David Bowie / Morrissey @ Wembley Arena
(Part 2: David Bowie)


17 November 1995

 続いて同じく11月17日の Wembley Arena におけるデヴィッド・ボウイのライヴ・レポートいきましょう。端的に言って、この人は「解脱したカリスマ」でした。

★いやあ、凄い!
 今回のライヴを観ての最大の感想は、「この人はやっぱり歌唄いとして生まれてきたんだなあ」ということ。前回観た Sound & Vision ツアーと比べても格段に声の迫力があって、正直身震いしました。"OUTSIDE" アルバムに失望感を感じているあなたも、来日公演には絶対行くべきです。断言。

★オブジェ的な置物や、テーブル風の飾り物がセットされてはいますが、全体としてはすっきり広大なステージです。
 今回の舞台の特徴は、装飾品が主として天井からの吊り物であること。曲に合わせて複数の球状ライトや看板、カラフルな布などがタイミングよく垂れてき て、舞台を三次元的にうまく活用した見せ方が印象的でした。

★オープニングは、モリッシーのステージセットを転換する途中から流れ始めたクラシックの交響曲風のBGMが、実にゆっくりとクレッシェンドしていく趣 向。気がつくと最大音量になっていて、曲がクライマックスに達して終了するのと同時に客電が落ちる、という演出でした。

★バンドはキーボーディストが3人もおり、しかも横並びということもあって、やや人口密度が高い印象を受けます。左端のマイク・ガーソンは主にピアノ系の 音色担当ですが、即興風のジャズっぽい演奏は実に素晴らしいものでした。
 ギターのリーヴス・ガブレルスはここ数年ボウイの側近を務めていますが、非常に的確なプレイをする人です。アクション的にはエイドリアン・ブリューに似 ていると思いました。
 あとはベース担当の黒人お姉さん、ゲイル・アン・ドーシーが特筆に価します。ファンキーでよく鳴るベースだけでなく、コーラスで聴かせる喉も相当うま い。中でもフレディ・マーキュリーのパートを再現した "Under Pressure" は単なる添え物以上の素晴らしいヴォーカルでした。

★"OUTSIDE" アルバムからはほぼ全曲を演奏。いずれもアルバムよりもライヴの方がずっと説得力があります。本作はそもそも舞台化するつもりで書かれたアルバムなのでは ないか、という推理もうなずけますね。
 特に、もともとメロディラインがはっきりしている "Outside" や "The Hearts Filthy Lesson"、"Hallo Spaceboy" などは過去の名曲たちの中でも霞まないだけの輝きを放っていたように思います。実に力強い歌いっぷりでした。
 本作屈指の名曲のひとつでありながら、何故か全米ツアーではやらなかったという "Strangers When We Meet" も披露。「90年代版 "Heroes"」といってもいいと思うのですが、生で聴いてますます好きになりました。

★もちろん、過去の名曲たちを聴けるのも楽しみでした。オリジナルとはかなり異なる斬新なアレンジが施された曲も多くて、コーラスになるまでどの曲かわか らないくらいです。
 演奏されたのは、
  "Scary Monsters"
  "DJ"
  "Look Back In Anger"
  "My Death"
  "Andy Warhol"
  "The Man Who Sold The World"
  "Under Pressure"
  "Boys Keep Swinging"

 などなど。読んでいるだけで涎が出てきそう…。
 イントロで特に大きな歓声が上がったのは "My Death" でした。ひたすら重くて救いのない歌に思えますが、ボウイが歌うと何ともいえない気品を感じます。あるいは美しさ、と言い替えてもいいかもしれません。

★"Andy Warhol" は Stone Temple Pilots がMTV Unpluggedでアコースティック・カヴァーしているのを聴いて大好きになった曲です。ボウイのヴァージョンは、ヴァース部分ではマイクの前に直立し て頬杖をつくポーズをとったまま微動だにせず歌います。歌うパートが終わるとバックの演奏に合わせてライトが激しく点滅し、彼もフラッシュの中で無茶苦茶 に手足を振って暴れるのですが、歌に戻ると先ほどのポーズにさっと戻って再び直立不動になるのでした。

★ライヴのラストは、静寂を破るように切り込むドラムス。「ダッ、ダダッ!」
 思わず身体が反応します。何てことだ、"Moonage Daydream" だよ!
 会場の割れるような歓声を想像してみてください。1995年に、ここロンドンでこの歌を歌う彼。コックニー訛りのボウイはしっかりと「むーないじ・だい どり〜む、Oh yeah」と歌ってくれました。何度も繰り返されるリフレインの余韻の中、予定通りにアンコールなしで演じきられた舞台は幕を下ろしました。

★さて、僕はアルバム制作とライヴ演奏はやや別物だと思っています。もちろん密接に関係してはいますが、アルバムの制作を「仏を作る」行為だとすれば、ラ イヴでそれを演じるのは「仏に魂を入れる」行為だと説明すれば判りやすいでしょうか?
 たとえば Steely Dan のようにアルバム制作時点で「仏に魂を入れ」きってしまい、それを再現することにほとんど意味を見出さない人たちもいますし、仏を作ったはいいがちっとも 魂を入れず、冴えないライヴでがっかりさせる人々もいます。

 デヴィッド・ボウイの場合はレコードとライヴの相乗作用が最も成功しているアーティストの1人だという気がします。深みのある芸術的なアルバムを制作 し、それを舞台(彼には "STAGE" というライヴアルバムがあるくらいです)で演じることを通じて、作品として提示されたアルバムにより深いディメンションが加わって、音楽的価値がさらに増 すような気がするのです。ここ数年の彼はその辺のバランスを取るのに苦労していたようにも見えます。

 今回のボウイは違います。
 アメリカで Nine Inch Nails、イギリスで Morrissey、ヨーロッパでは The Cranberries という、若い世代を代表する人気アーティストたちを前座に据えるというのは、下手すりゃ自殺行為です。「ロックンロールの自殺者」などと洒落込んでいる場 合ではありません。

 しかしそれも、要するに自分がどこまで突き抜けてしまったのかをより明らかに見せるための演出だったのかもしれません。事実、ボウイのあまりにも気迫の こもった声、あまりにも英国的なその「声」の前には、何者も彼の敵じゃないという気持ちにさせられましたから。

 こうなればどこまでもついていくしかない…のかもしれない、と思わせた凄いライヴでした、とまとめておきましょう。


November 2004 追記
 ボウイは57歳になった今年3月にも日本武道館などで来日公演を行い、年齢とは逆にますます若返っていく不思議な存在ぶりを見せつけてくれたようです。 バックのメンバーも90年代後半以降、安定していますね。観られるうちにもう一度観ておこうかな…



MUSIC / BBS / DIARY / HOME