The Isley Brothers @ 新宿リキッドルーム



 12月9日(日)、The Isley Brothers のライヴを観てきました。

 まず始めに書いておくと、僕は彼らが大ヒットを連発していた60年代後半〜70年代をリアルタイムでは経験していません。だから、彼らの音楽に触れるきっかけとなったのは、より若い世代のアーティストによるカヴァー・ヴァージョンや、更には Hip Hop コミュニティが盛んに使用したサンプリング元ネタです。具体的には、次のような曲が印象に残っています。

"If You Were There" - Wham!(1984)
"MAKE IT BIG" の中でひときわ輝くみずみずしい1曲。渋谷系フリーソウルのブームの何年も前にこの曲を取り上げた才覚は評価されるべき)
"Harvest For The World" - The Power Station(1985)
(Andy Taylor と Robert Palmer のヴォーカル掛け合いが印象的。スピーディでカッコいいアレンジ)

"Work To Do" - Vanessa Williams (f/Black Sheep)(US#52/92)
"THE COMFORT ZONE" からの第5弾シングル。まあ、こんなのもありましたね…)

"It Was A Good Day" - Ice Cube (US#15/93)
"Footsteps In The Dark" の哀愁溢れるリフをサンプリング。淡々としたライムがサウスセントラルの平和な日々を描写)
"At Your Best (You Are Love)" - Aaliyah (US#6/94)
(早過ぎる死が惜しまれます。声量で勝負するシンガーではありませんが、透き通ったトーンと的確な息遣いが美しかった)
"Funkdafied" - Da Brat(US#6/94)
(ミリオンセラー。若い世代に大ネタ "Between The Sheets" の存在を知らしめた功績は極めて大きい)
"Big Poppa" - The Notorious B.I.G. (US#6/95)
(これもミリオンセラー。カップリングの "Warning" は Isaac Hayes の "Walking On By" 使い。Bad Boy らしかった)
"Choosey Lover (Old School/New School)" - Aaliyah (1996)
(Timbaland を大胆に起用した "ONE IN A MILLION" アルバムから。ギタリストが Ernie Isley になりきってます)
"For The Love of You" - Candy Dulfer(1997)
(Candy ちゃん好きなんですよ〜。インストカヴァーながら、楽曲の Sexy さを余すところなく表現)

 などなど。挙げ始めるとキリがありません。手元にはっきりした彼らのバイオグラフィがないのですが、初ヒットが "Shout" (US#47/59) であることを考慮すると、60歳前後ということになるのではないでしょうか。50年代から2000年代まで、6 Decade に渡ってヒット曲を飛ばし続けている伝説的な偉大なアーティスト、これは見られるうちに見ておかなくちゃ。来日公演の新聞広告を見て、絶対行こうとほとんど瞬間的に決めました。



 さて当日、開演直前に会場に潜り込みましたが、いわゆる超満員という感じではありませんでした。リキッドルームのフロアでいうと、後ろ1/4くらいは空っぽになってしまいます。オーディエンス層はなかなか興味深くて。70年代からアイズレーのことが好きだったと思われる年配のカップルや、体格のいいブラックのお兄ちゃんたち(&連れの若い日本女性)、そしてサンプリング世代の若いファン層まで。こんなに幅広い人々が集まるというのも珍しいコンサートなのでは?

 前座が終わって19時過ぎ、いよいよ The Isley Brothers の登場!

 これがまた、登場人物が多過ぎてステージ上が過密状態なのです。まず、ヴォーカルの Ronald Isley がセンターに陣取りますね。ますます恰幅の良くなった身体をマフィアっぽくダークスーツに包んで帽子とサングラスを着用、ステッキを手にしてステージ袖から歩いてくるだけで、場内は大熱狂。Ronald の右横にリードギタリストの Ernie Isley。バックにはステージ左側から順に、サイドギター、ベース、ドラムス、キーボード(3名)のメンバーがずらりと並び、右奥には女性コーラスの The Johnson Sisters 3姉妹が。これに加えて、女性ダンサーが4人も付いてきます。オープニングでは The Johnson Sisters も合わせてブラックの女の子7人がステージ前面で踊りまくる派手な演出。御大 Ronald の顔もニヤケっぱなしです。

 そしてバックトラックが1曲目の "Between The Sheets" に流れこむと、いきなり興奮が最高潮に! いやまったく最初からこんな大ネタを繰り出すというのは、何曲やっても困らないくらいヒット曲がたくさんあることと、サンプリングネタの最高峰のひとつとして若い世代に認知されているという自信があって初めて成せる技。正直、素人にはお勧めできない。「お前とシーツにくるまって愛を交わしながら〜♪」 激スウィートなメロウチューン。バックバンドが叩き出すビートはちょっと元気良すぎますが、Ronald のファルセットがそれを圧倒する素晴らしい伸びなので他には何も要りません。続いて "Footsteps In The Dark" へ。聴けばすぐに思い出す Ice Cube の "It Was A Good Day" の哀愁リフ、やっぱり生で聴くとグルーヴが違う違う!

 女性ダンサー4人は、入れ替わり立ち替わり出てきて Ronald に絡むわけです。透け透けの露出度満点のセクシー衣装で踊りまくり、Ronald と絡みまくり。しかも彼女たち、1曲ごとに衣装替えして出てきます。この圧倒的な無駄さ! もう最高です。Ronald は歌いながら女の子の後ろから身体に手を回そうとしたり、腰をこすりつけクネクネ踊り、リズムに合わせて「結合」する演出なんかもあって『B級芸能ショー』丸出しのエロさ。ある意味安っぽい演出ではありますが、これぞブラックエンタテインメントの伝統。JBのマントショーにも通じる伝統芸なのです。

 ぎゅいーーーん! 3曲目のイントロで僕は何かが弾けてしまい、もうそれ以降は歌いまくり踊りまくりで意識が朦朧としてます。そう、Ernie Isley のギターから飛び出したのはあの "That Lady" の超有名なギターフレーズ。問答無用で理性を喪失させる音色なのです。優れたギタリストの多くは自分だけの Signature となるトーンを持っていますね。音色だけで誰だか分かる。カルロス・サンタナ然り、クラプトン然り、ジェフ・ベック然り。Ernie Isley のトーンも実に独特で、あの熱くて粘っこい溶岩のような音の塊がPAからこっちに向かって続けざまに投げつけられるような感覚が。一気にアップテンポになったこの "That Lady" に会場も沸きまくり。コーラスの決めの部分 ("Your eyes tell me to pursue/But you say look yeah, but don't touch!") が来る度にすごく盛り上がっていました。後半の見せ場である Ernie の火を吹きそうなギターソロも凄い凄い。ステージ中央まで出てきて背中弾き、そして出たっ、歯弾き! ジミヘン直系の弟子に当たるだけあって、見世物としてのツボもばっちり。

 そして "That Lady" からほとんどメドレーでなだれ込むのが "It's Your Thing"。切れのいいリズムをザクザク刻みます。代表曲を惜しげもなく繰り出してくる凄い選曲で、血中アドレナリン濃度も急上昇。この後も大ヒット曲を豪華ベスト盤の如く並べていきます。例えばメロウ度満点の "For The Love of You" であり、元気なパーティチューンとしての "Twist & Shout" であり、Rod Stewart じゃねえんだよという "This Old Heart of Mine" であり、人類愛溢れる Isley-Jasper-Isley の "Caravan of Love" であり。"Choosey Lover" "Voyage to Atlantis" もあらためて良い曲だと思いました。若い世代ほど古いナンバーへの反応が良かったのが印象的。



 ひとつの見所だったのは、バックコーラスで連れてきていた Kim, Kandy, Krystal の3人姉妹、The Johnson Sisters。新作 "ETERNAL" でもかなりの曲でバックコーラスにクレジットされており、2002年には Dreamworks レーベルからデビューも決まっている彼女たち、もちろんマネージャーは Ronald Isley です。これがまた実に良く歌う女の子たちで、姉妹だけあって素晴らしいハーモニーを聴かせてくれました。

 Ronald が彼女らを紹介し、「何かアカペラで歌ってごらん」と促すと、彼女たちが歌い出したのは Brenda & The Tabulations の "Who's Loving You" (US#66/67) のカヴァー。Smokey Robinson 作曲の名曲ですが、一般的には En Vogue の出世作 "Hold On" のイントロ部分でアカペラカヴァーされたことで知られていますね。(個人的に好きなのは Terence Trent D'Arby の1stのラスト収録のテイクです。) EV は4人で声を重ねたわけですが、この3姉妹もあれに負けず劣らず素晴らしいリード+コーラスを聴かせてくれました。女性コーラスグループは多数ありますが「本当に歌える」子たちはそれほど多くありません。彼女たちが成功するよう応援していこうと思います。"Who's Loving You" ワンコーラスの後に、バンドのメンバーが "Hold On" のトラックにあたる James Brown の "Payback" のビートを演奏し始めたのにはウケました。

 そしてもうひとつの見所は、今回のツアーの中でも泣かせる場面。Ronald がマイクを持って語りに入ります。「今年、私たちは若く才能あるひとりの女性を失った… 彼女は私たちの音楽を愛しており、たいへんなリスペクトを払ってくれていた。私たちも彼女のことが大好きだったが、今や遠いところに行ってしまった。彼女の名前は Aaliyah。次の曲を彼女に捧げる。」 そう、その曲は "At Your Best (You Are Love)"。彼女が大好きだったこの曲を、Ronald と Kim Johnson がデュエット形式で歌います。Kim の唱法は Aaliyah を意識しているのか、ずいぶん似ているように感じました。米国の若い世代のブラックに Aaliyah が与えていた影響は実はとてつもなく大きいのかもしれません。

 そんなこんなで、彼女たちにも大満足。実は、前回の来日公演には同行していた Ronald の奥さん Angela Winbush のグラマラスなボディと迫力のヴォーカルを是非生で体験したかったので、今回同行なしと聞いた時にはややがっかりしたのですが、The Johnson Sisters はそれを帳消しにしてくれる素晴らしいサポートぶりでした。



 さてさて、今回のツアーは別に懐メロ限定ってわけじゃありません。それどころかむしろ、今年発売のバリバリの新譜 "ETERNAL" のプロモーション世界ツアー。何せ初登場全米第3位です。古いファン層を大切にする一方で、若いリスナーたちからも熱いリスペクトを受ける。デビューから40年以上経って、実に理想的な絶妙の立ち位置を獲得している彼ら、あくまで「現役」のアーティストとしての公演。新作でも気鋭の制作陣にやりたい放題やらせていますが、そこからもちゃんと4曲披露します。4曲は少ないって? ノンノン。これ以上やると過去の名曲が締め出されるギリギリの線だと思います。

 まずセレクトされたのは "Move Your Body"。アルバム "ETERNAL" の冒頭を飾るファンキーなミディアム。プロデュースは ex-Toni Tony Tone、Lucy Pearl の Raphael Saadiq。この手のセクシーな軽いタッチの楽曲をやらせると最高にいい仕事します。アルバムではやや抑え目の Ronald のファルセットも全開。ライヴだとヴォリューム2倍増しって感じなんですよね。この曲のコーラスはめちゃくちゃ覚えやすい作りで、ライヴ会場で聴いてすぐに一緒に歌えちゃいました。特に The Johnson Sisters が歌うフックの "Your hips, your thighs, your lips, your eyes" の部分、彼女ら3人が歌いながら順番に腰、太もも、唇、目に手/指を当てていくセクシーな振り付けは視覚的にすごく分かりやすかったです。

 もう1曲は "Secret Lover"。こちらは Steve Huff の手がけた3曲のひとつ。作曲とコーラスには Avant も加わっていましたが、この辺になると作り手の側の Isley Brothers への思いが露骨に表れてきます。だってコーラス部分の歌詞が "My secret lover/My mystery girl/I wanna play hide and seek/Baby, let's creep between the sheets tonight" ですよ。当然 "Between The Sheets" を意識したフレーズなわけで。(実は前述の "Move Your Body" にも "Who's that lady?" というフレーズが出てきます。内輪ウケですね)  ゆったりとしたミディアムテンポで、リラックスした Ronald の艶やかなファルセットを堪能できる1曲でした。

 そういう意味では "Warm Summer Night" を歌ったのもそうかな。この曲の終盤では "My body's callin' for you..." と繰り返す部分がありますが、これは R. Kelly の大ヒット "Your Body's Callin'" からの引用であるわけです。R. Kelly はある意味で Isley を思いっきり同時代のアーティストとして再生させた立役者でもあるわけですが、それへのお礼の意味もあるのかも。ただ、R.Kelly ネタに関していうとこのあと終盤にすごい出し物が… あっ、ちなみにこの "Warm Summer Night" の制作・キーボード・ドラムプログラミング・バックコーラスは愛妻の Angela Winbush なのでした。



 さていよいよコンサートも佳境。流れてきたイントロに場内騒然です。そう、これまた大名曲のひとつ、"Summer Breeze"。Ernie の印象的な、というより暴力的に脳裏に刻み込まれるあのギターフレーズに大歓声。"Summer Breeze, makes me feel fine, blowin' through the jasmine in my mind" という美しいフックがいつまでも頭から離れません。そうこうしているうちに、Ronald が退場。ステージ上では Ernie のギターソロがますます加速していきます。ていうか終わりませんこれが。延々と、歯弾き背中弾き股間弾きなどの技で沸かせまくりながら、10分以上に及んだのではないかと思わせる凄まじいギターソロ。下手なロックギタリストなんか太刀打ちできないどす黒いパワーを見せつけられる演奏でした。

 しかしこの10分。いったい何のために?

 そう、これは Ronald の衣装替えのためだったのですね。再びサングラスとハット、ステッキを持って黒のコートに身を包んで出現した Ronald はまさにゴッドファーザー風マフィアの親玉チックな役どころ。思わず吹き出しそうになる演出…のはずなのですが、自分含め全員が引き込まれていきます。ここからは Mr. Biggs という架空のキャラクターを演じる寸劇コーナー。ご存知のとおり Mr. Biggs というキャラは、R.Kelly の "Down Low (Nobody Has To Know)" のシングルにフィーチャーされた Ronald Isley に与えられた役どころで、特に12インチ収録のドラマ仕立てのリミックスヴァージョンは10分を超えるすごい作り込みでした。このキャラがひとり歩きを始めたのが新作。

 従ってこのコーナーも、まずはその "Down Low (Nobody Has To Know)" を軽くカマした後に、新作 "ETERNAL" を代表する2001年屈指のトラック "Contagious" へとなだれ込みます。楽曲のストーリィは、Mr. Biggs 不在の間に、彼の女が別の男でデキてしまっていた。その現場に踏み込んで激怒する Mr. Biggs、という設定。アルバムでは女を Chante Moore、男を R.Kelly が演じるという豪華な共演でしたが、このライヴでも女性役を Kim Johnson が、男性役をキーボード奏者が見事に演じる寸劇仕立て。特に Ronald a.k.a. Mr. Biggs の激情ぶりは迫真の演技で、思わず見てるこっちが引いちゃうくらい。ほとんど絶叫に近かったクライマックス部分での喉のタフさには恐れ入りました。ある意味今が全盛期。凄すぎ。


 さて本編終盤はファンキーでアップテンポな "Fight The Power" でガンガン煽ります。うーん、まだこれが取ってあったのか。場内のノリも臨界点に達した頃、Ronald は冒頭の女性ダンサー+コーラスの7人を従えて、手を振りながらステージから去っていくのでした。残されたバンドメンバーの演奏をバックに、Ernie が最後のギターソロを弾ききり、ピックを投げて退場。アンコールは無しでしたが、いやもう十分満足したコンサートになりました。私がこれまで見てきたいろいろなライヴの中でも、かなり高位置にランクされる思い出になること確定です。



 なお今回の日本ツアーは前座がありました。日本の若手アーティストにアイズレーの前に舞台を踏ませるという企画で、リキッドルームでの前座は Ai。日本人とイタリア系アメリカ人のハーフで、中学生までは鹿児島で過ごし、その後LAのアートスクールに入学。教会のコーラス隊のメンバーとなり、その中でも人気のシンガーになった。2000年にアートスクールを卒業後、日本に戻りレコーディング。そして11月にマキシシングル『Cry, just Cry』でデビューを果たした、というバイオ。

 オープニングは Chaka Khan のヒット曲(US#60/85)のカヴァー "Through The Fire"。レンジの広いダイナミックなバラードですが、歌い込んでいる曲らしくかなり聴かせます。Chaka のコアなファンが聴いたらあれこれ言いそうですが、アイズレー待ちのオーディエンス達も途中から「この娘なかなかやるな」という感じで引き込まれていました。ただ、この後歌ったオリジナル曲や Monica のカヴァー "For You I Will" (US#1/99) にしても、バラードものが連続したためにやや間延びした印象を与えたのは残念。ラストに持ってきたオリジナルの "SHOW OFF!" という曲なんかはぐいぐい引っ張るアップテンポで、非常にいいグルーヴを聴かせただけに、もっとこういう曲を前半に持ってきても良かったかな?という感じ。

 Japanese 女性 R&B という市場は、一時の活気を失ってやや難しい局面にさしかかっていると思います。MISIA や bird、Tina といった先行者は別として、これから参入するのは相当困難でしょう。ただこの日の Ai という女の子は、流行云々とは別のところで本当にゴスペルや R&B を聴いて、歌って育ってきたわけですから、こういう子がちゃんと歌えて、聴いてもらえる市場があるといいなあと思いました。そういう意味では、彼女らに舞台を用意してあげた Isley の粋な計らいにもあらためて感動。だってあの "The Isley Brothers" の前座、ですよ。彼女にとっても一生の思い出になるとともに、これから業界で辛いことを経験したり挫けそうになったりした時に、今夜の経験を思い出せば、また前を向いて歩いていけるのではないかなと。



 少なくとも僕は、それくらいの力と元気をこのライヴからもらったし、もし再び来日公演があるならば、ぜひ皆さんを誘ってもう一度観にいきたいな、と思わせてくれる素晴らしい体験になったのでした。


(December 2001)

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