■ 詩的ぶるぅす ■
2009年05月
〜末日 〜20日 〜10日



クマゼミ はたして熱気であったのか 吹き出る汗であったのか まるでわからなくなるほどに クマゼミの湿った合唱が もあんもあんと降り注ぎ 体中に貼りつくと 稲佐山の中腹の 樹蔭の夏を思い出し あなたの右手の抜殻が アブラゼミと名付けられ 木漏れ日にそれが輝けば クマゼミのものであることを 心の内に秘めたまま ついに言えずに夏は過ぎ いつまでもこうして手の上で もあんもあんとないている 2009.5.31
二枚のビスケット わたしの左手には 二枚のビスケットが乗り 乗せたひとはというと なんの屈託もなく なんの腹案もなく ただの真心であった ただの真心! 幾度か復唱してみる ただの真心! ただの真心! 二枚のビスケットは ほどなくわたしの口へ 運ばれていった 2009.5.30
五種目を終えて 百メートル走と違うところは まるでゴールが近づかないことだ 走り幅跳びと違うところは まるで地面が近づかないことだ ハンマー投げと違うところは まるで重さをもっていないことだ リレー競争と違うところは まるで誰も待っていないことだ マラソンと違うところは まるで沿道の声援がないことだ 陸上競技と違うところは まるでリタイヤなどできぬことだ 2009.5.29
歳輪賀 年が経つほどに 年が経つほどに 輪は広まり 輪は広まり 喜びの輪となり 喜びの輪となり 穏やかに広まり 穏やかに広まり 歳輪賀(としわが)となり 歳輪賀となり 2009.5.28
あめつちにおい はえる はえる ぢめんが はえる もりもり もくもく もりもり もくもく はだかの ぢめんが いろめき ときめき はえる はえる ぢめんが はえる 2009.5.27
焼きたてのパン 両腕の無い兵士が言った きみたち 生きていて楽しいか? おれはもう 楽しむことはできない その代わり 毎日が新鮮だ ここには 焼きたてのパンや もぎたてのトマトもある 一緒に暮らす人もいるからな 2009.5.26
夢の中身は儚く消えて どうかおこらないで 忘れてしまっても 覚えていなくても どうかおこらないで 良いことに限って 忘れてしまうもの 悪いことに限って 忘れられないもの 忘れてしまったのは きっと良いことだから どうかおこらないで きっと良いことだから 2009.5.25
阿修羅 あなたは何思う 泡のように渦巻く この夥(おびただ)しい魂 息もできぬ私は 泳げぬはずの体を 一心に動かし あなたの顔をちらと 掠め取りながら 魂の間を泳ぐ 途端に辺りは一変 魂は霧になって するりと流れていた あなたは霧の上に立ち まっすぐ見つめたままで ただ静かであった 2009.5.24
大きなユリノキ 発信するとき 下から 上へ 大きなユリノキ 下から 上へ 発信している 受信するとき 上から 下へ 大きなユリノキ 上から 下へ 受信している 2009.5.23
左手の花束 花束を贈れるひとになりたい 照れ屋で 不器用で 意地張りで 勝ち気で 逃げ腰で どうしようもない こんな自分が 花束をもらうなど もったいないほど だからあなたへ あなたへも わたしは 花束を贈れるひとになりたい 2009.5.22
青いひと 氷を身に纏った人間が そこかしこに溢れている ギラギラと青く光っては たまにぶつかり合っている 表情さえ凍りついた男が こちらをギロリと見て通る ああ恐ろしい世の中だと 思わず顔を手で覆うと その手は青く光っていた うろたえて鏡の前にゆき 映し出されたその姿は そこかしこに溢れている 氷の人間そのものであった 青い氷をつくっていたのは わたし自身に他ならなかった 2009.5.21

性(さが)と馬鹿は同じもの 黙って考え事をしている時は どうかそっとしておいてくれ 自分と向き合っているのだ 自分と勝負をしているのだ わかってくれなくてもいい どうせ大したことではない だけどちっぽけなことに 勝負を挑んでいるのだ これは男の哀しい性 これは男の愛(いと)しい馬鹿 だからどうか微笑んで 見守っていてほしいのだ どうでもよくなったわけでもない まして嫌いになどなっていない 哀しい性と愛しい馬鹿 ただ単純にそれだけだ 2009.5.20
舞台に上がるのは一度きり この舞台を降りられるのは たったの一回きりである 一度降りたらもう戻れない 背景は絶えず回り続ける 登場人物は替わる替わる 演技したければすればいい 踊りたくなったら踊ればいい ここでは何をしても許される 背景は絶えず回り続ける 演技に失敗しようとも 踊りに転んでしまっても 背景は決して止められない それでも恐がってはならない 転んだらまた起き上がり 同じではないが同じ様な事を 何度も踊ることができる そして背景は回り続ける 2009.5.19
いい器のつくり方 うじうじしてちゃ いい器はできません うまくいかないからと 同じところをぐるぐるぐる へったくそでも構わない まずは仕上げてみることです 仕上げまでをぐるぐるぐる これがいい器になります。 やはり物事というのは 全体を知らにゃなりません いい器をつくるにも いい器をつくるにも 2009.5.18
些事(さじ) 井の中の蛙(かわず) 大海を知らず 大海の鯨 宇宙を知らず 宇宙のうみ蛇 井の中を知らず 井の中の蛙 宇宙を見上げてる 2009.5.17
びっこ 本当はね どこも痛くないんだ 痛いふり 痛いふり だってこうでもしないと だあれも見てくれない 痛いよ 痛いよ ふふふ 見てる見てる 痛いよ痛いよ 痛いんだよ どうしたのかな ほんのさっきまで みんな見てたのに どうしたのかな だあれも見てくれない 2009.5.16
だるまさんがころんだ だるまさん だるまさん いつまでそうしているのさ 日が暮れてしまうよ ずっと立ったまま 動こうともしない だるまさん だるまさん ずっと動かないのかい それとも動けないのかい ころんでしまうのが恐いかい それとももう だるまさん だるまさん もうやめちゃったのかい 2009.5.15
衣 人の悩める姿を見る 解決の糸口を手繰り寄せる わたしの弱さを縫い合わせる それでのうのうと暮らしている 人の糸口を拝借している いつかそこかしこほつれてくる わたしの弱さは再び剥き出す わたしは自ら紡がねばならぬ 自らの糸口から紡がねばならぬ 自らの血肉にしなければならぬ わたしが姿を見せねばならぬ 悩める姿を見せねばならぬ そうしておいてやっとである やっと糸口を人にあげられる 2009.5.14
抱くが一生 親を抱き 人形を抱き 好きな人を抱き 我が子を抱き そしてまた 親を抱き 2009.5.13
辛夷 春になると時が止まる 白い辛夷(こぶし)の花が咲く まるで雪が降るように 咲き乱れる花びらは 舞い落ちるわけでもなく きみの空に浮いたまま その白き情景はまるで 時が止まったかのようだ きみは何も知らないで 花の香りを嗅いでいる もう少しここにいようか きみは知らずに微笑んだ 2009.5.12
解剖 さあ どうだ? よく見えているか? 心臓は動いているか? まったくお前らは どこまでも知りたがる 知らなくていいことまで 知りたがるものだから ますます頭を抱えて 不撓不屈(ふとうふくつ)の精神か? まったく結構なことで どうだっていいけれど 見終わったらちゃんと 元に戻してくれよ 2009.5.11

雨垂れ 雨垂れが岩を穿つようにしか 生きることのできない男です したがって 晴れる日が多いとかえって 打ち込むことができないのです ひた ひた ひた と打ち込めないのです 2009.5.10
終わりのない花道 花道が伸びている 花道が続いている みんな見送ってくれる みんな手を振ってくれる 本当は避(よ)けていたいんだ 終わりにしたくないんだ いつまでも悪あがきを どこまでもしぶとさを 終わりのない花道を 終わりじゃない花道を 2009.5.9
あなたはだあれ ゾウは ゾウの姿をしているから ゾウである カメは カメの姿をしているから カメである クジャクは クジャクの姿をしているから クジャクである カメレオンは カメレオンの姿をしているから カメレオンである ヒトも どんな姿をしているかで 決まることがある 2009.5.8
ひと息ついて刷毛雲を見て あとどれだけ往(ゆ)くのだろう 果てしないようでもあり すぐそこのようでもあり あとどれだけ苦しいだろう 果てしないようでもあり すぐそこのようでもあり あとどれだけできるのだろう 果てしないようでもあり すぐそこのようでもあり あとどれだけ生きるのだろう 果てしないようでもあり すぐそこのようでもあり 2009.5.7
海が見えた車窓から この一筋の畝(うね)は 茫々(ぼうぼう)と海沿いを走り 盛り上がり具合はまるで 鮮烈な蚯蚓(みみず)腫れが 体に残ってしまったようで 痛みも痒みも無いのに 疼(うず)くような熱さがまだ 一筋の中に残っていて ほんの数えるほどの季節 この上をどれほどの眼差しが 走り抜けていったかと想うと 見えない車窓からわたしも 眼を細めてしまうのです 2009.5.6
青柏祭(せいはくさい) そら曳け そら曳け わっしょい わっしょい どんどん 曳け曳け わっしょい わっしょい さあさあ 来た来た 曲がり角に来た ここは任せろ えいやっほう おっとあぶない ふり落とされるな いった いったぞ よろこべ さけべ そら曳け そら曳け わっしょいしょい 2009.5.5
人気(ひとけ)のない海辺の家で 今を越えた瞬間から 建てた家は古くなる 広げた庭は古くなる 植えた花は古くなる 描いた理想は古くなる 古くなる 古くなる 古くなるのが建てる家 古くなるのが広げる庭 古くなるのが植える花 古くなるのが描く理想 それらを先見の明と呼ぶ 2009.5.4
小綺麗な下のつちのこえ びふう ぶふう 全然息が出来ません びふう ぶふう 微かにできるみたいです うん万年も昔から 裸でくらしていたのです 羽虫をはたき落とすように あっさり蓋をされました びふう ぶふう 水に潜ってみてください びふう ぶふう だんだん苦しくなるでしょう? びふう ぶふう びふう ぶふう 小綺麗がそんなにいいですか このこえ聞こえはしないですか 2009.5.3
のっぽの木 歓迎されない大きな木 どんなにおいしい実をつけて どんなに木蔭をつくっても 歓迎されないそれだけで 実は虚しく下に落ち 木蔭は暗く生い茂る 歓迎される木になって 喜び分かつ実をつけて 木蔭で涼み語らって どうすればなれるでしよあう 歓迎される木になりたい 歓迎される木になりたい 2009.5.2
短剣の使い方 短剣は 突き立てて 使うものではない ましてや 切りつけて 使うものでもない 剣先を 軽く当てて 撫でるように 辷らせる 痕がつくか つかないかの ああ 加減で 辷らせて 使うものだ 2009.5.1

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