『瑠璃色の水の底から』
水は満ち 白露の香りに身を震わせ
めぐる星屑 あまねく咲き誇る椿の花
夕陽溶かして 凪いだ水面渡る鈴の音が一つ
淡い砂と仄かな光 抱いて眠る
ああ、見て 月明かりを
瞳に宿る 銀色の記憶
そして今、産み落とすよ
月夜を生きた命の欠片を
水晶と水が眠る街で 見た人影
遠い 空から降る白い羽持つ 無機質の火
今も 記憶の水辺に佇んで待ち続ける
その瑠璃色の 瑠璃色の光がただ眩しい
ああ、見て 星明かりを
身体に纏う 白糸の記憶
今も尚、夢に見るよ
久遠の刻を この水の底で
『月を愛した日』
うつろな記憶の片隅でキミを呼ぶ声
虚像の森で木の葉を数え
貝殻兎が灯す
白い火を灯す
月夜のあの場所で
おぼろげな景色 糸紡ぎキミを待つ日々
鏡像の水辺に花を手向け
蛇姫の鈴が告げる
始まりを告げる
瑠璃色の水辺で
凛々しくめぐり行け 再生の風のように
軋む車輪 芒の穂は揺れて
全て流れ行く 残骸の風のように
空の果てに 再び産まれ来る
水の声の聞け 果てない眠りの淵で
雫こぼし おかえりと手を振る
天空の猫が記す
過去の日を記す
忘却の森にて
そして今はただ ふわりと舞い踊る
『あの花の野辺に立つ』
幾度でも来る夜明けに
花を撒いて降り立つから
微かな糸を切らずに
そっと結ってほしい
夜を咲く花の群れ
帆を掲げ、時を待つ
一輪の花が泣く
琥珀撫で祝福を
桜の花が舞う、彼の地で弔う
人魚の記憶さえ蕾の中に
夜を待つ花の野辺
月の子と舞い遊ぶ
一陣の風も無く
降り積もる青い花
無くした夢は千切れて
迷い続け砂の澪へ
花の香りは仄かに
永久の雨に打たれ
夜に死ぬ花の声
静寂には光の輪
一面に咲く花は
旅立ちの舟を待つ
雪の花が閉ざす 繭玉の眠り
ひらひら舞う蝶に花ひとひらを
朝を待つ彼の地で咲き乱れる花
夕陽の色をした甘美な夢を
幾度でも来る夜明けに
花を撒いて降り立つから
微かな糸を切らずに
そっと結ってほしい