■ 詩的ぶるぅす ■
2009年06月
〜末日 〜20日 〜10日



田園の外れで 風はない 人はない 低い雲 露の道 月はない 花はない 暗い夢 万の夜 けろっとひと声 ないてみた 風はない 人はない 万の夜 こだまする 2009.6.30
空中讃歌 どこにも巻きつけず どこにも絡まれず あてもなく空(くう)を進み 空の中で絡まると 容赦なく鉈(なた)が飛び ばさりばさりと音を立て あてもなく伸びた時を 瞬く間に落ちてゆく 哀しいことかと思いきや 空を崩れてゆく様は あてを見つけたかのように 勢いにその身を任せ 喜びさえも感じられ 渡り鳥に手を振りつつ 湿った土は黒い色 2009.6.29
溺れる手 早く気づいてくだしゃい その手を離してくだしゃい 息ができまっしぇん 息をさせてくだしゃい 水しぶきが見えましぇんか 口からのあぶくが見えましぇんか 押さえた手が麻痺してましぇんか それともすべてわかっているですか お前さんも化け物になるですか 力を持っているがゆえの化け物に 顔は愛嬌をふりまきながら 下では生身のヒトを踏む いやじゃいやじゃいやじゃ わっしはあんたが好きなんじぇ どうか早く気づいてくだしゃい 半分化け物になった手と足に 2009.6.28
底引き網 靴が脱げる者 ネクタイが曲がる者 髪が引っ張られる者 窒息寸前の者 すでに失神した者 娘の名を呼ぶ者 隣の子供をかばう者 意図せず人を踏む者 意図して人を踏む者 底引き網は 一網打尽に 膨らませながら 過ぎてゆく 2009.6.27
硝煙 一番星を射ち落として 家まで持ち帰ったらさ 灰の塊みたいになって 光なんてどこにあるか 真ん中の辺りには 弾の跡が残っている どうしても手に入れたくて 射ち落とした一番星 手に入った途端にもう 一番星ではなくなった 元に戻そうと思ってさ 夜の空に投げたんだ くるくると弧を描き 地面の上で音を立てた ばらばらになった灰の上で 星々が冷たく光っていた 2009.6.26
シカのフン ほしい ほしい ほしい ほしい ほしい ほしい ほしい ほしい そればかり 言ってたら シカのフンに なっちゃった 2009.6.25
ナメクジ いらない いらない いらない いらない いらない いらない いらない いらない そればかり 言ってたら ナメクジに なっちゃった 2009.6.24
ハイエナ・ジェット 誰にも負けない ハイエナになるのさ わずかな臭いを嗅ぎつけ ジェットのようにかっさらう 嫌われものであることに 変わりはないだろうから 嫌いと思う間もなく 駆け抜けてやるんだ しなやかに 素晴らしく あきれるほど 美しく 捕まえられるものなら 捕まえてみるがいい ハイエナ・ジェットは 誰にも負けない 2009.6.23
軟体生物になれない 音楽を聴かなくたって お芝居を観なくたって 海を見に行かなくたって 蛍を見に行かなくたって 生きていけるのだけれど 生きていけるのだけれど そんなことでもしなければ そんなことができないならば 生きる意味を見つけられず 生きる価値を見い出せず 地面を這う蚯蚓(みみず)のようには とても前に進めやしない 2009.6.21

可哀相な人 わたしのカラダに 触るんじゃないよ 赤の他人になど 爪の先さえ許さない ほらほら気をつけな 服の袖があたってる 不景気な顔してさ 早く引っ込めなよ 可哀相な人 誰も触(さわ)れない 可哀相な人 誰にも触れない 2009.6.20
ホタルの病 さあボクと 一緒に飛ぼう 良かったら 仄かに答えて       いるいるいる       飛んでる飛んでる       とれとれとれ       暗いぞ暗いぞ 良いのかい どうなんだい ああおかしい くらくらする       あれあれあれ       うまくとれない       このこのこの       これはどうだ 2009.6.19
嘘みたいな本当の詩(うた) 自分の知らない 誰かが死んだ 自分の知らない 誰かが死んだ 自分の知らない 誰かが死んだ 自分の知らない 誰かが死んだ 知らない誰かが 知らない誰かが 知ってる誰かが 知らない誰かが 嘘みたいに 死んでしまった 2009.6.18
鈴のね ちりぃん ちりぃん わたしの中で かなしく響く 誰かといると 音は紛れて それはほとんど 聞こえないけど ひとりでいると 確かな音が わたしの中に 聞こえてくる ちりぃん ちりぃん ひとりでいると かなしく響く 2009.6.17
踊れスコール ざらざら ざらざら スコール ざらざら つもりに つもって 一気に スコール 踊るよ 踊るよ 地面が 踊るよ ざわざわ ざわざわ こころも ざわざわ 踊れスコール 波打つままに 2009.6.16
マジシャンと箱 マジシャンが 河原に下りて 箱を置いて 姿を消した 河はさらさら 流れていた 葦はさらさら さやいでいた すると箱から 白い鳩たちが 次から次へと 飛び立った 何羽も何羽も 何日も何日も 箱の中から 飛び立った 夢の国の 噴水のように 2009.6.15
ふほう わらわら走って わらわら転んで わらわら泣いて わらわら笑って いつの間にやら こうなりました ふほうふほう これだこれだ これがいいんだ いつの間にやら これがいいんだ ふほうふほう ぼくのふほうを 申し上げます 2009.6.14
空の煙突 空の煙突が消えた どこを探しても見つからない みんなに愛されていた煙突 みんなのシンボルだった煙突 申し訳ない程度に煙を吐き ただもくもくと立ち働いていた 今はもうどこにも見つからない あったとしても空にはない 新しいという名の怪獣が 空に集まり騒ぎ出すから かきわけてかきわけてようやく 見つけることができる 煙突が一体何をしたのか 申し訳ない程度に煙を吐き ただもくもくと立ち働いていた 今はもう空に見つからない 2009.6.13
空想建築 家を建てて 出来上がったときを 理解したとする 理解するとは 家をひとつひとつ 建ててゆくこと 感じるとは 家を十戸 家を百戸 一度に一気に 建てること 形さえも 気にせずに 速さの違い 形の違い 理解すること 感じること 2009.6.12
栗花落(つゆり) 花は落ちる 雨の重みに 耐えかねて 花は落ちる 空の重みに 耐えかねて 花は落ちる 恋の重みに 耐えかねて 2009.6.11

運の産業者    運は 使い果たして構わない    また つくり出せばいいのだから    また 2009.6.10
死んだ蚊 仰向けに 死んでいる蚊の 脚を見よ 絶望と苦悩と 悪魔に呪われた 憐れな国王のように 硬くこわばって 天に突き刺している その脚を見よ 俺は こんなふうに 死にたくない どうせなら 手と手の間で 擂り身になって ただの染みになって 死にたい 2009.6.9
男と女のヒント 男は いつまでも いくつになっても 男の子 女は いつまでも いくつになっても 女の子 2009.6.8
子グモ 一丁前に 尻から糸を 出しやがる 俺は未だに 己に迷い 嘆いているのに お前はすでに クモであり お前はすでに お前であり ここまでくると 腹が立つよりも 敬服してしまって 狙いすました手も 止まってしまった 2009.6.7
白湯(さゆ) ただのお湯だと きみは言う 右手で掬(すく)ってみせるのは 桶に張られた ただのお湯 右手が濡れたその時から きみの右手が濡れた時から ただのお湯は ただのお湯ではなくなった 右手からこぼれ落ちたそれは 桶の上とぼくの上で 幾つもの丸い輪になって 広がっていった 2009.6.6
大きなツバメは箒が嫌い ツバメは大きくない方がいい 大きなツバメが軒下に 巣をつくったら大変だ きっと誰もが箒(ほうき)か何かで 追い払うに違いない かわいい小さなツバメになあれ 誰もが愛するツバメになあれ 2009.6.5
起き上がれない小法師 起き上がるということが 当たり前だと思われて もしも起き上がれなければ どうなることかとおののいて 倒されるたびに緊張し 起き上がるたびに安堵をし 倒されるたびに緊張し 起き上がるたびに安堵をし いつまでこれが続くのか 考えただけでも恐ろしく 恐ろしく恐ろしく恐ろしく ふつと起き上がれなくなりました わたしの仕事は 起き上がり小法師(こぼし) 起き上がるのが仕事 起き上がるのが仕事 2009.6.4
根曲がりの樵(ぶな) 元々ななめの土地に生え 真っ直ぐなことに恋焦がれ それでも大地に育てられ いろんな恵みに育てられ 深い雪の重みに耐え 厳しい風の洗礼に耐え いつしか立派な体をなし びくともしない体をなし みてくれはたとえ悪くとも たやすく倒れることはなく 育ててくれた大地には その根をもって還元し 育ててくれた恵みには その体すべてで還元す 2009.6.3
空っぽの宝箱 宝箱を買ったんだ 玉虫色の宝箱 いろんな色に輝いて とってもきれいな箱なんだ 朝の光に昼明かり 夕日のあとのランプの火 一度見とれてしまったら 時間を忘れてしまうんだ だけど中には何にもない ずっとずっと何にもない 空っぽの宝箱 ぼくには宝が何にもない 玉虫色の宝箱 振っても何も音はない 2009.6.2
進んで止まってまた進め 手にしている一本の旗が 垂れ下がったままでいる いまはそう 風の無いとき これまで随分進んできた いまはそう 風の無いとき 進めばまた風になろう 進むより前に 風が起こるやもしれぬ いまはそう ただ風の無いとき 2009.6.1

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