■ 詩的ぶるぅす ■
2009年11月
〜末日 〜20日 〜10日



取り違えた夢と希望 夢だ希望だなどと 叫ぶのは自由だ 家や壁を破壊し 髭の肖像画を燃やし 若き才能の目を潰し 大地や空を切り裂き 夢だ希望だなどと 叫ばないでもらいたい まずは足元を見たまえ コオロギやバッタが跳ね まずは耳をすましたまえ 子や犬らの声が聞こえる 夢や希望というのは 叫ぶものなんかじゃない 語り合うものなのだ 2009.11.30
釣針の先 両腕をもぎ取られても 両足がひきちぎれても まだ望みはある まだ食らいつける 歯をくいしばるんだ 歯で食らいつくんだ 限界はあるだろうが 限界は考えるな 釣針にかかるゴカイは まだ食らいついてくる 体半分なくなっても 釣針の先で食らいつく 2009.11.29
もうひとつの故郷 惨めな心を救ってくれたのは あなたの故郷(ふるさと)でした 桃の花が咲いていました 川のせせらぎが輝いていました いつしか心も晴れてゆきました 荒(すさ)んだ心を慰めてくれたのは あなたの故郷でした 雲の色が真っ白でした 風の温もりがすべてを包みました いつしかわたしも赦(ゆる)していました 2009.11.28
音楽で眠れ 音楽に寄り添うように 生きてみたいものだ 音楽に振り回されず 音楽を振り回さず 山女魚(やまめ)が水に寄り添うように 鮭の番(つがい)が寄り添うように 苦難を与えられたとしても 苦痛は与えられることなく ときに離れ 離れすぎれば寄り 心地良い距離のまま 安らかな眠りにつくまで 2009.11.27
地中の羽ばたき まるでミミズのように 地の中を這っている カブトムシの子でもない ニイニイゼミの子でもない アゲハチョウの子にもなれない まして蛹になどなれもしない やがて空へ飛び立つそれらを こうして地の中で見送るのだ 羨んでいるわけではない ミミズはミミズなのだから ただ出来ることならば 一度は空を飛んでみたい 慣れぬ空は危険に満ち 生命を脅かすことだろう それでも力の続く限り 地の中から空を想おう 這って這って雷に打たれ 誤って羽ばたくやもしれぬ 2009.11.26
正直 書くことなんて 本当は何もないのです ただ無理矢理に 書いているだけなのです そうして悶えて もがいてもがいて どうしようもない言葉を どうしようもない時間を ああまた日が暮れた 書いているだけなのです すっきりした すっきりした 言いたいことを 書けばいいのですね 2009.11.25
尺取虫 経歴書を燃やして 灰にしたところで 目盛のような人生は 消えずに残っている いったい私は何を 測ろうというのだろう どこにも届かないのに 何を測れるのだろう 谷川の向こう岸はどうだ 桑畑の向こうまではどうだ これだからいつまで経っても あなたとの距離を測れない 足元をゆく尺取虫よ お前はわかってくれるかい 2009.11.24
5センチ 5センチ切るか やめておくか 5センチ切れば 苦悩は消える 5センチ切れば 二度と復(もど)らぬ 5センチ切るか やめておくか 刃(やいば)は既に 動き出している 止めようと思えば 今なら叶う 切るかやめるか 進むかとまるか 5センチの攻防 絶え間なく 2009.11.23
檸檬紅茶(れもんてぃー) 砂糖は入れないの? 入れなくていいんだ 春の薫った風が とっても好きだから 葉の花がそよそよと 虫たちを呼んでいて 息を吸い込むと くすぐったい気持ち そうして穏やかに冷めて 夏もすっかり暮れ 沁みるような酸味に 川の魚も跳びはねて ああ この感覚だ 戻って来た感覚だ これが好きなんだなあ きみ 砂糖は? 2009.11.22
争乱のさなかに なにやってるの 手を離しちゃだめだって あれほど言ったじゃないの 言うことを聞けない子は ママの子じゃありませんからね どうして ママが手を離したのに 愛してるわよ ぼうや 2009.11.21

画用紙 絵を描いて 色を塗って はさみで切って 家を建てて 馬に乗って 船をまたいで 気球に飛びついて 宇宙船に手を振って 地上に落っこちて 山を転がって 転がって転がって 画用紙なんて ただの名前なので 転がるのを止めて 僕は夢を持とうと思う 2009.11.20
暗黒の森 鬼が出るか 蛇が出るか 藪をかき分け 足を取られて 進んでいるのか 戻っているのか 思考は錯乱 時効はいつだっけ さては獣か あちこち喚く 暗く恐ろしく されど行くのだ 森を抜けた先は 必ずひらけている 2009.11.19
自惚れテリトリー 怒りを表情に浮かべるサル 歯を剥き出して唸るイヌ じっとこちらを睨むカラス 毛を逆立てて呻くネコ みんなおかしくなちゃった 気が違えるほどのテリトリー 赤の他人も家族でさえも 一歩たりとも入れさせぬ 無断で踏み入ろうものならば 悪魔か祟りか恐ろしや 慈悲の心もありゃしませぬ 血で血を洗い啜る世よ ああ神様仏様 わたしが何をしたのでしょう 2009.11.18
小さな存在 細菌なんて目に見えないから 僕らの体内で何をしてるかわからない ゆったり椅子にもたれて読書とか 仲間を集めて演奏会をしたりとか 遠足だなどと全身細胞巡りとか 体内環境汚染対策シンポジウムとか 細菌なんて目に見えないから 僕kらがもしも細菌なんだとしたら 読書だとか演奏会だとか 遠足だとかシンポジウムだとか 宿り主からしてみたらやっぱり 目に見えないことなんだろうなあ でも確かに存在する でも確かに存在するんだ 2009.11.17
工場建設は雨に消ゆ 乾燥剤を撒きました トマトが石ころのようになりました 乾燥剤を撒きました ツバキがぼとぼと落ちました 乾燥剤を撒きました 虹の橋が崩れていきました 乾燥剤を撒きました 目に見えるもの総て土色になりました その土色は赤みのあるものではなくて 灰色に近い冷たい色でした その乾燥剤の製造工場は 幼い頃の心の中に建てられます どうかこの工場が建ちませんように この子の心に愛情の雨が降りますように 2009.11.16
東京トンボ あきれるほどいた東京トンボ いつの間にやら姿を消した 思い出深い秋の夕暮れ 長い影が幾重に走った 手を大きく振り上げて 次の約束交わす声 陽は溶けて大皿にのり 夕餉の匂いに包まれる 東京トンボよどこに行った 神社の鳥居も色褪せる 2009.11.15
宿り蛾 絢爛(けんらん)豪華な御召し物 剥ぎ取った中は襤褸(ぼろ)だった 樹液を啜る蛾の大群 密生した頭から管を出す 自ら飛び立つことをせず 蠢(うごめ)くだけの羽と脚 生き長らえている由は ただこの蛾どものためなのか むしり取ってみたとても 次から次と生まれ来る 腹わたの奥の奥こそ 炙り追い出す火はあるに 2009.11.14
どうです? つがいのブッポウソウが コーラスしながら飛んできて どうです?毎日楽しいですか? それに答える間もないうちに コーラスしながら飛んでいった 十七匹大家族のエゾリスが スキップしながら通りかけ どうです?毎日楽しいですか? それに答える間もないうちに スキップしながら行ってしまった ぽかぽか陽気に誘われて クサガメたちも首を伸ばした どうです?毎日楽しいですか? 僕はクサガメたちに聞くや しらずにスキップ踏んでいた 2009.11.13
右足から 蝶がはらはらやって来て 標本箱に入ったとさ 鰺(あじ)がびちびちやって来て ころも油に入ったとさ 牛がもごもごやって来て 冷凍室に入ったとさ 亀がのそのそやって来て 神様の池に入ったとさ ひとは ひとは ひとは ひとは はらはらびちびち もごもごのそのそ いい気になって 棺桶に入ったとさ 2009.11.12
しし座流星群 約束は冷たい雨の向こう 部屋の明かりは消した おでこを窓にくっつける 目は開けなくてもいいんだ 流星がぶつかる音でわかる 冷たい雨の流星群 しし座が載った本は閉じた どうせ今夜は役立たず 本当の流星たちはきっと はしゃいで楽しく泳いでる おでこの窓には相変わらず 冷たい雨の流星群 また今度って言いたくない また今度って聞きたくない 部屋の明かりは消えたまま 約束は冷たい雨の向こう 2009.11.11
欅並木 朝が来れば明るくなって 雀や烏が枝にとまって ちゅんかあちゅんかあ鳴いていて ひゅるほうひゅるほう木枯らし吹いて 夜が来れば暗くなって 蝙蝠や梟が枝にとまって ほうほうばたばたやっていて びゅうるるびゅうるる夜風が吹いて 数千年もこうして暮らした 数千年後の今は劇的 ぴかぴか冬の風物詩 欅に巻きつくぴかぴか電球 ひゅるほうひゅるほう びゅうるるる 2009.11.10
ホタルイカ ストーンズはストーンズ 俺は俺 突きつめなければいけないよね ビートルズはビートルズ 俺は俺 突きつめなければいけないよね ブランキーはブランキー ミスチルはミスチル サザンはサザン 与作は与作 俺は俺 ホタルイカはホタルイカ 2009.11.9
ペンギンよ空に眠れ ペンギンは空を飛べない そんなことはわかっている わかっているけどもしかしたら 空を飛びたいと思う奴が 現れたって不思議じゃない そいつは果敢に挑むんだ 何度も何度も空に挑む ついには力も尽き果てて 寿命を迎えるかもしれない だけどペンギンは誇るだろう 挑み続けることができたのだ さようなら友よ家族よ 誇りをこの胸に抱いて 2009.11.8
羽ばたきに露(つゆ)は落つ 湿った草地の繁みのお奥の 小さな蜘蛛の巣に絡む ウスバカゲロウらしき羽ばたき それは二度と帰れない羽ばたき 微かな音を聞き分けた鹿が 虹のような跳躍で駆け出し ウスバカゲロウと同じように つんざく音が生きる道を阻んだ 誰もが羽ばたこうとして駆け出し 多くは志半ばで蜘蛛の巣に絡む 運よく逃れることができたものは 生きることと生かされていることを知る 生かされていると知ったものは より強く生きようと思うのだろう 2009.11.7
花鳥風月歌人 花はいい   その姿はいつも正直だから 鳥はいい   高い高い丘を越えてゆけるから 歌はいい   見えない翼で海も渡れるから 人はいい   夢を語り合うことができるから 風はいい   強いほどに私の存在を露(あらわ)にするから 月はいい   遠いというだけで優しい気持ちにさせるから 歌はいい   誰かと繋がっていると思わせてくれるから 人はいい   抱きしめてもらうことができるから 2009.11.6
内扉(うちとびら) 寒いね寒いね ぶるぶるするね 白湯を飲んでも 外套を着ても 猪を抱いても 不動明王を抱いても 地の裂け目に入っても 焼き釜の中に入っても 止まりはしないね ぶるぶるするね 潜望鏡を用意せよ 氷河の壁をつき破れ 見えるか見えるか 外はあったかそうだぞ 2009.11.5
白い鳥 竜巻を真四角にしても 老いた鳩は落ち続ける 白百合を黒く染めても 雪だるまは笑いもしない 地球という箱に手を入れ ぐぢゃぐぢゃかき回すが どろどろした朱肉が指先に びったりくっついてくるだけ 人差し指についたのを びろと舐めってみるものの 無人の家のベランダの 錆た鉄の味しかしない 梅干の種はどこにいった 片羽の白い鳥はどこにいった 2009.11.4
包んでくれるもの 飛び込み台の上で タニシが東京音頭 下ではいまかいまかと 紅白まんじゅう争奪戦 空気の抜いたアルミ缶 中には分厚い説明書 ペンライトを貸して下さい 月明かりでは見えませぬ カウントダウンは和尚さん 木魚もとうとう生き返った 狂喜乱舞の恋しぐれ 藁葺き屋根に芽が生える 泥のついた殻のまま ふさりと両手に包まれる 2009.11.3
青き逃亡 カンブリア紀に飛び立ち 逃亡を始めたルリタテハ 卑弥呼の指をすり抜け 鑑真の鼻先をかすめ 信長の切っ先をかわし 路面電車に飛び乗った ゴーストタウンを過ぎると 地上を覆うイソギンチャク 鬼ごっこをする鬼たちが 日本国旗を掲げている 地面を割って出たのは 無数のモモンガと竹の子 窓ガラスが銀粉になったので ルリタテハはまた逃亡した 2009.11.2
花の湯かげん ピーチクパーチク囀(さえず)って トリコロールの批評会 トントントトツー モールスは生あくび ふわふわ音符を飛ばし ご機嫌はナナメ向かい 右目は月面宙返り 左目はトンボのメガネ ワニ皮ヘビ皮神田川 サクラの季節は湯気ぽっぽ ららりららりら女子高生 気合いのエンジェルふうらふら 2009.11.1

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