『繭の唄』

 繭の玉 唄う 滴る血を薄めてね
 繭の玉 紅く染め契り結び秘め
 繭の玉 眠る 光を束ねて眠る
 血染めの糸を紡ぐ 遠い時を紡ぐ
 白い月の明かり 胸 突き破る
 手毬は揺れ 胡桃は揺れ
 繭の玉 ふわり私に囁く
 遠い日へ続く糸を巻いて
 まほろばの土地へ降り立つように
 繭の玉 嘆く 紅い涙で泣いてる
 琥珀の欠片蒔いて滴る血 溢れ
 黒い陽射し浴びて身体が疼く
 手毬は濡れ 胡桃は濡れ
 瞬く間に風の色を見て
 もう一度 繭を血に染めて
 凍りついたこの野辺で
 キミに何と告げようか
 繭の玉 笑う 手の中で笑う





『秋の名残は雪の中』

 手のひらの中に紅色の繭
 光が欲しいの? 色が欲しいの?
 虚ろな目の中 木の葉が舞った
 秋風の名残 木の葉が舞った
 風を見る鳥も凍えて眠る
 雪の足音は繭に包んで
 目隠し鬼さん 手の鳴る方へ
 糸が切れれば白い火が降るわ
 糸を紡ぐ指 這わせては
 花びらの欠片をあげる

 北向きの部屋で身体を抱いて
 ぼやけた陽の色溶かして飲んだ
 紅色の繭はくすくす笑う
 息をはずませて誰か見つけて
 目隠し鬼さん 手の鳴る方へ
 澄ました耳にひとひらの音を
 遠い昔でも見たような
 秋の色を纏う雪を
 虚ろな目で見る
 この場所はあなたが願う夢
 ここで

「またね」





『月天に雪紅葉』

 燃えて降れ 血色の雪
 風に舞う紅の木の葉
 折鶴 手毬唄
 細雪 朧気
 雪見姫 夜露
 雫

 繭と舞う 血色の蝶
 綿の野辺 月は仄か
 紅雪一片を
 合わせ縫う刺繍糸
 彩る雪紅葉





『繭の巫女』

 ふわりと散りばめ月明かり
 千年の眠りは醒め
 私の胸には仄かな火
 秋の残り香

 ふわりと纏いて水明かり
 紅い涙流す
 柔らかな柩切り裂いて 私迎えて
 ああ 蝶々が舞うわ
 冬の月夜に祭壇に祈りを
 雪繭の巫女

 ふわりと積もるわ 紅の雪
 悦楽の刹那に
 絹糸人形 この虚像 生き血が通う
 神域の庭 巫女は立つ 石畳の上
 透明な波浴びながら雪の姫を待つ

 ふわりと突き刺す星明り
 神楽の音遠く 私を映して水鏡
 繭は孵化する
 ああ 巫女が舞うわ
 白い月夜に姫の名を呼ぶよ
 雪繭の巫女

 ふわりと降り立て雪娘 私の待ち人よ
 私にください 命の火 久遠の刻を
 神域の庭巫女は立つ
 寒空を仰ぎ星の声を聞きながら
 雪の姫を待つ





『千の繭の夢』

 夕鶴 西へ送り見て 夕月を愛でる
 風を切り裂くもがり笛 夕闇に消えて
 綿雪 紅雪 月見坂 宵闇膨れて
 風花微かに入り日色
 螺旋に舞い上がる
 兎 月見て跳ねまわる 天を舞う雫
 願いを叶えまほろばへ
 千の繭の夢
 紅玉 水晶 琥珀玉
 行く手に振り撒き
 五色の絹糸結った紐
 鳥居に巻きつけて
 幾重に絡む因果の糸よ
 野辺を彩るわ 神が宿るわ
 何も見えない 感じられない
 澱み行く世界
 常夜を彩れ紅葉

 神となる貴女には繭を
 巫女となる私の身体を
 目の見えぬ娘に光を
 鏡にはこの月を宿す

 残り火一つある景色
 切絵の花の香
 虚像の淵で果てしなく人影 手を振る
 たまゆら たゆたう まほろばへ
 雪繭の巫女と記憶辿る雪の天爾遠波
 血飛沫のその味
 幾重に絡む因果の糸よ
 野辺を彩るわ 神が宿るわ
 何も見えない 感じられない
 澱み行く世界 常夜を彩れ紅葉





『神域のまほろば蝶』

 白い刻にて閉ざされた木々の唄
 白い星屑積もる夜の唄
 蒼い夕日の旋律は祈る唄
 色を失う瞳に雪降る
 舞い散る白い花びらが幾重に積もる
 繭から凍りついた火を揺らし見てる
 紅い飛沫で身体の奥が疼く
 遥か過去から待ち侘びた色よ
 雪に魅せられし繭の巫女
 白い肌 絹滑らせ
 雪に誘われ 繭の巫女
 白い指 糸を紡ぎ

 仄かに香り立つような雪の花 咲く
 紅の粉 散らしては遊ぶ
 ふわり遊ぶ
 白い刻よ 一片の雪の唄
 白い星屑集め まほろばへ
 雪に恋焦がれ 繭の巫女
 透き通る羽根広げて
 雪と狂い舞え 繭の巫女
 雪の姫に抱かれて





『雪の天爾遠波』

 手毬弾む音一つ虚ろに消え
 繭が静かに囁く
 繭が歌う
 色の無いこの世界へ雪降り積む
 ひとひらに目が眩んで籠を破く
 まほろばの地に蝶が二羽飛ぶ
 禊の水辺 繭は血に濡れ
 雪見灯籠ほろほろと光こぼれ
 夢見回廊巡り行く秋の木の葉
 繭の光に包まれる雪月夜には目を開けよ
 繭の光に誘われて
 降り立つ時はまほろばへ





『繭の玉響』

 果てない月明かり いつか見た雪
 幻影で包む花に青い風吹く
 星屑の降る音 繭揺れ集め
 祈りは空を翔けて月影に消え
 千切れて行く糸を結って
 血の記憶を辿り見た
 静寂の焔燃え雪は誘う
 泡沫のまほろばへ 朽ち葉の朝に
 光の粒を掬いキミにあげたい
 雪解けまでは僅か
 静かに見ていて
 たまゆらの夢を