CROSSBEAT 95年1月号所載
Interviewer
16歳になるまで他人のレコードを聴いたことがなかったというのは、本当なんですか。
Aphex Twin
いろんな音楽が存在するのは知ってたよ。その中でぼくが好きになれたものもあったろうけど、ぼくの耳に入っていたのは、せいぜいがラジオだった。お金がなくてレコードを買うことができなかったからね。どっちにしろぼくの住んでいたところはド田舎でレコード屋もなかった。だからレコードは持ってなかった。
Aphex Twin
10歳のころから作ってた。最初の1年半ぐらいは、ピアノを使ってた。それも、壁に立てかけて鍵盤じゃなく弦を直接弾いてたんだ。最初はレコーディングはせず、ただ頭の中で曲を作るだけだった。しばらくしてオープン・リールのテ−プをでレコーディングを始めた。テープ・エフェクトなんかもやっていた。ぼくにとって大切なのはメロディやリズムじゃなく、常に音そのものだった。もちろんメロディやリズムは好きだけど、音の方が重要だったんだ。
Interviewer
最初にシンセサイザーを入手した際の感想は?
Aphex Twin
最初は嫌いだった。エレクトロニクスのアイディアは好きだったし、エレクトロニク・サウンドも好きだった。ただ思いどおりの音を出せないんで、嫌だったんだ。テクニカルな面に囚われずに思いどおりの音を出すには、あまりに制約がありすぎると思った。ただガチャガチャやってるだけじゃなく、自分が何をやってるかわかるまでにはずいぶん時間がかかったんだ。1年ぐらいかかった。バンドとか他人の助けなしにやりたいことことができないというのが嫌だった。ぼくは一人で思うように音楽をやりたかったんだ。
Interviewer
あなたはエイフェックス・ツイン、ポリゴン・ウィンドウなど、さまざまなプロジェクト名を使い分けてますね。
Aphex Twin
レコード契約を交わす前からぼくはいろんな名前を使ってたけど、それは様々なタイプの音楽をやってたからだ。音楽業界に入ってからは、レコード会社によって名前を使い分けるようになった。この名前ではコレ、とぼくが決めていたスタイルも、だんだん崩れていったんだ。たとえば、元はポリゴン・ウインドウに入れるはずだった曲がエイフェックス・ツインの方に入ってしまったりして、だんだん区別がつかなくなっていった。
Interviewer
様々な名義で、ものすごい数のレコードを、しかもハイ・ペースで出してますよね。ひとつの完成された作品というよりは、近況報告とか日記に近いニュアンスを感じるんですが。
Aphex Twin
そう言われるのはわかるけど、ぼくの出すレコードには、かなり前に書いたものもあるからね。それにぼくがこれまで出したレコードは、おそらくぼくがやってきたことのほんの1%に過ぎないから、ぼくの本当の姿がそのままあらわれてるわけじゃない。
Interviewer
じゃ、もっとレコードを出したい?
Aphex Twin
いや、できればレコードなんて出したくないんだ。レコード作りが好きなわけじゃなくて、ぼくはただ音楽を作るのが好きなんだ。レコードを作ったり取材を受けたりするのは、他の職につかずに音楽だけで食べていけるようにするためだ。そうすれば、音楽を作る時間が増えるだろう。レコードを作る理由は、ただそれだけだ。できることなら、全然出したくない。
Interviewer
へえ。つまり、あなたにとって音楽を作ることは自分自身の満足感が最優先で、オーディエンスの存在はあまり関係がない……。
Aphex Twin
イヤらしい言い方にとられたくないけど、確かに、他人がどう思おうが関係ない。ぼくはただ自分のために曲を作ってるのが楽しいんだから
Interviewer
あなたにとって曲を作ることはどういう意味があるんですか。
Aphex Twin
ぼくは1週間も音楽を作らないと、気が滅入ってきて、社交的じゃなくなる。アイディアはたくさんあって、早くそれを吐き出したくなるんだ。1週間以上もスタジオに行けないと、すごく欲求不満が溜まってくる。一種のオブセッションに近いかもしれないな。
Interviewer
あなたの作る音楽は、あなた自身の感情とか人間性を反映してますか。
Aphex Twin
わからないな。感情とはまったく関係のない、単なる音の組み合わせで曲が出来るときもあるし、悲しい気分のときに悲しい曲ができることもある。でも、ぼく自身としては、感情や人間性とはなんの関係もない、ただ音の組み合わせだけという曲が理想だね。今のところは偶然でしか作れないけど。
Interviewer
あなたの音楽はなぜ歌詞がないんですか。
Aphex Twin
まず第一に、ぼくが歌えないから。他人の音楽で歌詞が乗ってるのは嫌いじゃないけど、ぼくにとってそれは音の連なりでしかない。好きなのは声そのものであって、歌詞で何を言ってるかじゃない。歌詞なんてつまんないよ。そもそもぼくが電子音楽を好きなのはその抽象性にあるわけで、歌詞のある曲と違ってひとつのことだけを言ってるんじゃなく、人によっていろいろな意味を持つからだ。同じ人間が同じ曲を聴いても、その時の気分によって違ったふうに聞こえる。だから、ぼくは電子音楽が好きなんだ。
Interviewer
リミックスの仕事を引き受ける時の基準は?
Aphex Twin
何もないね。肝心なのはチャンとギャラを払ってくれるかということ。ぼくがリミックスをやる曲なんか、ひとつ残らずヒドイものばかりだもん。特に日本人のはどれも本当にひどかったな(笑)。でも、そういうヒドイ曲をリミックスするのが好きなんだ。嫌いなものを気に入るように作りなおすのはぼくにとってもチャレンジだからね。だから自分の好きな曲のリミックスはやらない。好きなものはそれ以上いじる必要はないから。
Interviewer
今後あなたの音楽はどのような方向に進んでいくと思いますか。
Aphex Twin
わからない。ただ言えることは、ぼくがこれまで聴いたことのない音楽を作ることだな。もしそれができなかったら、もう音楽は作らない。でも音楽の可能性は実に様々だから、おそらく死ぬまで作りつづけることになるだろうね。ぼくの音楽には何だってアリなんだ。アンビエント、ヒップホップ、オールド・スタイル・テクノ、ダブ、ジャングル……なんでもいい。カテゴライズできないんだ。ぼくはどのジャンルにも属さないような実験的な音楽を作っていきたい。
Interviewer
音楽のスタイルはすでにすべて出尽くしているという意見もありますね。
Aphex Twin
ある程度はそうだろうね。まったく何のようにも聞こえない音楽なんてありえないと思う。でも、ぼくがやっていることのほとんどは他のどれとも違うと思うよ。これとまったく同じ話題について、友だちと話したことがある。彼も今きみが言ったのと同じ意見だったんだけど、ぼくの音楽を聴かせてみて、これが何みたいに聞こえるか教えてくれと言ってみたら、言葉に詰まってたよ。ぼくの音楽は、ぼくのスタイルとしか答えようがないんだ。
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