Soundtrack


FOOTLOOSE


1984(1998) / Sony
1. Footloose - Kenny Loggins
2. Let's Hear It For The Boy - Deniece Williams
3. Almost Paradise (Love Theme From "Footloose") - Mike Reno (Of Loverboy) And Ann Wilson(Of Heart)
4. Holding Out For A Hero - Bonnie Tyler
5. Dancing In The Sheets - Shalamar
6. I'm Free (Heaven Helps The Man) - Kenny Loggins
7. Somebody's Eyes - Karla Bonoff
8. The Girl Gets Around - Sammy Hagar
9. Never - Moving Pictures
10. Bang Your Head (Metal Health) (Bonus Track) - Quiet Riot
11. Hurt So Good (Bonus Track) - John Mellencamp
12. Waiting For A Girl Like You (Bonus Track) - Foreigner
13. Dancing In The Sheets (Extended 12" Remix) (Bonus Track) - Shalamar


 あれからもう20年近くも経ってしまったんだなあ…

 2003年4月にテレビ神奈川(TVK)で放映されたこの「フットルース」を観ながら、まずはそんな感慨に耽ってしまった。テレビ神奈川やテレビ埼玉、東京メトロポリタンTV(MXTV)といったテレビ局が午後7時前後に放映している洋画プログラムは全く侮れない。70〜80年代の隠れた名作や駄作を惜しげもなく繰り出してくる。CMの入れ方や吹き替え声優もかなりでたらめだが、そこまで含めて偏愛したくなる奇妙な魅力に満ちている。20年という年月を一瞬にしてすっ飛ばし、お小遣いを握り締めて映画館に観に行った中学生の自分に戻れる不思議な魔法に満ちている。

 それにしてもこの映画におけるケヴィン・ベーコンのカッコいいことといったら。78年映画デビューの彼がついに掴んだ世界的大ヒット作の主役キャラ、何も失うものがない強さを見せつける。都会から保守的な中西部の田舎町に転校してきた彼が、ダンスする権利を大人たちから勝ち取るまでを描くストーリィ。いじめに耐え、好きな女の子ができ、「大人たち」と闘う。一歩間違うと救いようのないNG作品に陥るところだが、それを防いだケヴィンの躍動ぶりは画面から飛び出さんばかりだし、特にムーヴィング・ピクチャーズの "Never" に合わせて一人で踊りまくるシークエンスの迫力は有無を言わさぬものがある。

 彼が70年代後半にショーン・ペンやヴァル・キルマーと一緒にブロードウェイ・デビューしていたことや、80年の「13日の金曜日」に出演していたことなど全く知らなかった自分だが、そんなこと関係なく単純に楽しめる。アメリカのハイスクール・ライフに憧れたことがある人には、ユーモアたっぷりに描かれる田舎の高校生活の様子も面白いだろう。閉鎖的な町から飛び出して少しでも遠くへ行きたいと思いながらティーンエイジを過ごした人には、狂信的なまでに保守的な大人たちへの反抗心もリアルに思い出せるかもしれない。そして、そんな気持ちをどこかに置いてきてしまったことや、同じように少しずつ守りに入り始めた30代ないし40代の自分に気づいて愕然とするかもしれない。守りに入ること自体が悪いことだとは思わない。自覚がないことが問題なのだから、気づかせてくれるこんな映画が貴重なのだ。そしてそれを何気なく再放送してくれる地方ローカルのTV局が。

 ケヴィン・ベーコン・ゲームをご存知だろうか。
 アメリカの学生が発見し、映画ファンの間で大きな話題になった「どの俳優から始めても、共演した俳優をたどっていくと3〜4回目には必ずケヴィン・ベーコンにたどり着く」という法則。「フットルース」以降、ピンスポットの当たる主役でのヒットを飛ばせないように見えた彼が、地道にさまざまな映画に出演していたことの証左だろう。だから世界はケヴィン・ベーコンを中心に回っている、というのは言い過ぎにしても、「アポロ13」などでの演技ぶりを見るにつけ、あらためて「いい俳優だなあ」と思わせてくれるだけのものを持っているのは間違いない。少なくとも「フットルース」の時点では、彼がこれからバイプレイヤーとして生きる道を選ぶことになろうとは夢に思わなかったわけだが…

***

 さて洋楽界においても「フットルース」サントラはエポックメイキングだった。全米アルバムチャート1位10週のマルチミリオンセラーになり、次から次にヒットシングルが飛び出した。順番は逆だが、結果として1984年のポピュラー音楽シーンの縮図として楽しむことができる。オリジナル盤は9曲目までで、10曲目以降は1998年に「15th Anniversary」として再発売された際に追加収録されたボーナストラックだ。いずれも映画中ではクラブなどで流れる楽曲として効果的に使われていたもので、サウンドトラックとしてはこちらの方が正しいあり方なのかもしれない。しかし、このサントラがもたらした衝撃はあくまでも9曲目までの「この映画のために書かれたトップアーティストの新曲で編集したオムニバスアルバム」という点にある。そこが見えにくくなってしまうのは残念だが、Chris Athens による丁寧なリマスター作業も含め、全体としては悪い仕事ではない。

 悪い仕事でないどころか、今聴き返しても本当によくできたサントラだと思う。80年の "It's Alright"(US#7) 以来トップ10ヒットから遠ざかっていたケニー・ロギンスに初の全米#1 "Footloose" をもたらしただけではない。アーティスト名をざっと眺めてすぐに気がつくのは、ハードロック/ダンス/ブラックコンテンポラリー/AOR/バラードといった細かいジャンル分けを超えた雑多な収録になっていることだ。これが80年代前半の全米の音楽シーンだった。僕らはジャンルなど気にせず、ヒットチャートを賑わす幅広いアーティストに接することができた。ラジオからも、概ねこういう形で音楽が流れていたといっていい。つまりボニー・タイラーが歌うジム・スタインマン楽曲の後にシャラマーの粘っこいダンス曲が続いても、何ら違和感がなかったということだ。それが当時の「洋楽」だった。

 その感覚を味わえるだけでも十分に歴史的な価値のあるアルバムだが、このヒットに味をしめたソニーグループがほとんど同じ手法で "TOP GUN" (US#1/86) を大当たりさせ、以後延々と続くオムニバス型サントラのテンプレートを作った点こそ記憶されるべきだろう。だがこれほどのバラエティとクオリティを両立させたものは多くない。デニース・ウィリアムスの小鳥のさえずりのような声を素材にジョージ・デュークが腕を振るった "Let's Hear It For The Boy" は、ブラック/ホワイトのマーケットを超えた特大ポップ・ヒットだし、ラヴァーボーイのマイク・レノとハートのアン・ウィルソンにデュエットさせた大げさな "Almost Paradise" はエリック・カルメン作のいかにも彼らしいバラードだ。作者トム・スノーのエレピ(ローズ)が大きくフィーチャーされたカーラ・ボノフの "Somebody's Eyes" も、地味ながら忘れ難い佳曲で、マイケル・ランドウの短いギターソロが耳を引く。また米国ではシングルヒットこそしなかったが、豪州産のムーヴィング・ピクチャーズ "Never" に触れないわけにはいかない。シンセサイザーによるドラマティックなイントロを突き破って飛び出すサックスのブロウ、一度聴けば頭にこびりついて離れないコーラス。彼らの全米デビューが "What About Me" (US#29/83, US#46(Re)/89)でなくこの曲だったら、と想像せずにいられない。

***

 あれからもう20年も経ってしまったんだなあ…
 主役を目指すのが唯一の生き方ってわけじゃないだろ。バイプレイヤーとして生きる道だってあるじゃん。時には脇役のほうが強い印象を残すこともあるんだからさ。そう思うと、ちょっと肩の力が抜けた。Happy-go-lucky。僕の人生はいつだってお気楽、常に楽天的。Let bygones be bygones!

 CDプレイヤーは静かに止まり、不思議な魔法も解けて、後には静寂だけが残された。


お気に入りベスト3
1. Never
2. Dancing In The Sheets
3. Let's Hear It For The Boy

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