英国ポップ天然記念物♪Squeeze @ Royal Albert Hall


25 October 1995

 すっかり1995年の流行語になってしまった「ブリットポップ」なるキーワード、要は「英国らしいポップス」ってことですよね。でもそれならちっとも新しいものではありません。ずーっと昔から、用語の真の意味での Britpop を演奏し続けているバンドがいるのです。それが、Squeeze。10月27日のロイヤル・アルバート・ホール公演を観てきましたのでご報告します。

 いやあ、それにしても スクイーズは日本にいるとその良さが最も分かりにくいバンドのひとつではないでしょうかね。自分も頭では「英国では国民的な Favourite バンドなんだ」って分かっていながらも、武道館をひと回り小さくしたような円形のホールをぎっしり埋め尽くしたファンにはびっくりします。何といっても印象的だったのは、お客さんの表情がみんなとても楽しそうだったこと。人を心から楽しくしてくれるのがポップスであるとすれば、彼らの音楽はまさしく "Britpop"。開演前の場内BGMがいわゆる今年のブリットポップのオムニバスCDかけっぱなしだったのには笑いましたが、これも英国風諧謔精神なのかな。流れる Blur や Pulp や Oasis にオーディエンスもますます盛り上がります。

 さて開演時間になりました。
 この会場独特のスタイルで客電が「まろやかに」落ちて、ステージ背景に張られた白いスクリーンに逆光のライトが照らされます。スクリーンの向こうで影絵のようにポーズをとるメンバーの姿が映し出されてどきどきする入場。全員がステージに出てくると同時にアリーナ席のお客さんは一斉に席を立ち、ステージ前に駆け寄ったのでした。会場の警備員たちも、暴れずに楽しくコンサートを観ている分には無理やり席に連れ戻したりしないところが日本と違いますね。

 ちなみに僕の席は普通に街中のチケットショップで買ったにもかかわらず、アリーナ席ステージ正面3列目のど真ん中、Chris Difford からわずか3mくらいのところ。視線合いまくりで嬉しいな〜。Chrisはちとラメ入った黒の三つボタンスーツをびしっと着こなしてて渋い感じ。ギターを取り替えたりする身のこなしもすごくダンディ。一方、向かって左側の Glenn Tilbrook はといえばクリーム色みたいなシャツ1枚、袖はまくって裾は出して、思いっきりカジュアルな格好で、クリスとの対比もいい感じなのでした。残念ながらキーボードはポール・キャラックではありませんでしたが、鍵盤・ギター・コーラスと器用にこなす巧いプレイヤーでした。ベースのキースはもともと危なかった頭をついにスキンヘッドにしてしまいました。トニー・レヴィンというよりはむしろミッドナイト・オイルのピーター・ギャレットぽかったです。新加入のドラマーは実に淡々と叩く様子が好感度高し。いかにも性格良さそう。

 さて、新作の "RIDICULOUS" のリリースは結局この公演に間に合いませんでしたので、新作からは軽くさわりの数曲を歌っただけ。12月20日前後にもう一度ロンドン公演が予定されていますから、そちらで大披露するんでしょう。…ということは、そう、今日はグレイテストヒッツ選曲大会だったのです!

 なにせオープニングからいきなり "Annie Get Your Gun"。総立ちのアリーナ席が歌う歌う。僕の隣の席のおばさんも大声で歌いまくってました。続いて "Another Nail In My Hand""Pulling Mussels (From The Shell)""Is That Love""Up The Junction"(←ひときわ大人気)、"Some Fantastic Place""Footprints" …と次から次へ炸裂する怒濤のヒットメドレーに圧倒されます。このキャッチーで可愛いメロディの嵐こそ、別に派手じゃないけれど英国ポップの玉手箱なのですよ。要所を締めるグレンとクリスの2本のギター、そして3枚、時には4枚で重ねる厚いコーラスの完璧さ。彼らのヒット曲はどれも好きになっちゃった節操のない僕ですが、個人的にはクリスが得意の低音で歌う "Cool For Cats" でキレました。もう歌いまくり。渋くてカッコいいんだよ〜。となると本編ラストはこれしかないでしょ? "Take Me I'm Yours"! これまでも何度も書いてきたこちらでのライヴの観客大コーラスですが、本当に見渡す限り「全員」歌ってました。何だか嬉しくて泣きそうになっちゃう。全然泣く場面じゃないんだけどね。

 アンコールを求める歓声と大拍手に応えて出てきたのはグレンとクリスの二人だけ。それぞれアコースティック・ギターを構えて、せーのと息を合わせて弾き始めたのは "Goodbye Girl"! この曲なんて1978年作なのにちっとも古びていないどころか、今 Blur あたりを聴き慣れた耳にもすごくスムーズに響くのが流石です。コーラスの "♪Goodbye girl〜" 3回繰り返しのところでマイクをこちらに向けて歌わせるグレンの楽しそうな表情といったら。僕もお腹の底から声の限り歌っちゃいます。

 続いてグレンがアコギで弾き始めたこのコード進行は… うわぁ、"Tempted" だ! しっとりとアコギ2本でのアンプラグド・ヴァージョンに生まれ変わり、グレンがリードをとります。2番で何度か低くなるパートがあるでしょう? あそこでちゃんとクリスが絶妙にヴォーカル入れるんですよ〜。他メンバー3人も出てきて、コーラス部分では1本のスタンドマイクに向かってドゥーワップみたいに "♪Woo, woo" って合いの手を入れてくれる。もうすっごく良かったです。

 アンコール3曲目はのんびりした雰囲気がたまらない "Labelled With Love"。僕の周りでは恋人たちが肩を組んで揺れながら歌ってます。いいねえ。この曲に限らず、実はグレンは高音部が苦しそうでしたけど… 鳴り止まない歓声にダメ押しの4曲目は全員エレクトリックの楽器に持ち替えてスピード全開でぶっ飛ばす "Hourglass" 超高速ヴァージョン! もう大暴れ、なのは僕だけかな。これは全米チャートではスクイーズ最大のヒット(US#15/87)なので、個人的にはとても大切な曲なのですね。早口のコーラスがキッチュでとても可愛い曲、大好き。

 "Thank you very much, good night!" と言って去っていったクリス&グレンをロンドンっ子がこれだけで帰すわけがありません。いつまでも手拍子して待ってると、ほらほら出てきました。アンコール2回目の1曲目はイントロのオルガンリフが鳴り響いただけで大歓声! "Black Coffee In Bed" です。あのイントロを数千人で大合唱するんですよ。「♪どぅるるっとぅるーるっ、どぅるるっるー」って。本当に英国人みんなに愛されてる曲なんだなあ。うるうる。この曲はメンバー紹介を挟んで超ロングヴァージョンに展開したのでした。そして大ラスはハードでスピーディな "Slap and Tickle" で大騒ぎ! グレンとクリスのツインリードヴォーカルはまるで兄弟みたいにぴったり息が合ってる。16年前の曲がここで全く有効に機能し大歓迎されているという事実は、いい曲を書く人たちはいつまでも残るってことの証明ですよね。

 終演後のBGMはルイ・アームストロングの "What A Wonderful World"(「この素晴らしき世界」)。こちらに来てから僕が観たライヴとしては6月のボン・ジョヴィ、先週の Electrafixion(Boo Radleys の前座)でも使われていた曲ですが、歌われたとおりの「素晴らしい」コンサートでないと、これを聴きながら幸せいっぱいで帰ることはできません。で、僕はもちろんたっぷり満足して、すっかりいい気持ちで帰途に着きました。これぞイギリスの、最もイギリスらしい瞬間って感覚を堪能しながら。本当に楽しい夜でした。 


October 2003 追記
 「イギリスに住んでた間に観たライヴで一番良かったのはどれですか?」とよく尋ねられるのですが、なかなか難しい質問です。ただ、日本でなかなか観られないもの、もし観てもあちらでの雰囲気が伝わりにくいのではないかと思われるものとしては、間違いなくこのスクイーズが一番。
 現在バンドは解散状態にあり、クリス・ディフォードとグレン・ティルブルックはそれぞれソロで活動していますが、またいつの日か一緒に "Tempted" なんかを歌ってほしいと願っているのは僕だけではないことでしょう。


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