■ 詩的ぶるぅす ■
2009年08月
〜末日 〜20日 〜10日



青い紅葉 心外である 憤慨である 紅葉(もみじ)はここに しかと立つ 春夏秋冬 立っている 赤いときも 青いときも 紅葉は紅葉 立っている うまいところだけ 食って棄てては 青い紅葉も 見えないだろう 煌めく青が 見えないだろう 2009.8.31
龍神祈祷 平穏なる空を裂き 龍神の道が突き抜ける 猛り狂う如くにして 昼夜怒号を響かせる 巨大な道を見上げては おお恐ろしやと後ずさる 疲労隠せぬこの道は 崩壊の時を待ちわびる 忽(たちま)ちにして龍神は 怒りに任せて飛び回る 雄叫びとともに火を放ち 辺りは黒き赤となる 黒き赤は人の闇 謙虚の水を打つべし哉 2009.8.30
指先の環 冷えたグラス テーブルの跡 丸いビーチを 指でなぞった 陽が落ちれば 恋人になった 世の中のことは どうでもよかった 少年少女の 覚束ない環 途切れては着き 途切れては着き 指先の雫は 遠い夢の環 2009.8.29
一億年の風 砂の上に足を踏む そうして一歩後戻る 目の前には足の跡 それは誰のものでもない 屈んでじっと見ていると 太古の昔が現れる 三葉虫に夜光虫 アンモナイトにシーラカンス そのとき一億年の風 海の向こうか宙(そら)からか 砂に命が吹き宿る 風の背中に答えなし 砂の上の足跡よ お前はどこへ駆けてゆく 2009.8.28
ビラ配り 見よ!この握り潰された様を 見よ!こちらは足跡の烙印だ どれほどの愛情をもってしても 世に放たれたその瞬間から すべての色彩が失われるのだ 待ちわびた春が目覚めるように 再び色彩が戻るまでの間 作品の命は預けられる 冬の終わりを操れぬように 我々にはどうにもできない 色彩が戻らなければ 握り潰され足跡がつく 色彩が鮮やかに戻れば 永く陽の光を受けよう そのための術(すべ)はわからない わからないのがはがゆいのだ 2009.8.27
文明の鼻歌 憎しみは決して 憎しみでは消せぬ むしろ嵩(かさ)まるのだと 歴史が厳かに言う それでも今なお 憎しみは生まれる 生まれ続けている それらが生まれる時 規則的な音も出る 無機質な音であり ぶっきらぼうな音である 音はひどく無表情に 低く唸り続けている やまない雨はないが 雨は降り続けている やがて錆びつく鼻歌よ やがて錆びつく鼻歌よ 2009.8.26
岩山に涙なし 掘っても 掘っても 出てくるのは 赤さびた土 ずいぶん昔 樹々に溢れ 瑞々しい色に 満ちていたという 今あるものは 岩山の影のみ 掘っても 掘っても 涙すら出ぬ わたしの心 2009.8.25
詩問詩答 詩をもって我に問ひ 詩をもって我答ふ これを詩問詩答と言ふ 2009.8.24
ウィルスマン 人のことを蔑(さげす)んで そのくせ人を羨(うらや)んで いつも何かに飢えていて 両眼をギラギラ光らせる ウィルスと何ら変わらない ウィルスマンここに在り ついと周りを見てみれば 俺と変わらぬ人ばかり いつも何かに飢えていて 両眼をギラギラ光らせる ウィルスと何ら変わらない ウィルスマン永遠(とわ)に在り 2009.8.23
ヒメカツオブシムシ ヒメカツオブシムシ 着物を喰う 好い服喰う 喰う喰う喰う サル目ヒト科ヒト 牛肉を喰う 鯨肉を喰う 喰う喰う喰う 気付いているのかいないのか あまり変わりはありませぬ ヒメカツオブシムシ サル目ヒト科ヒト 2009.8.22
浮草 自分では泳げない 漂っているだけ 百年に一度の日照りには 干涸からびるのを待つばかり もうたくさんだ 浮草なんて まっぴらご免だ 2009.8.21

石垣塀 このありありと続く石垣 築き上げた年月を偲ぶ 手に触れる冷たさには 歴史の雨が染み込んでいる 人の行き来が頼りであった 人の行き来より仕方なかった ある者は危うく下敷きを免れ ある者は不幸にも下敷きになった 手の冷たさと湿り気は 苦(にが)い思いが込められている だからこそ揺るがないのだ 揺らいでしまってはいけないのだ 蜥蜴(とかげ)が一匹石から滲み出て はるか先をしげしげと見つめていた 2009.8.20
セイヨウタンポポ フワフワ降り立って芽を出すと セイヨウタンポポでありました これは何かの間違いと 急いでぐんぐん伸びてゆき 黄色くなって白くなり もう一度飛んでゆきました フワフワ降り立って芽を出すと やっぱりセイヨウタンポポでした 辺りをぐるりと見回すと 一面セイヨウタンポポでした 露草にさえなれないのは まだ飛び足りないせいなのでしょう 2009.8.19
観音様 その表情の穏やかさ わたしには勿体ない まして近寄ることもなく ただ遠くから眺め入る 黒く渦巻く海原に 一度さらわれたのだという 傷跡なんぞどこにあろう 一筋宿る影あれど 光に翳す手の如し ああわたしには勿体ない ただ遠くから眺め入る 2009.8.18
耳かきの途中で 生きてゆくことには とっくの昔に諦めた それなのに奥底の方で なにやらへばりついている 花や葉や茎などは すっかり枯れているのに 根はがちりと土を掴み 離されまい離されまいとする 晩秋の植物のように なにやらへばりついている あまりのしぶとさしつこさに 生命に抗(あらが)うことを諦めた 奥底にへばりついている 生命とやらに諦めた 2009.8.13
便利の便は文字通りの便 便利を多く生み出すと 便利の便も多くなる そら周りを見てみろ 便利の便がたくさんだ もう動かない二輪車 重たいだけの冷蔵不能箱 水に流れるわけでもなく 生物が食ってくれるのでもなく この世の中を呪ってくれれば まだしも大いに気づけるだろうに どれもこれも涼しい顔をして 無言で横たわっているだけ 他人のものだと言って私たちは 見て見ぬふりして通り過ぎる やがて便まみれになってから 私たちは皆同じだと気づくのだ 2009.8.12
細菌 小さきものが 抵抗をみせるとき 内側から 内側から 少しずつ 少しずつ 侵食してゆき 気がついたときには 崩壊を待つのみ これだから 大きいものは 小さいものを 馬鹿にはできず 腹の内側では 怯えてばかりいる 2009.8.11

糸でんわ 見えない糸を あなたに一本 もしもし もしもし この声なき声が 届いたなら その声なき声を 聞かせて下さい 心と心の 糸でんわ 見えない糸を いつもあなたへ もしもし もしもし 2009.8.10
無念は晴れるよいつの日か よかったね みんなに褒めてもらえて よかったね やりたいことがやれて よかったね みんなに楽しんでもらえて よかったね いい汗かくことができて よかったね みんなに愛してもらえて よかったね ほんとうによかった 無念に終わりを迎えたひとは つい最近まで大勢いたから 2009.8.9
茜雲が消える刻(とき) ねえ ばっちゃん ばっちゃんはまいのこと きらいだった? くみちゃんとかたけくんとか あそびにきたときも うるさいうるさいっていってたし がっこうでしょうをとったえも もっとうまくかけっていうし いっつもいっつも あとであとであとでって もしかしたらばっちゃん まいのこときらいなのかなって そう思ってて なあんも なあんも 2009.8.9
イルカ船長 あなたはどこまでも どこまでもどこまでも 先へ先へ行ってしまって 追いかけても追いかけても まるで追いつかなくて あまりの自分の非力さに なんだか情けなくなって 追いかけるのもやめにして あなたから遠ざかりました わたしはもっと自信をもちます 自信をもてる何かを見つけます 自信をもってから会いに行きます 遠くあなたに会いに行きます 2009.8.8
人間魚雷 人が動かす魚雷とは名ばかり これは俺の棺桶魚雷なのだ 明かりはたったひとつの電球 身動きのとれない操縦席 一旦海中へ飛び出せば 二度と戻れぬ月明かり 死ぬことなんて恐くない 教育の脅威の方が恐ろしい 体がぶるぶる震えるくせに 頭の中には冷水が満ちる なぜこんなことになったのだ なぜ俺は魚雷になったのだ 疑問の泡が次々浮かんでくる 海中へ飛(で)たら続きを考えよう 2009.8.6
種なし葡萄 哀しいぶんだけ 実がつまる 切ないぶんだけ 甘くなる 未来を奪われた その代償として 紫色の炎を ただ精一杯に 恨みつらみを 語るのではない ただ精一杯に 実(いのち)を灯すのみ 2009.8.5
黒いパンダ 公園のパンダは 雨風に晒されて 白黒模様も消えるほど 薄汚れて立っていた それでも眼光は鋭く ぎりりと前を見据え 僅かに笑みさえ浮かべ しっかりと立っている その姿は勇ましく さあみんな附いてこい 泥をかぶったくらいで 怯(ひる)んではならない 傾きかけた夕陽を 正面に受けながら 黒いパンダはそんな風に 語りかけているようだ 2009.8.4
ちりめんじゃこ ちりめんじゃこになりたいな ちっちゃなちっちゃなおさかなです ちりめんじゃこになれたなら 比べ合いの競争なんてないだろうな ちりめんじゃこになれたなら 個性を伸ばせと怒鳴られることもないだろうな ちりめんじゃこになれたなら 将来を憂うこともなくなるだろうな ちりめんじゃこになれたなら 海が広く感じられるだろうな だけどちりめんじゃこになったら 僕は僕じゃなくちりめんじゃこなんだろうな 2009.8.3
お辞儀 こんにちは さようなら ありがとう どういたしまして ごめんなさい こちらこそ このまえはどうも またよろしく ではおげんきで いってらっしゃい 2009.8.2
きれいな海 酔っぱらいがふらふらと 岩場のてっぺんに登り 小便を天に向かって これでもかと飛ばしたら あまり勢いがよかったのか おおおと仰向けになって 暗い暗い海の中へ 滑り落ちていったとさ 似たようなことなんて きっといくらでもあったろうに それでも周りを見渡せば きれいな海に変わりなく 2009.8.1

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