Warrior Soul @ Astoria


31 March 1995

 終演後、"They're cool!" "Yeah, fuckin' cool!" という興奮したロンドンっ子たちの叫びがあちこちから聞こえる中、揉みくちゃになりながら私も鳥肌立ってました。とにかく超カッコよかったのです。

 Warrior Soul は日本ではそれほどメジャーではなく、Warrant の "DOG EAT DOG" アルバムあたりと並んで中古CDショップの「W」のコーナーの定番状態。しかし、ヴォーカリストの Kory Clarke のカリスマぶりから一時はたいへんに注目された New York 出身のパンク系ハードロックバンドです。それがロンドンでこんなに受けているというのはいったいどういう訳なのか…



 Astoria という会場は、Oxford Street の端っこ近くにあるクラブで、日本だとクラブチッタ川崎をもうひと回り大きくしたような感じ。中にはもちろんバーがあって、開演前からこっちの連中は実によく飲んでます。どんどんお代わりして、3パイントくらい平気で飲んでる感じ。日本と違って普通はメインアクトの前に前座のバンドが演奏しますが、基本的には本番の照明/サウンド調整のため、そしてもうひとつ、観客が本番前に出来上がるために存在していると言ってもよいのではないかと。

 この日の前座は Apes, Pigs & Spacemen というバンドでしたが、やはり今ひとつパッとしません。Red Hot Chili Peppers あたりを意識しているのか、ファンキーなロックをプレイしますが、楽曲に魅力が乏しいのが致命的。ドラムスなんかは結構いいビートを叩き出しているんだけど…

 客はかなり Warrior Soul を聴き込んでいるらしく、バンドのTシャツを着たファンも目立ちます。他に見かけるTシャツは、Nine Inch Nails, Mudhoney など。こちらでは思いっきり長髪の兄ちゃんとか、限界まで肌を露出したメタル的ファッションの濃い化粧のお姉さんとか「いかにも」という姿の客ばかりで、何だか笑ってしまいます。



 ずいぶん待たされた後、ついに Warrior Soul の登場で会場の興奮度は一気に頂点に!

 シルバーのメタリックなジャケットに身を包んで現れた Kory Clarke はすごくスリムで、そのアクションは往年のマイケル・モンローのそれを思わせる実にカッコいい身のこなし。パンキッシュな激しいリフとビートに乗せて、新作 "SPACE AGE PLAYBOYS" からの曲を立て続けにプレイします。"Rocket Engine" "(Love Is) The Drug" など、ハイテンションで駈け抜ける曲ばかり、コーラスは2度目からすぐに歌えます。観客の煽り方、乗せ方も実に心得ていて憎らしい限り。ちなみにこのアルバム、Music For Nations レーベルからのインディーズ発売となっていますが、素晴らしすぎる作品なので超オススメ。Kerrang!誌の94年度 Critics Choice で上位に入っていて驚きましたが、さすがイギリスではちゃんと評価されているんだなぁと感心してしまいます。

 こんないいアルバム、いいバンドをメジャーの Geffen が切り捨ててしまうなんて、そして誰も引き取ってくれないなんて、今のアメリカ音楽業界は本当に病んでいる。確かに彼らのアメリカ政府批判や現代社会への怒りをぶつけた歌詞は取り扱いが難しいのかもしれないけれど、それにしても、だ。

 そんなことも、とにかくこのライヴを見さえすれば一発で納得させられてしまうはず。だってこれまで少しでもパンクっぽいサウンドが入っているバンドはまったく受け付けない体質だったこの自分が、完全に打ちのめされているのだから。

 リードギターの X Factor がまた実にカッコイイ。これまた超細身で、赤髪を振り乱して縦乗りで弾きまくり、ギターの弦をマイクスタンドにこすり付けてノイズをかき鳴らし、右手を大きくぐるぐる回す Steve Stevens ばりのアクションで観客の目を離さない。一方、ベーシストは刺青の入った筋骨逞しい両腕を露出していて、まさに怖いパンク野郎風。Kory の煽る激しい叫びに観客は切れまくっていて、ステージ近くでは客の頭上を泳いでいる人が何人も出現する始末。

 「カリスマ」とはこういうことなんだ、と。アンコールのラスト、ギターがノイズをかき鳴らし、ドラムが激しく乱れ打つ中、ステージ中央でしゃがみこんで胸をかきむしりながら、エコーのかかった声で "We're Warrior Soul! We're Warrior Soul! We're Warrior Soul!..." と20回近く叫び続けていた Kory を見ながら、久々に鳥肌が立つのを感じました。


 凄い。凄すぎる。
 こんなライヴをたった1,300円くらいで見られるこの街もすごい。
 その凄さを伝えるには、コトバの力が全然足りなくて、とても悔しいのです。
 もし輸入盤屋さんで彼らの "SPACE AGE PLAYBOYS" を見かけたら、ぜひ聴いてみてください。私の伝えたい気持ちがきっと少しはわかっていただけると思います…


June 2001 追記

 Warrior Soul はこの後ロンドンでさらに2回ライヴを観て、本当に堪能しました。しかし、残念ながらその後急速に求心力を失い、既に解散しています。アメリカ音楽業界に挑戦し続け、最後は敗北してしまった戦士たち。潔い戦いっぷりではありました。


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