Lee Ritenour, Larry Carlton & The Sapphire Blues Band,
Spyro Gyra @ 東京国際フォーラム



 2003年12月17日(水)、東京国際フォーラムホールCにて「音祭@フォーラム」というイベントを観てきた。出演者は、70〜80年代のAOR/クロスオーバーシーンを席巻したリー・リトナー、ラリー・カールトンの2大ギタリストに、ベテランフュージョンバンド、スパイロ・ジャイラ。当時あのジャンルをよく聴いていた人たちにとっては夢のような豪華競演といえるだろう。

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★Spyro Gyra
 いつかいいベスト盤を見つけたら買おうと思っているうちに、先にライヴを観ることになってしまった。曲としては "Morning Dance"くらいしか知らなかったが、実に楽しめる演奏だった。何といっても中心メンバーのジェイ・ベッケンスタインのサックスが素晴らしい。足で大きくリズムを取りながら、滑らかにファンキーにブロウしまくり。無駄な力が入ってなくて、それでいてメロディとテクのツボがしっかり押さえてあるまさしく名人芸。他のメンバーも技巧派ばかりで、ギタリストもキーボーディストも絶妙のソロを展開してくれる。ベーシストは黒人のスコット・アンブッシュ、彼のソロパートでの目にも止まらぬ高速チョッパーにはびっくりした。

 見せ場のひとつはジェイのダブル・サックスソロ。何とアルトとテナーの2本を同時に口に加え、それぞれ右手・左手で弾きながら絶妙に3度でハモる長いソロを吹いてくれる。よっぽど練習しているのだろうが、あんな演奏する人は初めて見た。口が疲れるだろうなあ…。ジェイは Dream Theater の名曲 "Another Day" でソプラノ・サックスを吹いていることで知られる。ご存知のとおり Dream Theater はプログレッシヴ・メタルと呼ばれるジャンルのバンドで、ライヴでは同曲のソロはやむを得ずキーボードで代用されるのだが、毎回「なんか違うな〜」と思わずにいられないのだ。ジェイの生演奏を聴いて納得した。これを鍵盤で置き換えること自体に無理がある。

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★Larry Carlton & The Sapphire Blues Band
 個人的にはラリー・カールトンはスティーリー・ダンでのプレイが印象的だ。AOR/フュージョンの代名詞的なギターを聴かせてくれた彼に期待したところは大きかったのだが、今回の公演は上記のとおりホーンセクションを入れたバンドによるブルース解釈的なものになった。もちろんカールトンのギターは彼の音以外の何物でもなかったし、タメて後ろに乗っけるブルースのノリが絶妙すぎて一音ごとにぶっ倒れそうになったのも事実なのだけれど、やっぱりちょっと違ったのだ、僕が聴きたかったラリー・カールトンとは。彼にしてみれば毎回同じような来日公演じゃ飽きる、今回は趣味のブルースで…という感じなのだろうけれど、僕は直球勝負のフュージョンセットでも全然構わなかっただけに、やや不完全燃焼だった。だってブルースなんてどれを聴いても同じに聞こえるんだもの(禁句)。

 ラリー自身はジーンズに白いスニーカーでひょこひょこ歩いてくれて、とても気さくなおじさんって感じだった。それでいてソロを弾き始めると火を噴くような熱いフレーズが飛び出してくるのだから不思議。見るからに本当に「いい人」なんだろうなあって感じた。どうしてって? 人は見かけによるのだ。間違いない。

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★Lee Ritenour
 カールトンが趣味に走ったと書いたけれど、リトナーのセットもある意味趣味の世界だった。ここ数年リリースしているアントニオ・カルロス・ジョビンやボブ・マーリー、モータウンのカヴァーアルバムから多数選曲して、無名の若者ヴォーカリストを引っ張り出して歌わせたり。リトナー本人は楽しそうだったからいいけど、こちらはちょっとだけ眠くなってしまった(イベントが19時から始まってもう22時近かったのだ)。それでもリトナーのトーンは本当にリトナーで、目をつぶって聴いているとこれまでいろいろなアルバムで聴いたことのある「あの音」そのものなのだった。

 リー・リトナーのギターの特徴は「決して熱くならない」ことだと思う。どんなに速いフレーズを弾きこなしていても、常に冷静でひんやりした演奏であり、その点でカールトンとは決定的に異なる。2人がそれぞれ Fourplay の初代及び2代目ギタリストというのも不思議な話だ。到底置き換え不可能なギタリストでありながら入れ替わってしまった。いろいろな意味でこの世界を引っ張ってきた両巨頭だからこそ、そのスタイルの違いも含めて多くのファンに愛され、受け入れられたってことなのだろう。リトナーの「体温を感じさせない」ソロを堪能したあと、アンコールのジャムセッションではラリー・カールトンとスパイロ・ジャイラのジェイ・ベッケンスタインが加わった。ラリー&リーの奇跡的なソロ合戦など、楽しそうに演奏するベテランたちの表情を目に焼き付け、僕は演奏時間3時間半を超えた会場をあとにしたのだった。
 
 今回のイベントはJ-WAVE絡みの企画のようで、各出演者の出番の前にはDJのルーシー・ケントがステージに出てきてアーティスト紹介などの原稿を読んでくれたが、個人的には邪魔に思われた。そもそもこのライヴを観に来た人たちで、ラリー・カールトンがどのようなギタリストであるか知らない人などいる訳がないのだ。「さあ、それでは盛り上がっていきましょう!」などと拍手を強制されるのも興醒めだった。彼女も仕事でやむを得ずやらされているのだろうし、ルーシーさん自体はとても好きなDJなので、複雑な気分にさせられる演出だった。もっとも、僕の席の後ろにいた学生らしき女の子などは「リー・リトナーなんて名前聞いたことない」などと語っていたので、全く無駄ではなかったのかもしれない。全般的な感想として、この種の安定したフュージョンをホール会場で楽しむのは難しいように思われた。ロックのようにダイナミックでなく、ジャズのようにスリリングでもない。どこか予定調和を感じずにいられないその音楽は、大きなハコよりは小さなライヴハウスで楽しみたいし、さもなければドライヴや家事のBGMとして流す時の方がずっと活き活きして聞こえるのは気のせいだろうか。

(December, 2003)

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