■ 詩的ぶるぅす ■
2009年12月
〜末日 〜20日 〜10日







一秒の暮れ もしも大晦日に もしも時が止まって しかも二十三時五十九分 五十九秒というところ あと一秒というところで 家中の時計は止まり 銀座の大時計も止まり 歌舞伎町のカウンターの時計も 祝砲を待つ腕時計も 次の年へは行けぬ恐怖 次の年へは行けぬ安堵 時が止まるとそこに 恐怖と安堵があった そんなことを想ううち とっくに祝砲は上がっていた 2009.12.31
石焼きいも ぽぉーーー 沁みる夜風に 淋しく懐かしく 境遇というものは 箱車を引かせもする それでも火を焚くのは 懐かしい音がいつも 聞こえてくるからか ぽぉーーー 2009.12.30
地平から谷を眺める チーターは 獲物に向かい 全速力のとき ふと 自分の脚の 速さに気づき うっとりして 獲物を過ごし 地平を翔け ますますうっとり このまま空へ 翔けてゆくと 宇宙の法則とやら チーターは ふと 自分の脚は 翼ではないと 吼えた 2009.12.29
雲龍 もう駄目だって? なあに心配なさんな あんたの目はまだ 死んではおらん 奥に走っている目は 龍の如く光っている 今は濃い雲の中で 目を細めているだけ じきに雲も晴れて かっと見渡すだろう だから心配なさんな 雲の中の龍と思え 2009.12.28
背中 背中合わせのベンチに 何も知らずに僕たちは 背中合わせのベンチに 同じ時間座っていた 僕の人生 そんなものさ 君の人生 そんなものさ 背中合わせのベンチに 西陽が眩しかったなら 背中合わせのベンチに 君を見つけたかもしれない 僕の人生 そんなものさ 君の人生 そんなものさ 僕の人生 そんなものか? 君の人生 そんなものか? 背中合わせのベンチに 西陽が当たらなくても 2009.12.27
口言えぬ白菊 優しすぎることの 何がいけないのでしょう つまらないことは わかっている 優しすぎるくらい 優しいひとなのですね そのくらいのこと 言ってほしかったのです 2009.12.26
人ひとり 人ひとり見なければダメなんです だけど人ひとりだけ見てはダメなんです 人は人ひとり中心に輪をもちます だから人ひとりそれぞれ輪をもっています その輪が折り重なって折り重なって そうして人ひとりが成り立っています 落ち葉が折り重なるように 雪が積もって折り重なるように 折り重なった輪を見なければダメなんです だけどだからだからこそ 人ひとり見なければダメなんです メリー・クリスマス 2009.12.25
クリスマス・プレゼント サンタクロースは飛び回る 透明な袋を背負って 中にはたくさんのプレゼント 大人たちへのプレゼント 空き缶やペットボトルや 割れた茶碗に破れたズボン 半分残った弁当箱に ショートしたテレビモニター おっと注射針には気をつけて ウォーターベッドから水漏れだ 大人たちへのプレゼント サンタクロースは大忙し だあれも手伝おうともしない そんなプレゼントなんて もらいたくないものだから 2009.12.24
都のトンビ 寂しいくせに寂しいと 言えぬは男の性質(さが)なのか ひとり見知らぬ土地土地を 渡るも紛らすゆえなのか 都(みやこ)に旋回するトンビよ お前ならわかってくれるかい 試しに鳴いたその声も 喧騒が掻き消すことだろう いくら強がってみたところで 誰もお前に気を留めぬ それならせめて一度くらい 寂しいと鳴いてみるがいい そしてお前はまたひとり 北の空へと帰ってゆくのか 2009.12.23
女神像 どうしてあなたはそんなに 強くて優しいのですか まるで疲れを知らず 微笑みを湛えたまま ずっと立ち尽くしていて 鳥に頭を踏まれようとも 折れた枝に引っ掻かれても 憎まれ口をたたくこともなく 唾を吐き捨てることもなく 錆びた涙は浮かべても 鳥のウンをもらったかしら などと見えすいた冗談を こんなわたしにくれるのです 2009.12.22
戦い これはあなたの戦いだから わたしはここで見守っている あなたがどんなに苦しく 戸惑いのたうち哀願しても あなたが乗り越えるべきだから わたしはここで見守っている 手を貸したくなった時には わたしはわたしで戦う あなたはきっと戦えると 信じてここで見守っている 戦うべき相手は自分の中に わたしはそれを知っているから そしてあなたは強くなる そしてわたしも強くなる 2009.12.21
浮き玉 先端に小さな籠 パイプ型の小さな玩具 籠には小さな浮き玉 息を吹き込むと浮いた 強く吹くと飛んでいった 弱いと何も起こらなかった いま浮き玉は上下に 揺れながら浮いている 浮き玉は僕かあなたか 息の続く限りに吹く 2009.12.20
冷たい羽根 巨大な黒い渦が突如 すぐ背後に迫っていた 恐ろしく低い音を立て 空間ごと吸い込んでいる ついに一羽の渡り鳥が 仲間から切り離された 数枚の羽根を宙に残し 黒い渦へ消えていった それはまるで秘め事のように 低い音の中で行われた やがて黒い渦が収まると 冷たい命が付着していた 誰に見られることもなく 誰に知られることもなく 2009.12.19
チャンス 普通の水は もちろんのこと ミルクティーや ブラックコーヒーや コカコーラや 熱い味噌汁や あるいはまた 都会の泥水や 油の浮いた用水や 硯の墨汁でさえも 世の中を映すのは どうしてなんだろう 僕にもチャンスが あるのかもしれない 2009.12.18
丸い手 ぼくの記憶はシャボン玉 しばらく形は留(とど)めても パチンとすぐに割れちゃって あっちこっち飛び散って あとで思いだそうとしても 散った滴を集めては 同じ形になるはずもなく べたべたになった手を 窓の明かりにかざしたら 玉虫色に丸く輝き この手のほうがよっぼど 最初の球体に近いなあと 二度と戻らぬシャボン玉に 口笛吹いてグッドバイ 2009.12.17
とんかつ屋 いつも目にしていたはずの とんかつ屋が消えていた 古い店構えは味わいがあり 一度は訪れたいと思っていた あまりに突然消えたから 見知らぬ土地に来たようだ いつも目にはしていたけれど 何気なく見ていただけだから どんな建物だったのか 壁の色や入口の扉 メニューに何があったのか 朧気にしか覚えていない 取り戻せないことは沢山ある 何気ないことの中にもある 突然消えてしまう前に 突然消えてしまう前に 2009.12.16
光なきリズム 人の気配を察知して 土竜はまた土に潜った にこにこして近づいても 餌を持って近づいても 土竜は身を翻し 暗い世界へ閉じ篭る 彼らには彼らのリズムが 生き良いリズムがあるのだ 彼らはどこでどのように 一生を終えるつもりだろう 暗い世界を掘り進み 永遠の寝床を見つけるのか 誰に見守られることなく 冷たい寝床で眠るのか それが彼らのリズムなのか わたしになどわかるはずもなく 2009.12.15
ボクとの出会い ただ無心に ただ夢中に そうなれたら ボクは誰とも 較べることなく ボクは自分を 卑下することなく ボクはきっと 変わることができる 2009.12.14
捜索 一面の廃棄物の中を 捜しているかのようだ かきわけてかきわけて これと思い手にしたものは まるで使いものにならない言葉 酷使され続けた挙句に あちこち痛みくずおれた言葉 もう何度手から落としたか 一面の廃棄物を見渡す いったい何を捜していたっけ それさえもわからなくなる 万にひとつの綺羅星を捜して まだ使えそうなものを捜して 今度降ってくる綺羅星なんて いつになるかわからないから 今はただひたすらにひたむきに 一面の廃棄物の中にいる 2009.12.13
証し いに いに いに いに なあ いにいにしようぜ この世は平和に 平和になっていくと 本気で思っているのか 思っているなら いにいにしよう 平和の証しさ 2009.12.12
叱るひと 調子に乗るな バカヤロウ お前ごときは 銀河の塵に満たない ボロが出るのは 調子に乗るからだ 何をぼうっとしている そこのお前だよ 関係無さそうな顔で 眠そうに頬杖をつき これを書いている そこのお前だよ 2009.12.11

昨日の明日 明日が来なければいいと 何度思ったことだろう 些細な事に罪を感じ 罪に大小などないとし 息をしている意味を失い 想いを巡らす意味を失い だけど明日がなかったら 美しい朝の色彩を見なかった 紅く咲き散る椿を見なかった 嵐のあとの清々しさはなかった 無性に走りたくなることもなかった 幸せそうなあなたを見れなかった 2009.12.10
宝 腹のふくれた鱈がいる 腹のふくれた蛇がいる 腹のふくれた驢馬がいる 腹のふくれた蜘蛛がいる 腹のふくれた亀がいる 腹のふくれた貝がいる 腹のふくれた鴇がいる 腹のふくれた蟻がいる 腹のふくれた猿がいる 腹のふくれた女性(ひと)がいる みんな みんな 目出度い 2009.12.9
半音 完全な人間なんていない みんな完全なんかじゃない 完全そうに見える人だって どこかに半音もっている ましてこんなわたしなど 半音ばかりで仕方がない どんなにうまく歌っても どこかに半音紛れ込む そしてあなたはそれを聞き 優しい目をして笑っている わたしもわたしの半音が だんだん愉快に思えてくる 今度はあなたの半音を 笑ってやろうと思っている 2009.12.8
きみにスターを いまきみは輝いているか? ぐずついた雲に隠れていないか? 誰かの輝きをきみのものとしていないか? どうなっているのかさえわからないままか? 電池切れなら充電しよう そもそも電池なんて要るのか? 発電をすればいいのだから そうだ発電してしまおう 澄んだ寒空のクリスマスツリーのように 星にも勝るほどピカピカ輝く きみのきみだけのスター いまきみは輝いているか? 自ら輝く人のことをスターと呼ぶ 2009.12.7
朝の出会い こうして朝の喫茶店にいると たくさんの朝に出会える ぼんやりコーヒーを飲む者 タバコの煙を燻(くゆ)らせる者 タクシーを温めさせたまま トーストの香りを待っている者 窓の外の歩道を歩く者は 新しい空気を身に纏っている 何の変哲もない一日が こうして始まってゆく 一日限りの特別な一日が こうして始まってゆく 2009.12.5
バースデー わたしが生まれた時のことを わたしは何ひとつ覚えていない 雪は降っていたのか 太陽は出ていたのか 海は穏やかだったか 風は冷たかったか 誰がそこにいたか どんな顔をしていたか 嫌な顔をしていたか それとも笑っていたか わたしは何ひとつ見えていない わたしは何ひとつ覚えていない だけどそれでいいと思っている そこにいた人が覚えていれば 2009.12.6
眠りにつくまで 人生はそんなに 大したことはない 気持ちよく目覚めて 気分良く眠りにつく この繰り返しなのさ 人生はそんなに 大したことはない いつも気持ちよく目覚めて いずれ気分良く眠りにつく ただそれだけなのさ 2009.12.4
とまるひと おれはとまれる人間になりたい とまることを仮に理性としよう いつもとまるわけではない それでは前に進めない かといっていつも猪突猛進では 壁にぶつかり失神するだろう とまれるということは 選べるということでもある 壁への激突を察知して とまる選択ができることである 広いなんでもない場所で 急いでいた女同士ぶつかった おれがこの女だったとしても やはりぶつかったことだろう だからとまれる人間になりたい 紙片が空中で一瞬とまるように 2009.12.3
創作の欠片 地面からイルカが跳ね 水たまりから蝶が飛び 月のウサギが宇宙旅行 オリオン座とダンスをし 松の枝には赤い傘 三輪車にはスルメ干し 段々畑に歌舞伎役者 座布団の上に宝くじ 創作するというものは なかなかどうして難しい 2009.12.1

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