■ 詩的ぶるぅす ■
2009年03月
〜末日 〜20日 〜10日



春の雲 荒寥(こうりょう)とした地は ひどくわたしを小さくし 行けども行けども 足跡は土煙に消え 目ん玉でさえも 水をくれとのたまい ようやくここへ帰りつき まず目にまぶしかったのは どっぷりと灰色を含んだ やさしい春の雲であり あなたが植えた雪柳は しっとり雨に濡れ散って わたしの心をどんなにか 潤わせたことだろう 2009.3.31
春の芽覚め 終わりのどこかに 次が芽を出していて 朽ちたと思っていた枝から 剥き出しの若葉が生え 断ち切られたはずの切り株から にょっこり新しい顔が見え もしかしたら自分にもと 膝の裏や脇の下などを探し なんだやっぱりないじゃないかと 舌打ちしそうになるのだけれど 目に見えぬ所に 次が芽を出していると そんなふうにも思えてきて ひとりにやにやするのであった 2009.3.30
もうひとつの東京タワー 地面に丸を描いて これが東京タワーのてっぺんだと 片足で立っていると みるみる地面がせり出し 家の屋根を超え うっすら雲を超え 飛行機が間近を飛び 星に手がかかるかという頃 東京タワーが完成して 昼には太平洋を眺め 夜には足元が輝き 他の人には出来ないことを やっている気になっており ただどのように下りたらよいか 誰に助けを求めるでもなく ずっとしがみついたままでいる 2009.3.29
潜水 ぼくは息を止める 魚のような影になる ぼくは息を止める 影は魚ではない 困難はいずれやって来る 苦しくなる時がやって来る 水底は思ったより明るい 流れは想像よりきつくない ぼくは息を止め続ける 影はいつか魚ではなくなる ぼくは息を止め続ける 魚のような影である限り 2009.3.27
個包装 生まれたての赤ん坊が 個包装されてゆく 誰もが疑念を抱きつつ 誰もが自ら選択する 時代が変わったのさと 二千年前と同じ顔が笑う 個が大事ってどういうこと? 他を知らない個が惑う 分断すればいいのだと信じ 断機のように震えている 手術用の手袋をはめて 病原体を扱うかのように 泣きじゃくる赤ん坊が 個包装されてしまうと けたたましい泣き声も 閉じ込められてしまった 2009.3.26
にごり わたしたちは にごりの中にいる 人ごみ 雑念 ほこり 思惑 お茶 味噌汁 焼魚 煙突 多少のにごりは 平気なんだと思う 2009.3.25
自己暗示 ああ なんて 素晴らしい日だ ああ なんて 素晴らしい日だ ああ なんて 素晴らしい日だ 今日は なんて いい日だろう 今日は なんて いい日だろう 今日は なんて いい日だろう 2009.3.24
つまらん人間の小言 ああ つまらん つまらん 相手を批判するだけで 相手を詰(なじ)っているだけで 自分を慰めようとし 自分をかわいがろうとし ああ つまらん つまらん まるで小獣かそれ以下の いじけた惨めな小さい心 なんの賞賛にも値しない なんの感動も呼びはしない 少年よ 少女よ 偉くならなくてもいい 自分の心の宇宙を広げよ つまらん人間にはなるな 2009.3.22
感知装置 わずかな揺れも 感知します ほんの震えも 感知します あまりに揺れが激しいと 壊れてしまうとお思いですか? 心配は要りません 予め衝撃を予想して 直前で感知機能停止 基準値以下になったところで また元の状態に戻ります 危険回避機能あっての 精密感知装置なのです そんな人間もいるのです 2009.3.21

まじない いたいのいたいの とんでゆけ いたいのいたいの とんでゆけ とんだらどこゆく いたいのは どうかじょうぶつ しておくれ それならいたいの とんでゆけ 2009.3.20
いきがらず いきがってる いきがってる 坊っちゃんまだまだ 青いね青いね 男たるもの 男たるもの いきがらず いきがらず 見かけ倒しは 犬も食わない 2009.3.19
パルメザン 食いものの恨みは恐ろしい じわじわと人を蝕(むしば)んでゆく 幼少からこの恨みを買うと とり憑かれたように肉がつく 一度とり憑かれると憐れ 祓い除けるのは容易ではない ありとあらゆる食いものに パルメザンチーズをかけていたら よくよく注意せねばならない 食いものの恨みの前には 人はまるでなす術もない 肝心なのは日頃の感謝 食いものへの感謝しかない このパルメザンの教えは 人の生の根本をなすだろう 2009.3.18
共同溝 あっちらこっちら おのおの思い思い 掘れるだけ掘って 好きなだけ掘って 侵入しているだの 割り込んでいるだの いさかいいがみ合い 張り合い押し合い 共同溝ができるのは 当然の流れであり 共同溝もまたいずれ もめごとになろうが とどのつまり僕らは 繰り返しの生き物だ 2009.3.17
視界不良 腹立たしいことや 気に入らないことや ときにはもしかしたら 殴ってしまいたいこと たくさんあるかもしれない だけどそれはもったいない 消耗するだけ消耗して 壊れるだけ壊れて いったい何が残るのか 自分ひとりの腹立ちは 自分の中で折り合いを うまく折り合いつけれたら 気も安まることだろう 自分の視界も明るくなり 遠くの景色も見えるだろう 2009.3.16
地面の下からこんにちは 土の中でしばらく 息を止めていたら ある日突然に 硬くて黒い蓋が 覆いかぶさってきた 息をしなければと どうにかこうにかして この蓋を持ち上げ あるいは突き破り ふぅふぅ言っていると 蓋をかぶせた奴らが すごいすごいと言って 目を細めているのだ 俺を見下ろしているのだ 俺はなんだか悔しかった もっと大きくなりたい 青い芽はそう思った 2009.3.15
それでも進化は止まらない 争うことが 生物を進化させた 食って食われて 食われて食って やってやられて やられてやって 争うことで 進化したのか 進化するため 争ってきたのか 争うことが 罪だとすれば 我々の進化も 罪になろう 魚は無実か カビたちはどうか 争いからの脱却を それでも望むか 2009.3.14
気になるカンガルー カンガルーは悩んでる 袋が小さい気がしてる だから他のが気にかかる みんなの袋はどうなのか 自分は特別なのだろうか 他のはやっぱり大きいか だから会うたび尋ねてる きみの袋を見せとくれ だから会うたび気にかかる きみの袋はどうなのだ 自信が持てないカンガルー いつも誰かを気にしてる 2009.3.13
一番最初のチョコレート 一番最初に決めたこと 素敵なお店のチョコレート そこで買おうと決めていた 真っすぐお店に行かないで 少し寄り道 回り道 するとなんだかいい匂い 作りたての洋菓子屋 あんまりおいしそうなので チョコレートはもうやめにして 洋菓子たくさん手に入れた 手に入れたのはいいけれど そんなにたくさん食べれない そしてなんだか物足りない 一番最初に決めたこと チョコレートが良かったな 2009.3.12
善福寺と煩悩塔 麻布山を仰ぎ 善福寺山門を仰ぎ 全宇宙天を仰ぐはずが 平成という時代は 歯止めの利かぬ時代となり 煩悩塔は屹立し 仰いだ山門に覆いかかり 全宇宙天に突き刺さり 訪れるゆかりの者たちは 月の中のうさぎが 猟銃で撃たれたように どうしたらよいかわからず 首をわずかに傾げながら 通り過ぎるのであった 2009.3.11

ひげの記憶 もしかすると人は誰も 絶えず一抹の不安を抱えて 生きているのかもしれない それはあたかも野鼠が ひくひくと隠れ生きるように 私たちの遺伝子というものが あああ 何かの拍子でもって ぐいと記憶を呼び戻すのだ 単純な生と死の規則に ぴったりと寄り添い生きた 生温かい時代の記憶を 2009.3.10
知らない世界 目隠しをされて 手を引っぱられ 恐る恐る進み 少しの凹凸に戦(おのの)き いま進んでいる所は 普段通っているんだよと 真っ暗の向こうから 薄ら笑いに聞こえ その瞬間についと 手が離れてしまって 慌てて目隠しを取り 辺りを見廻してみるも やはりただ真っ暗で 先ほどの声の主も消え また手探りするように 暗さに目が慣れるまで 進むより仕方ないのです 2009.3.9
忙しさに恋して 忙しい 忙しい 恋する乙女は 忙しい 忙しい お仕事 お仕事 忙しい 忙しい いきいきしてるね 忙しい 忙しい 苦しくなければ 忙しい 忙しい 白けてなければ 忙しい 忙しい 意味なくなければ 忙しい 忙しい 大丈夫 大丈夫 きっと いい忙しい 2009.3.7
ちらしずし どなりちらし いかりちらし くさりちらし にくみちらし どつきちらし わめきちらし きぶんちらし そんなものは まぜてしまえ いろとりどりに まぜてしまえ おまちどうさま さあおたべ ちらしちらして ちらしずし 2009.3.6
木洩れ日ダイヤモンド ひどく黒ずんだ眼で 毎日というものを過し 人目を避けるようにして 下ばかりを向いていた 較べてはいけない毎日を 間違い探しのように並べ 人の優しさに触れる度 眼はますます黒ずんだ それなのに太陽は 太陽というやつは 大きな樹々の上から きらきらと梢を濡らし 地面には木洩れ日ダイヤモンド もう少しいてもいいのでしょうか あなたのもとへもう少しだけ 2009.3.5
門出 別れは本来 祝うものです 目出度いものです 大きく手を振って 祝福するのです 新しい世界は 唇を噛むことや 拳を握ることも あることでしょう だけどそれ以上に 多くのことを知り 人々の優しさを知り 徳を積むのでしょう だから祝うのです この門出の日を 2009.3.4
指紋 すべてを消したはずなのに すべてを消したはずなのに すべてを消したはずなのに すべてを消したはずなのに ガラスの戸棚に わたしは触らない場所に 残っていた そして記憶は やさしく甦る 2009.3.3
うね うねうねしたい日 うねうね起きて うねうねあくび うねうねあいさつ うねうね青空 うねうねおしっこ うねうね小川 うねうね助走 うねうねうねうね じゃんぷ 2009.3.2
ぼんやり月夜 ねえ ぼくが見えるかい? きっとぼんやりとしか 見えないだろう? その代わりに もっとぼくを 見ようとしているだろう 見たいと思っているだろう 何でもそうさ かぐや姫だって 月がぼんやりしてるから 帰りたいと思ったのさ ぼんやりと わかるぐらいがいいのさ 2009.3.1

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