりですか 帽子をかぶった女性のルノワール ムンクで叫んでみましたね ダヴィンチならモナリザでしょう 湖を忘れるな東山魁夷 ここまではいかないにしても 弁当箱の中身というものは ひとつの芸術性を帯びている むむ今日は夜の海岸かな 2010.6.25
紙に書かれた数字 なんだか哀しいね 紙に書かれた数字で 人生が一瞬にして 変わることがあるなんて 数字が意味をもつ前に ちぎってしまえば良かった 小銭をポケットにねじ込み 男はそう呟き消えていった 紙に書かれた数字が どんな意味をもつかなんて まして人生が変わるなんて わかるはずがないだろう? ただの数字だったんだから 1234567890・・・ 2010.6.24
サーカス喫茶 ゾウが入場してきました 背中には手を振る従業員 ゾウが立ち上がりました 鼻からカップに注がれる紅茶 これはお見事! ピエロが入ってきました 大きな玉に乗っています 天井の電灯に気をつけて ナポリタンがこぼれちゃう しゅっとテーブルにストライク これはお見事! さあ最後はお待ちかね 空中ブランコ目玉焼き びゅーんと現れた従業員 反対側からもびゅーんと従業員 フライパンからフライパンへ くるんと渡る目玉焼き これはお見事! 2010.6.23
リハーサル 人生のリハーサルなんて あるわけないだろうに おぎゃあと泣いた日から 本番は始まっているんだよ そんなことはわかってるだって? 全然わかっちゃいないね なんだいその死んだような目は なにか演じているのでもなく なにか奏でようともしていない そりゃああたいにだってさ これがリハーサルだったらって 思うことだってあったけどね 最終バスまで待っていたのに 結局あたいはひとりだった それでもこれは本番なんだよ 誰も逃げたりできないのさ 2010.6.22
暗礁 人の心の航路には 幾つもの暗礁がある わざと引っかかる人はいないが いつも引っかかる人はいる その度ごとに船底が 傷だらけになってゆく 今日も港へ寄港して 船体を補強するとこさ 港港で探すのは 気の合いそうな仲間たち 暗礁に乗り上げてしまったら ひとりじゃどうにもならないと 古い言い伝えだったかな 聞いたことがあるからさ 2010.6.21

ミイラ いつまで僕はこのミイラを 背負えば気が済むだろう 眼は嫉妬心で窪み 両手は問い糾(ただ)す恰好で 足掻く足指はひん曲がり 背中は頑として丸まっている そういえば君はいつだったか 逃げるように走り去ったね 僕はこの頃やっとわかった このミイラを見て逃げたんだ ミイラに気づいてからでも 振り払うことが出来なかった なぜならミイラは紛れもなく もう一人の僕だったのだから 絡みついたミイラの腕を いま少しずつ剥がしている 2010.6.20
自転車屋 パンクしたみたいだけど どこだかわからなくて 水の中に入れてみると プクプク泡が出てきて ここだってわかるから ぼくもざぶんと 水の中へ入ってみたら プクプク泡が出たのは 口からばっかりだったので パンクしたところが なるほどよくわかり 自転車屋さんに ありがとうわかったよって いつか言わなくっちゃ 2010.6.19
無線 聞こえますか どうぞ ー聞こえます どうぞ いま何が見えますか どうぞ ー真っ黒な雲が見えます  どんどん大きく膨らんでいます  ここも時間の問題かと思います  閃光が走ったのは数分前です  その瞬間炸裂音がしました  立て続けに三度ありました  ここはだいぶ離れているのですが  建物のガラスが割れて  あちらこちらで火災も起きています  真っ黒な雲はもうそこに迫っています  悲鳴のような叫び声が・・・ 聞こえますか どうぞ ー・・・ 聞こえますか どうぞ ー・・・ 2010.6.18
散歌(さんか) 咲くのが花の命なら 散るのは花のひとり歌 空の先から飛び立って ひらりひらりと風を折る 誰に聴かせるわけでもない 思い出の場所を繰(く)るために わらべうたのひとつでも 口吟(くちず)さむそれは空中讃歌 水面(みなも)に歌は落ちてゆき 幾重に生まれるさざれ波 輪にまた輪ができてゆくのは 真ん中に歌が落ちたから 誰に聴かせるわけでもない 口吟むそれは空中讃歌 2010.6.17
赤と青のスキップ 赤道の上を歩いてごらん スマトラ カリマンタン ケニア エクアドル 赤道の上を泳いでごらん ガラパゴス アマゾン モルッカ ビクトリア 世界の果てと 世界のもとが 腕を組んで くるくる くるくる 青ざめてばかりの諸君 スキップはできるかい? 2010.6.16
入ってます こんこん コンコン いつまで そうしているのですか こんこん コンコン わかるよ ひとりぼっちのきもち こんこん コンコン だからさ うちあけてらくになろう 入ってます 2010.6.15
泣きぼくろ ピエロの顔にあるものは 泣きぼくろじゃありませんでした 三日月の横にある星は 泣きぼくろじゃありませんでした 風鈴の下に落ちた音は 泣きぼくろじゃありませんでした 夕暮れの橋にいた猫は 泣きぼくろじゃありませんでした あなたの思い出を どこにしまっていいか わからずにいます わからずにいます 2010.6.14
おつまみ 人ひとりに何が出来よう その生涯はどれほどのものか 数億円の絵が描けるか 数億人の苦しみを全て救えるか 大地震を口笛で鎮められるか 洪水を虹に変えられるか 彗星を気球に乗せられるか 天の川に吊り橋を架けられるか 人ひとりなんてちっぽけだ 何かしでかした人もちっぽけだ そんなに思い詰めたって そんなに自分を責めたって どうせ誰もが大したことはない どうせ誰もがちっぽけモンキー 今のあなたとお話ししよう ほんのちょっとの理想をつまみに 2010.6.13
ドブ川とシロツメクサ ドブ川に投げたのは 小さなシロツメクサの唄 ぼくはまだきみの中で 手と足に泥をつけたまま 這い回ることさえできない シロツメクサだった ドブ川に捨てたのは 小さなシロツメクサの唄 ぼくはただきみのもとへ ふらふらと根なし草のまま ちぎられたことさえ気づかぬ シロツメクサだった 2010.6.12
缶のおでん 缶に詰まったおでんはいい 数枚のコインを入れれば ずしりと重い音が落ちてくる 冗談を言う暇(いとま)さえもない 味気ないくらい簡単さ 蓋を開ければ湯気と香り 味気ないくらい簡単さ たまに思い出すのが丁度いい 缶に詰まったおでんはいい 心によぎればいつでも 手の中に収めることができる 難しいことなんてひとつもない 出来すぎるくらい簡単さ あの頃の味とは少し違うけど 出来すぎるくらい簡単さ もう売り切れてくれないか 2010.6.11

ばらまく あるものは遠くへ飛ばし あるものは風に乗せて あるものは誰かに運ばせ あるものは魔術を使って ばらまく ばらまく なんて逞(たくま)しい なんて麗(うるわ)しい ぼくはきみを追いかける つまづきつまづき追いかける ばらまけばらまけ愛の唄 ばらまけばらまけ宵の花 2010.6.10
黄昏の境内 こっちを睨む蛇を見た 黒く大きな蛇だった しっかりしっかり握った手 大丈夫だよと言ったけど 震えるこの手が恨めしい こっちを睨む神を見た 風と雷の神だった しっかりしっかり握った手 大丈夫だよと言ったけど 高鳴るこの胸恨めしい 2010.6.9
思考散歩 ぶららり ぶららり あたまの中は 思考散歩の真っ最中 ぶららり ぶららり ららいらぶう ぶららり ぶららり 星を散りばめ ととんとんとと飛び移る ぶららり ぶららり ららりらぶう ぶららり ぶららり あくびは失敬 思考散歩でくたくたさ ぶららり ぶららり ららりらぶう 2010.6.8
影の数を数えてみたら 影の数を数えてみたら 五つの影が伸びていて 影の数を数えてみたら 五つの光があること知った 影の数を数えることは 光の数を数えることだった 2010.6.7
対角線 あなたとはいつも 対角線の関係だ 真ん前になると 目線に困るし 真横になると なんだか落ち着かない 導き出されたのが 対角線の関係だ あなたはきっと 気づいていない 大いなる人類の お馬鹿な努力で 導き出されたこの 対角線の関係を 2010.6.6
荒れた波間で どうして櫂(かい)を手放したか あなたがたにはわかるまい 櫂を手放したわたしは 手で水を掻き進む それはそれは大変なこと ちっとも前に進まない 櫂を手放したわたしは 腕がすっかりくたびれた これがこれが大変なこと すっかり体が記憶した どうして櫂を手放したか わかってくれただろうか 再び櫂を手にしたとき その重さを知ることだろう 2010.6.5
烏兎怱怱(うとそうそう) 一本の樹がある これはお前がまだ 欲望をつかむ手も さっとはかってしまう目も 持ちあわせてはおらず 米粒の細胞はおろか 糸ミミズの遺伝子でさえ 存在しなかった頃に すっかり伸びていた樹だ それでもお前はいま 樹に手を添えながら 先祖を弔うように 寛く優しい気配で この樹の元へと いつしか追いついていた 2010.6.4
脇腹 お人形さんをつっついたら 遠くを見たままだったよ かたくち鰯をつっついたら 目は見開いたままだったよ チューリップをつっついたら くらくら目を回していたよ 隣に住む猫をつっついたら じろり睨んで行っちゃったよ 今度はきみをつっついたら ふにゃふにゃと目を細めたよ 2010.6.3
座頭虫 そんなによお 目の敵にするなよ 確かに俺は 気味悪い姿さ よく言われるのは 宇宙生物かな 俺がただそこいらを 歩いているだけで 箒かなにかが 飛んできやがる もともと俺は のほのほしているから 全速力を出しても たかがしれている この前テレビに 俺が映っていた 近代未来の 宇宙船だとさ 2010.6.2
くちをとがらせて ぷうぅと息を ぼく自身の中へ 息を吹き込む もわもらとして 咳きこむような ぼく自身の中へ 少年の日の 祭り囃子や すすきの葉擦れや ひばりのさえずり 川に放った石 その時の息を ぷうっと吹き込む ぼく自身の中へ 2010.6.1
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