花の都・新春(うそ)大放談! Blind Melon LIVE


8 September 1995

 さてさて、9月8日、ロンドンは Mean Fiddler にてブラインド・メロンのライヴを観てまいりました。僕の住むフラットに現在長期滞在中のぱいぱくんとの対談形式でコンサートレポートさせていただきまっす。

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ぱいぱ 「どもども、居候のぱいぱです。冬さんファンクラブのお姉さま方、一人占めしてどうもすんません(笑)」

冬 「意味不明っす(笑)」

ぱいぱ 「まぁそれはいいとして(笑)、ブラメロです。彼らはレディング・フェスに出演して、その後この公演のためにイギリスに居残ってたわけですね」

冬 「イマイチ世界中で無視されている感もありますが(笑)、実は僕も彼らの2nd "SOUP" はよく聴いてます。大傑作! ちなみにぱいぱくんが観に行ったレディングのレポはニフティのFROCKL 14番会議室にアップされてるようなので、興味のある方は是非どうぞ。宣伝はこれでOKっすか?(笑)」

ぱいぱ 「うぃーす(笑)。ただし、ものすごーく時間の余ってる方に限ります。いやマジで(笑)」

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ぱいぱ 「さて、まーずはお約束で会場の Mean Fiddler の話でもしましょうか。以前冬さんがフランシス・ダナリーのレポでも触れてらっしゃったので、まぁ軽く」

冬 「紹介どうもありがとう(笑)。昔ながらのパブって感じで、アットホームに音楽に触れられる会場だよね。こっちに来てからここで観たライヴは1回もハズレがないです」

ぱいぱ 「クラブとかパブの雰囲気のままバンドのライヴが楽しめるのって、ほんと気分いいっすよ。ライヴを観る、って感覚が全然なくて… こっち来て以来、とにかく音楽が自然に存在してるってのを実感しまくってます」

冬 「東京にこういう会場がないのは致命的だよね。広さとかはどう?」

ぱいぱ 「日本と比べたらすごく狭いんでしょうけど、あちこちクラブとか通ってたからもう違和感はないですねー。渋公とか行ったら違和感バリバリかも(泣)」

冬 「ここは2階席があって、上から覗けるようにもなってるしね」

ぱいぱ 「僕も、最初は下で波打ってたんですけど、全然ステージ見えないので途中から上に行きました。winterさんみたく背が高くないので、イス引っ張ってきて乗っかってましたけど(笑)」

冬 「前の方に行くためにはやっぱ前座から見てないとね。僕は最初からその気ないから別にいいんだけど、君まで遅刻しちゃダメだって(笑)。やっぱり遠かった? かなり辺鄙な場所だからねー」

ぱいぱ 「行きの電車がすげー怖かったです(笑)。労働者風のブラックばっかりなんだもん。差別するわけじゃないすけど」

冬 「同じ黒人の多い街でも、ここはすごくさびれてるので、南の Brixton なんかとはまた違った空気があるね」

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ぱいぱ 「でもって肝心のライヴですが」

冬 「いやー、良かったっすねー!」

ぱいぱ 「ほんとに感情こもってますか、それ?(笑) いやでも、マジな話、ほんと最高でした!」

冬 「とにかく、まずは楽しくて気持ちのいいライヴだったよね」

ぱいぱ 「ぼくなんて、隣のドレッドと肩組んで踊りまくってたら、一緒にイスから落ちちゃって大変でしたよ(笑)」

冬 「うーん、それはなかなかいい経験をしたね」

ぱいぱ 「はぁ(笑)。もっとこう、熱いソウルを言葉にこめてくださいよ(笑)。まぁいいっす。とにかく、音としてはもうキメキメのハードロックなんですけど、それが驚くほど自然に流れ出してくるっていう、この現象!」

冬 「そう、みんなごく自然に好きなようにプレイしてて、曲なんてもう、こっちの思惑を外れる方向にひょいひょい軽く展開してくんだよね。だけどアンサンブルはビシビシ決まりまくってるっていう」

ぱいぱ 「みんなめっちゃくちゃ上手いですもんねー。びっくりしましたよ、リズム感がすごくて。カッティングの切れ味は今最高じゃないっすか?」

冬 「とにかく、軽快で、すごく柔軟なのには驚いたなぁ。アルバム聴いた段階では、1stに比べると硬いっていうか、少し無理して曲を作ったような気もしてたんだよね」

ぱいぱ 「確かに、ツェッペリンの "PRESENSE" 的な不自然さがあったかも」

冬 「シングルヒットの "Galaxie" が、あんなに柔らかく決まるなんて思わなかったもん」

ぱいぱ 「あの曲はもうちょーカッコ良かったっす」

冬 「だけどまったく押し付けがましさはないんだよね」

ぱいぱ 「この自然体な音の在りかたというのは、メンバーの天然なキャラクターとか飄々としたアティテュードを見事に表してるんでしょーね」

冬 「そうなんだよね。シャノン・フーンの変てこりんなアクションって、もうどうしようもなく自分の中から出てきたものって感じで。カッコつけたロックや、HRの世界でいやっていうほど築き上げられた様式美を見慣れた目には、ものすごく新鮮」

ぱいぱ 「お約束とは無縁ですよね」

冬 「でも日本じゃかっこ悪いって言われそうだね」

ぱいぱ 「あのガチョーンみたいなやつとか?(笑) みんな真似してて笑えました(笑)。あと、間奏で突然ナイフを取り出すから『おぉ、何やらかすんだ?』とか期待したら、ごそごそパイナップルやオレンジを切って客にあげてるし(笑)」

冬 「爆笑」

ぱいぱ 「全然笑ってないじゃないすか、ったく…(笑)。で、ただ気持ちいいだけの音楽じゃないんですよね。シャノンのヴォーカルは、歌い始めた瞬間にその場の空気を変えるだけの力を持ってた。単なるパブのBGMには終わらせない声」

冬 「MCとかはほんと無邪気で、どこにでもいそうなアメリカのやんちゃ坊主って感じなのに、歌が始まると完全に憑き物状態っていうかさ。その瞬間が20曲弱の始まるたびに訪れてスリリングだったねー」

ぱいぱ 「世界でいちばんカリズマティックなパブ・バンド! 某ミーハー評論家の草分け的なお方がですね(笑)、彼らの音楽は全然新しくないとか言ってたんですけど、音のパーツだけ聴いてそういうセリフを吐いてしまうっていうのは、もはや耳が腐ってるんではないかと」

冬 「こんな新しい音ねーだろって感じだよね、逆に。最終的にはやっぱアメリカン・ロックの集合体で、いろいろなルーツも見えなくはないけど、それをこれだけごちゃ混ぜスープ状態にしてあの音圧で提示できるバンドって皆無だし」

ぱいぱ 「なんていうのかなー、こういう音がずっと昔から存在してて、ちょっと飲みにでも行けば知らないバンドがこんな曲をやってる、みたいなパラレルワールドを覗いちゃったような気分ですよ」

冬 「何の違和感もなく、まるでそこにずっと存在してるかのような自然さなんだけど、実は他にこんなバンドはいないんだよね。たった2枚で、完全に『ブラメロの音』を創っちゃった」

ぱいぱ 「マッチョにも行かず、へなへなの下手ウマにも逃げず、もったいつけ系でもオシャレ系でももちろんない。これってもしかしたら、すごく新しいロックの姿なんじゃないでしょーか?」

冬 「某RO誌風に言えば、『新世代ロックの聖体拝領』ってとこすか(笑)」

ぱいぱ 「おーい、やまだくーん!」

冬 「はぁ、誰っすかそれは?」

ぱいぱ 「いや…僕の友達です。そいや、意外に日本人多かったっすよね。やっぱあれ、某音楽誌の回し者系でしょうか(笑)」

冬 「それっぽい人たよねー(笑)」

***

ぱいぱ 「話戻っちゃいますけど、会場の雰囲気もぴったりでしたね」

冬 「日本のホール会場とかでは魅力がほとんど削がれてしまうタイプのバンドだろうね」

ぱいぱ 「あんま気がつかなかったけど、今までそういうことっていっぱいあったんだろうなー。ホールでうまくやれるってのもひとつの評価ですけど、それは今僕からはちょっと遠い音になっちゃってるし」

冬 「結論から言っちゃうと、もう完璧に近いライヴバンドだったね」

ぱいぱ 「マジでホールじゃ死んでも見たくない! 売れなくていいから、ずっとああいう空気をまとったまま音楽をやり続けてほしいっす」

冬 「ていうか、売れないほうがいいよね、これ以上は(笑)」

ぱいぱ 「まったくです(笑)。このままずっと続けてくれれば、僕はアルバムが出る度に買うだろうし、近くでギグやってくれれば必ず見に行きますよ、きっと。で、どこに行っても、数は多くないけど熱心なファンがちゃんと集まってくるっていう…。あーもう泣きそう。なぜ?(笑)」

冬 「まぁそれが理想だよねー」

ぱいぱ 「ちょっとびっくりしたんですけど、今のシーンにはどこにもブラインド・メロンの居場所がなさそうなイギリスでも、あれだけ熱心に好きな人がいて、ギグはすごく盛り上がるんですねー。嬉しかったけど」

冬 「っていうかさ、この国のいちばんいいところって、どんな音楽に対してもまずはオープンなんだよね。で、だからこそ、そういうリスナーの側からシーンが動いていくっていう。むしろ今じゃアメリカなんかの方が視野が狭いよね。グランジとかソフト・パンクとか、レッテルがないと音楽を聴けなくなってしまってるみたい」

ぱいぱ 「レッテルだけのバンドとか、よく売れてますもんね(笑)。しっかし、どう見てもティーンの女の子とかが、あのブラメロの曲を大合唱してる光景っていうのは、やっぱ違和感ありましたよー(笑)」

冬 「ほんと(笑)。いったいどこであんな音を見つけてくるのやら。それと、こっちでギグ見るたびに悩むんだけど、あの大合唱の凄さってのは、いったいどうやって文章にしたら伝わるのかなあ」

ぱいぱ 「確かに! もー日本で言う『大合唱』とは次元が5ぐらい違いますもんね。最初のヴァースからフルコーラス、何から何まで全員が一字一句違わず歌ってるっていうのは、それだけでアドレナリン爆発状態ですよ。あれ見るだけでも価値ありっていうか、もースペクタクル! しかもあんなに乗せにくい歌詞なのに(笑)」

冬 「そうなんだよねー(笑)。たぶん、英語を話す人種にとってもかなり難しいと思うんだけど」

***

冬 「さてさて、今回君の発案でこういう対談形式にしてみたんだけど、どうでした?」

ぱいぱ 「いやー、構成するの案外めどくさかったっすよ(笑)」

冬 「僕は楽だったけど(笑)。しかし、好評を博するかは別の話」

ぱいぱ 「さぁ?(笑) そんじゃまあ、感想の募集でもしときますか。皆様、お待ちしてまーす!」

冬 「……」

ぱいぱ 「ちょっとwinterさん、ちゃんと一緒に言ってくださいよ〜」

冬 「はぁ、何すかそれは?」

ぱいぱ 「あーもういいです(笑)」


March 2003 追記
 ご存知のようにその後ヴォーカリストのシャノン・フーンはツアー中のバス内で不慮の死を遂げた。ドラッグのオーヴァードーズが原因とも言われているが、目の前であんなにも素晴らしいライヴを見せてくれた彼が、2ヶ月も経たないうちにこの世から消えてしまったなんて、今でも信じられない。彼はこの業界をうまく渡っていくにはあまりにも純粋で繊細な感性を持ち過ぎていたような気がする。子供のような無垢な心を持ってここまで生きてきてしまった人だから、きっと神様が一番のお気に入りとして先に連れて行ってしまったのだろう。僕は "SOUP" を繰り返し聴きながら、また少し泣いてしまった。

 この年は多くの知人・友人が僕の部屋に泊まりに来てくれた。今は雑誌の編集などに携わっているぱいぱくんは8月のレディング・フェスティバル前から約1ヶ月滞在し、たくさんのライヴを観て帰っていった。彼と飲んだビールや語った話題のひとつひとつが良い思い出だ。


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