■ 詩的ぶるぅす ■
2009年04月
〜末日 〜20日 〜10日



レイド きみはなんて凛々(りり)としているのだろう 美しい青き瞳は何事にも動じない ときに力強く立ち振舞い ときに切れ味鋭く立ち回る ただ逞(たくま)しいだけではない 奥ゆかしいほどの繊細さ 四つもの心臓を持つはずが わずかな心の狂いによって あれほどに凛々しかったものが すべて崩壊してしまうのだ おお愛しいレイドよ もはやわたし無しでは お前はお前を保つことさえ 出来なくなってしまったのだ 2009.4.30
棋士 棋士は将棋盤の上を歩く 隅から隅までひたすら歩く 過去に通ったところから 道順まですべて辿ってゆく それは尋常な速さではない とてつもなくとてつもなく速い いったい地球を何周分か 彼らは歩いているのだろう そうして隈なく歩き回り ようやく次に手がかかる 実に果てしない旅路だ 審査員はもはや宇宙旅行 参りましたの声さえも 銀河の彼方に消えてゆく 2009.4.29
無駄がないとは 無駄がないとは ぼうっとしないことである おしゃべりしないことである おやつを買わないことである ぶらぶら散策をしないことである 魚の骨蟹の甲羅まで食べることである 隙間なく飴玉を敷きつめることである 休まぬことである 眠らぬことである 考えぬことである 疑問を持たぬことである 命令に背かぬことである 無駄がないとは何でしょう? そもそも人は無駄の化身でしょう? 上手につき合いましょう? 上手につき合いましょう? 2009.4.27
双頭の鷲 どちらかの頭が眠っていても どちらかの首がはねられても 羽ばたくことはできぬ 二つの頭が揃わねば 羽ばたくことはできぬ 二つの頭が揃ったから オーロラのような翼は 軽々と大空を掴み 振り落とした羽根々々は 多くの生きとし生けるものの 内側へと入ってゆき 彼らをもまた大空へ 舞い上がらせてしまうのだ 2009.4.26
恩の種子 恩は種子のようなもの その種子はとても丈夫 石で叩いても割れない 砂漠に放っておかれても平気 ずっとずっと形をとどめる 芽を出さずにじっと待ってる 雨がしとしと降ってきて あるいはどって降ってきて 種子に潤いが宿ったら ひょっこり芽が出て根が伸びて するする立派な樹になって ようやく果実が実るんだ いつ芽が出るかわからない そんなものだよ恩の種子 2009.4.25
若葉 たとえば隕石が降ってきて あるいは岩石が降ってきて あるいは大木が降ってきて あるいは鉄塊が降ってきて 一瞬にして僕は枯れ葉になり こんなあっけなく終わるのかと 思う間もなく枯れ葉になり ただ形があるばかりで ぼろりぼろりとそれも崩れ去り いったい僕はなんだったのだろう いったい僕はなんだったのだろう そう思える時間を いまはただただ 延ばしているのが いったい僕がなんなのかの いまの答えなのかもしれない 2009.4.24
恋愛バー お一人様ごとにご注文ください お替わりは自由です ホットとアイスがございます 混雑時の恋愛バーのみのご利用は ご遠慮いただくことがございます 何卒ご了承ください 2009.4.23
蛆虫 みにくいみにくいアヒルの子 成長したら白鳥でした きれいなきれいな蛆虫は 成長しても蝿どまり 蛆虫のような人間に なりたかったわけじゃない 蛆虫のような人間は きれいなわけでも何でもない 魚に食われてしまったら どんなに良かったことでしょう このまま生きてゆく果ては 蝿になるよりないのでしょう せめて立派な蝿にでも せめてきれいな蝿にでも なってみようと思います 蛆虫なりに生きてみます 2009.4.22
腑抜けた恐竜 のんべんだらり のんべんだらり だってなんにも やることないもの 食べ物なんて 手を伸ばすだけ 水浴びなんて ちょっとひねるだけ それでこと足りる のんべんだらり 地上の王様 外敵はいない のんべんだらり のんべんだらり 腑抜けた恐竜 化石でポオズ 2009.4.21

掬水(きくすい) 湧き水を 両手のひらで 受け取れば ひんやり冷たい やさしいいのち つつつつと 神経を伝い 幼い記憶へ しみ出ていって じんわり浸す 思い出した わたしはずっと 愛されていた 手の水に口づけ いのちと繋がった 2009.4.20
床磨き ピカピカに床を磨いて ほら顔が映るほどに だけど今日は雨の日で 人が通ると波打った ピカピカに床を磨いて ほら氷を張ったように だけど今日は風の日で 人が通ると波打った ピカピカに床を磨いて ほら大きな水晶のように だけど今日は砂の日で 人が通ると波打った それでも磨かぬ日はなくて ほんの一瞬でもピカピカに ピカピカが一瞬だとしても わたしはやめるつもりはない 2009.4.19
おとなのあやし方 いない いない ばあ いない いない ばあ いない いない いない いない いない いない いない いない いたい いたい いたい いたい ばあ 2009.4.18
ぼっくいと歯形 フクロウが寝床へ入り アサガオが目を開けた頃 きみはようやくその体を 微睡(まどろ)みへと引き渡した ほんのさっきまではまるで 蛇がぼっくいに咬みつき まったくの虚しい歯形を 食い込ませているように いつまでも断ち切れぬ未練を 部屋の中へ燻(く)ゆらせていた 太陽がカーテンを浸し始めて 白い絵の具が垂れ出すと くっきり見えていた絶望の 輪郭はぼかされてしまって こうやって人は騙され続けて よちよちと歩いてゆくのだ 2009.4.17
うらぶれ食堂の店主 仙人のような舌があれば 国王さえもうなるに違いない 阿修羅のような腕があれば 世界の美食家も通うに違いない 広重のような色感があれば 画家たちも集まってくるに違いない 仏のような境地に達すれば とめどもなく涙を流すに違いない わたしはただのうらぶれ店主 客のない日は犬猫に食わせる 夢を見るよりメシを作れ 作りたくとも客は来ず せれでも正直にやるしかない それがわたしの生き甲斐だから 2009.4.16
ボロギク きみはいったい どこからきたんだい? なにをするために そこに生まれたんだい? ギザギザしてて なんだか図太くて でも中身はがらんどう なのに黄色く輝いて どぎついほどに輝いて あんまりどぎついものだから ぼくはきみを消した ぼくはきみを消した それなのにどうして またきみは現れる またきみは現れる きみが強いのだろうか ぼくが弱いのだろうか 2009.4.15
見て見ぬふりは罪か 見て見ぬふりは罪か 手を差し延べぬは罪か ならば百合の花はどうだ 見て見ぬ素振りではないか 神の使いの鴉(からす)はどうだ そっぽを向いてばかりではないか 魚の群れはどうだ 仲間より鯨を見ているではないか わかっている わかっている 見て見ぬふりは罪ではない 手を差し延べぬは罪ではない わかっているのになんだ? 胸をえぐるような痛みはなんだ? 百合よ 鴉よ 魚たちよ! 2009.4.14
カメレオン カメレオンは嫌いか? 都合のいいように 周りの色に変える カメレオンは嫌いか? 残念ながらあんた 人は少なからず誰も カメレオンの性質をもって 生まれてきてるんだ 口汚い噂話や 甘い汁をすする話に 眉ひとつ動かさず きっぱりと席を立てるか? 残念ながらあんた 俺もまだカメレオンだ 長い舌を口に隠して 眼をぎょろぎょろさせている 2009.4.13
包み込むように 中心はどこだ? さあおとなしく出てこい ややや 姿を現したな 逃さんぞ中心 おいこら どこへ行く? そっちへ行くな だめだだめだ 戻るんだ 中心は真ん中 少しでもずれたら 中心じゃない 待てこら 戻れったら 2009.4.12
ショート・フィルム 朝 すこぶる良い天気 目覚めも悪くない タイトルはそうだな いとしのエリーまできたから 「エリーに会えた日」 夜 登場した出演者たち なかなかそうそうたる顔ぶれ お蔭で難問題を解決 依頼人もすこぶるご機嫌 エンドロールはゆっくり流れる こうしてわたしの ショート・フィルムのような 劇的な一日が平凡に終わる 2009.4.11

最後の恋文 花びらが二枚 降りてきた 真実というものが 人の心を震わせるなら 花びら二枚の この真実だけでも あなたに伝えれば 届くのかもしれない 淡い色の勇気しか 持ち合わせていない わたしからあなたへ 2009.4.10
丸い日差し 素手でトンネルを掘りました 逃げたかったのでしょうか 隠れたかったのでしょうか 逃げたかったとすれば 何から逃げたかったのでしょう 隠れたかったとすれば 何から隠れたかったのでしょう しかし押さないわたしの手では 砂場の砂山のトンネルを 開けるのが精一杯でした 丸く見える向こう側が 別世界のように思えました わたしが望んでいたのは 別世界だったのでしょうか 春の日差しに汗ばみながら わたしは今を歩んでいます 2009.4.9
タップ・ダンス 男は無言だ 言葉は要らない 誰だって寂しい だから伝える 寂しさを伝える そして振り向く スポット・ライト 響くリズム その音にはもう 寂しさはない 男は無言だ 言葉は要らない 2009.4.8
息継ぎの合間に なぜ命は大切と叫んでいるのだろう? なぜ生き物を殺してはいけないのだろう? なぜ人はそれが当然と答えるのだろう? なぜ人はそれでも殺してしまうのだろう? この世に生を受けるもののすべては 吸っては吐き吐いては吸い 吸わねば吐けず吐かねば吸えず 川に押しつけられた水車のように 回り続けることから逃れられず 命が大切かどうか考える間もなく 目に見えない水車に載せられて ぐるぐるざぶざぶと繰り返し きれいごとだけではないかもしれぬと 薄々感じ始めてしまったもねだから とても軽々しくは口にできないのだ 2009.4.7
祝 おぎゃあ ライオンの子が産まれた おぎゃあ イルカの子が産まれた おぎゃあ ナナフシの子が産まれた おぎゃあ ビカソの絵が産まれた おぎゃあ 黒田節の唄が産まれた おぎゃあ ぼくの中からぼくが産まれた おぎゃあ 明日もどこかで何かが産まれる 2009.4.6
細波 樹の幹の欠けたところに 甲虫どもが寄り集まって 埋め尽くしてしまうように 洞窟の天井の欠けたところに 蝙蝠どもが寄り集まって 埋め尽くしてしまうように 思い出の砂浜の欠けたところに 細波どもが寄り集まって 埋め尽くしてしまうように 戦いの大地の欠けたところに 慈しみの雨が寄り集まって 埋め尽くしてしまうように どこかが欠如すれば なにかで埋め尽くされる だからわたしはこうして 形を保っていられるのだ 2009.4.5
青い椿 どこからか集まってきた水は いつしか深い青を湛えて わたしの中の底の底を 小さな渦をつくりながら 命の果てまで流れてゆき 恐ろしく冷たいこの河が 恐らくわたしの源で いくら熱い湯を浴びても いくら熱い茶を飲んでも 温まらないのはこのためで だけど悲しいことはなく 冷たい手足をさすりさすり 落ちたばかりの椿にさえ まだわずかに帯びた熱を 感じることができるのです 2009.4.4
黒翅 ひらりと突然 それはやって来た 美しい黒翅(くろはね)の カラスアゲハ一頭 右のまつ毛にとまり 蜜をすすった カラスアゲハはそのまま ぼくの右眼になり いつまでもひらひらと 目の中を舞った 追いかけようにも 追いかけられなかった ぼくは右眼を 閉じるしかなかった けれどもそれは 心地良い諦めだった 2009.4.3
渡り鳥の春 きみを急き立てるのは何だ きみを突き動かすのは何だ ぼくがどんなに押さえても 振りほどいて行くのだろう ぼくがどんなにうなだれても 構うことなく行くのだろう ならば見送ってやろうではないか 心置きなく行ってもらおうではないか もう悲しい顔なんてしない もうきみを困らせたりしない だけどその代わりに 必ず帰って来いよ どんな困難にも打ち勝ち 必ず帰って来いよ 2009.4.2
花枕 なんでもないのです なにをするでもないのです ただここにこうして 仰向けに寝転んで 満開な淡い光と ほのかな匂いをかいで うとうとほかほかと 寝転んでいるだけです それだけでいいのです 今日はもういいのです あなたも横になりなさい 疲れも和らぐことでしょう 2009.4.1

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