まず、二つの光景にゃ。
一つ目。雪ん子がよたよたと道を行くにゃ。初めて通る道だから、たまに足を取られたりしつつも、雪ん子は巨大な岩の前にやって来たにゃ。その後ろは切り立った崖にゃ。岩が巨大な壁を成しているにゃ。その岩に手をかざすと、雪ん子を歓迎するかのように、岩はその場から少し動き、中へ入れるようになったにゃ。中に入った雪ん子が見たのは、数えきれないくらいの繭。それも全部、蚕のような小さな物ではなく、等身大。雪ん子はその中から一つだけ繭を選ぶことが出来たにゃ。選んだ繭に手を当てると、繭が割れて、中から出てきたのは大きな蝶の羽を持った少女。それも二人。双子の入った繭だったにゃ。
二つ目。雪ん子が村の少女と遊んでいるにゃ。その少女は目が見えなかったにゃ。それでも雪ん子は彼女の手をひいて雪の上を滑るように駆けて行ったにゃ。目が見えないものの、その風を感じて、少女はまるで空を飛ぶ心地だったにゃ。
ある日、雪ん子は少女の母親から、とあるお願いをされたにゃ。それは少女にも、そして雪ん子にも酷なお願いだったにゃ。だけど雪ん子は、そのお願いを受け入れるしか出来なかったにゃ。それから数日後、雪ん子は少女に会い、「ごめんね、あなたのお母さんを食べちゃった…」と告げ、その後、少女には会わなくなったにゃ。
雪ん子はすっかり成長して、いわゆる雪女になっていたにゃ。そして彼女はこの地を治める姫神「雪紅葉」として君臨していたにゃ。紅葉は数えきれない繭玉を眺めながら「もうすぐ、みんな出てくるね…」と呟いたにゃ。それから「繭子、絹子」と呼んだにゃ。「「はい、姫様」」背中に透き通った蝶の羽を持つ巫女が二人やって来たにゃ。かつて紅葉が選んだ繭に入っていた、あの双子にゃ。紅葉に仕える巫女として忠誠を誓っている双子にゃ。双子を見ながら紅葉は「恐らく、春には後のみんなも出てくるよ。そうしたら、私たちは大所帯。全員で一旦、外界を遮断する必要があるの」と言ったにゃ。双子は「ようやく、同朋たちに会えるのですね」「私たち二人だけでしたから、賑やかになりますね」と嬉しそうだったにゃ。しかしすぐに双子も少し顔を暗くしたにゃ。外界と遮断しなければならない事態にゃ。そうすれば、紅葉自身も村へは行けなくなるにゃ。この双子、忠誠を誓った者には徹底的に尽くす性格で、紅葉と一緒に成長してきたにゃ。だから、紅葉の考えていることもすぐにわかったにゃ。「胡桃さんのことですよね…」「お辛いと思いますが…」双子が物凄い悲しそうにゃ。主人の痛みは自分の痛み。もう自分の家にもお迎えしたいくらいの健気さだったにゃ。
しばらく紅葉は黙ったままだったにゃ。この後どうしたものかと考えていたにゃ。そして紅葉は意を決したように、双子に言ったにゃ。「繭子、絹子。私のわがままだけど許して。クルちゃんに会いたい。せめて最後に、目を見えるようにしてあげたい」こうして双子の蝶々の巫女による奮闘の日々が始まったにゃ。
紅葉と仲の良かった胡桃は、元々父親は早くに他界していて、母親も紅葉に喰われたせいで、ずっと独り身だったにゃ。村で按摩の仕事をしながら日々を過ごしていたにゃ。いつもなら不憫に思った村の人たちが来て、按摩をしてもらって、ついでに差し入れを置いて行ったりしてくれるけど、冬になれば話は別にゃ。外を歩くのも厳しいほどの豪雪地帯にゃ。胡桃も、いくらお金を持っていたとしても外へ出られるような状態じゃないにゃ。だから冬は、秋までにもらっていた差し入れなどをやりくりして、何とか乗り切っている生活だったにゃ。たまに村の人が食料を持ってきてくれるものの、冬の間は完全なサバイバルだったにゃ。
そして、まずは姉の繭子が一人で突撃してみたにゃ。様子を伺うつもりだったものの、「あなたの目を見えるようにします!」と言ったら、何かの勧誘かと思われて追い払われてきたにゃ。「ダメでした…」「姉さん、私たちは二人で一人。今度は一緒に行くよ!」繭の巫女たちの奮闘が始まるにゃ。
ある日のこと、家の戸を叩く者がいたにゃ。「はーい、今行きますよ」胡桃が手さぐりで戸を開けに行ったにゃ。そして戸を開けると「「こんにちは」」と声がハモって聞こえたにゃ。そこにいたのは例の双子にゃ。手土産としていろいろ食料も持ってきていたにゃ。
双子は「「お台所お借りします!」」と調理を始め、あっという間に数品作ったにゃ。さすが二人だけで雪の女神に仕えているだけはあるにゃ。「どうぞお召し上がりください。冬の間は食料にもご不便されていると聞いて」「あ、食べさせて差し上げましょうか?」「いやいやいや、ちょっと待ってちょっと待って!」もう、ぐいぐい押してくる双子に、胡桃もたじたじにゃ。「えっと、あの…あなたたちが紅葉に仕える巫女さんだというのはわかりました。でも、急になんで…。今まで何の音沙汰も無かったのに、一体何の用で…?」と、ようやく質問出来たにゃ。双子は顔を見合わせ、うん、と頷いたにゃ。「「我が主の命によって、あなたの目を見えるように差し上げに参りました!」」双子は嬉しそうに言ったにゃ。今度は紅葉の名を出したので、いける!と思ったにゃ。
「は? いや、なんで…」一方の胡桃の反応が渋いにゃ。「急に何を言い出すのよ…。ずっと音沙汰も無かったのに。もしかして、私の母を食べてしまったことの罪滅ぼし? それなら、別に要りません」これを聞いて双子も「あれ? ダメだったの?」と、だんだん焦り始めたにゃ。「あの、ですけど、あの…」「とりあえず、お受けしていただければ嬉しいなー、って…」
…まあ、早い話がダメだったにゃ。双子も仕方ないので、しばらく胡桃とお茶して帰ってきたにゃ。
双子は他に誰もいない境内で星を眺めていたにゃ。雪の姫神とはいえ、彼女に仕える巫女は自分たち二人だけ。春になれば、大量に後輩たちがやって来るのはわかっていたけど、現時点では二人。雪の降る広い境内は、二人だけでは寂しすぎたのにゃ。「姉さん、私たち、姫様の願い一つすら叶えられないのかな…」「そんなことないよ、絹子…」そうは言いつつも、膝を抱えてうなだれていたのにゃ。
何とか状況を好転させたい双子。ずっと会話を続けるうちに、だんだんと会話が弾んできたのにゃ。「そういえば姉さんはあの頃は馬に乗って自由気ままだったよね。今ではすっかりおとなしくなっちゃって…」「絹子なんて舞の名手とか言われてたのに、今じゃ馬鹿力が売りの巫女だもんね」「えー、ひどいなー。姉さんなんて、今も首の無い馬に乗ってるオバケ、とか噂になってるのに」「それならそれで良いよ、私のいた証拠だから…」そこへ紅葉が「なになに? 私も混ぜてー♪」とやって来たにゃ。「「姫様っ」」「私にはあなたたち二人しか話し相手がいないんだよ? ちょっと混ぜてよ」楽しそうに話す三人は、もはや普通の女子だったにゃ。
が、そうは言っても、タイムリミットは迫りつつあるにゃ。雪解けの季節に入ったら終了にゃ。それまでに胡桃の目を見えるようにしてあげたい紅葉にゃ。双子もそれを叶えてあげたいものの、そもそも胡桃が拒否しているので、どうもしようもないにゃ。食料を持って通いつめたり、ひたすら頭を下げてみたり、一発芸を練習して行ったりしたものの、胡桃は目を見えるようにする、という申し出を受けなかったにゃ。てゆうか、この二人の一発芸なので、まあ無理だろう、というのは目に見えていたけどにゃ。
そうこうしているうちに、一か月過ぎ、二か月過ぎ、もうすぐ雪解けになってしまったのにゃ。
さて、この頃には双子は大慌て。何とかして主の願いを叶えたいものの、胡桃が拒否するのでどうしようもないにゃ。ついでに一発芸も粗挽き過ぎて、まあダメだったにゃ。夜、寝ていても二人そろって一発芸の夢を見てネタを演じながら飛び起きるという、かなり追い詰められた状態だったにゃ。しかも、さすが双子、同じネタの夢を見て、完璧にネタをやりきりながら飛び起きていたにゃ。ただネタは完璧でも、ウケるのかは話は別にゃ。
そんなある日、紅葉が決心したように言ったにゃ。「私、クルちゃんに会いに行ってくる」双子はそりゃもう驚いて、「「おやめくださいー!」」とすがって止めたにゃ。「姫様に行かれたら、私たちの立場は…」「姫様の望みも叶えられず、自決するしか無くなります!」紅葉は「バカなこと言わないの!」と叱りつけたにゃ。「元々は私自身のせいだよ。あなたたちを責めるなんてもっての他。あんなに頑張ってくれたのに」あんなネタまで、と言いそうになったけど、紅葉は言葉を飲み込んだにゃ。まあ、よっぽどアレなネタだったのにゃね。とにもかくにも、紅葉は胡桃に直接会いに行くことにしたにゃ。会うなら今しかない、これ以上伸ばすと雪解けの季節にゃ。これが最後のチャンスにゃ。「で、でも、雪の姫神である姫様が、わざわざそんな…」「違う、むしろここを治めている身だから、行かなきゃ。村の女の子一人助けられずに、ここを治められるわけがないもの」
紅葉が雪の上を滑るように駆けていくにゃ。その後ろには双子。紅葉が神域から出てきてしまったせいで、天候は吹雪だったにゃ。まあ、雪女だから、天候は彼女の力で勝手に吹雪になってしまうのにゃ。胡桃はというと、外が吹雪になったのを感じ、しっかり戸締りして、もう寝ていたにゃ。そこへコンコンと戸を叩く音。「…こんな時に一体誰が…。あ、またあの双子が一発芸をしに来たんじゃ…」そう言いつつも、仕方ない、と胡桃が起き上がったにゃ。手さぐりで玄関へ行って、戸を開けたにゃ。「あの、もう一発芸は大丈夫ですので…」「クルちゃん、久しぶりだね…」「え…」また一発芸かと思っていた胡桃は、一瞬心臓が止まってしまいそうな気がしたにゃ。ずっと会っていなかったけれど、声を聞いてわかったにゃ。「え、いや、まさか…」「私だよ、紅葉だよ」紅葉が胡桃に抱きついたにゃ。全身が氷のような冷たさだけど、むしろ胡桃にはそれが温かく感じる心地だったにゃ。それを見ながら双子は涙をぬぐったにゃ。「姫様、、、良かったですね、会えて…」「むしろ、私たちが一発芸する必要無かったね…」
胡桃は紅葉を家に入れたにゃ。雪の姫神ということで、火はつけず、胡桃は布団をかぶって座っていたにゃ。しばらく二人は昔話に花を咲かせていたものの、やっぱり胡桃のお母さんの話になると、どちらも言葉に詰まるのにゃ。双子は静かに見守っているにゃ。彼女たちにはどうしようもないにゃ、自分の主人を見守ることしか出来なかったにゃ。やがて胡桃が「どうして、私のお母さんを食べたの?」と訊いたにゃ。紅葉は「ごめんね、それだけは話せないよ…クルちゃんのお母さんと約束したから…」「娘の私にすら言えないことなの?」「うーん…」双子は思わず飛び出していって「「はい、今日はここまでですー、また今度ー」」と言いたい気分だったにゃ。見てる方もつらい会話が続いたにゃ。「だから、クルちゃんの目を見えるようにしてあげたいなって」「そりゃ、見える方が良いけど…。でも、今まで会わなかったのに、なんで急に姿を現したのかがわからない…」「それは…」紅葉が言葉に詰まったにゃ。
紅葉がちょっと困ったように双子を見たにゃ。双子は「姫様、もう今しかないです!」「言いましょう!」と言いたげに頷いたにゃ。紅葉は決心したように胡桃を見たにゃ。「私ね、雪解けが来たら、百年以上眠らないといけないの。だから、もう会えないかもしれないから…」「え…」胡桃も驚いたにゃ。これでお別れだから、せめて最後に自身を見て欲しかったのか?と思ったにゃ。ただ、それだけではないようで「クルちゃんの目を見えなくしたのは、あなたのお母さん自身だよ」さらに驚く胡桃。ただ、紅葉の様子から、おそらくは自分自身の為に、今まで目を見えなくしていた、ある時期になったら見えるようにしてあげて欲しい、と紅葉に依頼していたのではないか。胡桃はそう思ったにゃ。だけど、そんな事態になっている理由がわからない、紅葉が一切話してくれないからにゃ。そして「目が見えるようになったら、いずれ嫌でも知ることになるよ…」と紅葉が言ったにゃ。胡桃は目が見えるようになれば嬉しい、という気持ちもあったものの、その言葉に何か得体の知れない恐怖を感じたにゃ。一体、何が起きるのか…。「それでも、どうか受け入れて、目が見えるようになって欲しい…」と紅葉はお願いしたにゃ。胡桃は返事をしなかったにゃ。いや、返事が出てこなかったにゃ。
紅葉たちが胡桃の家を出て、帰路についていたにゃ。その紅葉たちを、突然、亡者の大群が襲ったにゃ。この村にはまれに動く亡者が来て襲っていたにゃ。その度に双子の繭の巫女が出て行き、これらを撃退して村を守っていたにゃ。今日はよりによって自分たちの主人が一緒にいる時に…。「姫様、安全なところへ!」そう言いながら繭子が刀を振り、亡者を次々斬り倒していったにゃ。一方の絹子はパワー型といったところで、「うらあ!」と一撃で数体まとめて吹っ飛ばしていたにゃ。紅葉も「これ二人にまかせれば安心だね」と思っていたものの、ふと思ったにゃ。「…私が眠りについたら、この二人も一緒に外界へ出ることが出来なくなる…。そんな時にまた亡者の大群が来たら、村はどうするんだろう…」そう思うと、思わず震えたにゃ。そして「クルちゃんの目が見えるようになりさえすれば、安心なんだけどなぁ…」と思うのだったにゃ。
「一通り片付きました」「姫様、さあ帰りましょう」双子が笑ったにゃ。「うん、そうだね…」紅葉はしばらく考え「ねえ、雪解けまで、あとどのくらい?」と訊いたにゃ。「もう時間は無いですよ」「あと数日くらいではないでしょうか?」紅葉は「わかった、明日も来よう」と言ったにゃ。
翌日、紅葉たちは胡桃の元を訪れたにゃ。やっぱり昔話に花が咲くものの、肝心なところはいまだに返答なし。これが数日続いたにゃ。
ある日、紅葉がいつも通り胡桃の元へ行こうと神域から出たにゃ。しかし、神域から足を踏み出した途端、軽くめまいを感じたにゃ。ハッとして周囲を見ると、雪が少しずつ融け始めていたにゃ。慌てて双子が紅葉を両側から支えたにゃ。「姫様、もうダメです…。時間切れです」「これからの日は、姫様が外に出ていたら、いつ死んでしまうかわからないのです…」それでも紅葉は行きたかったにゃ。でも自分だけが融けて無くなるなら迷わず行っていたにゃ。だけれど一緒にいる繭の巫女と、まだ孵化していない数えきれない繭たちを想うと、もう行くわけにはいかなかったにゃ。「…クルちゃん、さようなら」紅葉はつぶやいたにゃ。
一方の胡桃。今日は紅葉が来ないな、と思っていたところにゃ。連日のように会いにきてくれて、いろいろ話も出来たおかげか、心のどこかに残っていたわだかまりは、もうすっかり無くなっていたにゃ。すでに紅葉のことは許していたにゃ。自分のお母さんを食べた理由は結局わからず仕舞いだったけど、なにか理由があったから、というのは理解したのもあったにゃ。だから、今日も紅葉に来てもらいたかったにゃ。
夕方になっても、やっぱり紅葉は来なかったにゃ。胡桃は残念、と囲炉裏に火をつけようとしたにゃ。紅葉が来るのを待って、ずっと暖房無しで頑張っていたのにゃ…。ただ、目が見えない分、耳がよく効く体質になっていた胡桃は、なにか聞き慣れない音を聞いたにゃ。「あれ…? この水音は…雪が、融けてる?」それを理解した途端、全身から血の気が引いていくのを感じたにゃ。胡桃は厚手の袢纏を着込むと、衝動的に家を飛び出していたにゃ。
私が馬鹿だった、こんなことなら、目を見えるようにしてもらえば良かった。最後に一目会いたい。
繭子が鈴をコロコロ鳴らしながら、森の木々に術をかけているにゃ。もう、この神域へは人が立ち入れないようにしているところだったにゃ。「姫様、もうすぐ全ての繭が孵化しますよ。賑やかになりますね!」と絹子。紅葉は寂しそうに「そうだね」と笑ったにゃ。すると、術をかけている途中の繭子の動きが止まったにゃ。「姉さん、なにしてるの。早くしないと、また始めからやり直しだよ」それでも繭子は動かないにゃ。「姉さんっ」絹子が駆け寄っていくと、繭子は今までかけていた術をすべて解除したにゃ。紅葉も「どうしたの? どこか具合悪いの?」と近寄ってきたにゃ。夜のうちなら、まだ外へ出られるのにゃ。しかし繭子は「すみません、ちょっとしばらく休みます。夜明けになっても来なかったら、すぐに再開しますので…」絹子もハッとして「もしかして、来てるの?」と訊いたにゃ。「気配を感じたので…」それを聞いて紅葉が駆けだして行ったにゃ。「クルちゃんが、わざわざ来てくれてる!」
目が見えないから、本当に手さぐりで道を行く胡桃。一度だけ話に聞いたことのある、雪の神域に向かっていたにゃ。もう手足の感覚が無くなってきたけど、それでも進みたかったにゃ。「紅葉…」すると、胡桃を抱き上げる者がいたにゃ。…もちろん、紅葉だったにゃ。神域に続く道をあちこち探して、ようやく胡桃を見つけたのにゃ。「クルちゃん、ありがとう…」「紅葉、良かった、最後にまた会えて…」そうして、胡桃は決心していたにゃ。「紅葉、目を見えるようにして」「本当に良いの? 何が起きても前へ進んでくれる?」胡桃はうなずいたにゃ。紅葉はにこっと笑うと、胡桃の目に手を置いたにゃ。
胡桃は突然、今まで体験したことのない光を感じたにゃ。眩しくて、何も見えない。それでも、徐々に慣れてくると、初めて見る光景が目に広がったにゃ。数えきれない星に、木、雪。そして、自分を抱きかかえている雪の姫神。紅く長い髪に、白い花の髪飾りをつけていたにゃ。「紅葉…」「はじめまして、クルちゃん…」そして胡桃はゆっくりと意識が遠のいていくのを感じていたにゃ。
朝にゃ。胡桃が気が付くと、自分の家にいたにゃ。ただ、そこが自分の家だと理解するまで、少し時間がかかったにゃ。ああ、こんなところにずっと住んでたんだなぁ、と思いながら辺りを見回したにゃ。そして、枕元に置かれている花の髪飾りを見つけたにゃ。それを手に取ると、胡桃は布団に突っ伏したにゃ。その様子を見届けたかのように、窓の外では二羽の蝶々がゆっくり飛び去っていったにゃ。
今回の報告はここまでにゃ。