Duran Duran @ 日本武道館



 2003年7月12日(土)、日本武道館。会場を埋め尽くした30代〜40代の元ティーンエイジャーたち。コンサートというより、自分を含め「あの頃デュラン・デュランが好きでした!」という仲間達が大挙して訪れた同窓会っぽい雰囲気でした。あの頃に比べて女の子たちのお化粧は濃くなり、僕ら男の子たちは多少くたびれているけど、中身は紛れもなくデュラニーズ。子供連れのカップルも見かけます。デュラン・デュラン好きがきっかけで結婚した夫婦もいるんだろうね。結婚式に "Save A Prayer" とかかけちゃったりして…。この日も暑かったので女の子たちは薄着ぎみだったのですが、彼女たちには避けがたい共通点がありました。つまりノースリーヴのぷよんとした二の腕にはいずれも判で押したようにBCGの接種痕が。いや文字通り判で押すんだけどさ、それが僕らの世代の共通項だったりするわけで。最近の若者はツベルクリン反応とか知らないんだろうなー、とか思いながら開演を待つ時間も不思議と懐かしい気分。満員の武道館のあちこちで歓声が上がるのを聞きながらついニコニコしちゃう。

 ライヴについてこまごま書くのも良いけれど、今回の来日メンバーがいわゆる「オリジナル5」と呼ばれる Simon LeBon + Nick Rhodes + John Taylor + Roger Taylor + Andy Taylor であったことを踏まえつつ、次のセットリストを見ながら様子を想像していただきましょう。

Duran Duran @ 日本武道館 12 July 2003 セットリスト
1. Friends of Mine
2. Hungry Like The Wolf
3. Planet Earth
4. Come Undone
5. What Happens Tomorrow(新曲)
6. New Religion
7. Virus(新曲)
8. White Lines
9. Night Boat
10. Still Breathing(新曲)
11. Is There Something I Should Know?
12. Save A Prayer
13. Ordinary World
14. A View To A Kill
15. Reach Up For The Sunrise(新曲)
16. Notorious / We Are Family
17. Wild Boys
18. Careless Memories
19. Rio
<Encore>
20. The Reflex
21. Girls On Film


 何しろ1985年のライヴ・エイド以来17年ぶりとなるオリジナル5によるステージです。オープニングの1を始め、3, 9, 18, ラストの21と5曲もデビューアルバムから選曲したのが象徴的でした。20年以上前の作品ですが、オリジナル5ならではの独特の魅力に溢れた演奏になりました。残る楽曲も 初期に偏ったセレクションで、ファンが聴きたいと思う部分を的確に抽出したライヴだったと思います。これだけ畳み掛けられればほとんど満足ですが、"SEVEN AND THE RAGGED TIGER" アルバムからの演奏がほとんど聴かれなかったのはやや意外だったかも。個人的に偏愛する "New Moon On Monday" のみならず、"Union of The Snake" すらやらないとは…。一方2004年発表予定の再集結アルバムに収録予定の新曲も4曲披露されました。悪くはなかったのですが、極端に良かったかというとそうでもない。15などひどくシンプルでキャッチーなコーラスがデビューアルバムを思い起こさせる出来で、まあまあ気に入りましたけど。サイモンが歌うと何でも良く聞こえてしまうから、この辺は新作が出てから冷静に聴き込みたいと思います。

 コンサート自体の見どころは山ほどあって、むしろ誰を目で追いかけるべきか迷うほど豪華なステージでした。デュラン・デュランはライヴバンドなのか? もちろん答えはYES。順番に一人ずつコメントしてみましょう。

★Simon Le Bon
 「やっぱりサイモンはカッコいいわ」。これが観終わっての率直な感想。フロントマンという仕事は誰にでも務まるものではありません。歌が上手ければ、とか、容姿が良ければ、という次元を超えた特殊なカリスマ性が必要なわけで、サイモン・ル・ボンは全身からそれを放射しているのでした。彼が飛び跳ねるだけで、視線がぐぐっとステージ中央に捻じ曲げられる。とにかくやたらと存在感があって、動きがシャープで、最初から最後まで飛び跳ね続けて、凄くカッコよかった。演劇を学んでいたというだけあってポーズがやたら決まるのです。もちろんヴォーカルも十分に声が出ていて何の不安もなく聴くことができました。彼こそ天性のフロントマン! ときどき踊り過ぎてマイクに向かうタイミングが遅れそうになって冷や冷やさせてくれたのも彼らしい。"Rio" のサックスソロの代わりにサイモンが吹いたハーモニカもご愛嬌、かな。「私ハ、でゅらんでゅらんデス!」に始まる日本語MCには笑いました。"The Reflex" の時に小さなバケツを持ち上げてキラキラ光る紙吹雪みたいなのを観客席に注ぐという、ビデオクリップの大洪水のシーンを思わせる可愛い演出もありました。

★Nick Rhodes
 ライヴではほとんど動きのない人だけに印象は薄め。でもバックトラックの雰囲気を作り出してるのが彼だってことはよく分かった。細かい手弾きをする人じゃないけれど、"Save A Prayer" は腕の見せどころ。ピッチベンドでフレーズのラストをぐにゅっと曲げるあの伝説的なシンセサイザー・リフを生で見聴きすることができて感激。この曲は歌詞を全部歌えるのだけれど、歌いながら思わず感極まって半分泣いてしまいました。いつ聴いても名曲過ぎ。

★John Taylor
 僕らが中高生の頃、アイドル的な人気はジョンが一番あったような気がするんだよね。確かミュージック・ライフ誌でも単体で表紙になったことがあるはず。すごく長身なんだけど、ライヴでの基本姿勢は腰を曲げてひょこひょこするスタイルなのであまりカッコよろしくない。痩せ気味で貧相に見えちゃうので、少しだけ増量してもいいんじゃないかな。ベースについてはいろいろ言われますが、観た感想としては「しっかり弾いてるじゃん」と思いました。クールなベースラインはもっと評価されてもいいのにね。ステージ左側の基本ポジションから遠征してきてアンディと絡んだり、ニックのとこに寄り道したりしてましたが、ちょっとした合間にも後ろのロジャー・テイラーの方を振り向いてビートを合わせている様子だったのが印象的。やっぱりこの二人がDDのリズムセクションなんだなあと。

★Roger Taylor
 そのロジャー。久しぶりの現役復活ということで一部では非常に心配されていましたが、結論から言うと、最後までしっかり叩ききってくれました。ステージ左手奥に組まれたドラムキットはなかなか数も豊富で、その分彼の表情はあまりよく見えなかったのだけれど、とにかく表情一つ変えずに黙々と叩いてくれてる様子はよく分かった。これで本当に十数年ぶりなの?と思うほどのスティック捌きで(ときどきスティック回しもやっていた)、心配は杞憂に終わりました。ジョンに限らず、アンディやサイモンも時々ドラムの周りに集まって、みんなでロジャーを見つめながら踊ったりしてたのが印象的。みんなあなたの復活を待っていたんだよ。ありがとう、ロジャー。そうそう、アリーナ席ではロジャーに対する声援がすごく多かったことを付記しておきます。

★Andy Taylor
 声援の多さでは負けてなかったアンディ。しかしこちらは主として男性ファンの野太い声なのでした。「アンディィィィ!!!」。黒の衣装で渋く決めて、最後までサングラスも取らずに一心不乱に弾きまくる姿があまりにカッコよすぎて、もう泣きそうになりました。ギタリストとしての力量は恥ずかしながらパワー・ステーションを聴くまで疑っていた自分ですが、Thunder デビューの立役者となり、ソロヒットも出して帰ってきたDDのステージで思う存分弾いてくれたんだなあというのが感想。"Wild Boys" でのギターはマジ鳥肌モノでした。在籍していない時代の曲(4, 8, 13, 16) も淡々とこなしてくれましたし、特に "Notorious""White Lines" ではかなりワイルドなプレイも聴かせてくれて、会場は激しく盛り上がりました。ときどき腰を落として、観客に背中を向けたまま弾いてる場面があったのだけれど、あれは何だったんだろう? 彼なりのポーズなのかな。頻繁にギターを取り替えるマニアックぶりを見せつけてましたが、黒のテレキャスターは特に似合ってた。Cool!

***

 とにかくオーディエンスの盛り上がりがすごかった。武道館のほとんど全員が、ほとんど全曲を歌っている状態を想像してみてください。30代バカ祭りワショーイと言われても何の反論もできません。3の「♪ぱっぱらっぱっぱっぱぱら〜」とか17の「わいるどぼーいず!!!」とか、武道館を揺るがすような大コーラスの輪に加われたのは本当に奇跡のような体験で、一生忘れることはないでしょう。演奏者だけでは素晴らしいコンサートは創れません。パフォーマーと一体化したノリノリの観客が一緒に創り上げるものなのです。そんなことを改めて感じさせてくれたライヴでした。

(October, 2003)

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