『夢幻の人形師』



     



 『球体関節の鎮魂歌』


 合わせ鏡の中、人形に命宿す
 貴女の見た夢、続きをあげる・・・





 『第四人形の記憶 -天上界のアリス-』


 破れた日記ページめくる
 忘却の日はどこ?
 光の輪を手放して
 夜へ身を投げて
 絵本の中泣いていた美しき貴女へ
 ポプリを血に散りばめる
 残光を浴びて

  庭園の隅で
  空から堕ちた星屑の火を数える

 翼はいらない
 神に捧げし命だけど
 人形の瞳 光の雫
 ただ世界を見てる


 血染めの日記抱き締める
 楽園は今どこ?
 天使の羽根むしり取り
 ただ呼び続けて

  広場の隅でハープを奏でて
  モノクロの夢見ていた

 風車を渡る淡い色した朝の風は
 めぐる命を祝福し去る
 天空の面影
 翼はいらない神に捧げし命だけど
 人形の身体
 揺れる思いはなお世界と語る





 『第七人形の深淵 -呪いと祈りの紅い森にて-』


 常闇の国で花束抱えて
 人魚の歌聴き眠る
 スカートの裾に染み付いた色は
 夕闇の記憶
 星屑の明かり、海原のうねり
 舞い散る火の粉の夢は
 星屑の明かり一つも届かぬ
 漆黒の果てへ
 朝と夜の夢、血糊にまみれてる
 死んだ姉を待つ 紅い森にて

 靴底の下で蠢く命は
 火を食み、血を食み、叫ぶ
 邪教の祈りと抗う術なく
 異郷の街まで・・・
 月蝕の下で戸惑う貴女は
 操り人形のよう
 リリィの花びら散らして導く
 東の果てまで・・・
 昼も夜も無く絶望の淵でも
 夜の果実食む貴女の元へ

 ああ、夢の中 生まれくる
 ああ、紅水晶の祈りの声


 ドレスを脱ぎ捨て虚像へ身を投げ
 アクリルの花に埋もれ
 蹂躙の日々の記憶を吐き出す
 風見鶏の歌
 星の音を聞き明日を占う
 夜明けには消えたあの日
 コルセットの紐断ち切り駆け出す
 煉獄の果てへ
 朝と夜に棲み、胎児を慰めて
 死んだ貴女待つ 紅い森にて

 ああ、鳥の群れ火に消えて
 ああ、砂と化す墓石の文字は
 ああ、夢の中 生まれくる
 ああ、紅水晶の呪いの声





 『第一人形の庭園 -白き世界の観測者-』


 月の雫弾ける 眠り醒め、世界に遊ぶ
 夢の中で泣いてたあの少女へ
 三日月あげる
 風の糸艶やかに豊穣の地 彩り飾る
 白い猫が見舞うよ、傷ついた少女の庭を

  雨に記され、時を象り

 月明かりを浴びるの、千年の夜
 明日を此処から呼ぶの、終末の日に


 月の影にこぼれた少女の火、螺旋に揺らぐ
 僅か眠る刹那に人形劇 演じていたの

  沃野の花を、白夜の巫女を

 鏡で野辺を見るの、悠久の風
 水晶の中で呼ぶの、脈打つ息吹
 月明かりを浴びるの、永遠の夜
 キミを此処から呼ぶの、始まりの日に

 風の旋律で、水の庭園で
 キミを迎え行く白い猫の羽





 『第六人形の悔恨 -人魚姫と時の海流-』


 渚では貝の火が仄かに揺れて
 海流に飲まれゆくあの子見送る
 星の砂、胸に落ち遠い日を刻む
 夕凪にただ一人、再生を待ち
 ああ・・・

 潮風に澄み渡る旋律に乗せて
 海深く生まれくる珊瑚の祈りを・・・
 海原を風に舞う光の花の憧憬に
 胸焦がれ再会を待ち
 ああ・・・

 炎守る巫女の傷、癒すこと出来ずに
 血染めの海で泳いでた人魚の夢遠く


 海峡を渡る風、遠い日を運ぶ
 砂浜で産まれ出た炎の記憶
 夕闇に倒れ伏し人魚は眠る
 白波に洗われて使命を果たし
 ああ・・・ ああ・・・

 羊水の中に響く古の鈴の音
 轟音にかき消されて、尾びれも消えていて
 炎守る巫女の傷、癒すこと出来ずに
 血染めの海で泳いでた人魚は夢を見てる





 『冥界領域人形工房』


 一人目のDOLL 白い三日月に、
 二人目のDOLL 黒い太陽
 降り注ぐ光を纏い
 球体関節の子守唄歌って


 三人目のDOLL 雪に包まれて、
 四人目のDOLL 翼無くし
 因果の糸 手繰り寄せる
 空洞の身体 命を宿して


 五人目のDOLL 人を刈り取って、
 六人目のDOLL 海の旋律
 消えた時の中で遊び、
 無機質の目 私に微笑む


 七人目のDOLL 星の音を聞き、
 八人目のドール 生まれず死ぬ
 鏡像の果てに彼女は棲む
 球体関節のREQUIEM歌って





 『第五人形の約束 -死者の国の妖精人形-』


 朝を待つ場所でまた身を投げるキミ
 肉体は朽ちてもまだその陽追うの?
 人の子が泣く塔の上に
 積もりゆくのは命の欠片
 朝の陽はキミをただ焼くばかり

 妖精と遊ぶもう動けぬキミは
 白い月明かりただ眺めて泣くの?
 懺悔の声も断ち切って
 私はキミの首を刈るだけ
 妖精は踊る、十字の上で

  群衆に死は君臨し、慈愛にて包む
  断罪の鎌を磨きキミの元へ

 朝を待つ場所でまた身を投げるキミ
 肉体は朽ちてもまだその陽追うの?
 朝を待つ場所で消えた明日の標
 人形たちキミの夢に居るだけ
 眠るだけ、消えるだけ





 『第二人形の神域 -黒猫と太陽の湖-』


 黄昏を胸に、地平線を渡る
 地の全てを焼いた、あの太陽の影
 右の手に月を、左手に民を黒く塗り潰して
 今、大地を舞うよ

 水底で光る真昼の星屑
 星のめぐりを見る銀盤から零れ
 水の姫が立つ玉髄の台座
 青と黄の瞳で黒点刻む

 天から降り注いだ星の声を聞き
 万象清めてゆく黒猫の傷の痕


  空に響く祈りの民たちの轟音に
  十字組んだ葬列の行く手は何処?
  焼き尽くせ!フレアの弓
  掲げよ火を、月蝕の火
  毛先震えスペクトルの波に従順に
  木々を覆うコロナの色浴び行け
  黒い日差し身に纏う巫女が示す地の果てへ


 朝焼けを愛でて地平線をなぞる
 その全てを産んだ、あの太陽の火で
 右の手に星を、左手に時を
 黒く塗り潰して今、大地を駆ける

 黒猫が切り裂いたこの世界の夜
 芽吹く命讃えてアニマの感嘆へと
 天から降り注いだ星の声を聞き
 万象清めてゆく人形の涙粒





 『第三人形の恋慕 -繭の追憶・雪の花-』


 糸を紡ぐ指先、紅の花びら摘み上げる
 雪繭の追憶にあのぬくもり想う
 憐憫のひとひらを幽玄の果てに吹き上げて
 蕾虚ろに咲いた、紅雪の花びら

 冬の記憶辿れば淵に立つキミの姿見る
 雪の姫に抱かれ沫雪にふれたよ
 オルゴールが奏でるいつか聞いたこの旋律を
 紅の葉に乗せ遠く、光が降るように

 水の庭で夢見る、越境の果て
 雪解けに人形は空を仰ぐ


 移ろう四季の中で冬になれば疼き出す胸
 未だ見ぬ都の夢、紙風船に詰め
 憐憫のひとひらを幻影の果てに吹き上げて
 蕾こぼれて香る、紅雪の花びら

 石の庭で黎明に恋焦がれて
 アメジストの閃光は宙空に舞い
 水の庭で明日見る、転生の果て
 雪解けに人形は花を見上げ





 『第八人形の伝言 -生まれなかった絹糸人形-』


 雪 積もる 私の記憶
 繭 揺れる 雪姫の庭
 絹 撫でる 白い指先
 糸 紡ぐ  かつてのあの場所で
 鏡像のキミの姿、今も覚えている

 月 凍る  朧気な夜
 水 清く  せせらぎ遠く
 紅 染まる 木の葉を眺め
 鞠 弾む  消え行く手鞠歌
 虚像のキミの姿、今も覚えている
 ああ、遠く離れ逢うことも無く
 身体は壊れ、手もつなげない

 懐かしい風、頬を撫で、雪に舞う蝶の記憶
 ああ、人形の身体も無くただキミを想う


 声 響く  幽霊の如く
 空 重く  天使も嘆く
 雛 謡う  春の日を呼び
 星 巡る  双子の夢の中
 本当のキミの姿、今はもう見えない
 ああ、作られた特異の国で
 球体関節軋ませ笑う

 懐かしい風、頬を撫で、対に舞う蝶の記憶
 ああ、神の立つあの地でまたキミに逢おう
 またキミに逢おう





 『球体関節の子守唄』


 割れた鏡の中、無機質の火は燃える
 偽りの時を共に愛でるの・・・