桜の里を蛇姫様が歩いているにゃ。「ここは山全てが桜色で染まるんだよ。名所だね」クダギツネの二葉も荷物を抱えて同行しているにゃ。「すごいですねー!」でも二葉の顔が曇るにゃ。「咲いていれば、の話ですよね…」桜の山は、全部枯れ木だったにゃ。向こうから笠をかぶった子供たちの列がやってくるにゃ。「♪散った、散った、桜が散った」と歌いながらすれ違っていくにゃ。「ちぇ、なんか嫌な歌ですねぇ」二葉がふくれたにゃ。
蛇姫様と二葉は村に到着すると、今夜の宿泊場所を探し始めたにゃ。そんなに大きな村ではないものの桜の名所として有名なので、宿はあちこちに建っていたにゃ。ただ、どこの宿も閑古鳥が鳴いていたのにゃ。「本当なら一番人が集まる季節なんだけどねぇ…見ての通りですわ。おかげでどこか出稼ぎに行かないと苦しくてな…」とある宿の主人がぼやいていたにゃ。「一面の桜、見たかったなぁ…」二葉が残念そうに言ったにゃ。尻尾もしゅーんとしぼんでいるにゃ。「仕方ないね。明日にはまた出るから、今夜はどこかに泊まって…」蛇姫様が適当な宿を決めようとしていた時にゃ。突然、複数の男が駆け寄ってきたにゃ。「蛇姫様ですね、お待ちしてました!」と言い出したにゃ。「いえ、待たれるような知り合いはここに居ないはずですが?」「そんなことないです、お待ちしてました。さぁ、どうぞ我々と一緒に来てください。泊まりも食事も不便させません」と二人の手を取り、さあさ、さあさ、と半ば強引に連れていったにゃ。
蛇姫様と二葉は大きな屋敷へ連れて来られたにゃ。そして広めの部屋に案内されると、どんどんご馳走が運ばれてきたにゃ。音楽を奏でる者たちも入って来て、いきなり大宴会が始まったにゃ。最初はかなり警戒していた二葉も「まぁ、でも美鈴様がいらっしゃるから、何とかなるだろう…」と思い、大いに肉を食べて、注がれるままにお酒を飲んでいたら早々に潰れたにゃ。蛇姫様も大好物なお酒をいただきつつ「それにしても、ここはどなたのお屋敷です? ご主人は?」と訊いたにゃ。「ええ、時間が空いたらご挨拶に参ります。それより、さあさ、たんとお飲みください」結局、何だかわからないうちに屋敷の者たちと入り乱れての大宴会のまま、夜は更けていったにゃ。
夜明け前。蛇姫様が起き上がったにゃ。「あ、痛…」普段は酒に飲まれない大酒豪な蛇姫様だけど、さすがにめっちゃ飲んだようで軽い二日酔いだったにゃ。むしろ軽い頭痛で済んでいるのがすごいのにゃ。蛇姫様なだけに、うわばみだったにゃ?
蛇姫様はそのまま静かに部屋を出たにゃ。さすがに得体の知れない屋敷で、いきなり飲みまくってそのまま帰れるはずはない、と思っていたにゃ。もしもの時にそなえて、一応探りを入れておこうとはしたにゃ。「…ふぇぇぇ、美鈴様ぁ、待ってくださぃぃ…」頭を抱えて二葉がついて来るにゃ。「二葉、無理しないで寝ていなさい」「いやです、一緒に行くんです…」早々に潰れたおかげか、多少は余裕があるようだったにゃ。二人が音を立てないように廊下を行くにゃ。特に変わっているところはないにゃ。じゃあ、どうしていきなり大歓迎してくれたのか?と思いつつ、部屋に帰ろうとしたにゃ。「あ、美鈴様、あの部屋だけ明かりがついてますよ」一番奥の部屋だけ薄暗い明かりがついていたにゃ。「寝ずの番かな?」二人は奥の部屋へ近づいていったにゃ。
ただ、奥の部屋へ近づくにつれて「どうもおかしいな?」と二人は思い始めたにゃ。奥の部屋からは苦しそうな女性のうめき声、そして叫び声。どうやら出産が行われているにゃ。「…子供を産んでいる方がいるんですね。あ、だからここのご主人は挨拶に出られなかったのかも」「いや、それにしても様子がおかしいかな」
二人は奥の部屋の前に着いたにゃ。戸が開いていたので、静かに中へ入っていったにゃ。衝立と衝立のすき間から、ちょっとのぞいてみたにゃ。「ああああっ、また出るっ!」娘が叫ぶと、ずるずると胎児が出てきたにゃ。というか、その胎児はでっかい芋虫みたいな物だったにゃ。うにょうにょ動くにゃ。すると近くにいる女性たちがでかいその芋虫を抱き上げ産湯に入れているにゃ。それからしばらくすると、また娘が呻き始めたにゃ。おそらく胎内に何匹も身ごもっているようで、また叫び声と共にずるずると一匹産まれたにゃ。部屋の奥を見れば、今夜産まれたらしい芋虫が何匹もうにょうにょしていたにゃ。「み、美鈴様、、、あの娘さん、虫を産んでますよぅ…」二葉が失神しかけているにゃ。すると、その娘と蛇姫様と目が合ったにゃ。「…へ、蛇姫様っ!」周囲にいた者たちがどやどやと周りを取り囲んだにゃ。「…見られてしまったか…。…ううっ、蛇姫様、、、お初に、お目にかかります、、、ちょっと、全部産むまで、待っててくださ…ああっ」次の陣痛に襲われているにゃ。周囲の者たちはお茶やらお酒やらを持ってきてくれて、虫を産む娘の出産を眺めながら待機することになったにゃ。なんという状況にゃ…。
朝にゃ。ようやく出産が終わったにゃ。「改めまして、蛇姫様。ここの主の花梨と申します」床につきながら娘が言ったにゃ。というか、二葉に関しては蛇姫様にもたれかかったままぐっすりと二度寝しているにゃ。「ご馳走になりました。でも、どうして私たちを歓迎してくれたのです?」蛇姫様が訊くと、花梨はにっこりしたにゃ。「蛇姫様にぜひ、お願いしたいことがあるんです…。すみません、ちょっと疲れてしまって、また昼過ぎにでもお会いしていただけませんか?」花梨は目を閉じたにゃ。「少し、寝かせてください…」蛇姫様は「わかったよ」とあくびしながら答えたにゃ。部屋の奥では産まれたばかりの芋虫たちは、召使いの者たちが数匹ずつ抱えて持ち去っていったにゃ。「俺は西の方へ行く」「じゃあ俺は東の方へ」という会話も聞こえたにゃ。「どこかに捨てに行くのかな?」と蛇姫様は思ったにゃ。
昼にゃ。なんやかんや屋敷から出してもらえない蛇姫様と二葉。でも、どんどんお酒やご馳走が運ばれてくるのにゃ。「美鈴様をお酒で買収しようとしてるのですか! そんなの無駄ですよ!」と頑張っていた二葉は、一緒に運ばれてきた甘味で陥落したにゃ。まだまだちょろいにゃ…。もうバタバタしても仕方ない、とばかりに真昼なのにお酒をいただいていた蛇姫様は「まあ、そんなに心配しなくていいよ」と言うのにゃ。まあ、いざとなればここにいる全員を容易に皆殺しに出来るくらいの力はある蛇姫様なので、落ち着いてがぶがぶとお酒を嗜んでいらっしゃるにゃ。蛇神の娘さんなのに、お酒が絡むとこんなんにゃ。まさに、うわばみ。
やがて、数人の召使いを連れて花梨が部屋に入って来たにゃ。「蛇姫様、改めまして、お会い出来て嬉しいです」「いえいえ。それより身体は大丈夫ですか?」「はい、いつものことですので」もう相当の数の虫を産んでいるのにゃ。「それで、私になにかご用ですか?」蛇姫様が言ったにゃ。花梨は嬉しそうに言ったにゃ。「はいっ、桜を枯らしていただきたいのです」
さすがの蛇姫様も「あ、厄介なとこに来てしまった」と思ったにゃ。桜の山を台無しにしていた黒幕が目の前にいるにゃ。しかも、さらに桜を枯らせる協力要請してきたにゃ。しかも、しこたまお酒をいただいた後にゃ。二葉も甘味をしこたまいただいてしまった後なので、思わずわらび餅を吹きだしたのにゃ。「ほ、ほら、美鈴様、大変なことになりましたよ! どうするんです、もうこんなにご馳走になった後なのに、断りにくいですよ?」「落ち着いて。いざとなったら、ここにいる者を全員丸飲みにして、、、」二人がひそひそ相談しているのを見て、花梨がにこっと笑ったにゃ。「いえ、まだまだお酒もご馳走もございますし、あの蛇姫様にお会いできただけでも貴重な体験です。ちょっと桜の木を一本だけ枯らしていただくだけで良いんです」もう、にっこにこで本当に良い笑顔だったにゃ。そのせいか、結局、断れないまま話を続けることになったにゃ。「なるほど、とりあえず、どうして桜を枯らせたいのかを説明してくださいな」「ええー、ちょっと美鈴様、こんな依頼受けるんですか?」蛇姫様は二葉の口をふさいだにゃ。「まずは理由を聞かないと」
花梨はもう本当に嬉しそうな様子にゃ。そして理由を語ったにゃ。「私は遠い南の方の出身です。珊瑚に囲まれれ、透き通った青い海と、太陽の花が咲く島です。そこには人魚たちも泳いでいて、蜘蛛宮様の治めるのんびりした島でした」蛇姫様がちょっとだけ驚いたようにゃ。でも、何とか顔には出さず。「蜘蛛宮…。ずいぶんと遠い島だね。それに話には聞いていたけど、本当に人魚が居たのは驚いたね」花梨はにっこり笑うにゃ。「とても人懐っこくて仲良くしていた人魚がいたんですよ。近海のどこかに人魚の国があって、その子はそこの人魚姫だったんです。のんびりした良いところでした…」「待って待って、そんなとこから、どうして桜を枯らそう、になるのよ?」二葉が身を乗り出すにゃ。ただし手には団子を持ったままにゃ。まだまだちょろいにゃ。で、さすがに花梨の顔もちょっと曇ったにゃ。「私たちの島は、ある日突然、侵略されました。人はどんどん殺されていき、蜘蛛宮様も巫女を率いて反撃したものの撃破されて…。人魚たちも、せめて人魚姫を逃がすために、と命を落としていきました。人魚姫を守るために一緒に行った人魚たちも居たようですが、結局、それ以降島では人魚を見なくなりました。侵略者たちは島にあった花をどんどん刈っていって、代わりに桜を植えたんです。自分たちの領地だとわかるように…。私は、何とか小舟で逃げ切ることが出来ました。逃げる旅の途中で、桜を捕食する蟲を見つけたんです。その蟲は人に懐くような物ではないですが、私には好意的でした。きっと、私の気持ちを理解したのだと思います」さて、いよいよ蛇姫様は困ってしまったにゃ。一応、二葉も大福片手に困ったにゃ。花梨が桜を枯らせてしまいたいと思った理由が重いだけに、簡単に断れなくなったにゃ。もっとも、さんざんお酒とご馳走と甘味をいただいてしまっているので、余計に断りにくいにゃ。桜を全滅寸前に追い込んでいるものの、花梨自身はそこまで悪い子でもないにゃ。花梨は話をしたことで過去を鮮明に思い出してしまったらしく「姫様、セレさん、テンさん、リコさん、まーちゃん…」とかつての主人や仲良くしていた子の名前をつぶやきながら泣き出してしまったにゃ。さすがに蛇姫様も「わかったわかった、それじゃあ、ちょっと様子を見てくるよ! 様子を見るだけだからね! 枯らすかはわからないよ、様子を見に行くだけだからね!」と、とりあえず依頼を受けるしかなかったにゃ。
「もう、美鈴様は! だから言わんこっちゃないんですよう!」二葉がぷっぷくぷーとふくれながら言うにゃ。「あの様子じゃ断りにくいでしょう。二葉も相当ご馳走になったんだし」「そ、そりゃそうですけど! わらび餅美味しかったですけど!」二人が山中を歩いて行くにゃ。とりあえず、様子を見に行くことにしたにゃ。まあ、あれだけご馳走になれば仕方ないにゃね。
だいぶ歩いた時、向こうから笠をかぶった子供たちの列がやって来たにゃ。「♪散った、散った、桜が散った」と歌いながらやってくるにゃ。「あれ? 昨日も見た子供たちですね?」「…いや、あれはただの子供じゃないね。二葉、気をつけて」やがて子供たちが蛇姫様たちの周りを囲んだにゃ。そして「桜を枯らすの?」「枯らすのー?」「キツネだ!」「キツネだー!」「蛇姫様、遊ぼう!」「あそぼ♪」とキャッキャと盛り上がり始めたにゃ。「いや、ちょっと用事があってね…」「えー?」「遊ぼうよー」「あそぼ♪」もう、言っても聞かないにゃ。二葉も尻尾をもふもふされて「あぎゃああ! さわらないの!」と騒ぐだけにゃ。二人が困っていると、突然、少女が乱入してきたにゃ。「こらーっ! また人をからかってる、あっち行け!」少女が言うと子供たちも「きゃー♪」と散って去って行ったにゃ。「あ、ありがとう…」すると少女は「もうっ、今のはキノコだよ? 相手にしちゃダメだよ!」と言って去っていったにゃ。「なんだったんだろう…?」
蛇姫様がようやく山の中ほどにやって来たにゃ。目的地は山頂ではなく、この近くにゃ。すると、向こうから子供たちの列がやって来たにゃ。「あ、蛇姫様だー」「遊ぼうー」「キツネだー」「あそぼ♪」「あそぼ♪」と、あっという間に囲まれたにゃ。「いや、だから用事が…」「えー?」「遊ぼうよー」「ねー♪」「あそぼ♪」再び蛇姫様たちが困っていると、また少女が乱入してきたにゃ。「こらーっ! あっち行けええ!」少女が叫ぶと、また「きゃー♪」と、みんな散り散りに去って行ったにゃ。少女が蛇姫様を見るにゃ。「あ、ありがとう…」「もうっ、だからあれはキノコだよ? 相手にしちゃダメじゃない!」そして少女は去って行ったにゃ。「美鈴様、あれは一体なんでしょうか?」「うん、わからない」蛇姫様たちも呆然にゃ。
やがて蛇姫様たちは目的地に着いたにゃ。そこには桜の巨木。でも、やっぱり花は咲いていなかったにゃ。この木こそ、桜の木たちの王にゃ。花梨の依頼は、この木を枯らして欲しいという依頼だったにゃ。他の桜は別に良いから、とにかくこの木。この木が死ねば、他の桜も連鎖的に死滅していく、という作戦だったにゃ。
とは言ったものの、そんなホイホイと枯らすことは出来ないにゃ。「美鈴様、どうするんですか?」「うーん、、、枯らしたってことにしておこうか?」「そうしましょ」元々が枯らす気はないまま来たのだから、そりゃそうにゃ。
すると、桜の木の後ろに誰かいるの気づいたにゃ。「どなたですか?」蛇姫様が訊くと、その人影はゆっくりと歩いてきたにゃ。桜色の着物を着た女性にゃ。蛇姫様は「あ、この人がこの桜の化身か…」と気づいたにゃ。その女性は深々とお辞儀をしてから「どうか、見逃してください。あの蟲たちのせいで、もう私たちは死にかけています。私はここで咲かなければならないのです、今年はダメでも、来年こそは…。だから、どうか…」さすがに蛇姫様と二葉は顔を見合わせたにゃ。「二葉、帰るよ」「はい!」
屋敷に帰ってから、花梨に「やっぱり枯らすのは無理」と告げると、花梨もとってもガッカリしていたにゃ。「そんな…、なんとかお願いします、あの桜の親玉が厄介なんです…。あ、とりあえず宴席の準備をします。みんな、宴席の準備を、早く!」蛇姫様も二葉も「やべえ!」と顔を見合わせたにゃ。これ以上ご馳走になったりしたら、余計に断れなくなるにゃ。なので「いやいやいや、いらないいらない、もう旅に出ますので、出発しますので!」と言うものの、花梨も「旅に出るのなら、余計にちゃんと召し上がってください、しばらくご馳走にありつけませんよ!」と、なんかもう、桜というより食べ物が中心で双方を振り回している状態になっていたにゃ。すると、蛇姫様は「わかった、それじゃあ、ちょっと待ってて!」と外に出て行ったにゃ。「美鈴様ー?」二葉が慌ててくっついて行ったにゃ。
もうすぐ日が暮れそうな山道を二人が行くにゃ。「美鈴様、なんでまた…。キツネの私ですら、さすがに疲れてきました…」「いいから、急いで。火が暮れる」と、二人が道を急ぐ前方から、またまた子供たちの列が来たにゃ。「キノコだー!」二葉が蛇姫様を引っ張って、道端の茂みへ逃れようとするにゃ。しかし蛇姫様は動かず「大丈夫、あの子たちを味方に付ければ…」と真正面から向かっていったにゃ。案の定、囲まれる二人。「蛇姫様だー」「キツネだー」「遊ぼうー」「あそぼ♪」「ねー♪」大騒ぎにゃ。しかし蛇姫様、にっこり笑って「良いよ。その代わり、一緒に来てくれる?」キノコたちはきゃっきゃと喜んでいるにゃ。「ちょっとちょっと、美鈴様あ!」二葉が大慌てで止めに入るも「大丈夫よ」の一言で抑えられたにゃ。「どうやら、この子たちは山に必要な子たちらしいからね」
蛇姫様がキノコたちを連れて、ぞろぞろと桜の巨木の元へやって来るにゃ。あの桜娘もギョッとして「ちょ、ちょ…あの、一体何をしに…?」と慌てて出てきたにゃ。このキノコの精たち、基本的に気まぐれすぎて、人に従うなんて、まず無いことにゃ。異常事態を見て、さすがに「殺られる!」と思ったらしいにゃ。すると桜娘の前に、何度かキノコたちを追い払ってくれた少女が立ったにゃ。「枯らさせない! どうしてもというなら、わ、私を殺せ!」蛇姫様はにこっと笑って、少女の頭をポンポンと撫でたにゃ。「枯らす気は無いよ。ちょっと一緒に来てもらいたいだけだから…」
さて、日も暮れてから蛇姫様たちは屋敷へ戻ったにゃ。宴席の準備もすっかり整っていたにゃ。そして、出迎えに来た花梨は卒倒しそうなくらいビビったにゃ。「な、なんで…」蛇姫様は桜娘たちと、ついでにキノコたちをぞろぞろ連れて帰ってきたにゃ。「せっかく宴席を用意していただけたので、連れてきましたよー」一行を連れて、どんどん屋敷に入る蛇姫様。蛇姫様に引っ張られながら桜娘も「あ、あのー、、、何をする気でしょうか?」と訊いたにゃ。蛇姫様がにっこり。「まあ、お酒でも飲みながら、双方に話し合ってもらおうと思ってねー」花梨も桜娘も「はあああっ?」と言ったにゃ。当然にゃ。それでも、もう蛇姫様が強引に二人を宴席に引きずって行ったにゃ。
こうして始まった宴席だけど、当然ながら空気がピリピリしていたにゃ。もう一触即発状態で、花梨と桜娘がにらみ合っているにゃ。蛇姫様は二葉に言ったにゃ。「ほら、二人にお酌してきなさい」「ほぎゃああっ、なんでそんな怖い事しなきゃならないんですか!」二葉が本気で嫌がっているにゃ。しかし徳利片手に、そろそろと歩いて行ったにゃ。結局、主人には逆らえない子なのにゃ…。
「ほ、ほら花梨さん、ぐーっと、どうぞ…!」「二葉さん、私のお腹ではすでに次の子が育ち始めているんですよ、孕んでいる者にお酒を飲ませる気ですか?」二葉のしっぽがしゅーん、、、としぼむにゃ。とぼとぼと桜娘の方に来て「あ、あのー、せっかくだから、ぜひ、、」「桜の木である私にそんな物飲ませて、枯らす気ですか?」二葉は負け犬のごとくキャンキャン言いながら戻ってきたにゃ。「美鈴様ぁ、こんなんどうしろって言うんですか!」「うん、こりゃ困ったね」蛇姫様、ひどいにゃ。。。
そんな宴席の最中、転機は突然訪れるにゃ。いい加減お酒がまわり始めてテンションが上がりまくった蛇姫様が突然立ち上がり、「ああーっ、お前ら仲良くしろって、にょろにょろーん☆」とか言いながら、花梨の口に徳利を無理やり突っ込んだにゃ。その場にいた全員が「ああああああ!」と悲鳴をあげたにゃ。「うぐっ。わ、私のお腹には…」「蟲なんか産むな! ちゃんと添い遂げる人の子を産め!」もう勢いで押し切った蛇姫様は、そのまま桜娘の口にも徳利を突っ込んだにゃ。「ぶっ! …ぷはっ、、、な、なにするんですか! 枯らす気ですか!」「この程度で化け桜が枯れてたまるもんか、にょろにょろーん☆」…完っ全に酔っているにゃ。もう、さっきから水を飲むように飲んでいたから当然にゃ。そして「よーし、キノコたち、歌って踊れ!」「きゃー♪」「きゃー♪」とキノコたちを率いて、陰鬱な場を無理やり賑やかにしたにゃ。
もう、その賑やかな雰囲気は、場にいる者たちを飲み込んでいくに十分だったにゃ。誰もがだんだん楽しくなってきてしまったのにゃ。なので、にらみ合っていたはずの花梨と桜娘は、いつの間にかどちらからともなく、口を開いていたにゃ。「…妊娠しているのよね? 大丈夫?」「こんなの、蟲の子だし。…あんたは? ま、枯れてくれれば嬉しいけど」「でしょうね、ったく…。ねえ、あなた、本当にそんな蟲なんか産み続けて、それで良いの?」「…桜さえ絶滅してくれれば…」「理由は知らないけど、ただ咲いているだけで滅ばされるのはご免です」「私だって、好きでこんなことを…!」その様子を見て、蛇姫様は「ほら、二葉。あとは放っておけば、勝手に示談するにょろ☆」「ええー…ほんとかなぁ…。てゆーか、なんですか、その語尾…」二葉が呆れていると、あの少女が「やい、キツネ、お前も飲め!」と徳利を口に突っ込んできたにゃ。…ここに居る者たち、みんな酒癖悪いらしいにゃ。とんだ宴席にゃ…。
夜更け頃。蛇姫様が起き上がったにゃ。さすがに頭を抱えて「ちょっと飲み過ぎたか…。後半から記憶がない…」もう、屋敷に仕える者も、キノコたちも、全員が泥酔して寝ていたにゃ。しかも、ほぼ全員が全裸という状態、屋敷に仕える男たちは、全員があちこち傷だらけで庭に放り出されていて、まるで無差別大量殺人の様相だったにゃ。蛇姫様もそれを見ながら「ありゃー…。私たち、何やったんだろ…」と少し反省してるっぽいにゃ。お酒は怖いにゃ。
蛇姫様は、二葉の上にのしかかったまま寝ている桜娘に小声で「あの子、許してあげてもらえないかな?」と訊いたにゃ。桜娘は目は閉じたままだけど、にこっと笑って「はい、水に流しましょう…。お酒に流されたついでです」と言ったにゃ。蛇姫様は頷き、今度は隅っこの方で寝ている花梨の元へ近寄っていったにゃ。そして小声で訊いたにゃ。「ねえ、まだ蟲の子を産みたい?」寝ぼけながらも花梨は消え入りそうな声で「…もう嫌だ、産みたくない…故郷を侵略した奴らへの、仕返しのつもりだっただけなのに…」と言ったにゃ。「本当に良いんだね?」「はい…」蛇姫様は頷いたにゃ。それから花梨の下腹部に手をあてて、何か呪文を唱えたにゃ。すると花梨の「うっ…」といううめき声と一緒に、産道から小さい蟲の子が数十匹も出てきたにゃ。出産した直後にすぐに次を仕込んだ為か、まだほとんど育っていなかったにゃ。蛇姫様を蟲たちを踏みつぶすと、宴会場を出て行ったにゃ。
蛇姫様は廊下をどんどん進んでいき、初日に来た時に、花梨が出産をしていた部屋に入っていったにゃ。部屋を見渡すと、地下に続く階段が見えるにゃ。蛇姫様がどんどん階段を下っていくと、今まで花梨に子を産ませていた蟲の親玉がいたにゃ。そして大量の、まだ山に放たれていなかった蟲たち。すると蛇姫様は「集合!」と叫んだにゃ。
それは瞬く間の出来事だったにゃ。宴会場で寝ていたはずの、あのキノコの精たちが全員駆けつけてきたにゃ。そして「わーい♪」と言いながら蟲を片っ端から踏み殺していったにゃ。キノコの精たちは、あの山の免疫細胞みたいな存在だったにゃ。いつも人をからかいに来るから、桜娘たちに追い払われていたのにゃ。さて、キノコたちが蟲を踏み殺していくのを見ながら、蛇姫様は蟲の親玉と対峙していたにゃ。襲われれば蛇姫様といえど一たまりもないにゃ。しかし蛇姫様はにんまり笑うと、隅に置いてあった箱を手に取ったにゃ。「あなたのその巨大な姿はただの幻だね。あなたの本体は、ほら、ここに!」箱を開けると、中にちょっと大きめの蟲がいたにゃ。「花梨を解放してもらうよ」蛇姫様は箱もろとも、その蟲を粉微塵にしたにゃ。
朝。「あれ、、蛇姫様は…?」花梨が辺りを見回すにゃ。まだ誰もが泥酔して寝ているにゃ。そして、自分の足の間には踏み殺された蟲の幼体たち。しばらく、それをぼんやり見ていた花梨だったけど、まるで憑き物が落ちたかのように桜娘の元へ行ったにゃ。まだ寝ている桜娘の手を取り「ごめんなさい。これからは桜の再生に命を使うから…」と言ったにゃ。それから数年後、この村は再び桜の時期には花見客でにぎわうようになったにゃ。
一方、二葉を抱えて夜明けに屋敷を出てきていた蛇姫様。凄まじい二日酔いで、道中げーげーやっている二葉の背中をさすりながら、遠くに見える村を見ていたにゃ。次に来る時には、ちゃんと花見の席で花梨と再会しよう、と思っていたのにゃ。
今回の報告はここまでにゃ。