■ 詩的ぶるぅす ■
2009年07月
〜末日 〜20日 〜10日



百足 俺が嫌われ者であることは 何となく知っている ひょっこり顔を出そうものなら 箒で追いかけられるからな かなりの仲間がやられたよ この姿かたちのせいだろう そんなに気味が悪いかね だけど俺らはまだいいさ 見てくれが良すぎる奴らは もはや絶滅する勢いで とっ捕まってゆくからな 俺らはせいぜい箒ぐらいだ 好きとか嫌いとかだけで 俺らは決めつけられるのか いくら気味が悪くても 俺らは必要な存在なのに 2009.7.31
ムツゴロウ 泥にまみれて 何おもしろい 顔もからだも 真っくろけっけ 跳んではねて ひっくりかえって 俺もまねして 生きてみたい 泥にまみれて 愉しいならば 人目気にせず 生きれるならば 泥にまみれて 暮らしてみたい 2009.7.30
きづかいのくに 上手に木をつかいます 上手に気をつかいます 上手に器をつかいます 上手に季をつかいます 上手に喜をつかいます 上手に記をつかいます 上手に貴をつかいます 上手に己をつかいます このようにわたしたちは きづかいのくにのひとです 2009.7.29
自殺列車 列車飛び込みは絶えない 年間で六百件以上 関係者は頭をかかえ 自殺列車の運行を決定 運行は一日に一便だけ 自殺希望者はあらかじめ 乗車券ならぬ轢車(れきしゃ)券を 買っておかねばならない 自殺列車発着は91番ホーム 今日もその時間がやって来る だけど今日も自殺者はいない 自殺列車ができたというのに 普通列車のレールが染まる 結局みんな人恋しいのだ 2009.7.28
潮溜り 潮が引き 潮が満ちる その間の 微かな営み 潮溜りは 小さな地球 わたしたちは この中にいる 2009.7.27
虻 虻がブンブンやって来て それをブンブン追っ払う 他人のところに行っちゃって それをしめたと思っている しめたと思っているけれど 気になり視線を外せない どこか虻と重なるからだ 虻と重ねてしまうからだ ときに誰かに追っ払われて 去(ゆ)けばしめたと思われる 2009.7.26
未来の乗り物 お母ちゃん あのお人形買(こ)うて      買うてやりたいけどな      降りられへんのや お母ちゃん あの飴玉食べたい      食わしてやりたいけどな      ええ子やから我慢してな お母ちゃん いつまで我慢せなあかんの      せやなあ      あんたが大きゅうなる頃には      降りられてるとええけどな      便利で楽やいうてた通り      何にもしなくてもええけれど      何にもできんようにもなった      便利で楽すぎたら苦痛だなんて      お母ちゃん知らなかった 2009.7.25
樹海の芽 侮辱凌辱 暴力差別 諍(いさか)い戦い 討ち合いつらい 己と闘え 心の剣を持て これらと対峙せよ 内面に潜んでいる これらと対峙せよ 己と闘え 己と闘うことなしに 平和は手に入らない 己と闘わないことが その他多勢の萌芽となる 2009.7.24
蟻の一穴 ただひたすらに 働いただけです ただ黙々と 務めていたのです 休みを返上して 体調不良も構わず すべてが崩れ去るまでは すべてが崩れ去るまでは どんなに働いても どんなに務めても 時にそれは崩壊への 一穴をつくっているのです それでもまた働くのです それでもまた務めるのです ひたすらに ひたすらに 2009.7.23
100%+1 %=100 % 頭の中が100%になって これじゃあいけない 考える余裕もない ユーモアも生まれない 1%だけでもいい その思考を割り込ませる 101%になるはずなのに 崩壊するはずなのに 100%のままでいるのは 僕たちの思考っていうのは 案外柔軟にできているからで 1%程度の思考ならば 割合自由に割り込ませられる 僕たちは割合すごいのだよ 2009.7.22
解答無用 蝶が天に昇るごとく羽化したり 鈴虫が郷愁を誘う楽器を奏でたり 飛魚が人類より先に鳥になったり 亀が重い甲羅を背負って涙したり 理由も意味も何もかも わからないことだらけなのだ 僕たちだっておんなじだ 理由も意味も何もかも わからないことだらけなのだ だから恐れるな諸君 正しいと思ったら行け諸君 かの哲学者たちだって 疑問符を抱いたまま眠ったのだ 2009.7.21

幸福論2009 容姿 能力 富裕 貧窮 あらゆることに 関係なく 人が 人として 認められることである 2009.7.20
活力源 朝ごはん カプセル二個 昼ごはん あれこれ全部で八錠 夜ごはん ドリンク一本 最近力が入らないんです どうしてでしょうか 2009.7.19
消防士と名刺交換 いまそれどころではないので あとにしてもらえませんか それくらいのことは どうかお察しください 2009.7.18
声にね 声が出ません 声が出ません 人見知りだとか 気恥ずかしいとか 遠慮がちがとか 無言の美だとか 言っていられない そういう場面に いつ出くわすやも しれないのです 声に出すのです 声に出すのです 2009.7.17
歴史的瞬間 あっ なった あっ また ほらっ この瞬間 歴史になっている あっ 2009.7.16
逆さ望遠鏡 昔は遠く遠く 遠くを見たくて だから望遠鏡 奪い合うくらい 望遠鏡 今は遠くなんて 近いくらい見えて 狂って逆さに 逆さに望遠鏡 近くなのに 遠くに見える きっとそのうち 正しい使い方も 忘れちゃう 望遠鏡 2009.7.15
お座り わたしが犬になったのは 数年前かと存じます 突然なったわけではなく 少しずつだったかと存じます ただ空いた席につき ただ文字や絵を指差し ただぼんやりと前を見て ただじっとしているだけで 風のように人が来て すたすたと皿を置き また風のように去り 散っていた湯気が集まり わたしが正気に戻るのは この湯気が集まる時までで あとの気づいた時にはもう 犬のわたしがいるのです 2009.7.14
うらっかえしのブルース 着ている服を裏返し 敷いた座布団裏返し レスリングの技裏返し めくったジョーカー裏返し うらっかえしのブルース うらっかえしのトゥルース 本当のことは言いづらい わかってくれるかい? 読んでる新聞裏返し 書いた手紙は裏返し 張り上げた声裏返し 寄せる心は裏返し うらっかえしのブルース うらっかえしのトゥルース 本当のことは言いづらい わかってくれるかい? 2009.7.13
それでも雨は洗い流す 赤く油光りしていた 大きなヒキガエルだった 梅雨の雲から押し入る太陽が ぐらぐらと煮え立っていた日 人間様が往き交う足元で この生物はじっと涼を待った 人間様はこの生物を見て 時折暑さを忘れて微笑んだ やがてもっと大きな生物が 地響きを立ててやって来た 人間様がつくった生物で ダンプカーと名が付いていた 赤く油光りしていた生物は あっけなく潰されてしまった ひとりの人間様がその音を 熟れたてのトマトが潰されたような 産まれたての卵が潰されたような そんな音を少し遠くから聞いた 2009.7.12
櫂なし舟 櫂を失った舟は 流れるがままに 弛(ゆる)い流れのときは 両の手で水面を叩き 舳先を変えるぐらいは 辛うじて出来ようが 急流へと入り込めば 水面を叩くぐらいなど 命尽きかけた蜉蝣(かげろう) どうにも抗えぬ虚しさ 舟を棄てるよりほかに 櫂が見つかるわけもなく まさに命懸けの選択に 蜉蝣は身を捩(よじ)らせる 2009.7.11

以心不伝心 わかっているだろうじゃだめだ わかってくれているはずじゃだめだ ひとは心のどこかで 疑いを抱いているもの 若ければ若いほどに だからちゃんと伝えねばならない わかっているねと聞かねばならない その代わりちゃんと伝えねばならない うわべで済まそうとしてはならない 偽りなき本心で伝えねばならない 2009.7.10
胆だめし 夏なのに 恐ろしく 寒いのは なあんだ? 気の利かない 空調管理 気の利かない 店員の態度 気の利かない 親父の駄洒落 2009.7.9
渡る鳥 電線の上から 何が見える? 電線の上から 何を見てる? 束の間の休息 旅路は長い 電線の上で 何が映える? 電線の上で 何を思う? 途切れない雲間 出立(しゅったつ)は近い 2009.7.8
櫂なし舟 櫂を失った舟は 流れるがままに 弛(ゆる)い流れのときは 両の手で水面を叩き 舳先を変えるぐらいは 辛うじて出来ようが 急流へと入り込めば 水面を叩くぐらいなど 命尽きかけた蜉蝣(かげろう) どうにも抗えぬ虚しさ 舟を棄てるよりほかに 櫂が見つかるわけもなく まさに命懸けの選択に 蜉蝣は身を捩(よじ)らせる 2009.7.11
真似っこ 前を行く女の人が なんだか愉しそうで ふわふわしていて そのうちふわふわと 宙に浮き始めて ふわふわひらひらと 飛んでいってしまった 愉しそうにしていれば ぼくも飛べるかなと 鼻歌をふんふん 歩調をらんらん ふわふわとはしてきても 宙に浮く様子もなく だけどまあなんとなく 愉しい気がするもんで ふんふんらんらん そのうち飛べるかなあ 2009.7.7
二色のチューリップ うまくいかないだって? しっくりこないだって? そりゃあそうだろうよ 双子じゃああるまいし まして影じゃああるまいし 最初っから適(あ)う適うって 決めつけていたもんだから どこかがずれた途端に やっぱり適わないになっちまう 赤と黄色のチューリップが 隣同士に植えてあって 風が吹き渡るたんびに こつこつ触れるということが 適うってことじゃあないのかね 今まで必死に探していたのは 適うチューリップではなくて 適う箱だったかもしれないね 2009.7.6
シグナル 布団に横たわりながら 私はずっと考えている どうすればこの人たちに 私を囲んでいる人たちに まだこの世にいることを 私はまだここにいることを 伝えることができるのか 私はずっと考えている 動かぬ指を動かすか 動かぬ瞼を動かすか ああ疲れたな 少し休みたいけど どうやって伝えようか 私がまだここにいることを 2009.7.5
祝橋 この橋で人と会ったら たとえ見知らぬ相手でも 目出度い会話を交わします どんなことでもいいのです 今日は晴天で目出度いですな 山吹きが咲いて目出度いですな 魚がはねたよ目出度いなあ また会ったね目出度い目出度い あんまりたくさん言ってると 有難みがなくなるですって? そんなことにはならないでしょう 橋の上のほんの些事ですから 2009.7.4
グランド・キーパー 誰かが見ているわけじゃない 声援をくれるわけでもない 派手な演出だってない 賞金を手にすることもない それでもひとつの誇りをかけて 見えない相手と戦っている だからといって勝つことだけが すべてというわけではない 親のような寛い心で 赦し認め合わねばならない こうして良い舞台が保たれ こうして英雄が生み落とされる 今夜はいい満月だ 照明もいらないほどに 2009.7.3 赤い爪 ひとつ飛ばしで 駆け上がる女は そうそういるもんじゃない わかっているだろう? 自分がよくわかっているさ 白けた眼差し 白けた溜め息 赤い爪さえ今は どこにも見当たらない 息を切らした感覚を 取り戻しに行かないか くだらない思い出は あとがきにしたためて 赤く火照った指先で はじく女になるがいい 2009.7.2
カブトムシの追想 フクロウにやられちまった 腹をそっくり食われちまった 思えば虫の王様などと もてはやされたものだから 調子に乗ってずかずかと 吸いたいだけ蜜を吸い ああそこからは覚えてない 気がついたら落ち葉の布団 飛び去る影の後姿 六本の脚は宙を掻き 次第に薄れゆく意識 わたしの腹を返しておくれ わたしの腹を返しておくれ 家族の下に行かせておくれ 最後の別れを言わせておくれ 2009.7.1

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