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■ 詩的ぶるぅす ■
2010年05月
〜末日 〜20日 〜10日



牧歌 真っ黒な綿飴の横で ひげをたくわえた兵士が笑う おもちゃ屋で見た戦車が 綿飴の中に消えていった こんなにも空は青いのに 海から吹き渡る風は 草を食(は)む牛を撫でて その温かくなった手で ぼくときみを眠らせる 海の向こうの出来事を まだ知らない日のうちに 青い青い空と丘の上で ぼくときみは目を覚ます 2010.5.31
炭火 朽ちているかのような ぶるぅすの言葉たちを 見捨てず見放さず 見守り続けて下さる わたしは生きねばならぬ もしも朽ちているならば 朽ちたままでも構わない わたしは生きねばならぬ たとえ今は木偶(でく)の坊でも 葉を繁らすこともなく 実をつけることもなく 土に埋(うず)もれてしまっても 姿形をかろうじてとどめ 炭になる努力を怠らず いつか掘りかえされたとき 皆々様の火となるように 皆々様の火となるように 2010.5.30
卒倒 もしも倒れてしまったら それが仰向けだったなら 今まで自分の上にあった 本当のものが見えるだろう 空であり 天井であり もしも倒れてしまったら それが横向きだったなら 今まで気もつかなかった 身近のものが見えるだろう 地べたであり まるい足であり 2010.5.29
屋上のくす 一本のくすのき はじめはお飾り いくとせ数え 大樹となった 根は意思をもち 故郷へ帰らんと 天井を突き抜け 窓まどを破り 壁を這うように 大地へ降りた 緑はなお栄え 太陽を掴む如く むっくりと体を 伸び上がらせ 積乱雲のように 空をおおった 屋上のくすのき 二百歳を超えた 2010.5.28
脚立 高い所に手が届く 八の字の幸福なかたち あぁ ふれたい どうかふれさせて ささやかな願望を 指の先に忍ばせて ぼくが下で支えるから たまにぐらりとなるからね 2010.5.27
ちっぽけな理由 争うことをやめて 幾年経っただろう 楽しい日々のはずが 星も見えやしない すると目の前に もうひとりの僕がいて なんで暗い顔を してるのかと聞いた 鞄を背負って もうひとりの僕は 大人たちの顔も見ずに 前へ駆けていった この このちっぽけな空は 僕の何を知っているのか この このちっぽけな風は 僕を何も知らない 2010.5.26
ある朝の形 トマトを切ったら ハート型 今日のトマトは ハート型 よおし よおし なんだか よおし えい えい やあ がぶり 2010.5.25
自信の苗 自信の苗を植えよう 大きく大きく育つような しっかりしっかり根を張るような 自信の苗を植えよう 自信がなくなってしまったら 人も虫も花も鳥も みんなどこかへいってしまう 雑草はできるだけ抜こう もさもさ生い繁るそれは 根も浅い過信の類 雑草はできるだけ抜こう 自信の苗を植えよう 十年百年千年も 枯れないことを祈りつつ 自信の苗を植えよう 2010.5.24
折れ釘 叩かれると ぐにゃと曲がって ぶつぶつ言われて まっすぐにされて また叩かれ またぐにゃとなり ぶつぶつ言われて こっちはじっとして 動かずにいるのに 叩くほうは まるでお前のせいと 言わんばかりに ふりあげてばかり 叩くならどうか どうかまっすぐに 叩いてください 2010.5.23
五月のピアノ 窓の外をごらん 気分がすぐれないのは 雨のせいだけかい? 窓の外をごらん ほら聞こえてくるだろう? 若葉たちのピアノが 窓の外をごらん 雨垂だれが落ちるたびに 緑の鍵盤が鳴るよ 窓の外をごらん あなたのそばにはいつも 誰かの音色があるから 2010.5.22
確信犯 車の荷台から転げ落ち よたよたと歩くほかなくなり 表面ではわからなくても 体中には痛みが流れて されど傍目(はため)には悟られぬよう さも涼しい顔をして歩き 一切合財持っていないがため 落ちている瓶やら缶やら この針金は使えないだろうか この空き箱は使えないだろうか 這っては拾い這っては拾い すぐにさも涼しい顔に戻して 傍目には悟られぬように さて車はどこへ行ったやら 追いつけるわけでもないので 棒が倒れた方へなど言いつつ 最初から決めていた方へと よたよたと歩を進めている 2010.5.21

峨峨(がが) ひとと較べてしまって ひとつでも劣っていれば みるみる高く険しく聳(そび)え あるいはこちらが轟沈か 峨 峨 面(つら)に皮を重ねて ひとつでも取れなくなり みるみる高く険しく聳え あるいはこちらが轟沈か 峨 峨 2010.5.20
塊根(かいこん) 掘っても掘っても 見つからぬ 根にあるはずの かたまりが 見つけたらきっと ひきちぎって お前のせいで 自由に動けず 見栄えも悪く 土臭いというか 何というか とにかくきっと こんなこと言って どぶ川に向かって 投げつけてやると ぽろぽろ泣いて だってそんなこと できやしない それはわたしの 一部であるから できやしない 見つけたらきっと 撫でてしまう そうしてまた ぽろぽろ泣いて 見つけた見つけた どぶ川に向かって 叫ぶにちがいない 2010.5.19
島とたんぽぽ 島をふっとばして どうすんじゃいの 島をふっとばせば すかっとするんかいの そうしたらただもう 子ども遊びと同じさ たんぽぽをぶちぶち 摘みとるようなもん なくなってしまったら 隣りのくさむらだろさ あとはぉぉよしよし 飽きるまでだろさ そのたんぽぽは 島に生えとるわい 2010.5017
迷路 酔っ払ったぞう 酔っ払ったぞう たまにはいいもんだ ここはどこ? わたしはだれ? 迷っちまったぞう 迷っちまったぞう たまにはいいもんだ ここはどこ? わたしはだれ? やぁ あなたも 迷っておいでですか 2010.5.16
遥かなる遠景 遠くを 遠くを見るのさ 行き交う人や 店先の値札や 看板よりも もっと先を もっと遠くを 見るのさ 2010.5.15
地殻 プレートが引き込まれる ぐつぐつとしたマントルへ 引き込まれるプレートは 一体何を思うのだろう 暗い猛火へ滑り落ちる その時何を思うのだろう 溶けてなくなるのだろうか 違うものに変わるのだろうか 魂だけが残るのだろうか 再び地殻へ戻るのだろうか こうしている今もなお マントルへ滑り落ちている いかなる思想を巡らせど 抗(あらが)うこともできぬままに 2010.5.14
迷走神経 わたしは感づく 迷走せねばならない 秩序の海には 陸地などない あぶれものと言われ いかれものと言われ 百害ものと言われ 無用ものと言われ それでも行(ゆ)かねば 狂い迷走せねば 道は拓(ひら)けぬのだ 陸は見つからぬのだ そういうものの存在を 人は後世でのみ語る 2010.5.13
樹上にて そら飛んでゆけ カゴから放たれた バタバタと慌てて 目の前の樹にとまった わからないのである これからどうすべきか この広い広い空が 大きなカゴにすぎないと 知るに到るまでには どれほどの苦難があるか カゴを開け放った者は 無智という鬼の面を つけていることも知らずに うっとり酔いしれている 2010.5.12

宇宙服とサクラ 宇宙服を脱ごう きみの表情(かお)がわからないから 宇宙服を脱ごう きみの声が聞こえないから ぼくは帰りたい あのサクラの樹の下へ 宇宙服を脱ごう きみの温度(ねつ)がわからないから 宇宙服を脱ごう きみの夢が聞こえないから ぼくは眠りたい あのサクラの樹の下で 2010.5.10
白い紙 枯渇することはない それはわかっている 枯渇することはないが 日照りが続くことはある 自然枯渇に近くなる 近くなるが枯渇ではない 人はそこで取り違える 枯渇したと決めつける 決めつけることこそが 本当の枯渇というものだ どうしても疑うならば 宇宙飛行士に聞くがいい 彼らは答えてくれるだろう 青い星はあまりに美しい だから信じることができる 枯渇することはないと 2010.5.9
火傷 よそ見をしながら 湯呑みに注ぐから あふれていたって 気づきやしない 膝もとにかかって はじめて気づくとは 愚かしいことよ 2010.5.8
生花 球体は転がる あらゆる面が見える 生花は転がす あらゆる面を透かす 透かして透かして あらゆる面を創る そうして元に戻り 正面を創り上げる いかに球体を見るか いかに正面を創るか 2010.5.7
返り花 咲いて散るのが運命(さだめ)なら 一度は散ったこの花を 時節を待たずに咲かすのは 天に背くにほかならず されど命は短く長く 予期せぬ雨に見舞われて 恵みの光をいただいて 思わず花開くや知れず 九度十度のことならば 狂い咲きとも言いようが 一生一度や二度ならば 賭(と)してみせるや返り花 2010.5.6
兜の緒 うつむく首は重い 横に振る首も重い 蒼ざめた顔には 幼稚な陰がある 固く結ばれた緒 度を失った刹那 解(ほど)けないままに 深まりゆく青い陰 いっそこの首もろとも 切り離してしまえ 緒が食い込むたび 兜は揺れている 2010.5.5
純粋なる作用 暴雨ヘルメットをかぶり 赤い棒を振り回そうが 戯(たわむ)れ事の唾を浴びて 焼く鳥の煙に巻かれようが 腐りつくような目の中で ただひたすら踊るしかなかろうが にじむその汗だけは 純粋に光り輝いている 彼らはいつの日か勝利する 汗がにじみまた乾く 目に見えぬその作用が 目に見えぬ勝利を得るだろう 2010.5.4
木曽路 ひとりきりで ひっそりとゆく ひとはいない ひとを見ない ひとりきりだ 声がかかるまで ひとがいた しらないひと わらっている こちらもわらう うそでした 路(みち)にはいつも ひとがいる 2010.5.3
長良川 激しく石を洗い 深々と青を呑み 忘れていたものは この瀬と淵だった 時に危険を顧みず 冒険の石を洗ったか 時に真理を怖がらず 果断の青を呑んだか 忘れてしまったら 取り戻しにゆけばいい 長良川は今も昔も 変わらぬ声で歌っている 2010.5.2
星が降りた夜景 ほのかな夜景 百の光の夜景 星の瞬きのような ぎらぎらすることなく 息をする程度でいい ささやく程度でいい やさしくやさしく 美濃の町はある 2010.5.1

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